第12話 盗賊
グルジ町を朝一番で出発したキャラバンの隊列は昨日と同様だ。馬車が一列縦隊で前衛2騎は長剣の戦士ゴヤルさんと十文字槍の戦士、後衛2騎はハンターと魔法使いだ。
昼過ぎに街道脇で簡素な食事をして再びグラリガへ向けて馬車を進めている。グラリガには神殿があり、神殿では魔法を授けてもらえるのだ。あの便利な生活魔法を使えるようになりたい。それが今の俺の目標だ。
穏やかな陽光に照らされた街道には俺たちの他には馬車も人も姿は無く、居眠りしそうになるのを我慢するのが辛かった。リュックは背負うと座りにくいので前に回した。相変わらずお尻も痛い。
直線だった街道は右側に現れた湿地を避けるように緩やかに左にカーブしている。湿地の向こうには小さな林が見える。木々が整然と並んでいるのは植林だろう。植林の向こうに微かに建物が見えた気がした。きこりが休憩にでも使うのだろうか。
しばらく進んでいくと並木の裏に馬を停めて休んでいる2人の男がいた。薄手の外套は砂ぼこりで汚れていた。目礼をするが目を逸らせれてしまった。この世界には目礼というものが無いのかもしれない。
何もしないと寝てしまいそうだ。ガランジさんに貰った盾でも【鑑定】してみよう。
バックラー: 鉄でできたありふれた丸盾。
バックラーというのか。ベルトに左腕を通して使えと言っていた。試してみるが馬車の上ではやり辛い。左手にバックラーで右手にカットラスか、その姿で戦っている自分が想像できない。
馬車が止まった。
前を見ると倒木が道を塞いでいた。先頭のゴヤルさんが指笛を吹いて後衛の2騎を呼び寄せた。ロープで倒木を移動させるようだ。木に巻いたロープを4頭の馬の鞍に結んで引こうとしている。
それを見ていた俺の【鑑定】が何かに反応した。
「ブラウンさん。今、誰かに鑑定されたようです」
ブラウンさんが注意を呼びかけようとした時、前方で「ぎゃっ」と叫び声がした。見ると護衛のハンターの胸に矢が刺さっている。
「マシューズがやられた。木の上から狙っているぞ、気を付けろ」
「降りて馬車の下に隠れるんだ」
ブラウンさんがそう言いながら素早く剣を掴んで馬車から飛び降りると、トンっと音を立てて今までブラウンさんが座っていた場所に矢が突き立った。俺も慌てて降りて馬車の下に潜り込んだ。
「来たぞ、右前から敵だ」
誰かが叫んだ。
道と湿地の間に伏せていたらしい10人ほどの男たちが剣や槍をかざして迫って来た。護衛は木に繋がって動けない馬を諦めて飛び降りると馬車の横に走り戻って盾を構えた。矢が刺さったハンターは馬上でグッタリしている。魔法使いは馬車の影に隠れながら詠唱してスタッフを振った。
「ファイアーボール」
火の玉が木の上に隠れる敵のハンターに勢いよく飛んでいき見事命中すると敵は燃えながらドサッと落ちて動かなくなった。弓の危険がなくなると御者たちは馬車の下から出て剣で盗賊を迎え討った。ガン、カーンと剣の交わる音を響かせて斬り結んでいる。御者助手の一人が斬られ悲鳴を上げて倒れた。止めを刺そうと剣を振り上げた敵の横から護衛が十文字槍を突き入れて斃した。その向こうでは魔法使いのファイアーボールを浴びた盗賊が怯んだ所をゴヤルさんが長剣で斬り倒した。
俺は馬車の下から出るも足が竦んで動けない。剣も腰のまま抜いてもいない。その時、いま来た道を馬が2頭走ってくるのに気が付いた。休憩していた男たちだ。一人は弓を、一人は槍を持っている。まだ50mほどの距離がある。何もできない俺はせめて助けを呼ぼうと馬車の後ろに駆けていきその騎馬に向かって大声で叫んだ。
「助けてくれ」
男は馬を駆りながら弓を引き、狙いを定めて矢を放った。男の口が嗤ったように見えた。放たれた矢は一瞬浮き上がったように見えてから俺に向かっ飛んでくる。俺は恐ろしくなり盾で顔を隠した。ボンという音を立てて矢が俺の胸に当たった。下に目をやると矢尻の潰れた矢がリュックからポトンと落ちるのが見えた。リュックを前に回しておいて助かった。
なんてことだ、あれは敵の後詰だ。馬上の男は速度を緩め背中から矢を抜いて再び放とうと弦を引く。距離は30mほどだ。次は外さない、そんな自信のある目をしている。俺はゴブリンとの死闘を思い出してイチかバチかで手を伸ばす。
「レンタル」
俺の手に男の弓と矢が現れた。敵は何が起こったのか理解できずに目を見開いている。俺は盾を置き、手にした弓に矢を番え、弦を引き絞って男を狙う。男が怯えた顔をした。
引き絞っていた右手を離して矢を放った。放たれた矢は3mほど先にポロンと落ちた。男は嘲笑うような眼をしてサーベルを抜き手綱をしごいた。
俺は弓を投げ捨てて再び手を伸ばす。今度は後ろを走る男に向けてだ。
「レンタル」
俺の手に男の槍が現れた。
先頭の馬は疾走し、みるみる距離が縮まった。男は駆け抜けざまに切り下げようとサーベルを振り上げた。俺は右手で槍を持ち、左手を男に伸ばす。
「レンタル」
俺の左手に男のサーベルが現れた。俺はそのままサーベルを捨てて両手で槍を持つと男のがら空きの腹に力一杯突き入れた。男は腹に槍を突き立てたまま数メートル進んだとろこで馬から崩れ落ちた。
後続の敵は馬首を巡らせて逃げていった。
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