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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第二章 憲兵隊
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第16話 付き人

 午後7時、ルイーズ商会を辞去した俺は夜の街を憲兵隊に向かって歩いている。この世界にも街灯があって夜でも道を照らしてくれる。ただし光っているのは電球ではなくダンジョン石だ。係員が街灯に梯子をかけて登り、ガラスを開けて中のダンジョン石の窪みに魔石を入れる。すると魔石の魔力によりダンジョン石が光るのだ。そんな街灯の係員を見ながら、俺は左手で手綱を引き右手は肩に担いだ槍の柄を握っている。


 槍を【鑑定】してみた。


  素槍: 無銘の素槍。身は鋼鉄、柄は赤樫。



 >>>【鑑定 レベル2】がレベルアップし【鑑定 レベル3】になりました。

     情報量が増えました。攻撃力評価が可能になりました。防御力評価が

     可能になりました。ステータス・状態が鑑定可能になりました。



 レベルアップした【鑑定】で再度槍を見てみた。


  素槍: 無銘の素槍。身は鋼鉄、柄は赤樫。攻撃力:C


 期待したほど情報量が増えないのは、これで全てという事なのだろう。攻撃力はCだ。優秀とは思えない評価だが、それでもドレイブルを一撃で倒せた。ドレイブルは鎧を着ていなかった。包丁でもアイスピックでも心臓を一突きすれば倒せるのだから、この場合の攻撃力とは盾や鎧で防御する相手への攻撃力だろう。たとえば防御力Aの鎧を攻撃力Cの槍で貫くことはできない、そういう事だと思う。


 槍を持って来いとは言われなかったが置いていくわけにはいかない。それというのも現在レンタル中だからだ。シークレットステータスの表示はこうなっている。


  固有スキル:【レンタル2 レンタル中:素槍(2d19h40min33s)】


 返却期限まで今から2日と19時間40分33秒という事だ。持ち主は逃走中の盗賊だから返しに行ける筈もない。期限が切れた時にどうなるのか分からないのだから、売ることも捨てることもできないのだ。


 憲兵隊はすぐそこだ。ああ、気が重い。今から俺はあのクソ忌々しい少佐の付き人だ。そもそも少佐に付き人なんて必要なのか。何様のつもりだろう。だが良い事も少しはある。食費も宿泊費も今日からは心配しなくていい。交渉して給料も出させてやるぞ。神殿にも紹介してくれるらしい、憧れの魔法に手が届きそうだ。そこまで行けばもうあの女に用は無い。適当にやって信用させておさらばだ。仕事が大変そうなら手を抜いて呆れさせてやろう。こんな奴は使えないと向こうから解雇させてしまえば晴れて自由の身だ。俺は完璧な計画を立てて、憲兵隊の敷地に入った。


 リシェル少尉が外で待っていた。


 「早かったですね。その馬は付き人さんのですか」


 「はい、乗れませんが」


 「少佐の移動はほとんどが馬です。付き人さんも乗れないと困りますよ」


 「はい、練習します」


 「付き人さんは兵士ではないですがここは軍です。話をするときは最後に必ず相手の階級を言ってくださいね。ここでは全員が上官だと思ってください」


 「わかりました」


 「……」


 「わかりました。少尉」


 「よくできました。今日はもう遅いので兵舎に案内しますね」


 「はい、少尉」


 指導されたが優しく言われると悪い気は全くしない。馬は厩番に預け、持参した武器を持ってリシェル少尉についていく。憲兵隊の建物の裏が厩舎でその横が兵舎だ。兵舎の1階が男性、2階が女性だ。リシェル少尉は男性の兵舎でもお構いなく入っていく。男性の兵舎に女性が入っても構わないがその逆は禁止されているようだ。

 入るとすぐに食堂があった。食事をしている男性隊員たちから声が掛かる。新入りか、よく来たな。よろしくな。そんな声にゴータです宜しくお願いしますと答えていく。相手が多くて階級が分からないので、こんな時は「サー」だろうと付け足しておいた。【語学】スキルが自動的に正解に変換してくれるはずだ。


 食堂の向こうは住居区画だ。映画で見るようにベッドが並んでいるのだろうと思いながら入って行くとカプセルホテルのような構造になっていた。カプセルの間口は縦100cm横150cm奥行250cmほどもある。それが縦に3段、横に20列も並んでいる。ハチの巣かよと呟いてしまった。俺のカプセルは一番手前の一番下だった。まあそうだろう。一番の下っ端らしいからな。


