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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第二章 憲兵隊
26/99

第26話 追跡

 「嫌ぁ、ゴータ」


 バンダナは十分な手応えにニタリと笑う。

 ドレイブルの兄弟2人はやっと倒したと力を抜いた。


  HP 1/79


 女神の加護が発動し、即死を回避した。

 俺はリュックの収納から直接ハイポーションを飲み、ショートソードをバンダナの腹に突き入れた。バンダナはショートソードが刺さったまま信じられないという顔で後ずさり崩れ落ちた。

 俺は自分の胸に刺さった短剣を引き抜いてしっかりと手に握った。


  HP 11/79


 傷は塞がりHPは10ポイント回復した。あと30分間ポーションは使えない。俺のHPは5分につき1ポイントしか自然回復しない。もうダメージは受けられない。

 商人崩れは逃げようと出口に走った。逃がすものか。【俊足】で追うがまだ能力が完全には発揮できない。イラつくほどに遅い。

 その間に商人崩れは馬に乗ってしまった。


 「ひゃ」


 悲鳴に振り返るとシモンズがカレン少佐を肩に担ぎ逃げようとしている。しまった。俺は【俊足】を使うが全く追いつけない。裏口から出たシモンズは肩で暴れるカレン少佐の腹を殴って気絶させて横向きに乗せると自分も馬に乗った。

 裏口から出て追う俺に馬上から勝ち誇ったように言った。


 「この女は俺たちが散々(なぶ)ってから殺す。お前には首を送ってやるから待っていろ」


 商人崩れは繋がれていた他の馬を放し、兄弟揃って走り出す。俺は急いでヤツの馬の鞍に【レンタル】するが発動しない。【レンタル】の空きが無いのか。俺は【レンタル中:投げナイフベスト(7d23h15min51s)】を返却して空きを作った。

 改めてヤツの鞍に【レンタル】するが発動しなかった。そうか、検証した時に馬車の車輪が【レンタル】できなかったように、乗っている馬の鞍も【レンタル】できないのだ。

 俺は建物の正面へ急いだ。幌馬車が来た時のまま停まっている。だが馬車では遅すぎる。馬車から馬を外して乗るしかない。早くしないとカレン少佐が危ない。手綱を握り、他の縄や器具を全て外そうとするが焦ってうまくいかない。力任せに短剣を打ち付けてやっと外すことができた。ボロボロになった短剣を投げ捨て馬に飛び乗り敵を追う。

 もちろん鞍など無い。馬車用の長い手綱を手で纏めて操る。グングンスピードが上がる。乗馬もまともにできないのに裸馬になど乗れる訳がない。だがそんな心配は不要だ。俺はルーク中尉から【馬術】を【レンタル】しているのだ。ルーク中尉はこの国随一の騎兵だ。3流盗賊の馬になどすぐに追いついてしまった。【馬術 レベルMAX】は半端なかった。


 兄弟が気付いて目を剥いている。

 商人崩れが馬の鞍から蛮刀を抜いた。俺は【レンタル】を発動して直接収納に入れた。丸腰になった商人崩れはシモンズの馬に寄せて手槍を受け取った。もう【レンタル】の空きは無い。手槍を渡したシモンズは手綱をしごき、足を入れて速度を上げる。商人崩れは俺の左を並走して右手に持った手槍で突きを入れる。俺は上体を反らせて躱し一旦スピードを緩めてヤツを先に行かせた。

 後方に下がった俺は手綱を右手だけで持ち空いた左手で収納から出したエペを握った。馬に気合を入れて速度を上げ、ヤツの右後方からグングン近づく。焦ったヤツが左へ針路をとる。それを待っていた俺は一瞬で手綱とエペを持ち替え左へ行こうとするヤツの更に左を進み一気に距離を詰めて背中からヤツの心臓を貫いた。

 商人崩れはエペが刺さったまま絶命して落馬した。


  >>> レベルアップしました。レベルが10になりました。


 見事な剣戟はもちろん俺の技量ではない。ルーク中尉から【レンタル】したものだ。【馬上剣術 レベルMAX】は半端なかった。


 商人崩れを屠った俺はスピードを上げてシモンズを追う。見る見るうちに距離が縮まる。カレン少佐とシモンズの2人を乗せた馬に限界がきたのだ。

 シモンズは事もあろうにカレン少佐を投げ捨てて軽くしてから馬の腹を蹴った。だがいくら蹴っても馬はもう動かない。

 カレン少佐は腰から落ちて呻いている。気が付いたようだ。


 馬から飛び降りて少佐に駆け寄ろうとするが、それより早くシモンズが少佐の脇に飛び降り肘を首に掛けて締めながら立たせた。少佐は息苦しそうに喘いでいる。

 シモンズは少佐の首にブロードソードをあてて


 「それ以上近づくな、近づけば・・」


 殺すぞ、と言おうとした時に手からブロードソードが消えて俺の手に現れた。【レンタル】だ。商人崩れが死んだことにより、奴のエペと蛮刀がレンタル品ではなくなったのだ。

 俺はブロードソードを両手で持ち大上段に構え、叫びながらシモンズの頭に打ち下ろす。


 「これで終わりだ」


 シモンズは少佐を捨てて頭を庇うように左腕を上げた。

 ガン、という音がして俺の手に衝撃が伝わった。ブロードソードが真っ二つに折れた。シモンズの左腕には分厚い金属製のアームガードがあった。

 俺はすかさず蛮刀を収納から出してシモンズの隙だらけの腹を横薙ぎに払った。ガシ、という嫌な音がして蛮刀も折れてしまった。

 切れた服の下から鎖帷子が見えた。

 くそ、俺は一度間合いを開けて残る武器を調べる。身に着けた武器は無い。収納の中には鉄ヘルムの男から【レンタル】したクロスボウはあるが矢は無い。あとはアルル村で買った小さなナイフとゴブリンから奪った棍棒だけだ。シモンズから奪いたいがヤツはもう武器が無いようだ。

