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私の記憶のなかに。

作者: kirin.conlo

連載、男の子女の子のためにつくったお話が予想以上にながくなったので短編としてどうぞ。

目を瞑る。



子供のころ、目の前に景色感じる風景、匂い、そして人生をもっとうまく楽しめていた気がする。

あくまで、気がするだけなんだけど。

思い出は時が経ったら自然に美化されたりあやふやになってしまう。

夢の中のありもしない出来事が思い出に混ざったり、大事なところだけすっぽ抜けたり。

まずそもそも、昔の自分の感情とか、考え方なんて想像できないのに。

昔を羨んでばかりいても仕方ないって、わかっているから。


今をしっかり生きなきゃ。


でもひとつ、思い出が心に残ってる。

心から離れないんだ。

それは、記憶にはない。

何かが私の中にあって、それが自分を支えてるってわかっているのに思い出せない。

あれは何だったのかな。






これは、夢の中。

明晰夢を見るなんて珍しい。初めての体験。

目の前がぼやけて ..まるで、眼鏡を外してる時みたい。

周りを見渡すと基本真っ白で...所々に空間がある。

空間は前後左右にひとつずつ、幕がかかるように黒いカーテンがかかっている。

それにしても、こんなにも見えないと眼鏡かけたくなる。

...あ、ちょうど正面の空間がゆっくりと幕を開ける様子。




小さな女の子が女の子に囲まれて意地悪されている。

よくある光景だ。

女の子は泣きながらうずくまって体育座りをして、小さく縮こまっていた。

そこに気の弱そうな少年が来て、精一杯震えながら、いじめてる女の子達に吠える。

「いじめるなよ!がき!あほども!」

いじめっ子たちは言い返そうとしたけれども、先生がこっちを窺ってるのを見てそっちに笑顔を振りまきながら走っていく。

男の子は震えていた小さい手で、同じくらい小さな女の子の手を引っ張って、ゆっくりと立ち上がらせる。

「泣かないこと!...勇気が大切って、パパが言ってた。」

女の子は感謝を言おうとして、涙が出ちゃって更に泣き声も漏らしてしまったものだから男の子は酷く慌てる。

男の子は何を思ったか、がさつに女の子の頭を撫でる。

女の子が泣き止むまでなでなでは続く。

...泣き止んだ女の子は顔を上げると、えへへと少し照れたように花のような笑顔を咲かせた。


「...ありがとうっ」




流れるように私の視界はぶれて、右へと体が向いた。

どこかで見覚えがある気がするのに。

あの女の子は私なのかな?

それともただの妄想とか...

また、黒い暗幕が開き出す。



小さな男の子に似た男の子が、さっきより成長した姿で誰かと喧嘩している。

まだまだ子供で、顔は殴ったりしないでお腹を殴ったり蹴ったり。

何回も転んで、やっと終わった思ったら、男の子は倒れこみ、その相手は幕の外へ消えていった。

すぐに、視界の外から小さな女の子が走ってくる。女の子の方は背が伸びて、男の子より大きくなっていた。

女の子は泣きそうになりながら、男の子を叱りつける。

男の子は痛い痛いと涙を浮かべながら笑って言う。

「好きな人を貶められたら、そりゃあ、怒るよ」

その言葉は女の子に突き刺さったよう。

顔を真っ赤にして、もーといいながら、涙を落とした。


「...知ってくれてる人がいるし。他なんていらないもん」




ああ、違う。

こんな話、したことない。

私じゃない。

じゃあ、なんで?

