第27話 帰還
>>> レベルアップしました。レベルが11になりました。
>>>【レンタル レベル3】がレベルアップし【レンタル レベル4】に
なりました。レンタル期限が8日から12日になりました。
レンタル可能数が8から12に増加しました。
シモンズを斃してレベルアップした。内容の確認は帰ってからゆっくりやろう。戦いを終えて疲労困憊なのだ。だが、気分は悪くない。というより、気分は最高だ。
俺は馬に乗っている。カレンさんと二人乗りだ。
手綱を握る俺の前にカレンさんが乗っている。
「ゴータ、密着しすぎではないか」
「いえ、大丈夫です。落ちないように俺がしっかり支えます」
「そうか、ありがとう」
俺たちはゆっくり進む。馬に負担がかからないように。
「ゴータ、私は汗臭くないか」
「いえ、大丈夫です。とても良い香りがします」
「そうか、よかった」
俺たちはゆっくり進む。カレンさんに負担がかからないように。
「ゴータ、頬と頬が付いているのはどうしてだ」
「いえ、大丈夫です。こうしないと前が良く見えないので」
「そうか、では仕方ないな」
俺たちはゆっくり進む。触れ合いながら。
「ゴータ、胸に手が当たっているのだが」
「いえ、大丈夫です。落ちないように前からも支えます」
「そうか、すまない」
俺たちはゆっくり進む。癒しながら。
「ゴータ、すまないが右の胸も支えてくれないか」
「はい、大丈夫です。こうして支えます」
「そうか、ありがとう」
俺たちはゆっくり進む。楽しみながら。
「ゴータ、すまないが太腿が寒いのだが」
「はい、大丈夫です。俺の手で温めます」
「そうか、温かいな」
俺たちはゆっくり進む。喜びながら。
「ゴータ、すまないが左の足も寒いのだが」
「はい、大丈夫です。ちゃんと温めます」
「そうか、嬉しいな」
俺たちはゆっくり進む。悦びながら。
「ゴータ、すまないが、その、すまないが、頼む」
「はい、大丈夫です。俺がちゃんと」
途中から俺は理解した。カレンさんは賊に触られた部分をなぞらせたのだ。
汚れた部分を上書きするように。
「カレン少佐はとても綺麗です。身も心もとても綺麗です。綺麗なままです」
「そうか、ゴータ、ありがとう」
俺たちはゆっくり進む。感じながら。
「ゴータ、お尻に何か当たっているのだが」
「はい、大丈夫です。16歳男子の健全な姿です」
「バカモノ」
俺たちはゆっくり進む。とても静かに。
沈黙の後、カレン少佐は躊躇いがちに尋ねた。
「ゴータ、あの時、胸を刺されたのにどうして無事だったのだ。戦闘系のスキルもないのにどうしてあんなに強いのだ。馬にも乗れなかったのに、裸馬をあんなに速くしかも自在に操れるのはどうしてなのだ。やはり教えては貰えないのだろうか」
「カレンさん、俺は弱い男です。カレンさんにずっと守られていたように。人に頼ってなんとかこの世界を生きています。今日の事も全て俺の実力ではありません。皆が俺を助けれくれました。皆の力で俺は生きています」
「そうか、そうだな」
カレンさんが納得したかどうかは分からないが、俺にはそう言うしかなかった。
再び沈黙が続いたがちっとも苦になる沈黙ではなかった。俺はカレンさんとの密着した道行に幸せと安らぎを感じていた。
もうすぐ街道に出るという頃になって俺は口を開いた。
「カレンさん、俺はカレンさんの事が好きです。こらからもずっと貴女を守りたい」
「ありがとう、ゴータ。とても嬉しい」
それからしばらくカレンさんは背中で俺に凭れて何か考えているようだった。俺たちはそのままゆっくり進み、やがてカレンさんは話し始めた。
「私もゴータが好きだな。私を守ってくれた。とても頼もしかった。そんなゴータと一緒にいられたら幸せだろうと思う。日々の生活が楽しくなるだろう。でも、ゴータは覚悟があるのかな。私は伯爵家の長女だ。いや、身分の違いを言っているのではない。私には男の兄弟がいない。私の相手は婿養子となって伯爵家を継ぐんだ。伯爵の仕事は責任も名誉もあるが退屈だ。ゴータはそれでいいのか。魔法使いになりたいのだろ。冒険者にはなりたくないか。ダンジョンに入ってみたくないか。この広い世界を旅したくはないか」
俺はただ黙って聞いていた。カレンさんは話しているうちに自分の気持ちが固まったようだった。
