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七話 危機との遭遇

 全員の自己紹介が終わると、今日学園でする事は終わりだ。

 あとは帰るだけである。

 クラスメイト達が帰り支度を始める中、私も立ち上がる。


「先生。さようなら」

「ああ、気をつけてな」


 馬車の迎えがあるから、危険はないだろうけどね。

 と思っていたら意外な危険があった。


 教室を出た私は校舎内を見て回った。

 それが一通り終わって、外へ出る。

 そういえば、入学式が終わってからアルディリアを見ていないな。

 と思って彼を探す事にしたのだが……。


 私が彼を見つけた時、私の運命を握る人物との邂逅を果たす事になった。


 学園の敷地内、校舎裏。

 アルディリアの声が聞こえたのでそちらへ行ってみると、彼が手の上のリスを撫でながら誰かと話している場面に出くわした。

 その誰かはこちらから後姿しか見えず、綺麗な明るい赤髪だけが目に入った。

 髪の長さからどうやら女性らしい。


 友達ができたのかな?

 そう思って、近寄ろうと思ったのだが……。


 近づくにつれて、その誰かの横顔がちらりと見えた。

 私は咄嗟に、校舎の影に隠れた。


 身の危険を感じたからだ。


 危険も危険。

 私の命に関わる最上級の危険が目の前にあった。


 アルディリアと話していた人物。

 彼女の名は、カナリオ・ロレンス。

 このゲームの主人公である。


 そして、今この場所で起こっている事。

 この状況は、私と彼女が初めて出会うイベントなのだ。


 これは不味いのでは?

 と私は焦った。

 けれど、これがプロローグ中に起きる強制イベントである事を思い出す。

 なら、まだ大丈夫という事だろうか?

 私はどうするべきだろう?

 このまま出て行かなければ、もしかして運命が良い方に転がるのでは無いだろうか……。


 たしか、この時のイベントはこんなんだ。


 リスと戯れるアルディリアをカナリオが校舎裏で発見する。


「君も、誘われてきたの? ここは太陽の匂いがする場所だからね。ほら、この子も誘われてきたみたいだよ」


 なんて事をアルディリアがのたまう。


 ちょっと不思議ちゃんなアルディリアに戸惑うカナリオ。

 そんなカナリオの肩にリスが上ってくる。


「あは、その子は君の事が好きみたいだ。でも、その気持ちはわかるな。君は、いい匂いがするもの。お日様の匂いだ」


 アルディリアは無邪気な笑顔で、カナリオに近付く。


「どうやら、僕も君の事が好きみたいだ」


 と、そういう感じだったはず。

 この後、私が乱入して少年漫画展開に発展するのだ。


 っておい、告白しとるやないか!

 同じ事言っとるんやったら、これは止めんといかんのとちゃうか?


 私はすぐに飛び出して、カナリオへ声をかける事にした。


「ドーモ、カナリオ・ロレンスさん。クロエ・ビッテンフェルトです」


 アンブッシュからの挨拶は一度までなら許されているのだ。


「ど、どうも、ご丁寧に、クロエ・ビッテンフェルト様? カナリオ・ロレンスと申します。どうしてあたしの名前を?」


 突然現れた私に面食らったようだが、カナリオはちゃんと挨拶を返してきてくれた。

 やるね。


 しかしどうしてだろう。

 普通に挨拶しようとしただけなのに、つい「おい、貴様」とか口走りそうになった。

 何とか飲み込んだが。


「有名ですよ。平民出身の入学者は」


 私が言うと、カナリオは見るからに警戒した。身を強張らせる。

 早速、誰かに何か言われたかな?

 お里が知れましてよ。とか。


 ああ、そういえばゲームではこの時すでに他の悪役令嬢には会っているんだ。

 すごい嫌味を言われていた気がする。

 警戒するのも無理ないね。


 でもなんで、お前もちょっと緊張してるの? アルディリア。

 私達の会話に割り込んでくれてもいいのよ?


「怖がらなくてもよろしい。私を階級だけで実力のない貴族令嬢と同じに見ないでいただきたい。そういう連中は平民でありながら優れた魔力資質を持つあなたを恐れているのでしょうが、私にとってあなたは敵になりえないのですから」


 ちょっとカッコつけた物言いになってしまった。

 何だか知らないけれど、カナリオと話そうとすると言葉が挑発的になる。

 ゲーム補正というやつだろうか?

 イジメないから安心してほしいという意味だったんだけど。

 でも、私の言いたい事は伝わったのか、カナリオはホッとして警戒を解いた。


「わかっていただけましたか?」

「はい。こちらこそ、失礼な態度をとりました」


 素直な子。

 私はホッコリと笑う。


「さて、それよりなんでアルディリアはまだビクビクしているのですか?」

「え、あ、うん。なんでもないよ。僕は、カナリオさんと話をしていただけだからね」


 それは見ればわかる。

 何を話していたのかも知ってるよ。ゲームプレイの時に見聞きしたから。

 私の悪口を言っていたわけでもないんだから、そんなに怖がる事ないでしょ。

 いや、ゲームでも私の登場と同時に怖がっていたか。

 なら、これもゲーム補正かな?


 しかし、どうしてお前、いつもリスと絡んでるの?


 とアルディリアに言いたい所だが、彼のデザインモデルがリスなのだから仕方が無いか。

 小さい所や髪の色なんかにその片鱗が見える。

 名前だって、そのまま「リス」という意味だし。

 だからと言って、安易にリスと絡めるのは脚本家の怠慢と言わざるを得ないか……。


 その後少しの雑談をして、私はカナリオと仲良くなる事に成功した。

 最初から記憶ありだったから、アルディリアみたいな事にならなくてよかった。

 これでまた一歩、私の死亡フラグ回避に近付いたかな。


 カナリオ・ロレンスは主人公。

 流石に主人公の情報は知っている。

 というかシナリオ冒頭に一人称でだいたいの事を語ってくれる。

 簡単にまとめると――


 平民出身だけど魔力があったので魔法学校へ入学する事になった十五歳のどこにでもいる女の子。

 好きな食べ物はリンゴ。

 貴族ばかりの学園でやっていけるかすっごく不安。

 でも私は前向きだから大丈夫。


 うろ覚えだが、そんな感じだったと思う。

 各ルートはそれぞれ別のライターが書いているらしいので、相手によって性格がころころ変わる。

 アルディリアのルートでは言葉の最後に「ッッッ!」をよくつけたりする。

 ちなみにクロエもよく使う語尾(?)だ。

 アルディリアは使わない。


 ちなみに、この国で崇められている女神シュエットを祭る巫女の血を引いている。

 が、それは一部のルートでしか明かされない。

 神聖な血筋なので、王族とも釣り合いが取れるという話だ。


 格闘ゲームの性能はスタンダード。

 飛び道具と無敵対空技を持っていて使いやすい。

 クセがなくて、誰が使ってもある程度強い感じのキャラクターである。

 超必殺は飛び道具の強化版と対空技の強化版。

 固有フィールドはモーション速度と攻撃全般の強化だ。

 実にスタンダードである。


 と、ゲームの設定を語ってみたが、実際に付き合ってみると主人公だけあってとても魅力のある人間である事がわかった。

 能力云々何よりも、人当たりが誰に対してもいいのだ。

 そりゃ、みんな好きになるよ。納得だ。


 でも、だからこそ気をつけなければならないのかもしれない。

 これから先、関わっていく上でアルディリアが惚れてしまう可能性はあるのだから。

 もし、彼がカナリオとくっついてしまえば、私は一歩死の運命に近付くのだ。

 本当に気をつけねば。

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