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五十三話 成敗!

 誤字を修正しました。

 ご指摘、ありがとうございます。

 コメントは明日の更新時、活動報告で致します。

 日が沈み、王都が闇に閉ざされる頃。

 恐らく八時を回った辺りだろうか。


 昼間の喧騒が嘘のように密やかに、それでいて虫の声が聞こえる中央広場。

 そこに、ルクスは一人で佇んでいた。


「お待たせ」

「おわっ!」


 私が後ろから声をかけるとルクスは驚いて、ビクリと体を震わせた。


「おまえ、どこから来やがった? 足音がしなかったぞ」

「あっち」


 私は上を指差した。

 指した先は、建物の屋根の上だ。

 この中央広場を囲うように建ち並んだ、商店の一つだった。

 ルクスが来るよりも早く着き、そこで待っていたのだ。

 着地音は着地する瞬間に魔力で体を浮かせて消した。

 ブーストの応用である。


「何でまたそんな所で?」

「驚かそうと思って」

「てめぇ……」

「いや、でも視界が広いから町の探索をするなら屋根の上を渡った方が盗賊を見つけやすいかもよ」

「……まぁ、そうかもな」

「それで、これからどうするの?」

「盗賊団を探す」


 それはわかってる。


「どうやって探すの? あては?」

「ねぇよ。片っ端から怪しい所を探すつもりだ」


 具体性が……ない……!


「何だよ、その顔は? 俺だって国衛院流の捜査術をガキの頃に仕込まれてるんだ。あてが無くとも探す事くらいはできるぜ」


 なまじ技術に自信があるから、ちゃんと計画を立ててこなかったな?


「その捜査術のプロが躍起になって探し回って見つけられない連中を、ちっちゃい頃に捜査術をちょっと習ったくらいの十五歳少年が見つけられると思うの?」

「う……。じゃあ、お前は何か作戦立ててきたのかよ」


 私はあくまでも手伝いのはずなんだけどねぇ……。


 どうした物かな?