 「どうぞ、入ってみてください。槍はそこの槍立てに立てて下さい。弓とサーベルは個室の中に入れておいてくださいね。明日、少佐の所に持っていくまで窮屈でしょうが我慢してください」


 靴を脱いで入ってみる。小柄な俺にはかなり広くて、私物を置いても余裕だろう。


 「はい、大丈夫です、少尉。入ってみると快適ですね」


 入口には簾があって、それを下ろせばある程度のプライバシーはありそうだ。居住区画の奥にはトイレと風呂場があるらしい。さすがに少尉もそこまでは案内せずに、後で自分で確かめてねと言われた。


 「では、食事をして今日は休んでくださいね。明日は正午前に受付にきてください。武器を忘れずに持ってきてね」


 「はい、少尉。ありがとうございます」


 少尉ともっと話したいと思ってしまった。

 お腹が空きすぎて倒れそうだ。食堂へ入ると兵士が3人寄ってきて、ノッボの男が声をかけた。ラフな私服で階級章は付けていない。


 「よう新入り。やっと解放されたか。腹が減っただろう、飯食おうぜ」


 「ペコペコで倒れそうですよ。ゴータです。えっと」


 「俺はトータクだ、こっちのデブはヒックル、チビはカラコル。全員伍長だ」


 「よろしくおねがいします、伍長」


 「よせよせ、下っ端同士階級なんて無しだ。呼び捨てがルールだぜ」


 「お、おう、みんなよろしくな。でも伍長なら下士官だろ。下っ端じゃないだろ」


 「憲兵隊は士官以外は全員が下士官なんだぜ。捜査で他の兵隊を尋問する事が多いからな。下士官の方が都合がいいんだ」


 トレーにパンを載せ、配膳カウンターで炊事係から料理を貰う。トレーを持ってテーブルへ行き4人で座って食べ始めた。


 憲兵隊はな、と今度はデブのヒックルが話し始めた。

 憲兵隊は、軍人が関係する事件の捜査が本来の仕事だったが、今では事件全般の捜査をする。この世界に警察というものは無い。憲兵隊も王国軍組織の一つだが、捜査に影響しないように指揮権は完全に分離されている。

 王国軍には3つの組織がある。憲兵隊、近衛師団、国軍だ。近衛師団は王および王宮の警護を行うエリート中のエリートだ。国軍の仕事は都市の防衛と砦の運営で、国軍が犯罪者を追う事はない。とはいえ目の前に犯罪者が現れれば当然捕まえるそうだ。


 砦っていうのはな、と今度はチビのカラコルが話し始めた。

 砦っていうのは、ダンジョンや森など魔物が多い場所に作って街道や町に魔物が近づかないように目を光らせているそうだ。だが実際にダンジョンや森に入って魔物を倒すのは冒険者の仕事らしい。軍人は安月給だからそんな危険な仕事はやってられねえよ。と言ってパンを齧った。


 リシェルさんって、と今度はトータクが話す。


 「綺麗だよなあ」


 「ああ、あの人と少佐はツートップだよな」


 「だな」


 「そんな2人と仕事ができるなんて、ゴータてめえ生意気だぞ」


 3人はそんな事を言って盛り上がっていた。やはりリシェル少尉は人気なんだな。威張るところが無いし優しい。少佐とはえらい違いだと思った。


 トータク、ヒックル、カラコルの3人は、俺たち下層トリオなんだぜと言っていた。何の事かと思えば全員の個室が一番下だという。お前も下層トリオの仲間入りだと言っていた。俺が入ればカルテットなのだが……。満腹になり、4人で風呂へ行ってサッパリしてからカプセル部屋へ入った。


 部屋で一人になった俺は今日レベルアップした【鑑定】でリュックを調べた。


  リュック: 専用収納空間を持つ多機能リュック。

        ステルス機能付き。防御力:S


 情報が増えている。ステルス機能付きということはリュックが相手から認識されないという事だ。思い当たる節はある。この世界には無いリュックなのに誰からもジロジロ見られたり尋ねられたりした事がないのだ。さすがに目の前で出し入れすれば目立つだろうから今後は動きが不自然にならないように気を付けなければならない。防御力Sというのも頼もしい。ドレイブルの矢が潰れたのも頷ける。いざという時は盾としても使えそうだ。


 兵舎のカプセル部屋で俺はリュックを抱きながら眠りについた。

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