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六十三話 隣国の王子

 私が魔術でパンツを乾かし終った頃。

 メイドが王子達を呼びに来た。


 私とアルディリア、それからカナリオは王様と会う用事がないので、これから三人でお留守番である。

 何して時間を潰そうかな?


 なんて思っていたのだが。


「あの、そ、それで、ビッテンフェルト様にもご挨拶なさるとの事なのですが」


 伝えに来たメイド本人すら当惑した様子で、そんな事を告げた。


 この国の王がビッテンフェルトを心底から恐れている事は、会う前からすでに嫌という程味わった。

 なのに、そんな王が私に会おうとするなんて思いもしなかった。


 罠なんじゃないだろうか?

 謁見の間へ行ったら、数百人の兵士がぎっちり詰まってるなんて事はないだろうか?


 恐ろしい……。


 とはいえ、相手は王様だ。

 断る事もはばかられる。


 幸い、変身セットは没収されず手元にある。


「何だこれ? 異常に重いぞ?」


 と国境警備の検閲で多少怪しまれたが、中にカムフラージュ用の荷物やトレーニング器具を入れておいたので何とか誤魔化せた。


「この肉体を維持するためには、毎日の鍛錬が欠かせないのです」


 と言って、ムキッとアピールしたら、怯えを多分に含んだ表情で頷いてくれた。

 同時に、私が腕を上げた瞬間に緊張感が満ちた。

 周囲にいた兵士達が、武器を握り直す気配を感じた。

 単独で国境突破されるとでも思ったの?


 というわけで、変身セットは今私の背に負われている。

 これがあれば、ある程度の窮地には対応できる。

 漆黒の闇(略)の正体がみんなにバレてしまうかもしれないが、その場合は仕方がない。


 今まで黙っていたけど、実は私、漆黒の闇に囚われし黒の貴公子なんだ。

 国のみんなには内緒だよ!


 と、言えばみんな黙っていてくれるだろうか?




 カナリオ一人を待合室に残し、私達は国王が待つであろう謁見の間へ向かった。

 服は着替えている。

 流石に王様との謁見で、普段着のままというのは不味い。

 なので、今の私は軍服姿だ。

 入学式の時に着ていた物である。

 もしもの礼装として、母上が荷物に入れておいてくれたのだ。



 部屋の扉の前で、衛兵から身体検査を受ける。

 武器などはここで預かられる事になっている。


 私の番になり、衛兵が唾を飲み込んだのがわかった。

 女人の体に公然と触れられる栄誉からではない。

 その表情には緊迫感があり、むしろ緊張感を孕んで険しく張り詰めていた。

 猛獣を撫でる企画に赴くお笑い芸人のような心境だろうか?


 怒りに触れないためか、念入りではあるがセクハラ紛いの部分は極力触れるのを避けているようだった。


 で、持ち物検査で変身セットを改める事になったのだが……。


「何だこれは? 異常に重いぞ……」


 国境警備兵といいこの兵士といい、そんなに異常じゃないよ。

 十五歳の女の子がヒョイと背負える程度の重さだよ。


「何が入っているんだ?」

「危険な物は入っていません」


 ほらね、と私は胸を張って中を見せる。


「これは……絵札? 飴? それにダンベル?」


 絵札は暇な時に遊ぼうと思って。

 飴は小腹が空いた時用だ。

 ダンベルはカムフラージュ。


「怪しくないでしょう?」

「……確かに中身は怪しく……ないか?」


 さぁ、それはそちらの判断によりますけど。


「だが、どちらにしろこの重さは凶器だ。投げつけられれば十分な脅威になる。当方で預からせてもらおう」


 えぇー!? ご無体なーっ!


 結局私は、変身セットを取り上げられたまま謁見の間へ通される事になった。


 せっかく作ってみたのにーっ!




