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五十四話 愛と勇気は友人です

 最初の悪党達を捕らえてからしばらく夜の町をぶらついていたのだが、最初のように誰かが襲われているような現場には遭遇しなかった。


「悪党なんてもっと簡単に遭遇できると思ったのに、案外いないものだね」


 道を歩きつつ、私は呟いた。

 ルクスがそれに答えてくれる。


「そういうのを探すなら、どちらかというとスラムの外の方がいいかもしれないぞ」

「何で?」

「ここは貧民街だからな。狙う価値があるような裕福な人間はいない。狙うなら、スラムの外の人間や一般家庭だ。もしこの街で狙われるとすればさっきみたいな目的ぐらいだろうが、こんな時間にこの場所をうろついている女は稀だからな」

「さっきの女の人はその稀なケースだったわけだ」


 ルクスが頷く。


「じゃあ、ぶらついててもあんまり意味ない?」

「かもな。あくまでもここは犯罪者の逃げ込む住処だからな。多くの悪党が住んでいるかもしれないが、ここで罪を犯す人間は少ないだろう」

「現行犯を探すのは難しいか……。じゃあ、この辺りの家屋に踏み込めば見つかるかな?」

「犯罪者以外の人間だって住んでいるんだぞ? 善良な市民の家だったら、こっちが犯罪者だ」


 この世界にも住居不法侵入があったか。

 難しいね。


 何とか中の様子を探れれば、判別できるのに……。


 ……あ、そうだ。


「ねぇ、中の連中がもし犯罪計画の相談とかしていたら踏み込んでも大丈夫かな?」

「それは大丈夫だが、その判別ができねぇだろ」

「いや、そうでもないかもしれない」

「?」


 私は適当な家屋を見つけて、手を当てた。

 魔力を流す。


「何してるんだ?」

「家宅捜索」


 私は流した魔力は、波となって家屋を駆け巡った。

 そして、戻ってきた魔力から家屋の形状や中にいる人間の情報を読み取る。


「二階に七人。みんな男性かな」

「そんな事がわかるのか?」

「魔力の波を流して、戻ってきた魔力の波形で中の様子を読み取っているんだよ」


 蝙蝠の超音波と一緒だ。

 私はたまに例の必殺技を練習しているので、こういう使い方に慣れているのだ。


「そんな事ができるのか?」

「まぁね。中の人間が魔力持ちだったらバレるかもしれないけれど」


 平民ばっかりだろうから、バレる事はまずないだろう。


 さて、ここからは初めての試みだ。


 私は継続的に魔力を流し始めた。


 しばし続けていると、私の耳に屋内の音が聞こえ始めた。

 よし、成功だ。


 無色の魔力という物は、物質の無い所で自在に物理現象を起こすトンデモない力だ。

 火や水を起こす際も、物理の授業で行われる実験のようなプロセスで起こっているふしがある。

 なので、前世であった科学を応用した使い方もできるわけだ。

 しかも、魔力の場合は実際の物理学よりも融通が利く。

 だから、トンデモなのである。

 つまり、中で起こった音の波をそのまま魔力に変換し、自分の耳まで維持して届けるなんて事もできるのだ。


「さっそく当たりだよ」

「あ?」


 ルクスが不可思議そうな顔をする。

 私はそんな彼の耳に、空いていた手の小指をズボッと突っ込んだ。


「おわおっ! 何しやがる!」


 真っ赤な顔でルクスは飛び退く。


 おおげさだなぁ。

 耳に指を突っ込んだだけじゃないか。

 何もいやらしい事なんてしてないでしょ。

 あれか? フロイト的な理由か?


「仕方ないな。じゃあ手を繋いで、私の魔力を受け入れてくれる?」


 こう言っておかないと、他人の魔力に反発するかもしれない。


「お、おう、わかった」


 意識するな。

 こっちまで恥ずかしくなる。


 ルクスが私の手を握る。

 中の音声を変換した魔力をルクスの耳へ届くように流した。

 魔力は抵抗なく、流れた。


「「しかし、ボスは何考えてるんだろうな?」」


 中の音声が伝わったのか、ルクスは私の顔を見た。


「これって、中の声か?」

「そうだよ。それより、話を聞いておいた方がいいよ」


 ルクスは頷いた。


「「わからねぇ。多分、俺達と頭の出来がちがうんだ。でも、ついていって損はねぇはずだ。ボスのおかげで、国衛院の犬共だって俺達を捕まえられないんだ」」

「「何人か捕まっちまってるけどな」」

「「それは奴らがマヌケだからさ。ボスの計画は完璧だ。踏み込まれた時の対応だってボスは考えてくれてる。その順序を覚えられねぇアホだから捕まるんだ。俺は捕まらねぇよ」」

