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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
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第10話 出立

 親たちは口々に礼を言い、子供たちはまた遊ぼうよと言って家に帰っていった。俺も両手にモンラットを提げて宿屋に帰った。リュックの機能は特殊すぎて人前で使うのは控えることにしたからだ。ちょうどソラーラさんがいたのでピクニックバスケットを返してモンラットを2匹とも渡した。


 「おかえり。あら、また2匹も貰っちゃっていいのかい。昨日も貰っちゃったし、食事代も払ってくれてるのに悪すぎるよ」


 「いいんですよ。しっかり食べさせてもらっていますから」


 「それで、どうだったんだい、子供たちも獲れたのかい」


 「はい、各自2匹ずつ獲れました。みんな喜んでくれましたよ」


 「みんな普段は親の手伝いで農作業をしているからね、いいご褒美になったろうね。また連れて行ってあげなよ」


 「それなんですが、明日は商人の馬車が来るとロランゾさんが言っていました。その馬車に乗せてもらえたらと思っているんです」


 「そういえば宿泊は今晩で最後だったんだね。なんだかさあ、ずっといてくれるような気がしてたんだよ。寂しくなるよ。いま爺ちゃん呼んでくるからね」


 ソラーラさんは一瞬固まったが、すぐにロランゾさんを呼びに行った。


 「なんじゃ、出て行ってしまうのか。実はなあ、空き地に家を建ててやるから住まんか、と誘おうと思っておったのじゃがなあ。おぬしは皆に好かれておるし、何より人柄が良い。今日の狩りだってそうじゃよ、信用しとらん者に自分の子供を預ける親はおらんのじゃなあ。おぬしはもう村の一員と認められておるわ」


 ちゃんと見てくれていた。涙が出そうになった。一度死んで知らない世界に独りぼっちだった。そんな俺を受け入れてくれるというありがたい申し出だ。でも今の俺は好奇心の塊だ。この世界の事をもっと知りたい。


 「とっても嬉しいです。でもやっぱり行きます。魔法も覚えたいし、この世界をもっともっと知りたいと思います」


 「そうか、そう言うと思っておった。人は誰でも冒険者じゃからなあ」


 ソラーラさんが夕食を運んできた。恒例のスープにはモンラットの肉が沢山入っている。焼いた肉にオレンジのおろしソースが掛かった料理、そぼろ状にした肉と芋を煮込んだ料理など、アルル村最後の夜をモンラットの肉づくしでもてなしてくれた。


 翌朝、部屋を出てフロントに行くとロランゾさんとソラーラさんが待っていた。ソラーラさんが俺に包みを渡しながら言った。


 「これ途中でお食べ。それからこれも渡しておくよ」


 弁当とお金、それに魔石だ。


 「お金は受け取れませんよ」


 「違うよ。昨日のモンラットの毛皮を売ったお金と魔石だからアンタの物だよ。馬車の料金だって払わないといけないんだ。受け取っておきなよ」


 「そうですね、すみません。ありがとうございます」


 「気を付けるんだよ。嫌になったらいつでも帰っておいで」


 ロランゾさんは持っていた剣を横にして差し出した。剣帯も付いている。


 「おぬし武器を持っておらぬようじゃから、これを使ってくれんかなあ」


 「いいんですか」


 「安物じゃよ。わしが冒険者の頃に使ったものじゃ」


 「え、ロランゾさん、冒険者だったんですか」


 「そうじゃ、人は誰でも冒険者じゃ」


 「何いってんのさ。爺ちゃんが冒険者だったのは2週間だけじゃない。しかもほんの数年前の話だよ。出ていったと思ったらすぐに帰って来て」


 「腰が痛かったんじゃ。冒険者になるなら若いうちじゃなあ」


 「……ありがとうございます。大切にします」


 「腰の飾りにしかならんぞ。金が出来たらちゃんとしたのを買うんじゃ。病を治してくれて本当にありがとう。命の恩人じゃなあ」


 村の通りには馬車が3台止まっている。農作物の買取にやってきた巡回商人の馬車だ。昨日の夜に到着したようで麻袋に入った農作物はすでに馬車に積まれている。御者台はまだ空で数人の初めて見る男たちが道具屋の主人と話をしていた。馬車の向こう側には4頭の馬もいる。


 宿屋から出ていくと村人たちが寄ってきた。寂しくなるよ、いつでもおいでよね、そう言って別れを惜しんでくれる。狩りをして遊んだ子供たちも来ている。ボルタは泣いていた。男は泣くもんじゃないと言って頭をポンポンしてやった。リリアルが小さな布袋をくれた。


 「チコザクラの種だよ。みんなで集めたの。魔除けのお守りになるの」


 「そうか、ありがとうな。またいつか狩りをやろうな」


 「うん、きっとだよ」


 ガランジさんは大きな丸いものを持ってきた。


 「爺さんから剣を貰ったみたいだな。おれは盾をやる。裏のこのベルトに腕を通して使えよ。まあ逃げるのが一番だがな。ガハハ」


 「ありがとうございます」


 「それからよう、前から気になっていたんだが、そのバカ丁寧な言葉遣いはどうにかしたほうがいいぜ。そんな風に喋ってたら、私はいいとこのボンボンです。誘拐してください、って言ってるようなもんだぜ。まあ時と場合によるがな。それに例の称号は外しとけよ」


 「そうですね。そうします」


 「それがダメだってんだよ」


 「ああ、そうだなガランジさん、そうするよ」


 「ガランジだ」


 「ああ、そうだなガランジ」


 「それでいい。さあ行け」


 振り返るとロランゾさんと男の人が並んでいた。


 「こちらはルイージ商会のポータードさんじゃ、キャラバンの隊長じゃなあ」


 「ゴータです。宜しくお願いします」


 「荷台に空きがなくてね。御者の隣で我慢してくれ。2台目の馬車だ」


 「はい、どこでも大丈夫です」


 「準備がよければ出発するぞ」


 はい、と言って俺は2台目の馬車へ向かうが途中で気付いてポータードさんに尋ねる。


 「お金を払いますね」


 「もう貰っているよ。さあ、出発だ」


 驚いて皆のほうを見ると道具屋の主人が片手を挙げて片目を瞑った。

 馬車に乗り込んだ俺は皆に向かって叫んだ。


 「ありがとう。また」


 みんな手を振っている。宿屋の前ではソラーラさんが目にハンカチをあてていた。

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