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閑話 フカールエル家へ遊びに行こう!

 誤字報告、ありがとうございます。

 修正致しました。


 正直、どんな話を書いたか忘れつつあるのですが、アルエットちゃんえらい事してますね。


 誤字報告、ありがとうございます。

 修正致しました。

「おねーちゃーん!」


 どこからともなく幼女の声が聞こえて来たかと思うと、私の横っ腹にアルエットちゃんがタックルを決めた。

 声が聞こえた時点でどこから来てもいいように全身の筋肉を弛緩させていた。

 なので、アルエットちゃんは痛い思いをしていないだろう。


 だが、私は別だ。

 丁度、腎臓の位置にアルエットちゃんの頭がめり込んでいた。

 メキッという音と共に激痛が体内を駆け巡った。

 恐らく、浮動肋骨が折れたのではないだろうか。


「お姉ちゃん?」


 無言の私を不審に思ったのか、アルエットちゃんが私の顔を見上げる。

 私には、アルエットちゃんを心配させないように、笑顔を貼り付ける事しかできなかった。

 それが精一杯だった。


 私にここまでの重傷を負わせたのは、アルエットちゃんが初めてだった。

 父上にもこんな一撃をもらった事はない。

 普段なら、こんな事になれば相手への闘志が湧くものだ。

 だというのに、今回は相手の顔を見ても戦う気力が一向に湧かなかった。


 私の完敗である。


 アルエットちゃん。

 君がナンバーワンだ。




「あのね、今日ね、マリノーお姉ちゃんの家に遊びに行くの」

「そうなんだ」


 私達は、中庭のベンチで会話していた。

 脇腹は白色で治したので問題ない。

 触ってみると、やっぱり折れていた。


 ちなみに、アルエットちゃんはマリノーと遊んでいる途中で私を見つけて駆け寄ってきたらしい。

 マリノーは、アルエットちゃんを挟んでベンチに座っていた。


「ティグリス先生は今日用事があるらしくて、夕方までアルエットちゃんを預かってほしいそうです」


 先生が用事?

 町をぶらついて困っている人を助けるとか?


 それにしてもマリノー、アルエットちゃんを任せられるくらいに先生と親密な関係になっているわけか。

 今度進展具合を詳しく聞いてみよう。


「それでクロエさんにお願いがあるのですけど」

「何?」

「一緒に我が家へ来ませんか?」

「いいの?」

「それはもちろん。ただ、私の家には弟妹がいますから、その面倒を見る手伝いをして欲しいのです」

「弟妹がいたんだ」

「はい。四人ほど」


 多いな。


「みんなやんちゃで、メイド達も持て余していて。もし弟の誰かがアルエットちゃんに怪我させたら、と思うとちょっと心配なんです」

「なるほどねぇ。わかった。じゃあ、私も手伝うよ」


 しかし弟妹か……。

 私の可愛い弟妹達は現世で元気にやっているかな?




