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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第二章 憲兵隊
25/99

第25話 剣戟

 「カレンさんは俺が守ります」


 俺は絶叫した。大声を出して震えが止まった。

 商人崩れが興醒めした顔で言う。


 「もう生かすのは無しだ。女を犯してからお前を切り刻んでやる」


 賊どもは嘲笑した。


 「口先だけのクソが、どうやって守るんだよ」


 歯抜けはカレン少佐の太腿から股へと汚い手を伸ばしながら言った。


 俺は【レンタル】とリターンを2回立て続けに発動した。自分を縛っていた縄を借りてすぐに返却したのだ。足と手を縛っていた縄が消え、パサ、パサッと一瞬で床に落ちた。

 手足が自由になった俺は【レンタル】で鉢巻の賊から日本刀を奪い、【俊足】で歯抜けの目前に移動し、【剣術】で歯抜けの首を上段から斬り落とし、少佐に血が掛からないように蹴り倒した。


 「こうやって守るんだ」


 振り返りざまに少佐の左足を抑えていた賊の首筋を切り裂き蹴倒した勢いで後方に飛び、歯抜けの首なし死体を越えて少佐の胸を揉みながら驚愕しているモヒカンの心臓に下段から突きを入れた。ヒィ、と慌てて逃げようとしたもう一人の背に駆け寄り袈裟懸けに斬った。作業台の周りは血の海だ。

 ここまでわずか数秒の出来事だ。そう、俺は馬車の中から剣士ジュドーの持つスキル【俊足】と【剣術】を借りたのだ。俺の固有スキル【レンタル】は相手が持っていれば借りることができる。物でもスキルでも。

 魔物の間を駆け回り右に左に斬り倒す剣士ジュドーが【俊足】と【剣術】を持っていないはずが無かった。


  >>> レベルアップしました。レベルが8になりました。


 レベルなど確認する暇はない。

 賊はまだ状況が掴めていない。

 俺は【レンタル】を続けて発動し、クロスボウと投げナイフのベストを収納して飛び道具を封じた。すかさず【俊足】で右手へ斬り込み双子の一人に肩で体当たりして崩し、左にいた双子の片割れの首筋を斬り上げて血管を裂き、返す刀で右にいた賊の首筋を斬り下げた。

 大量の血しぶきが天井まで吹き上がった。起きあがろうとする最初の双子の背を足で踏みつけ背中から心臓を一突きして殺した。その横でカットラスを拾おうと屈んだ鉢巻男の脇腹に元はそいつの日本刀を深々と突き入れた。切れ味が悪くなった日本刀はそのままにして、俺はカットラスを拾った。

 賊の約半数が沈んだ。まだ20秒も経っていない。【剣術 レベルMAX】は半端なかった。

 あまりの出来事に目を瞠るカレン少佐に半パン男が逆手に持ったナイフで襲い掛かる。


 「レンタル」


 半パン男の手からナイフが消え俺の左手に現れる。【俊足】で半パン男に肉薄し股間にナイフを突き入れて捻った。半パン男は悲鳴を上げて転げまわり血をまき散らして死んだ。

 半パン男の死骸を飛び超えて、馬車で俺を殴った2人が並んで突っ込んできた。俺は右の男を攻めると見せかけて誘い、誘いに乗って左の男が突いてきたレイピアを躱して伸びた腕を肘から切り落とした。ここぞとばかりに俺の首を斬りに来た右の男の剣をかいくぐり存分に胴を斬って斃した。


  >>> レベルアップしました。レベルが9になりました。


 クロスボウを奪った左手の鉄ヘルム男は自分のクロスボウを探して辺りを見回している。投げナイフベストを奪った正面のバンダナ男は気持ちを切り替えたのか両腰から30cmほどの短剣を抜き、左手は順手で、右手は逆手で持った。二刀流だ。


 「おい、シモンズ。どういうことだ。魔法は封じたはずだ」


 「分からねえ、それより戦闘スキルは無かったんだろ。何故こんなに動ける」


 ドレイブルの兄弟は前と後ろで喚きあっている。

 俺は再び【俊足】で右手へ飛び込み、漸く剣を抜こうとした鉄ヘルムの腹を横斬りにした。鉄ヘルムは血と臓物を垂らして床に転がる。隣の男は恐怖に顔を歪ませながらショートソードを滅茶苦茶に振り回す。それを余裕で躱し切って動きが鈍った所を袈裟懸けに斬った。だが手応えが悪い。見ればカットラスの刃が欠けていた。俺はカットラスを捨て男の手からショートソードを取り上げてカレン少佐が縛り付けられている作業台に戻った。


 左では今斬られた男二人が瀕死の状態ですすり泣いている。右の敵は全滅した。足元では腕を無くした馬車の男が這って逃げようとしている。俺はそいつの首に刃を当てて掻き切った。正面にはシモンズとバンダナだ。後ろは商人崩れと馬車の御者と御者助手がいる。残りは5人だ。


 俺は敵を牽制しながらカレン少佐の縛めをショートソードで切った。カレン少佐の手は震えていた。縄が食い込んだ手首の傷が痛々しい。足も震えている。作業台に寄り掛かって立つのが精一杯だった。


 「ゴータ」


 か細い声で少佐が囁き俺の左手に触れた。


 その時


 「こんな話は聞いてねえ」


 そう言って御者と御者助手が出口に向かって走った。

 商人崩れの前を走り抜けようとした御者が突然崩れ落ちた。腹にレイピアが刺さっている。立ち竦む御者助手の胸倉を掴んだ商人崩れが御者から抜いたレイピアを御者助手に握らせて凄んだ。


 「殺すぞ。嫌ならあのガキを討ち取れ」


 そう言って御者助手の体を俺に向かせてその背中をドンと蹴った。

 わー、と叫びながら御者助手がレイピアを突き出して走り来る。俺はなんなく躱して首を刺した。御者助手は血を吹き上げなが数メートル走ってパタリと倒れた。

 その隙を狙っていた二刀流のバンダナがカレン少佐に突進する。背後からは商人崩れも迫る気配がする。二刀流を封じたいが【レンタル】の空きがあと1つしかない。仕方なく振り向いて商人崩れが握るエペを確認して【レンタル】で収納した。

 素早く向き直ればバンダナの振り上げた逆手の短剣が今まさに振り下ろされようとしているところだった。間に合わない。俺は【俊足】を使い、カレン少佐と短剣の間に体を入れた。短剣が俺の胸を貫き背中に抜けてリュックで止まった。

 カレン少佐は俺の背中から滴る血を白いスカートに受けて叫んだ。


 「嫌ぁ、ゴータ」

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