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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第二章 憲兵隊
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第19話 スキル検証

 ミディアムボブに柿色の服、朱鞘のレイピア。カレン少佐だ。

 カレン少佐は右手に紫ビロードの刀袋を持って歩いていた。憲兵隊とは逆の方角だ。

 下層トリオには、先に帰ってくれと言って少佐の行く方へ歩き出す。トリオはどうしたんだ、と言いながら付いてきた。俺は無言で歩く。少佐との距離は40mほどだ。トリオも女性が誰なのか気付いたようで大丈夫かな、と気まずそうだ。しばらく歩くと都市の東門が見えてきた。少佐はそのまま門から外へ出ていく。

 トータクは、許可無しに門の外に出たらまずいぞ、と心配している。俺が門の所までだからと言うと、絶対に出るなよ、リシェルさんに迷惑が掛かるからな、と念を押された。俺もリシェル少尉にだけは迷惑を掛けたくない。

 門ギリギリの所で止まって外を見れば東門の外側は墓地になっていた。広大な敷地に同じ形の墓標が規則正しく並んでいる。トータクが軍人墓地だと呟いた。

 カレン少佐は軍人墓地の中に入っていき、4列目の墓標の前で止まった。ここからは50mほどあって墓標の文字は全く見えない。カレン少佐は墓標の前に跪き、刀袋からサーベルを取り出し、刀袋を敷いた上にサーベルを置いた。


 「おい、もう行こうぜ」


 「そうだな」


 俺たちは来た道を戻った。

 俺は墓標を【鑑定】していた。遠くて無理かと思ったが【鑑定】できた。


  墓標: 騎兵大尉ダリュル・ド・グルーアン卿 慈愛こそ勇気


 俺たちは一旦憲兵隊に帰った。その夜は兵舎で食事をして、下層トリオは飲みに行くと言って出掛けて行った。俺はひとりカプセル部屋に戻り、サーベルの件を考えた。

 サーベルの銘は「グルーアンの守り」だ。墓の主もグルーアンだった。おそらく騎兵大尉グルーアン卿の剣だったのだろう。その剣はドレイブルから俺が奪ったものだ。少佐は最初の尋問で言っていた。ドレイブルは騎兵大尉の首を刎ねて逃げたと。その時に奴が剣を奪ったのかもしれない。それがどう少佐に関係してくるのかは分からなかった。だが、あのサーベルはもう少佐の物だ、どうしようと勝手だし、俺には関係のない話なのだ。

 俺は墓標を【鑑定】したことを後悔した。人の心を覗いた気がしたからだ。これからは身近な人に係わる【鑑定】は止めよう。知りたければ聞けばいいのだ。話したければ話すだろうし、嫌なら話さないだろう。それでいい。


 午後10時、俺は槍の返却期限を確認してから眠りに就いた。


  固有スキル:【レンタル2 レンタル中:素槍(1d16h40min25s)】


 少佐からの呼び出しがあったのは翌日だった。夕方6時に来い。ただそれだけだった。

 おそらく軍人墓地の件だろう。少尉に東地区の古着屋に行ったと言ったら、少し考えて、何かありませんでしたか、と聞かれたので素直に話したのだ。少尉お勧めの西地区の服屋に行っていたら、少佐の事は分からなかった。少佐には説教でもされるのだろう。ストーカーと思われたかもしれない。


 6時までたっぷり時間がある。俺の本来の仕事である修練に励むとしよう。乗馬や剣術もやりたいが一人ではできない。先生がいないからだ。俺は【レンタル】の修練をすることにした。2度も俺の命を救ってくれたスキルだ。伸ばしておいた方がいいに決まっている。

 判明している【レンタル】の能力を確認する。


 1.レンタル可能数は5個

 2.レンタル期限は120時間

 3.レンタル発動距離は40m以内

 4.レンタル対象は視認した物


 1と2は確実だ。3と4はドレイブルを倒した時の経験によるものだ。素槍の期限が短いのはレベルアップ前に【レンタル】したからだ。それを踏まえて検証する項目を確認する。


 検証1.距離はどこまで可能か。

 検証2.見えない物でもレンタルできるか。例えばポケットの中などだ。

 検証3.返却方法はどうするか。


 この他に期限が切れた場合にどうなるかも不明だが、その検証は素槍でする事に決めているので今回はパスだ。


 俺はリシェル少尉の執務室に外套を借りに行った。外套で検証中の手元を隠すためだ。【レンタル】した物が出たり消えたりするのを人に見せるわけにはいかない。


 「少尉、外套を貸してもらえないでしょうか」


 「あら、ゴータさんが頼ってくれるなんて嬉しいな。何に使うのですか」


 「はい、少尉。修練の一環で庭に出て瞑想したいのです。動かないから寒いと思いまして。私は外套を持っていなくて」


 「わかりました」


 瞑想の修練って何だろう、言っている自分でも不思議だが、敷地の中だから問題ないと判断したようで了承してくれた。


 「うーん、どれにしようかな」


 リシェル少尉は顔を斜めにして手を頬に当てて悩んでいる。悩む姿も絵になるリシェル少尉だった。漸く決まったのか、コートハンガーにかかった中からカーキ色の外套を選んだ。


