第15話 尋問
「どうした。なぜ黙っている。さきほどの雄弁はどこへいった」
何も言わない俺の目を直視する。何一つ見逃さないという強い意志のある目だ。この人に嘘は通用しない。
「私が殺しました。それは確かです。でも方法は言いたくありません」
「何故言いたくない」
「私が敬愛する老人の教えです。自分のスキルや魔法は人に言うもんじゃない。こうも言っていました。人の事をあれこれ聞くのは無粋の極みだ」
「そうか、職務なのだがな。ここの地下には拷問部屋がある。拷問して吐かせる事もできるのだぞ」
「あなたのような方が、そのような事をするとは思えません」
「そうか、リシェル少尉、拷問部屋の準備をしろ」
カレン少佐は面白そうにそう言った。俺は嫌な汗が噴き出してくるのが分かった。体の感覚が無くなっていく気がした。そんな俺を庇うようにブラウンさんが初めて口を開いた。真っ青な顔をしている。
「少佐、お待ちください。ゴータが凶悪な盗賊を倒した。それで充分ではないですか。どうやって倒したかなどは些末なことです。ゴータは信用できる男です」
「この者が倒したのを見たものはいない。この者はどうやって倒したか説明もできない。明らかに怪しいだろう。その怪しい男の証言を信用して君たちの行為を不問に付したのだ。この者が信用できると判断するまで解放することはできない」
したがって、と裁判官が判決を下すかのように宣告する。
「この者を私の従兵として監督することにする」
「それは困ります。私にはやる事があります」
「困ったな。これはお前を信用してやる為の措置だ。それが嫌ならルイーズ商会と護衛を殺人容疑で捜査することになるが、それでいいのだな」
困ったなと言う顔が楽しそうだった。この女はとんでもない奴だった。
「お前は魔法を覚えたいのだったな。私が神殿に紹介してやる。紹介無しでは門前払いだぞ。それに従兵なら食費も宿泊費も掛からない」
そこだけは魅力的な提案だ。俺の所持金は銅貨5枚しかない。
お待ちください、とポータードさんが言う。
「17歳未満の強制徴募は禁止されているはずです。ゴータは16歳です」
「よしゴータ、志願しろ。志願兵としてなら12歳から入隊できるからな」
横目でポータードさんを見ると。首を横に振ったように見えた。
「志願はしません」
「少尉、こいつを拷問部屋へ連行しろ」
お待ちください、と再びポータードさんが言う。
「従兵ではなく下僕か付き人にでもされてはいかがでしょう」
「下女がいるから下僕は不要だ。よしゴータ、お前が選べ。拷問か付き人かだ」
「付き人にしてください」
何故かそうなってしまった。この世界は恐ろしいことろだった。
「いいだろう、今日からお前を付き人にしてやる。詳細はリシェル少尉に聞け」
俺たち3人は憲兵隊を出てルイージ商会に向かっている。ドレイブルから回収した剣と弓矢を持ってくるように指示されたのだ。歩きながらポータードさんに聞いてみた。
「従兵でも下僕でも付き人でも同じだと思うのですが、どうしてポータードさんは従兵を避けたのですか」
「いや、ゴータ、従兵と下僕や付き人とでは全く違うぞ。従兵は兵士だ。兵士が命令に背いたり逃げたりしたらどうなると思う。どちらも最悪死刑だ。下僕や付き人なら死刑にはならない」
危なかった。ポータードさんに助けられた。
ルイージ商会に戻った俺は商会の皆に別れの挨拶をした。護衛は全員が病院に行っていて留守だったので、くれぐれも宜しくと言っておいた。ポータードさんはお尻がキルティングになっている乗馬ズボンを贈ってくれた。ブラウンさんは馬を一頭引いてきた。まさか馬をくれるのかと思ったら、ドレイブルの馬だから君の物だよと言って手綱を渡してくれた。馬の鞍には既にサーベルと弓矢が付けられている。槍も職員が持ってきてくれた。キャラバンは明日また次の町へ向けて出発するそうだ。
本当にお世話になりました。俺はそう言って腰を90度に曲げてお辞儀をした。