「今日を以ってゴータの付き人の任を解く。神殿に紹介状も書く。約束だからな。魔法を覚えるといい。冒険者にだってなってみろ。ゴータには無限の可能性がある。色々なことをやってみるといい。やり尽くしてそれでもまだ私の事を好きでいてくれたら話しの続きをしよう」
少佐は上を向いてた。ここからは表情が分からない。
俺も上を向いた。わた雲が青空に浮いていた。ゆるやかに漂い、やがて滲んだ。
「はい、少佐」
脇道から漸く街道に出た。このまま南へ進めばグラリガだ。
俺は収納からチェックのシャツを出してカレン少佐の腰に巻いた。タイトスカートで裸馬に跨る少佐が公序良俗違反になってはいけない。
賊の死骸もアジトもそのままだ。あとで隊を向かわせるそうだ。瀕死の賊は死んだようで、レンタル中と表示されていたクロスボウが表示されなくなった。
道程を半分ほど行ったところで前方から土煙を上げて走って来る一団がある。
憲兵隊だった。ドルアス軍曹がいる。トータク、ヒックル、カラコルの下層トリオもいる。リシェル少尉もいた。見たことのない兵士も何人かいる。皆鎧を着て武装している。ローブを着てロッドを持った魔法兵までいた。
「少佐」「カレン少佐」「よくご無事で」「ゴータも一緒だったか」
皆、そう言って駆け寄るなり、二人の腫れ上がった顔を見て目を丸くした。同行していた魔法兵がすぐにヒールを掛けて治療しくれた。突然いなくなった俺たちを探し回っていたそうだ。俺は事情をかいつまんで説明した。
「サルード中尉」
少佐が呼び寄せ指示をした。サルード中尉は部下を数人連れてアジトの方へ馬首を巡らせた。シルバーの胴鎧が似合う、やたら姿勢の良いイケメンだった。
リシェル少尉が馬を寄せて言った。リシェル少尉の白銀のライトメイル姿も素敵だ。
「少佐、この馬をお使いください」
「いや、このままで大丈夫だ」
少佐がそう言うと、リシェル少尉は、いいなあ、私もと呟いた。
リシェル少尉は少佐が大好きだからな。一緒に乗りたかったのだろう。
「このままゴータに支部まで乗せてもらう。これがゴータの最後の任務だ」
「え」
全員が、何故、という表情だ。
「今回の件でゴータが100%信用できることが分かった。だから私の付き人でいる必要は無くなった」
そういえばそんな理由で付き人になったのだった。
「帰還したらゴータは私の友人だ」
少佐はそう言って締めくくった。友人か、今はとても寂しく感じる言葉だった。
そうだな、俺たちもだぜ、と下層トリオと軍曹も友達だと言ってくれた。
「ゴータさん、ちょっといいですか」
そう言ってリシェル少尉は俺の馬を皆から離そうとする。
「少佐は付いて来なくていいです」
「リシェル、何を言っている。同じ馬なのだ、当たり前だろう」
リシェル少尉は少佐の腰に巻かれた俺のシャツを見て
「もういいです」
と言って離れてしまった。
「リシェル少尉はどうしたんですかね」
「ゴータ」
少佐が呆れた。
このメンバーならもう大丈夫だろう。俺は借りていたスキルを全て返すことにした。ルーク中尉に【馬術】と【馬上剣術】を、剣士ジュドーに【剣術】と【俊足】を返した。とたんに、馬の上が居心地の悪いものになったが必死で手綱を取った。俺の遅すぎる馬に合わせて一行はグラリガ支部に到着した。日は西に傾いてた。
すぐに技官が呼ばれて少佐と俺の魔法封じの首輪を外した。カレン少佐はリシェル少尉の肩を借りて将校宿舎へ帰っていった。俺も兵舎に帰った。ずっとカレン少佐と行動を共にしていたので報告は不要らしい。
明日の午前中に顔を出すように指示された。俺はカプセル部屋に戻り、上がったステータスを確認し、食事を軽く取り、風呂に入り、そして泥のように眠った。
ステータス
名前:宮辺 豪太 年齢:16 性別:男 種族:人族 職業:付き人
レベル:11
HP:83/109 MP:644/644 SP:12
体力:C
魔力:F
知力:C
状態:‐
罪科:‐
称号:女神の加護
スキル:【鑑定 レベル3】【マップ レベル1】【語学】【雷無効】
シークレットステータス
魔法:‐
固有スキル:【レンタル レベル4】
固有アイテム:リュック
称号:女神の加護、復活者、ラットハンター、刺客
刺客 多数殺害者に与えられる称号。奇襲成功率上昇効果