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閑話 せっかくなので転生モノらしい事をしてみる

 ストーリーにあんまり関係ないのですが、ふと思いついたので差し込んでおきます。

 夏休み話なので、もう一話ぐらいそういう関係ない話を挟むかもしれません。


 誤字を修正致しました。

 指摘くださり、ありがとうございます。

 夏迎えの祝いが過ぎると、魔法学園は程なくして長期の休みに入る。

 あまり長くは無いが、夏休みみたいなものだ。

 その余暇を利用して、私はある事をしてみようと思った。

 何かといえば、ちょっとした物作りである。


 ほら、あれですよ。

 生前の知識を利用した便利アイテムを作って一大ムーブメントを作り出し、一目置かれたり、がっぽり大もうけしちゃったりする、所謂異世界転生特有の定石だ。

 せっかく、私も異世界転生したのだから、そういう事もしておこうと思ったのだ。


 しかも、私が考えるのはそんじょそこらの転生主人公が考える物とはわけが違う。

 何せ、前世の記憶を頼りに作ってはいるが、前世の科学力では作れなかった物をこの世界の魔力を応用する事で作ろうという計画なのだ。

 私はこの世界で、前世の科学力でも成しえなかった先進的技術を開発しようとしているのである。


 私がまず手始めに用意したのは、魔力溶剤なるこの世界のアイテムである。

 一瓶、銀貨一枚(約一万円)と高価な代物だが、今の私の財力おこづかいをなめてもらってはいけない。


 特に欲しい物がなく、溜めに溜めた貯金。

 その額なんと金貨十枚。


 前世の金銭価値に換算すると約百万円に相当する。

 前世でこれだけの財力を有していれば、私は迷わず百円に両替してゲーム筐体へ投入していただろう。

 いや、そもそもすぐに使ってしまって貯金できなかった気がする。

 貯金できたのは、この世界にゲームがなかったおかげだ。


 その莫大な資金の内、金貨一枚を使って私は溶剤十本を購入した。


 魔力溶剤という物は、その名の通り魔力を溶かし込む事のできる薬剤である。

 溶剤に魔力を送り込む事で、溶剤の中に魔力が篭るようになるのだ。

 これは魔力そのものを液体化――つまる所実体のない魔力という力を物質化する目的のアイテムなのだ。

 こうして物質化した魔力は、マジックアイテムなどの作成に使われている。


 私は木箱に溜めた溶剤へ手を漬け、魔力を流した。

 溶剤十本分一気に、魔力を溶かし込むので一時間ほどそのまま流し続ける事になった。

 退屈だったので本を読みながら魔力を流し込むと、溶剤の色が緑から紫に変わった。

 これが魔力の溶かし込みが完了した事を示す変化である。


 私は自分の魔力が溶け込んだ溶剤の中へ、予め購入していた布生地を投入した。

 そうして漬け込む事一晩。

 その後、マジックアイテムの教本を元に、生地を加工して私のオリジナルアイテムは完成した。




「という、わけで二人に集まってもらいました」


 屋敷の応接室。

 当家に招いたアルディリアとアードラーを前にして、私は集まってもらった目的を話した。


「マジックアイテム?」


 私の説明に、アードラーは懐疑的な声で訊ね返す。


「そ、私が考えて作り出した私独自のまったく新しいマジックアイテムだよ」

「ふぅん」


 気のない返事だ。

 もうちょっと驚いてくれてもいいじゃないか。


「それで、どんなアイテムなの?」


 アルディリアが訊ねてくれる。


「ふふん。よくぞ聞いてくれました。少し待ってて。今取ってくるから」

「わかったよ」


 私は一度部屋から出て、作ったアイテムを取ってから戻った。


「あっ」

「え?」


 私が戻ると、私のいでたちに二人が驚いた。

 私が着替えてきたのは、男物のスーツ姿なのだから。

 白いシャツと黒いスラックス。

 その上には黒いジャケットを羽織っている。


「これが私の作ったマジックアイテムだよ」


 そう言って、私は立てた親指で自分の胸を示す動作を取った。


「その服が?」

「何も変わった所はないと思うのだけど。カッコイイだけで……」


 最後にアードラーがぼそりと呟く。


 ふふ、私のカッコイイ男装姿を堪能したまえ。

 だが、さらにカッコイイのはこれからだ。


「なら、見るがいい。これが、このマジックアイテムの真の効果だ!」


 私は肩の辺りの布地を掴むと、思い切り引っぺがした。

 引っ張られた服はするりと脱げ、私は一瞬でサラシを胸に巻いた上半身をさらけだされていた。


 袖も襟首も通さずに服を引けば、本来なら破れない限り服は脱げない。

 本来ならば物理的に不可能な事であるが、脱がれた服に破れた様子はない。

 私の手に握られたシャツとジャケットはしっかりと原型を保っていた。


 所謂これは、フィクションなどでよく見るヤクザ脱ぎと呼ばれる服の脱ぎ方である。

 本来ならば不可能なこの脱ぎ方を現実で行う事ができる。

 これはそんなアイテムなのである。

 どうだ、カッコイイだろう!


「うわっ」


 アルディリアが顔を赤くして目を覆う。


 指の間からちら見してくれてもいいのよ。

 どうせサラシ巻いてるし。

 何だか、アルディリアだったら見られてもあんまり恥ずかしくないし。


「クロエ、やっぱりあなたいい体してるわね」


 アードラー、気になるのはそっちなの?