「「ボスは俺達の事も大事にしてくれてるのさ」」

「「でもよ、何でいつも別行動なんだろうな? 俺達が盗みに入ってる間、ボスと幹部連中はいつも別の場所に行ってるよな」」


 中にいる男達の会話を聞き、私は口を開く。


「話を聞く限り、多分彼らは盗賊団の人間だと思うんだけど」

「俺もそう思う。臨時の人員共か」

「どうやら、盗賊団の主要人物達は、臨時の人員を囮に使ってるみたいだね。目立つように大人数で盗みに入らせて、自分達は別の所でひっそりと盗みを働いているんだ」

「だろうな。多分、国衛院もその動きは掴んでいるだろうが、派手に動いてる方を優先せざるを得ないだろうからな。ボスの方に手が回らないんだ」


 私はルクスにニヤリと笑いかけた。


「チャンスじゃない。盗賊団の勢力を確実に削ぐ事ができるよ」

「ああ、そうだな。さっさと踏み込んで捕まえちまうか」


 ルクスもまた私に同種の笑みを返す。


「あ、待った」


 家屋の中へ入ろうとするルクスを制止する。


「何だよ?」

「踏み込むのはちょっと待ってよ。その前に、少し小細工するから。それが済んだら呼ぶから、その時に踏み込んで」


 私は言って、家屋の壁に足の裏をつけた。


「よっ」


 そのまま壁に両足で立つ。

 今の私は地面と平行になっていた。


「おい!」

「なぁによー? 大声出したら気付かれちゃうでしょー」

「お前どうやってるんだよ、それ」

「足の裏から魔力の棘を何本も出して、壁に刺してる」


 イメージとしてはスパイクみたいな感じだ。


 魔力は物理現象を起こすが、物質ではない。

 なので、どんなに固い壁でも穴を開けずに刺し込む事ができる。

 うまく操れば人間の体を固定するくらいは楽勝だ。


「お前、武芸者のくせに何でそんなに魔力の扱いが上手いんだよ?」

「さぁ?」


 正直、私にもわからない。

 多分、子供の頃からゲームの再現をしている内に、技能が染み付いたんじゃないだろうか。


 気を取り直して、私は壁を歩いて上を目指す。


「貴様が正義なら俺は悪でいよう」

「唐突な裏切り宣言!? 何言ってるんだよ?」

「冗談冗談」


 言いたかったんだよ……。


 でも、体を地面と平行に維持して重力に逆らうのは結構辛かった。

 なので、両手からも魔力の棘を出して床に貼り付けた。

 四つん這いの体勢で上り始めた。


 今日の私は蝙蝠と蜘蛛が合わさって最強に見える。


 私はある程度進んで止まった。

 壁に付けた手から、魔力を流して建物の構造を把握する。

 トレース、オン。


 少しだけ場所をずらす。

 丁度、この場所に二階の床があるはずだ。


 私には、オリジナルの必殺技が一つある。

 対物質に対してのみ絶大な威力を発揮する技だ。

 私はその技を「アンチマテリアルパンチ」と命名していた。


 略してアンパ……アンチパンチッ!


 そして、今がその技の活躍する時である。


 私は拳を振り上げる。


「アーンチパーンチッ!」


 気合の声と共に壁を殴りつけた。

 拳の威力を魔力の波に変換し、二階の床中央に炸裂させる。


 同時に、室内からガラガラと何かの崩れる大きな音と、それに紛れて男達の悲鳴が聞こえた。

 二階の床が崩落し、一階に男達ごと落下した音だ。


 これで、相手は混乱に陥るはずだ。


「ルクス!」

「おう!」


 ルクスは入り口から。

 私は二階の窓を破って家屋の中へ侵入した。


 すると、一戦交えるまでもなく、中に居た男達は全員が倒れていた。

 素早く魔力を発して、彼らの状況を確認。

 よかった。

 一応誰も死んでいない。


「く、くそ、何が……」


 起き上がろうとする男の一人を無造作に蹴りつけ、気絶させる。


 他はみんな、意識を失っているようだ。

 ちょっとのっぴきならない状況の人がいたので、白色で治しておく。


「……なんか俺、さっきから何もしてねぇな」


 ルクスが呟く。


「気にしない気にしない」


 適当に慰めておく。


 その後、男達の関節を外して、国衛院を呼ぶ狼煙を上げた。

 家屋の中に塗料があったので、わかりやすいように壁へ「この者達、盗賊団に関わりあり」と書いておいた。


 それで今日の活動は終わりという事になり、家に帰った。

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