 ゲームでも、盗賊団がどうやって捕まったのかわからないんだよね。

 なんとなくシナリオの中でちょっと話があがり、気付いたら盗賊団は国衛院に追い詰められている。

 そして焦ったボスはカナリオとイノスを人質にして、ルクスを呼び出すのだ。


 盗賊団がどうやって国衛院の目を掻い潜ってきたのかも、国衛院が盗賊団を追い詰めたのかも、一切語られていない。


 なので、残念ながら私のゲーム知識は今回役に立たないわけだ。


 でも、少なくともルクスが言うような方法は多分意味がない。

 素人の人員が二人、国衛院の捜査に無断で参加するような物だ。

 連携も取れないのでかなり無駄な労力になるだろう。

 そんな事をするくらいなら、別のアプローチで当たった方がまだいい。


 その別のアプローチをどうするか……。

 考えて、突発的に思いついた事を口にしてみる。


「ねぇ、ルクス」

「何だよ?」

「いっそ、スラムにいる悪そうな連中を片っ端から潰していかない?」


 この王都にはスラムがある。

 広大な王都の二割を占める程の大きなスラムだ。

 そこは貧民街の側面をもちろん持っているが、今は法を犯した悪党が逃げ込む暗黒街としての役割も持っていた。

 盗賊団が臨時で人を集めるなら、場所はきっとそこである。

 国衛院もそこを重点的に調査している事だろう。


「はぁ? 何でだよ?」

「盗賊団は、仕事の時に臨時の人員を集めているわけだよね?」

「おう」

「で、その人員の募集はスラムから募っていると思うんだよ。だったら、その場所で集められる人員そのものを減らしてしまえば盗賊団は困るんじゃない?」

「そりゃそうかもしれないけどな。そんな事をしてても盗賊団のボスは捕まえられないだろう」

「ルクス。目的を履き違えちゃダメだよ。あくまでも目的は、イノス先輩のために何かする事なんでしょ」

「……そうだな」

「だったら、これは調査を手助けする事になると思うんだけど。それはイノス先輩のためになるよね?」


 盗賊団の勢力が多い事も、国衛院の調査を難航させている原因の一つであるはずだ。

 その勢力を削ってやれば、調査もやりやすくなる。

 私はそう思った。


 これが私の考えた別のアプローチだ。


 国衛院は盗賊団の頭を狙撃しようとしている。

 なら私達は、盗賊団を狙わず誰彼構わず爆撃してしまおうというわけだ。


「国衛院は他の犯罪者への対処もしているはずだから、犯罪者を減らす事そのものがイノス先輩のためになるはずだ。一石二鳥の手だと思うよ」

「イッセキニチョウって何だよ?」


 おっと、これはこっちにない言葉だ。


「一度で二度美味しいって意味だよ」

「ふぅん。なるほどな。確かにそうかもしれねぇな」

「そうそう。どう転んでも、イノス先輩のためになる。でしょ?」

「そうだな! よし、じゃあそうしようか」


 私達はスラムへ向かう事にした。




「今さらなんだが、どうやって犯罪者を見つけるんだ? ここに住んでいる人間が全員犯罪者ってわけじゃないんだぞ?」


 スラムに着いてから、ルクスが疑問を呈した。


 それはそうだ。

 スラムは元々貧民達が肩を寄せ合って作った住処だ。

 スラムの人間が全員悪人だったら、国衛院が一斉に検挙している。


「適当にブラついてたら出てこないかな?」

「お前の計画、具体性がないよな」


 ルクスに言われたくない。


 とその時だ。

 女性の悲鳴が聞こえた。


「ルクス」

「おう」


 都合がいいな。

 なんて思いながら、叫び声のする方へ向かう。


 その途中、ゴツッという打撃音がして悲鳴が止まった。


 都合がいい……なんて思っている場合じゃなかった。

 私達が目指す先では、今まさに犯罪が行われているんだ。


 スラムの路地、その闇の中へ駆け込んだ。

 そこでは三人の男が、鼻から下を自分の血で真っ赤に染めた女性を囲んでいた。

 女性は気を失い、壁にもたれかかって座り込んでいた。


 男の一人が、女性の衣服を脱がせようとしている最中だった。

 その男の手は、血にまみれていた。

 彼がその手で女性を殴った事は疑いようもなかった。


 これはもう……論じるまでもなく拳の使いどころ。

 いや……使うべき所だっ!


 私は足に力を込めて加速する。

 一瞬で服を脱がせようとする男の一人へ距離を詰め、跳び上がる。

 勢いをつけて、思い切りその顔を殴りつけた。

 男はそのまま倒れこむ。


「何だ、お前!」


 突然の乱入者に戸惑う男達。

 その一人の顎を思い切り殴り上げる。

 そうして宙に浮いた男の足を掴み、残った男へ叩きつけるように振った。

 路地の壁と武器(男B)に挟まれ、潰された男が気を失って倒れこむ。

 手放すと、武器にされた男も気を失っていた。

 その時になって、最初に殴り倒された男が体を起こした。

 そんな男の襟首を両手で持ち上げ、全力で頭突きをかました。


「お前、本当に人類か?」


 男達を無力化した後、ようやく追いついたルクスにそんな事を言われる。


 失礼しちゃうよ。

 どう見ても女の子でしょうが。

 え、イケメン男子に見える?

 それは失礼。


「そんな事より、さっそく犯罪者を確保したわけだけど」


 私は気を失った女性に白色で手当てをしながら、ルクスへ声をかける。


「こいつら、どうしようか?」


 このまま置いておくわけにはいかないだろう。


「一応、国衛院が使う連絡用の狼煙は持ってきている。焚けばすぐに駆けつけてくれると思うが……ロープはあるか?」

「国衛院が来るまで見張っていたら?」

「そんな事になったら、俺の事がイノスに伝わっちまう」

「別にいいじゃないのさ。イノスのためにルクスが頑張ってる事、知ってもらえるから。アピールチャンスだよ」

「お前、そうなったらあいつが同行するようになるだろうが! 俺は盗賊団のボスを捕まえるまで、あいつにこの活動を知られたくないんだよ!」


 はぁ? なんじゃそりゃ。


 あれか? こういう事か?


「おい。こいつ、お前が探してた盗賊団のボスだぜ。たまたま見つけたから捕まえておいてやった。……はぁ? お前のためじゃねぇし。たまたまだっつってんだろ?」


 みたいな甘酸っぱい展開を起こす気なのか?

 まったく、このツンデレ野郎め!


「そんな事はどうでもいいんだ。それで、ロープはあるのか? ないのか?」

「ないよ」


 残念ながら、魔力縄クロエクローは手を放すと消えてしまうのである。

 彼の求める、悪人拘束具の類を私は持ち合わせていなかった。


「じゃあ、関節でも外しておけば?」

「それだ!」


 私達は悪漢の足関節を外し、狼煙を上げてからその場を去った。


 ゴッドハンドスマッシュ!

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