 扉が開かれ、私達は謁見の間へ足を踏み入れた。

 謁見の間は、そこでテニスでもできそうなくらいに広い部屋だった。

 部屋の中央奥には玉座があり、そこへ至る道には赤いカーペットが敷かれている。


 そして、玉座には一人の男性が座っていた。

 その男は薄手の服を身に纏い、各種の装飾品で着飾った男だった。

 男は不敵な笑みを浮かべ、私達を迎え入れる。


 だが、恐らくこの男は国王では無いだろう。

 何故なら男は、あまりにも若かったからだ。

 褐色の肌と金の髪。

 猫のような悪戯っぽい目つきが特徴的な、顔の造詣が整った少年だ。


 その事に気付いて、他の人も驚きの表情を浮かべていた。


 玉座の人物。

 彼は、私と同い歳。

 十五歳の少年だ。


 何故具体的にわかるかと言えば、それは彼がリオン王子のシナリオにおける重要なキャラクターであり、彼自身もまた攻略対象であるからだ。




 彼の名前はヴァール。

 ヴァール・レン・サハスラータ。

 イメージモデルはくじら。

 この国の第三王子である。


 彼を一言で言い表せば、天才である。

 天才ゆえに何をさせても期待以上の成果を出し、容易くやり遂げてしまう。

 あまりにも思い通りになる人生に倦怠を覚えている。

 だから、いつも自分にとっての楽しい事を探し、そのためだけに行動する。

 常に、自分を楽しませてくれる刺激を求めて生きている。

 そんな設定のキャラクターだ。


「ヴィーナスファンタジア」ではシナリオ内に脇役として出ただけであるが、SEにおいて攻略対象に昇華されたキャラクターでもある。



 彼はどこか、諧謔的かいぎゃくてきな物を見るような目で私達を眺めていた。

 いや、私達ではなく、見ているのは私か……。


 なるほどな。

 どうして私が呼ばれたのか、わかったよ。


「これはヴァール王子。ごきげんよう。此度はお招きに預かり、感謝いたします」

「リオン王子。あなたも息災そうで何よりだ」


 二人の王子が軽い挨拶を交し合う。


「しかし、国王陛下へ挨拶をするためにここへ来たのだが……。陛下はいかがなされた?」


 リオン王子が訊ねると、ヴァール王子は小さくおどけた風に笑う。


「父上は、ビッテンフェルトの娘が来ると知ってから自室に篭っておられる。その娘が国より去るまでは、出てくるまいよ。ゆえに、此度の一件は全て俺に任されたという次第だ」

「それは、どこまでの範囲であろうか?」

「こうした王子殿下への応対から、外交交渉に関してまで。まぁ、全てだな」


 つまり、王に代わって私を呼び出したのは彼だ。


 好奇心だろうか?

 父親の恐れる家の人間を一目見ておきたかったという所だろう。

 そんなに刺激がほしいの?


 ビッテンフェルトへの畏怖が渦巻くこの国において、たいした胆力と行動力だ。

 むしろ、その恐ろしさくらいでなければ、人生に刺激を受けられなくなっているのかもしれないな。




 そこから先、挨拶と外交交渉の軽い打ち合わせが行われてから、謁見の間から出た。

 挨拶はすぐ終わったのだが、外交交渉の打ち合わせは長引いた。

 本格的な交渉はまだ先で、長い期間を費やす事になるだろうが、聞いている限りあまり思い通りにならなかったようだ。


 ヴァールは交渉に関しても優秀だった。

 のらりくらりと言い分を交わしつつ、逆にこちらの弱みをついてくる。

 その弱みをつくタイミングもまた絶妙だ。

 闘技で言えばカウンターを受けるタイミングで、切り返してくる。

 結果、細作スパイ騒動に関する責任の追及はできそうであったが、それに対する譲歩は思った以上に引き出せなかった。


 部屋を出ると、先ほどの衛兵から荷物等を返してもらう。


「あ、僕が持ってあげるよ」


 私が変身セットを手に取ろうとした時、アルディリアが申し出る。


「え? いいよ別に」

「僕もたまには婚約者のために何かしたいんだ。そういう事、あんまりできないからこういう時ぐらい、ね?」


 大変可愛らしくお願いされた。

 ダメかな? と上目遣いで再度問われる。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん、まかせて」


 アルディリアが変身セットの持ち手へ手をかけた。

 力を込めて引いた瞬間、アルディリアの足が宙に浮いた。

 引き上げて進もうとしたが、変身セットが重くて進まず、その反動で派手に転んだのである。

 変身セットへ手をかけたまま、何が起こったのかわからないという表情でアルディリアは仰向けに倒れていた。


 まぁ、軽いとは言っても、ダンベル等が入った今の変身セットってアルディリアより重いからね。

 物理の法則では、確か自分より重い物を持ち上げる事はできないんだっけ。

 アルディリアの体重が男性にしては軽すぎるのもあるけど。


 多分、五十キロいかないよね、アルディリア。


 私はアルディリアを助け起こし、変身セットをヒョイと持ち上げた。

 ちなみに私はこれを持ち上げる時、魔力で地面に足を固定している。

 今の変身セットは、アルディリアはもちろん、私の体重よりも重いのだ。


「ごめんね、僕……クロエとまだ並び立つ事はできないみたいだ」

「ん? いつも隣にいるじゃない」


 何を言っているんだろうか?

 人物紹介は、少しかかるかもしれません。

 できるだけ早めに投稿できるよう、がんばります。

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