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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
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第1話 異世界転生

 今日はお気に入りアニメのレンタルDVDリリース日だ。

 俺はレンタルビデオ屋へ向けて田舎道を自転車で走っている。

本当は完全生産限定版を買いたかったのだが、高校に入学したばかりでバイトもしていない俺には厳しすぎる金額だ。両親は入学祝に買ってあげようかと言っていたが、俺は通学用のリュックにしてもらった。デイパックと呼ばれる小型のリュックだ。完全防水で表は黒、中はオレンジ色をしている。とても気に入っているそのリュックは自転車の前カゴに入れてある。


 自転車で走るこの道のすぐ隣は古墳がいくつもある公園だ。今の時期、古墳の上に咲く桜は多くの市民を楽しませる。俺もここが大好きだ。


 青信号の交差点に差し掛かる。花見客がいそうなものだが、どういうわけか今日は人も車も全く通らないな。そんな風に思った時だった。


 ドーン


 強烈な閃光とともに突っ込んで来た何かによって俺は田圃の中に吹き飛ばされた。車なんて来ていなかったのに。どうして……


 グシャグシャになったグリーンの自転車が田圃に突き刺さっている。ボロボロになったリュックがストンと横に落ちてきた。


 ああ、これをくれた時の両親はニコニコ笑っていたなあ……

 そんな事を思い出しながら俺はゆっくり目を閉じた。



 「人がいるとは気付かなんだ。大変な事になってしもうた」


 「神様、どうするのですか」


 「なんでこんな事に」


 「神様がいけないのですよ。会合に遅れそうだからといって雷に乗って来るなんて突拍子もない事をするからです。かわいそうに、まだあどけない顔の少年ですよ」


 「うぬぬぬ、生き返らせれば良いのであろう」


 「そうですが、この世界は管轄が違いますから【復活】の御力は及ばびません。この世界の神様をお呼びしますか」


 「わしの恥を晒せというのか、いかん。それだけはいかん」


 「……」


 「よし、わしの世界で【復活】じゃ、えいっ。 これでよかろう」


 「かわいそうに、何の能力も持たない少年が、あちらの世界で生きていけるとは……」


 「うぬぬぬ、仕方ない、何か力を与えよう。この者は何をしておったのかな」


 「はい、レンタル何とかという店へ向かっていたようです」


 「ならば【レンタル】を与える」


 「あのリュックを大切にしていたようですが」


 「あんなボロボロのリュックをか」


 「誰かがボロボロにしてしまったようですよ。誰かが」


 「うぬぬぬ、わかった、新しいのをやろう、えいっ。これでよかろう」


 「かわいそうに、全く知らない世界に何の知識も無いまま放り出されるなんて……」


 「うぬぬぬ、【鑑定】と【マップ】と【語学】も付けてやる。えいっ、えいっ、これでよかろう」


 「神様が雷なんかに乗って来なければ……」


 「うぬぬぬ、【雷耐性】も付けよう」


 「耐性ですか。ショボ……」


 「うぬぬぬ、【雷無効】にしてやるわい」


 「はい、よろしいかと」


 「恐ろしい示談交渉人だわい」


 「ところで神様、事故現場はこのままでよろしいのですか」


 「いかん、この世界の神に気付かれぬようにしておくのじゃ」


 「はい、お任せください」



 「どうかお元気で」



 う、うーん、何だろう、アホっぽいジジイと優しい声の女性が話をしている夢を見たような気が。


 目を開ければ雲ひとつない青い空。

 あれ。なんでこんな所に寝ているのだろう。そうだ、何かにぶつかったんだ。

 がばっと起きて体を確認する。服は泥で汚れていたが怪我は無いようだ。すぐ横には俺のバッグもある。ん、ボロボロになったはずだが真新しいままだ。中を開けてみる。え、何も入っていない。スマホは、財布は。慌てて周りを見ると田圃のはずが小高い丘の上だった。芝生のような短い草で覆われている。

 立ち上がって見回せば全く知らない風景が広がっていた。なだらかな丘の周囲には草原が広がり所々に池でもあるのか水面が日の光を反射している。草原の先には小さな林があり、更に奥には森が見える。


 なんだよこれ、どうなっているんだ

 冷静になれ。冷静になれ。

 そう考えた時、頭の中に画面が浮かんだ。


  ステータス

  名前:宮辺 豪太 年齢:16 性別:男 種族:人族 職業:なし

  レベル:1

  HP:10/10 MP:90/90 SP:0

  体力:F

  魔力:F

  知力:F

  状態:‐

  罪科:‐

  称号:未設定

  スキル:【鑑定 レベル1】【マップ レベル1】【語学】【雷無効】


 ロールプレイングゲームで見たことがある画面だ。何故そんなものが。頭の中が疑問符だらけになる。俺の名前があるのだから、俺のステータスということか。混乱する頭の中に更に画面が浮かんでくる。


  シークレットステータス

  魔法:‐

  固有スキル:【レンタル レベル1】

  固有アイテム:リュック

  称号:女神の加護、復活者


 魔法って何だよ。レンタルとか復活者とか。何が何だか分からない。全く分からない。何なんだ。そう思った瞬間、脳内で【鑑定】が発動した。


  【鑑定 レベル1】 鑑定する対象を調べる初級能力


 え、説明してくれた。どうやら【鑑定】というスキルを使えば教えてくれるようだ。分からないことを【鑑定】していく。


  HP: 生命をダメージから守るポイント。数値がゼロになると死亡する

  MP: 魔法に使用するポイント。魔法ごとに消費ポイントは異なる

  SP: スキルを取得するためのポイント。スキルにより消費ポイントは異なる

  【マップ レベル1】: 見える範囲の地図を表示する能力。

              一度表示した地図は記憶される

  【語学】: 会話と読み書きができる能力

  【雷無効】: 全ての雷による影響が無効となる


 なんとなく分かってきた。何かに衝突され意識を失った俺は地球ではない何処か魔法のある世界に飛ばされてしまった。そんな感じだろう。常識ではあり得ない事だが、これが夢でないことくらいは分かる。


 シークレットステータスも【鑑定】する。


  シークレットステータス: 本人以外鑑定でも見られないステータス

  固有スキル: 所有者独自のスキル。後天的に取得することはできない

  【レンタル レベル1】: 固有スキルを鑑定することはできない

  固有アイテム: 所有者専用のアイテム。譲渡はできない

  リュック: 多機能リュック

  女神の加護: 残HP以上のダメージを受けた際にHP1を残し死亡を回避、

         ただし残HPが1の時には発動しない。

  復活者: 死亡後に復活した者に贈られる称号


 死亡後に復活・・・あ、やっぱ俺、あの時死んだんだ。

 ああ、薄々そんな気はしていたがキツイなあ。家族に会いたい。友達だって作りたかったし、彼女だってほしかった。外国も行ったことが無いし、ラーメンだって寿司だってもっともっと食べたかった。その場にへたり込んだ俺の目から止めどなく涙がこぼれ落ちる。


 ひとしきり泣いた後で、俺はすっくと立ちあがる。泣いてスッキリした。ここでウジウジしていても始まらない。


 一度は死んだが今は生きている。生きているんだ。誰かが助けに来てくれるわけでもない。自分でなんとかするしかないのだ。

 覚悟を決めた俺は頭の中に【マップ】を表示する。

 肉眼では見えなかったが林の向こうに道があり、道のずっと先に村があるようだ。


 よし行こう。心の中でそう呟き、俺は復活後の第一歩を踏み出した。

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