なんでこの子達を知ってるんだろ。

思い出したくない。

目を瞑れず、物語は進んでいく。




「ふざけんなよ!!...もういい。さよなら」

男の子は叫んでいた。

すっかり大きくなったその体は、高校生だろうか。

もう青年とも呼んでいい男の子にその言葉をぶつけられた女の子は、やんわりと微笑んでいた。

女の子は随分変わったように見える。人付き合いがうまくなったような優しさを抱えてる笑顔だ。

でも、まるで永遠に会わないかのような言葉を投げかけられても、優しく笑ってるのは異様に見える。

よく二人の姿を眺めると、違和感を感じる。

男の子には痣が女の子には傷ができていた。

女の子の命と言われる顔に、堂々と切り傷、そして左の手首には包帯。

男の子の足も手も、どこを見ても青く黒ずんでしまっている。


どこかへと消えようとした男の子が僅かに足を止める。

「嫌だから。...絶対離れてやんない」

女の子の微笑みは崩れていた。

くしゃくしゃな顔で、俯いてしまう。

男の子は振り返らず、まっすぐ歩いていく。


「ばかですか....ばかだよ...もう」




そう、このお話は。

彼らのことを羨んで憎んで、不幸にしようとした話。


思い出してしまった。

私が彼女たちにしたことを。

幕は上がる。

そして私の足は、自然と幕の中へ入っていく。



「っ....はぁ!死ぬな....おい.....死ぬなよ!!まてよ...」

女の子は学校の屋上の柵の前に立っていた。

風が強くて、今にも風に押されて飛び降りてしまいそう。

後一歩踏み出したら、寄りかかったら倒れてしまうほどに脆い柵だ。

私は、隠れてその姿を見ていた。

男の子が必死に近付こうとして、女の子に制止され、一足に駆けても間に合わないことに気付いて唇を噛んでいた。

「わたし、もう、むりだよ。」

女の子は口早に捲し立てるように言う。

「勇気を出した。大切な人を守るために力をつけようと思った。どんなに学ぼうとしても得られなかった。必死に考えて、最善策を選びたくて突き放した。それすら意味なくて、結局巻き込んじゃった。」

まるで缶蹴りをするように足元の鞄を蹴飛ばす。

下に人がいたら死んじゃうくらいの質量と速度で気軽に落とした。

「人の辛さがわかる人になりたかった。みんなができないことをわたしはできた。褒めてくれるのは君だけだった。異様な化物を見る目でみんなわたしを見つめた。浮かないように必死に優しさを取り繕っても、君の痛み以外わたしにはわからなかった」

それでも、と。

この状況じゃ違和感を感じるくらい綺麗に笑って続ける。

「必死に生きたんだ。君以外がわたしを否定しても、君だけはずっと肯定してくれた。他の誰かが見てくれに惚れたように外面だけじゃなかった。楽しい時もあった。君はわたしが生きているから、幸せそうだった」

死って、逃げじゃないって思ってるんだ。

なんの根拠もないけど、そこに待ってるのは無で、それって優しいってことじゃないのかな。

女の子は男の子に聞こえないくらいの声でそう呟く。


「でも。疲れたんだよ。生きてくことが嫌だった。幸せな日々には、君とだけじゃ、足りなかった。君との楽しい時間が来る度に、傷つけられて汚されて、君も。」

女の子は顔を横に振って、さらに言う。

「...ほんとはわかってる。わたしがいなくなれば君は幸せになれるってこと。もちろん、君は心にわたしのことを残してしまう気がする。でも、なんの確証もないけど幸せになれるって思うの」

ひとりぼっちで、消えればいいのに。

君のことを好きで好きで、愛していて。

でも、わたしのことここまで縛った君のことを、恨んでる。



今更、私に何ができるのかわからない。

既に、追い込んだんだ。

このままほっとけば、飛び降りて死ぬだけ。

わたし自身が望んだからこうなったんじゃないの?

男の子は動けないでいる。

悔しそうに両手を握り締めて顔をきつくして。

強くなってきたその体も、女の子相手じゃいつも意味が無い。

ここまで来てその顔を見れて、私は満足?


...。

どうあがいたって彼女は死ぬような気もしてくる。

このまま逃げたって、バレない。

でもさあ、それって何か違うよ。

きっと私はずっと心に残して生きてくんだよ。

そしていつか、自殺に逃げる。

彼女が死ぬのは逃げじゃなくても、私が死ぬのは逃げ。


なら、勇気出さないと。



「だから、さようなら。」



「やっと死ぬの?」

私は悪役だ。いや、ずっと悪役だから貫く。

角の影から姿を現して、女の子と男の子を睨む。

散々酷い言葉を投げかけた。今更優しい言葉なんて無意味だ。

彼女は完璧に動揺している。

死への覚悟を秘めた目から、狼狽えるような迷い。そして憎しみの目へと変わる。

「そう。嘲笑っていた。あんまりに愉快なものだから」

何も知らない私はいない。全てを知ってる。

引き起こした事象は全て私のせいだ。

「ちっぽけね。惨めで、笑えてきちゃう」

そう、私は彼女が死んでも、心に傷を負わない。

罪の意識に追われない、そう思わさせる。

彼女の眼差しには殺意が混じってきているような気もする。

「例えあなたが死んでも。そこの彼は耐えられず死んで、私にはなーんにも実害なし。もちろん、心にもね。彼が死ぬのは、あなたなら想像できそうだし、狙ってるのかしらね」

精神が病んで、肉体に辛いと自分から死へと向かう人は周りを顧みない。

むしろ、周りを巻き込んでやろうとすら考えている。

それは突き落とすような形ではなく、罪の意識をもたせて。

女の子の唇は震えて、顔色はさっきより赤く...いや、青くなっている。

私の存在が現在進行形のトラウマみたいなものだものね。

「.....邪魔なのっ......なんなの...わたしに消えてなくなって欲しいんじゃないの?...そうやって、わたしをおちょくって。彼まで巻き込んで、意味わかんない....っ」

