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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第二章 憲兵隊
24/99

第24話 拉致

 荷台から素早く降りた半パンの男に棒のようなもので後頭部を殴られ俺は意識を失った。


 頭が痛い。ズキズキする。

 常時表示してあるHPは50/55になっている。ダメージを受けたのだ。

 俺はステータスの称号に女神の加護を設定した。


 手は頭の上で縛られて何かに固定されているようで動かせない。ご丁寧に足まで縛りやがった。首にも首輪のようなものを付けられている。だがリュックは俺の背にある。ステルス機能が効いているのだ。ありがたい。

 ゴトゴトと床が振動している。どうやら馬車で運ばれているようだ。

 すぐ横で話し声が聞こえる。


 「なあ、なんで生かしとくんだよ。面倒だ、殺っちまおうぜ」


 「だめだ、こいつは兄貴の仇だ。簡単には死なせない」


 兄貴の仇とはどういう事だろう、俺が倒したあの盗賊ドレイブルの弟なのか。殺す気だ。なんとかして助けを呼ばないと。起きたのがバレないように慎重に薄目を開けて見ると目の前は荷馬車の横板だった。板と幌の間から微かに外が見える。なんとなく見覚えがある。グラリガの目抜き通りだ。北に向かっている。北門は俺が初めてこの都市に来たときに通った門だ。

 門の手前にルイーズ商会があるはずだ。その隣は確か居酒屋で、名前は酒樽亭。そうだ酒樽亭。ドルアス軍曹が言っていた店だ。あそこに行けば国一番の騎兵ルーク中尉と剣士のジュドーさんがいるかもしれない。俺は祈るような思いで隙間から見続けた。

 やがて防具屋が見え、馬具屋が見え、馬車工房が見え、そして居酒屋が見えた。通りに出された椅子に、その二人はいた。いたが、テーブル代わりの酒樽に頭をつけて眠っていた。おれはその二人に全ての神経を集中し、意識を集中し、そして隙間に顔をつけて叫んだ


 「たぐへげぐげ」


 猿轡に邪魔されて、助けてくれ、と叫べなかった。

 驚いた賊の2人が俺の腹を蹴り顔を何度も何度も殴り、ナイフを突き付けた。


 「てめえぶち殺すぞ。今度やったら、てめえだけじゃねえ、コイツも殺す」


 そう言って賊は俺の髪を掴んで反対側を向かせた。そこには手足を縛られ猿轡をされたカレン少佐が転がされていた。やはり首には筒状の輪が付けられている。

 少佐はまだ気を失っているようだ。鼻血を出し、口にも殴られた跡がある。

 俺が驚いていると、それが嬉しかったのか別の賊がカレン少佐の太腿をスカートの上からナイフの背でなぞって言った。


 「お前の女がどうなってもいいのか。昨日は馬車でよろしくやってやがったな」


 さっきドレイブルの話をしていた声だ。コイツが奴の弟だ。食事の帰りを見られたようだ。最後まで見ていれば俺が変態扱いされたのも分かったろうに。

 馬車は北門を通過した。入るときは管理盤でチェックするが出る時はノーチェックだ。しかし、何故こいつらが管理盤で引っ掛からなかったんだ。 

 俺は気になって尋ねてみた。


 「フガフガフガ」


 猿轡に邪魔されて喋れなかった。

 興味がわいたのかドレイブルの弟が猿轡を外して言った。


 「なんだ、喋りたいのか。さっきみたいなことをやったら最初に死ぬのは女だ。もっとも、もう街道に出たから助けは呼べねえがな。それに魔法も使えねえ。魔法封じの首輪だ」


 俺の首に付けられた物を顎でしゃくって冷たく笑った。魔法なんて最初から使えないのだが。


 口は自由になったが自由に喋れない。ボコボコに殴られて血だらけだ。顔の形も変わってしまっただろう。

 HPは40/55になっている。これをあと数回繰り返すと俺は死ぬ。

 落ち着いてゆっくりと話す。


 「なんで管理盤に引っ掛からなかったんだ。犯罪者は町に入れないだろ」


 「なんだ、そんな事か。俺らは商人だ。直接手を下しちゃいねえ。殺すのを見てるだけ、盗むのを見てるだけ。商品を盗賊から買って他所へ売るだけだ」


 「それでも盗賊の仲間だろう」


 「お前の仲間が盗賊になったらお前も盗賊なのか。違うだろう。実際俺も商人のままだ」


 「それなら、俺がお前を殺したら罪科が殺人になるのか」


 「そうだ、だから殺すなよ。ふふふ。面白い奴だ。死にたくないか」


 「当たり前だ。死にたいヤツなどいるか」


 ドレイブルの弟は手下に指示して再び俺に猿轡を噛ませた。馬車内の敵は4人、御者台にも1人か2人いるだろう。迂闊に動けない。

 カレン少佐はまだ目を覚まさない。【鑑定】では気絶だけだ。重篤ではない。


  名前:カレン・ド・マルキス 年齢:25 性別:女 種族:人族 職業:軍人

  状態:気絶

  罪科:‐

  称号:クリミナルハンター


 25歳だったのか、フルネームも初めて知った。


  クリミナルハンター 犯罪検挙優秀者に与えられる称号。嘘判定能力上昇効果


 カレン少佐らしい称号だ。

 