 素手で勝てる相手ではない。行き詰まってしまった。


 攻めあぐねる俺を見てシモンズが(いぶか)しむ。

 そして何かに思い当たったのだろう。醜悪な顔をして言った。


 「お前、もう武器が無いだろう」


 その時に思い付いた。こいつのスキルを奪えばいい。俺の【鑑定】ではどのスキルを持っているかは分からない。ルーク中尉にしたように推測するしかない。相手のスキルをイメージして的中すれば【レンタル】スイッチが脳内で点灯する。格闘系のスキルを奪えばいい。


 「おら、掛かって来い。素手じゃ戦えねえのか」


 そうやって一人で喋ってろ。その隙に見付けてやる。何だ、何を持っている。

 格闘技、拳闘、空手、柔道、柔術、棒術、ダメだ。持ってない。


 「ククク、やはりそうか。お前、体術は使えねえんだろ」


 そうか、それだ。体術。ダメだ点灯しない。

 クソクソクソ、焦って他に思い付かない。


 「来ないのか、ならこうしてやろう」


 シモンズは足元に蹲るカレン少佐の髪を引っ張って立たせ胸を揉みしだいた。こうなっては行くしかなかった。

 俺は収納からゴブリンの棍棒を出してシモンズに殴りかかる。

 ボキ、再び左腕のアームガードで防がれ折れてしまった。失敗した。あれを取り上げるのが先だった。【レンタル】【レンタル】、俺はアームガードと鎖帷子を奪って収納に直接入れた。

 シモンズはアームガードと鎖帷子が突然消えたのを感じ取り憤怒して俺を見た。


 「またあの術を使いやがったな。何をしやがった。だがもういい。もうこの女は殺す」


 そう言うなりカレン少佐の首を足で踏みつけ体重をかける。少佐は息ができない。俺は拳を握り締め夢中で殴り掛かった。シモンズはあっさりと躱して殴り返した。


 俺のHPが 14/95 から 11/95 に減った。


 殴ったことでシモンズの足が少佐の首から外れ、少佐は激しく息をした。

 俺はもう一度殴り掛かるがまた躱されて腹を蹴り上げられた。


  HP 7/95


 「ゴータ、逃げて」


 カレン少佐が目だけをこちらに向けて言った。声も弱い。


 「お願い、逃げて。私はいい」


 逃げるわけがない。カレンさんをおいて逃げる考えなど毛頭なかった。

 あと数発で俺は死ぬだろう。俺が死ぬのは仕方ないが、俺が死ねばカレンさんも殺される。酷い目に合わせれて殺される。それだけは絶対にさせない。

 何か手はないか、何か武器はないか、そう考えて気が付いた。まだ手はある。


 俺は収納からアルル村で買ったナイフを出して右手で握る。こんな作業用ナイフでは【剣術】スキルは使えない。

 シモンズは、まだ持っていやがったか、という顔をして睨みつける。

 俺はナイフを右に左に揺らしながらシモンズの周りを回る。

 シモンズは何かしてくるのかと油断なく身構える。

 俺は少し踏み込みナイフを突き出してすぐに引く。シモンズはそれに合わせるように体を引いてから踏み出して来る。

 俺はそのタイミングで再び少し踏み込みナイフを突き出す。すると奴はまた引いた。

 ナイフを持っても俺にシモンズを倒せる自信は微塵もない。時間稼ぎだ。

 脳内時計が時間を表示する。


  午後2時37分


 再びヤツの周りを回り、少し近付き、今度はナイフを横に払った。ヤツがそれを避けてから殴り掛かるのを大きく逃げる。


  午後2時38分


 シモンズが焦れてカレン少佐に襲い掛かろうとする所にナイフで刺しに行く。

 それを読んでいたヤツが躱して俺を殴った。


  HP 4/95


  午後2時39分


 あと1分ほどだ。俺は今度はナイフを左手に持ち替えた。そしてまた周りを回る。シモンズはもう惑わされなかった。ペッと唾を吐いて凄みながら言った。


 「もうお前の考えは読み切った。時間稼ぎをしているな。馬鹿が、助けなど来ない。お前も女もここで死ぬ。お前が素直に殺されれば女は犯してから楽に死なせてやる。お前がまだこんな茶番を続けるなら女はジワジワと殺す。まずは耳を引きちぎるか」


 勝利を確信したシモンズは少佐に近づく。


  午後2時40分


 少佐は這いながら俺に言う。


 「逃げて」


 「10、9、8、7」


 俺はカウントダウンをする。

 シモンズはゴミでも見るような目で俺を見る。


 「6、5、4」


 少佐はもう這う力も無くなり、地面に突っ伏し泣きながら俺を見ている。


 「3」


 「2」


 「1」


 「0」と同時にシモンズの足元に素槍がふっと現れた。ずっと借りていたヤツの素鎗だ。レンタル期限が切れて強制的に返却されたのだ。


 「レンタル」


 シモンズの足元から素槍が消え、俺の手に現れた。

 俺はそれを握り、冷ややかに言いながらシモンズの腹に突き入れた。


 「俺の女に手を出すな」


 シモンズは腹から血を流し、口から血を滴らせ、生気の無い目で俺と素槍を見て死んだ。

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