.....そう、私も私がよくわからない。

「そっちこそ....死んでよっ...いなくなれ....姿を見せないで...」

今すぐ飛び降りれば顔も見れなくなるのに、そっちまで頭が働いていない。私に気が向いている。

彼女に一歩進むと、怯えたように座り込んでしまう。

彼はその時点で駆けようとしたみたいだけど、それは困る。

「....死なせたいの?」

多分彼だけに聞こえただろう。

ぴくりと静止して、また止まってしまう。

役に立たないけど、そっちの方がまだ安心出来る。

一歩また足を踏み出す。

踏み出しても止まらずさらに彼女へと近寄って、すぐ近くだ。

女の子は私を見上げている。

「みずぼらしい。あなた、こんなに傷だらけで汚い」

今にも殴りかかってきそうなくらいなのに、青い顔をして震えたまま。

私がそうするように言ったから、全ての元凶は私なのにそんな言葉投げるなんてどうかしてる。

ねぇ、チャンスを上げる。

言葉には出さずに、私もしゃがみこんで彼女を睨みつける。

「まだ遊び足りなかったの。...ここに、包丁があるわ。あなたにあげる」

左手に隠し持っていたものを無造作に放り投げる。

それは近くの地面に金属音を立てて落ちた。

「それで私を刺すのもよし、自分に突き立てるのも、あそこの彼に向かって走るのもいい」

これは、賭けだ。

「私はなんにも痛くない。死ぬ前にさんざん嬲られたって、あなたには負けない。あなたが死んでも、どうでもいい」

そう、本音を語るのなら。

「...私はあなたに死んでも負けたくないから」

ちょっと声が震えただろうか。

人間味を出してはいけない。

私が死にかけたり死んだくらいで済むならいい。

彼女の頭は回ってるだろうか。

私と同じところにたどり着くだろうか。


彼女は青い顔で包丁をつまんで両手で持つ。

衝動的に私のことを突き飛ばして、押し倒すように馬乗りされた。

頭を地面にぶつけた。じんじん痛む。頭に血が登って熱くなる。

鬼気迫るように、彼女にしては珍しく般若のように怒って包丁を振りかぶる。

風切り音が聞こえる。

目はあけた。スローモーションで目の前の降ってくる刃。

心臓は破裂しそうなくらい鳴っているのにゆっくり時が進む。

自分でも怖くて目を瞑る。

刃が振り下ろされた。



「げんかい。もういやだよ。わたしだって好きなものあるんだ。嫌なことばっかりだけど日差しだって、花だって好きなの。彼のことも、憎んで。」


「なんでみんなわたしのこと嫌うの。じゃまばっかりして、いじめるの。」


「殺したいほどに、憎いの。」


「わたしの人生、黄金色どころか全部濁っちゃった。」


「殺すだけじゃ、足りないんだよ。」


「わたしを救ってくれる人はいないんだ。」


「死ぬしかないよ。それが一番なの。」


目を開ける。

彼女は泣いていた。

私の隣に、全力で突いたように包丁が刺さっている。

...そう。

でも、約立たず。今動かなかったら、どうなるかわかるよね。

彼は私の上から彼女を抱えて引き離す。

私にいうように、彼自身に言い聞かせるように、彼女に伝えるように唱える。


「意味わかんねぇ。......肝心なときに救えないで、ずっと傷つけてたのは俺だ。ここに縛り付けたのは俺だ。....なあ、俺に罰を与えてくれよ。」


「...ぐちゃぐちゃ。」


彼女はこっちを見て言う。


「絶対許さないから。....私がずっと勝つ」






紛れもない、これは私の記憶。

最低で忘れていて封印してたもの。

これがあって今の私になっているのは間違いじゃない。


彼女は今でも私に復讐をしてくる。

必死に追いついても、いつの間にか引き離される。

焼肉奢られる。

全て忘れてた私のことを殺したいほど憎いっていいつつも、友達って言い切る。


私は忘れていても、またいきなり思いだして、後悔する。

それでも彼女は生きていた。

久しぶりに送られてきた写真には、彼女と彼の楽しそうな表情が写っていた。

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