 床から伝わる振動が変わった、街道から外れて草の上を走っているようだ。

 しばらくして馬車は止まった。


 俺を殴った2人の男がカレン少佐を抱えて運び出した。

 半パンの男が俺の腹を蹴ってから足の縄だけナイフで切って歩かせた。

 林の中のログハウスのようだ。林の木は等間隔で整然と生えている。植林だ。ここはキャラバンが盗賊に襲われる少し前に見た植林地奥の建物だ。ここをアジトにしていたのか。


 「おら、さっさと歩け」


 半パン男が、もたもた歩く俺を後ろから蹴って喜んでいる。

 建物に入ると中は思った以上に広かった。木材加工場だったようで、40平米ほどの室内に作業台や木材を移動する吊り滑車などがある。

 室内の賊は12人だ。壁際から下卑た表情でこちらを見ている。左側の賊は鉄のヘルムを被りクロスボウを肩に担いでいる。中央の髭面は手槍を持ち睨みつけてくる。その隣の男はバンダナを巻き投げナイフが何本も付いたベストを着ていた。右側には双子の賊がお揃いの皮鎧を着て気持ちの悪い笑みを浮かべている。双子の側には鉢巻をして日本刀を持った賊がいた。他の奴等も様々な種類の剣を腰に提げていた。全員が武装しているが、油断しているのか抜いている者はいない。

 手槍の男がツカツカと歩み寄り俺の前へ来るなり腹を殴った。今の一発で俺のHPは37/55になった。


 「兄貴を殺りやがって。じわじわ殺してやる。あの時の奇妙な術は使わせねえ。魔法封じの首輪を嵌めてやったからな」


 ペッと、倒れた俺に唾を吐きつけ、オイっと手下に指示した。思い出した。あの時に槍を奪った騎馬の盗賊だ。こいつもドレイブルの弟だったのか。兄弟揃ってクズばかりだ。

 半パン男が来て俺の足を縛った後、手を縛っている縄に木材吊り上げ用のフックを掛けてガラガラと滑車を引いて吊り上げていく。

 その時、床に転がされていたカレン少佐が目を覚ました。目を瞬かせた後、周りを取り囲む賊と吊り上げられていく俺を見て息を呑んだ。


 「ゴータ」


 俺はつま先立ちになるまで吊り上げられた。両手に縄が食い込んで痛い。隙を見てリュックに収納しているナイフで縄を切ろうと考えていたが、この体勢では切る前に見つかってしまうだろう。


 オイっと再び手槍を持つドレイブルの弟が指示をした。賊の4人が抵抗するカレン少佐を持ち上げ、大きな作業台の上に仰向けに寝かせて両手両足を大の字に縛り付けた。


 「縄を解け、この」


 そう叫んで台の上で暴れるたびに縄が手足に食い込み赤く血が滲む、スカートの裾は股の辺りまで上がってしまった。賊たちは嫌らしい顔で少佐を見て大喜びしている。


 「さっさと始めようぜ。最初は誰からだ。そっちの小僧はもう用無しだろ。俺が殺ってやる」


 少佐の足を縛った歯抜けの賊がニヤニヤして言った。手を縛ったモヒカン男は少佐の胸を服の上から揉んでヨダレを垂らしている。


 まあ待て、と馬車にいた商人崩れが言う。


 「まあ待て。おい女、順番を選ばせてやる。全員を楽しませてから、そこのガキを殺せ。そしたら命だけは助けてやる」


 ふざけるなと言うカレン少佐を無視して商人崩れが俺を向いて続けた。


 「そこのガキ、死にたくないんだろ。俺たち全員が遊んだ後でお前が女を殺せ。そしたらお前は助けてやる。なんならお前もヤッていいぞ。さあどっちが助かりたいんだ」


 「おいおい、それじゃどっちにしろ女は全員とヤルことになるぜ」


 もう片方の弟が、さも楽しみだと言わんばかりに手槍を振って言った。


 「ああ、シモンズ。それは決定事項だ」


 ヒャハハと賊どもが一斉に笑った。舌なめずりをする者もいる。俺は下を向いてプルプルと震えだした。

 それを見た歯抜けが俺を指さして言った。


 「おい、コイツ震えてやがるぜ。キャハハ」


 「シモンズ、本当にこんな奴が兄貴を殺ったのか」


 「ああ、俺の槍を魔法で奪って刺しやがったんだ」


 「強そうには見えねえ」


 そう言いながら商人崩れが俺を【鑑定】した。


 「【鑑定】【マップ】【語学】【雷無効】これしかないぜ。戦闘系は無しだ。あの時と同じだ。おい職業の付き人って何だ。聞いたことがねえ」


 あの時俺を【鑑定】したのはコイツだったのか。


 「なんだそりゃ、この女に付きまとう人って事じゃねえか。罰として殺そうぜ」


 歯抜けがそう言うと賊どもが大ウケした。当たっているな。

 頭の悪そうな笑いが起こる中、カレン少佐が叫んだ。


 「ゴータ、お前はどんな事をしてでも助けてやる。私が必ず助けるからな。おい、賊ども。私が相手をしてやる。好きにするがいい。だがゴータだけは逃がしてくれ」


 こんな時でも俺を守ろうとしてくれる。俺は今になってやっと分かった。無理やり付き人にしたのは、俺を側に置いて守ろうとしたのだろう。あの時盗賊には逃げた仲間がいた。報復から守ろうとしてくれたんだ。キャラバンの皆には護衛がいるが俺は一人だから。リシェル少尉も髭面の大男から守ってくれた。下層トリオだって買い物に行くのに武装していた。ドルアス軍曹もずっと付ききりだった。ずっと守られていた。

 震えている場合じゃない。震えて死ぬか、戦って死ぬか。

 同じ死ぬなら戦って死ぬさ。決まりだな。


 「カレンさんは俺が守ります」

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