 私はマリノーの誘いを受ける事にした。

 そしてマリノーとアルエットちゃんと共に、フカールエル家へと遊びに来た。

 ちなみに、アルディリアもついてきた。

 子供の子守が大変ならば、人数はいた方がいいと思ったからだ。


 アードラーも誘ったのだが、母親と一緒にお茶会へ出席するらしいので断られた。

 一緒に行けない事をとても悔しがっていた。


「お茶会かぁ。他所のお茶会には行った事がないよ」

「行かなくていいのなら、行かない方がいいわよ。お茶会なんて、一通り挨拶が終わればあとはお茶を飲むだけだもの」

「そうなんだ」


 多分、他の令嬢達はその後にお喋りとかしてるんだろうな……。


 屋敷に入ると大部屋に案内された。

 部屋の扉越しからすでに、甲高い子供の声が聞こえてくる。

 それに、赤ん坊の泣き声まで聞こえていた。


「何かもう、入る前からすごいね」


 アルディリアが言う。


「そうだね」


 そのやり取りを聞いて、マリノーが苦笑する。


 マリノーが扉を開けて、中へ通される。


 部屋には、三人の幼い男の子とベビーベッドで泣き喚く赤ん坊がいた。

 世話係らしき二人のメイドが部屋にいたが、走り回る子供達と赤ん坊の対応で辟易しているようだった。


 が、一人の子供が部屋に入って来た私達を見つけ、立ち止まる。

 それが合図となったように、他の二人も私達を見た。

 というか、みんな私に注目している気がする。

 目が合ってるし。


 私は三人の男の子達にニコッと笑いかけた。

 瞬間。


「「「ぎゃあああぁぁ!」」」


 子供達から絶叫が上がった。

 予想はしていたが、やっぱり怖がられたか。

 どういうわけか、私は本当に子供から怖がられるな。

 ほらほら、怖くないよ。

 ムキムキー。


 両手を上げて筋肉を盛り上がらせる。


「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁっ!」」」


 余計泣かれたし。

 何か思ってた反応と違う。


 その時、ムッとしたアルエットちゃんが拳を握って走り出そうとする。

 私はそんな彼女を抱き上げて止めた。


 今、殴りかかろうとしたでしょ?


 アルエットちゃんから、何で? という顔で見られる。


 多分、私のために怒ってくれたんだろうが、相手は貴族子息だ。

 暴力沙汰はまずい。

 たとえ、マリノーが庇ってくれても、彼女の両親が許してくれるとは限らない。


「絶対に叩いちゃダメ。お父さんが困るかもしれないからね」


 私が言うと、アルエットちゃんは不承不承ながらも頷いた。

 下ろして、頭をなでなでした。


「ほら、みんなこっちに来て」


 マリノーが三人を手招きする。

 怯えを隠そうともせず、三人はじりじりとこちらに近付いてきた。

 マリノーは三人を並ばせる。


「左から長男のディック、次男のジェイソン、三男のティモシー。あの赤ちゃんは、次女のステファニーです」


 赤ちゃんはまだよくわからないけれど、三人ともよく似てるなぁ。

 生足を見せた短パンの子がディックで、赤いバンダナを巻いた子がジェイソン、坊主頭の子がティモシーか。

 うん、何とか見分けがつきそうだ。



 最初、明らかに子供達は私を避けていた。

 アルディリアにはすぐ懐いたのに、私が近付くと逃げるように、というより露骨に逃走を図る。

 ちょっと寂しい。


 アルエットちゃんはマリノーと一緒にいるが、明らかに不機嫌な様子だった。

 さっきの事が腹に据えかねているらしい。


 子供達がダメなら、と思って赤ちゃんのステファニーちゃんを見に行ったのだが、ご想像の通り泣かれた。

 メイドにやんわりと近付かないよう言われてしまった。


 傷ついた心をアルエットちゃんで癒しつつ、ちょくちょくマリノーの弟達へもちょっかいを出して時間を過ごした。


 すると、ディックくんが私を怖がらなくなった。

 どうやら慣れたらしい。

 懐いてくれる子というのは可愛いね。

 なでなで。


「アルディリア姉ちゃん」


 ディックくんがそんな呼び方をしたので、私は思わず噴き出した。

 アルディリアに可愛らしく睨まれる。

 その後、アルディリアはディックくんに笑顔を向けて諭す。


「あのね、僕はお姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんだよ」

「そうなの?」


 ディックくんが訊ね返す。

 明らかに疑わしそうな声色だ。

 アルディリアが困っているので、私はそこで助け舟を出す事にした。


「そうだよ。アルディリアは女の子じゃない、いいね?」


 念を押す。


「そうなんだ。うん。わかった。アルディリアお姉ちゃんは、お兄ちゃんなんだね?」

「うん。そういう事になってる」


 素直にわかってくれた。


「そんなふうに言われると、まるで本当は違うみたいじゃないか!」


 アルディリアに怒られた。

 ちゃんと弁解したのに……。

 解せぬ。


 でも、自分が男の子だと主張するなら、たまに女子同士の会話に「わかるー」とか言って参加するのはやめた方がいいと思うよ。

 わかっちゃだめでしょ?