「じゃなくて、こっちの服を見てよ。普通の服なら、こんなに簡単に脱げないでしょ。凄いでしょ?」


 私は手に持った服を振って主張する。


「まぁ、確かに凄いかもしれないわね。で、何の役に立つの」

「カッコイイ!」


 それだけである。




「名付けて、893脱ぎ服〜!」


 猫型ロボット風に言ってみる。

 うぷぷぷぷ。


「「893脱ぎ服?」」


 復唱した二人の声が重なる。


「これは予め魔力を溶かした溶剤に布を漬けて、その布で作った服なんだ。で、糸を使わずに魔力で縫合しているから、簡単に別れたりくっついたりができるんだよ」


 つまり、一度生地と生地の接合部分が離れ、再び元の接合部分がくっつくために破れずに服を脱がせられるわけだ。

 これは、魔力さえ持っていれば誰でも簡単にカッコイイヤクザ脱ぎができるという夢のマジックアイテムなのだ。

 しかも服の形を記憶しているので、貯蓄された魔力がある限りはわざわざ魔力を流さなくても自動で元に戻る。



 ちなみに、この服には自動で着ている人間の魔力を吸う術式を埋め込んでいて、それを動力にしてくっついている。

 なので、定期的に魔力を持った人間が着ないといずれバラバラになるのだ。

 つまり充電式である。


 私は服に魔力を流して、生地を直接操る。

 すると服が一度バラバラになり、私の体に衣服の形を作った。


「へぇ、そんな事もできるのね」


 アードラーが感心したように声を出す。


 溶剤に浸した物質は、魔力その物として扱える。

 つまり、魔力のこもっていない物を動かすのと、魔力その物を動かすのでは自由度も労力も変わってくるという話なのだが。

 魔力そのものとして扱えるこの服は、うまく扱えばこのように袖を通さずとも自在に着る事が可能なのだ。


「もう目を開けていいよ、アルディリア」


 律義に目を瞑っていたのか、アルディリアは私が声をかけるまで目隠しをやめなかった。

 見た目はともかく、結構男らしい所があるんだよね。


「で、どう? これ、売れそうかな? 大ヒット間違いなしかな?」

「「うーん」」


 とても要領を得ない返事である。

 二人して同じ反応だったので、私はなんとなく察してしまった。


 いい商品だと思うんだけどなぁ……。


「品物の特性はともかく、その服のデザインはいいと思うわ。男性向けの物でしょう? シンプルだけど落ち着いた雰囲気があるから、大人の男性には人気が出ると思う」

「そうだね。僕もそういうの着てみたいよ」


 でも、ただのスーツだよ?

 都市迷彩だよ?


「この際、その変な効果は省いて、そのデザインの衣服を売り出したらどうかしら。魔力溶剤を使わずにただの服として売れば、価格も抑えられるでしょう」

「それはいいね。そうしようよ」


 絶賛してもらえるのはいいけど、何だか複雑だよ。




 結局、この服は新しいデザインの服として売り出される事になった。

 家の事業諸々を取り仕切る母が言うには、それなりの稼ぎにはなったらしい。

 けれど、私の思惑とは違うので少し複雑である。


 が、その後、父にもヤクザ脱ぎを実演して見せた所、意外と食いついてきた。


「ほう、面白いな。そういう風にすぐ脱げるならば、喧嘩をしても汚さずに済む」


 パパ、観点がとても物騒です。

 まさか、今でも喧嘩とかするんですか?


 褒めてもらえて嬉しかったので、私は父のために一着作ってプレゼントした。


 しばらくして、賃金は払うので自分も欲しいという部下達からの頼みがあったらしく、私はそれに応じてさらに数着作った。


 すると、軍の中で欲しがる声が多くなったので、こちらも少数ながら正式に商品として売り出される事になった。

 それを機に名称が正式に「無糸服」という物に変わった。

 今現在、喧嘩っ早い軍人達の間で無糸服は流行り、酒場では酔っ払った軍人達が喧嘩の前に衣服を豪快に脱ぎ捨てる光景が見られるという。


「なあじゃあ、ワレ! どこの隊のもんじゃ!」

「ビッテンフェルト隊のもんじゃ! 文句あるんかい! 口より先にかかってこんかいワレ!」


 バサァッ!


 って感じだろうか?

 ちょっと見てみたい。


 これは、是非ともティグリス先生にもプレゼントしなければ……。

 きっと似合うだろう。

 そう思ったのだが、先生は生粋の貴族ではないので魔力を持っていない事を思い出した。

 贈っても、二日程で服がバラバラになるだろう。


 保管している時ならいいが、もしかしたら授業中に突然先生が上半身裸になるかもしれない。

 すごい嫌がらせだ。

 下手したら、先生のたくましい肉体に魅了されてマリノーのライバルが増えるかもしれない。

 彼女にとっても嫌がらせだ。


 なので、残念だが先生には贈らない事にした、

 似合うと思うんだけどな……。


 一番似合う人の手には渡らなかったが、しかし私のアイディアがこちらでもそれなりに受け入れられた事は嬉しかった。

 とりあえず今回は、それで満足だった。

 やったね!


 でも、普通に考えても結構応用できる品だと思うんだけどなぁ。

 ちょっと、他の使い方も考えてみようかな。

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