 「では、これをお使いになってください。お古ですが。差し上げますよ」


 「いえ、ちゃんと綺麗にしてお返ししますので、少尉」


 「そうですか、やはり私のお古なんて嫌ですよね」


 「そんな事ないです。これがいいです。これを探していました。頂戴します。少尉」


 俺は外套を押し頂いて部屋を出た。裏地が花柄のその外套はとても良い香りがした。

 ゴータさんと言ってくれた。付き人さんから昇進したようだ。頼ってくれて嬉しいとも言ってくれた。この外套は家宝にしよう。


 目抜き通りに面した憲兵隊の前庭に置かれた庭石の上で俺は胡坐(あぐら)をかいている。もちろんリシェル少尉に頂いた我が家の家宝たる外套を纏っている。ボタンを全て留め、袖に腕は通さずにスッポリと頭から被ったのだ。これで手元が隠せる。乗馬にも使えるこの外套は裾が大きく広がっていて、座った俺を完全に覆い隠してくれる。フードも被って顔を隠した。完全に怪しい奴だが、このくらい怪しい方が人が寄ってこなくて丁度良い。


 さあ、はじめよう。


 検証1.距離はどこまで可能か。

 通りを馬車がゆっくりとやって来る。御者の隣、帽子の男が寝ている。この男で検証する。距離約70mで失敗、60mも失敗、50mで成功した。50mで【レンタル】した時にこれは成功するという確信があった。例えるなら、頭の中の【レンタル】スイッチが点灯する感じだ。この感覚を使えば失敗は無い。点灯したら実行すればいいのだから。

 【レンタル】した帽子を受け取るのは俺の手でも、リュックの収納空間でも可能だった。リュックの収納は俺の所有物しか入れられないはずだが、借りている間は俺の物として認識されるようだ。もちろん10m離して置いたリュックの中でも可能だった。


 検証2.見えない物でもレンタルできるか。

 男のポケットの中に向けて【レンタル】するが何も起こらない。当たり前か。何を借りたいのか分からないのに借りられるわけがない。歩いている婦人でハンカチをイメージすると【レンタル】スイッチが点灯した。実行するとハンカチが俺の手に現れた。その横にいた子供でハンカチをイメージしても【レンタル】スイッチは点灯しない。あの子供はハンカチを持っていないのだろう。このスイッチをイメージできたのは大収穫だ。

 次だ。物理的に取りにくい物はどうか。例えば着込んでいる鎧、着けているピアス、金歯、馬車の車輪などだ。結論から言うと、鎧とピアスは可、金歯と馬車の車輪は不可だった。もちろん実行はしていない。鎧とピアスで【レンタル】スイッチが点灯したのだ。実際にやってみたのは寝ている男のベルトだ。【レンタル】は成功した。輪になったベルトがそのまま俺の手に現れた。男の体温でちょっと暖かいのが気持ち悪い。返却したら元の位置に戻った。ベルトループに通っていたのだから物理的に不可能なはずだが実に不思議だ。【レンタル】したベルトをバックルを外した状態で返却したら元の位置に戻ったがバックルは外れたままだった。


 検証3.返却方法はどうするか。

 これは帽子を返す時に検証できた。返却をイメージすると帽子は男の頭に戻った。返却場所として馬車の屋根をイベージしたらそこに帽子が現れた。返却相手から約50cm以内なら可能だった。手を伸ばせば届く範囲ということなのだろう。リュックの収納空間から直接返却することも可能だった。返却する時は相手がいくら離れていても返却可能だった。馬車が見えなくなってから返却したら、手元から帽子が消えた。

 返す時に念じるのは「返却」でも「リターン」でも「返す」でも、しっかり念じればそれでちゃんと返却できた。


 面白くなって思いつく限り次々と検証を続けていたらレベルアップしてしまった。


  >>>【レンタル レベル2】がレベルアップし【レンタル レベル3】に

      なりました。レンタル期限が5日から8日になりました。

      レンタル可能数が5から8に増加しました。


 日数と個数が増えた以外は特に変わった事はないようだ。


 検証で判明した【レンタル】能力はこうだ。


 1.レンタル可能数は8個以内

 2.レンタル日数は8日間以内

 3.レンタル発動距離は50m以内

 4.レンタル対象は見えなくても相手が持っていれば可能

 5.レンタル可否は脳内スイッチの点灯・非点灯で判断可能

 6.レンタル品はリュックの収納に直接入れることができる

 7.返却場所は相手から50cm以内

 8.リュックの収納から直接返却できる

 9.返却相手はどこにいても距離を問わずに返却可能


 使っているうちに疑問点はまだまだ出てくるだろう。その時にはまた検証しよう。

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