 男の子なんだろ?




 それから、ティモシーくんも攻略してやろうと追いかけまわす平穏な時間が過ぎていった。

 その時である。


 事件が起こった。


 発端は、やんちゃな弟達を無視してお絵かきに没頭していたアルエットちゃんにジェイソンくんが興味を示しだした事だ。


「お前、どっから来たの?」

「…………」


 アルエットちゃんはぷいっと顔を背け、ジェイソンくんの質問を無視した。


「何だよ。無視するなよ」


 それが気に食わなかったのか、それとも逆に興味をそそられたのか、ジェイソンくんは執拗にアルエットちゃんへちょっかいをかけ始めた。

 最初は質問ばかりだったのだが、次第にそれはエスカレートしていった。

 腕を引っ張ったり、服を引っ張ったりし始めた。

 そして、その手が髪の毛を掴んだ時、アルエットちゃんの目がカッと見開かれた。


「やめて!」


 アルエットちゃんはジェイソンくんの髪の毛を掴むと、思い切り引いて床に顔面を激突させた。

 ヒートアクションである。


 顔を上げたジェイソンくんの鼻からは、鼻血が出ていた。

 じんわりと涙が溜まり、そしてわんわんと泣き出した。


 これはまずい。


 マリノーを見ると「あっ」という顔で固まっている。

 メイド達もオロオロとしていた。


 何とか事態を収拾しようと私はジェイソンくんへ近付く。

 白色で治して、何とか事態を収拾できないかと考える。


 が、その前に、アルエットちゃんがジェイソンくんの鼻に手をかざした。

 すると、ジェイソンくんが不思議そうな表情になった。


「あれ? 痛くない?」


 白色?

 アルエットちゃんが?


「……ごめん。やりすぎちゃった……」


 アルエットちゃんはばつが悪そうに、顔をそらしながら謝った。


「え、俺も、ごめん……」


 ジェイソンくんも謝った。


 私はホッとした。

 マリノーも同じ気持ちらしかった。


 それからもジェイソンくんは、アルエットちゃんのそばにいた。

 でも、さっきみたいにしつこく構うのではなく、アルエットちゃんの描く芸術作品を眺めていた。

 すると、しばらくして言葉を交わすようになり、帰る頃にはとても仲良くなっていた。

 どうやら、ジェイソンくんはアルエットちゃんにイカレてしまったらしい。


 もしかしたら、この家系はグラン家と相性がいいのかもしれないな。

 でも、お姉ちゃんみたいにヤンじゃだめだよ?


 しかし、飴と鞭か……。

 正直、そんな事を思ってしまった。

 将来、アルエットちゃんは男を手玉に取る悪女になるかもしれないな。



 帰りに、私はアルエットちゃんから絵を貰った。

 あのお絵かきは、私をモデルにして描いていた物らしい。


 逆三角形を強調した体と十個に割れた腹筋が描かれた、前衛的な芸術作品だ。

 抽象的なタッチでありながら、モデルの特徴をよく捉えている。

 見る人が見れば、ちゃんと私だとわかる造形である。


 こら、笑うなアルディリア。

 宝物にするんだから。


 それにしても、アルエットちゃんに魔力があるとは思わなかった。

 それも白色だ。


「アルエットちゃん、魔術が使えたんだね」

「お姉ちゃんの真似してたらできるようになったの」


 前に白色を使って見せた時の事か。


 平民でも魔力を持っている人間はいる。

 けれど、カナリオのように強い物を持っている事例は稀だ。


 そんな事例がそうポンポンと転がっているものだろうか?


 魔力持ち平民のバーゲンセールだろうか。


 いやそれとも、もしかしてアルエットちゃんのお母さんはもしかして……。


「お姉ちゃん、今日は楽しかったね」


 アルエットちゃんは笑顔で言う。


「そうだね」


 まぁ、どうでもいいか。

 アルエットちゃんは魔力を持っていて、私に懐いてくれている可愛らしい女の子だ。

 それさえはっきりしていれば、何も問題ない。

 理由? 駒鳥だからです。

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