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七十五話 偽者現る

 みんなと中庭で集まって昼食をとっていた時だ。


「おう、クロエ。混ぜろよ」

「いいよ」


 ルクスとイノス先輩が来た。

 いつもではないが、二人は時折この集まりに参加する事があるのだ。


「殿下、ご一緒させていただきます」

「私の事は構わなくていい」


 イノス先輩が恭しく言い、王子は難しい顔のまま応じた。


 王子が昼食へ参加するようになってから、この場には緊張感が満ちるようになった。


 王子への無礼が許されているのは私とアードラーだけだ。

 なので、王子へ無礼を働かないようにみんな少し気を張っている。

 王子がずっと不機嫌な様子を崩さない事も関係しているだろう。


 この場で緊張していないのは、アルエットちゃんだけだ。

 不愛想な王子に、みんなと仲良くしなきゃダメだよ、と物怖じなく諭していた。

 王子も子供には無碍な扱いができないと見て、辟易しながら言葉を濁していらっしゃった。


「で、何かあった?」


 私はルクスに訊ねた。

 ルクスがここに来る時は、決まって何か話がある時だ。


「おう、聞いてくれよ。また、あの黒い奴を取り逃しちまってな」


 ルクスの言う黒い奴、というのは漆黒の闇に囚われし黒の貴公子の事だ。


「あの野郎、カサカサ逃げ回りやがってよ」


 アレみたいに言うな。


 ルクスは最近、漆黒の闇(略)とよくよく対決している。

 というのも、私があえてルクス達にちょっかいをかけているからだ。

 何故そんな事をしているかといえば、見守り隊総帥(アルマール公)からの要請があっての事だ。


 最初に行った、漆黒の闇(略)でイノス先輩を人質に取るというシチュエーションが見守り隊幹部のおじ様達に受けたらしく、あれ以来私はアルマール公の要請で度々ルクス達へちょっかいをかけるようになった。

 漆黒の闇(略)の正体を握られていた私には、大人しく従う事しかできなかったのだ。


 今や私は、あの秘密結社の犬である。

 ワンッ!


「どうすりゃいいと思う?」

「袋小路とかに追い詰めればぁ?」


 適当に答える。


「でも、あいつ最近空飛ぶんだよな。追い詰めてもどうにかして逃げちまうんだ」

「だったら、(ルクスも)飛べばいいだろう」

「だからお前、何で俺の事飛ばそうとすんの?」


 できるでしょ?

 前に漆黒の闇(略)が屋根の上に逃げようとした時、普通に飛んで蹴り落としてくれたじゃないか。


「学園内で見かけた、なんて話も聞いたんだがなぁ……」

「何それ?」


 私は学園で変身した事なんて一度も無いのだけど。


「実際に会ったら明らかに別人だったからな。知ってる奴だったし……」

「ふぅん」


 誰なんだろう?


「また手伝ってくれないか? お前がいれば奴を捕まえられると思うんだが」

「別にいいけど」

「おお、ありがたい。その時は頼むぜ」


 その時は多分、出てこないと思うよ。


 それよりも、私の偽者か……。

 いったい、何者なんだ……?


「どう思う? ドラちゃん、アリアちゃん」


 私は、漆黒の闇(略)の正体を知る二人に意見を求めた。


「私も見た事ないわよ。クロちゃん」

「僕も。……ねぇ、僕のあだ名はそれで確定なの?」


 可愛いからいいじゃないか。

 ゴシックな妹かゴンドラ乗りの漫画みたいなイメージがある。

 私なんか、よければ黒猫、悪ければ甲高い声のハゲたおっさんのイメージがあるんだぞ。


「でも、聞いた事はあるわね。その時はもしや、と思ったけど……」


 違うの? と視線で訊ねてくる。

 違うよ。と首を左右に振る。


「そう言えばお前、あいつの正体を知っているのか?」


 ルクスが口を挟む。


「あいつと初めて接触を持ったのもお前だったな」


 ルクスはアードラーを睨むように見た。


「あいつって、誰の事なのですか?」


 マリノーが疑問を口にした。

 ルクスはそれに答える。


「闇の力に魅せられし夜の帝王だ」


 もう誰の事かわからんのですが。

 ホストか何かですか?


「漆黒の闇に囚われし黒の貴公子です」


 イノス先輩が訂正する。

 マリノーは「ああ、あの」と納得した。


「その方の話は、お茶会などでもよくあがりますね。でも、どうしてその方を捕まえようとしているのですか?」

「それは……」


 ルクスは言い淀む。


 漆黒の闇(略)は、あの舞踏会の夜以来現れていないという事になっている。

 無用に民心を乱さないために、あの謎の人物が夜の町へ出没しているという事実は伏せられているのだ。


 というのは建前で、実の所は情報が広まらないよう総帥が取り計らってくれているのだ。

 しかし、漆黒の闇(略)の主な活動が見守り隊絡みなので、ただ単に総帥が自分達の活動を隠匿したいだけなのかもしれない。


 なので、マリノーが知らないのは当然である。

 ちなみにルクスが私にその話をするのは、前の指紋を奪われた一件でルクスが申し訳なさから事の顛末を教えてくれたからだ。

 それだけ信頼されているという事かな。


「それはお答えできません」


 イノス先輩が有無を言わせぬ態度でマリノーへ答えた。


「はぁ、そうですか」


 マリノーは釈然としない様子だったが、素直に引き下がった。


「それより、お前の事だよ。フェルディウス。奴の正体を知っているのか?」

「さぁ、どうかしらね」


 ルクスに問われ、アードラーは含みのある言い方でしらばっくれる。


「お前、何か隠してないか?」

「ふふふ……」


 それから、ルクスが追求し、アードラーがしらばっくれるやり取りが続いた。

 ニヤニヤとした笑みを含み、アードラーは含みのある言葉でルクスを煙に巻いている。

 実に楽しそうだ。


 私はなんとなく、王子を見た。

 王子はぼんやりとアードラーの事を見ていた。


「どうしました? 王子」


 私が訊ねると、王子の顔が不機嫌そうに歪む。


「なんでもない」


 そうですか。

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