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二十八話 ピクニックデート

 マリノーに提案してから数日後。


 休み時間、マリノーが私に会いに来た。


「私、先生に気持ちを伝えてみます」

「そう。わかった」

「それで、できればあまり人目のない所で、二人っきりで話せる場所で告白したいのですが……」

「ふぅん」

「何とかなりませんか?」


 あ、私がセッティングするんですね。

 まぁ、内気なマリノーじゃ先生を自分からどこかへ誘うのも難しいのかな。


「あー、じゃあ、何とかしてみましょうか」

「お願いします」

「クロエ」


 不意に、声がかけられる。

 見るとアードラーがいた。


「アードラー」


 笑いかけると、アードラーは安心したように小さく息を吐いた。

 次に、アードラーはマリノーへ目を向ける。

 というより、睨みつけていた。


「ふぅん」

「な、何か?」


 睨み付けられ、マリノーは緊張した面持ちで訊ね返す。


「ちょっと料理が上手だからって、調子に乗らない事ね」

「は、はい!」

「ふん」


 それだけ言うと、アードラーは教室から出て行った。


 何しに来たのだ?

 私に用があったんじゃないのか?




 マリノーにセッティングを任された私は、アルエットちゃん経由で先生をピクニックへ誘う事にした。

 場所は郊外にある森林近くの原っぱだ。

 近くには川が流れていて、水遊びもできる。

 お昼はマリノーと先生がそれぞれ作った弁当を持ち寄って食べる。


 私はそこでアルエットちゃんを連れて川にでも遊びに行く。

 その間に、マリノーはティグリス先生に告白する。

 という予定だ。


 そして、その当日。

 私はマリノー、グラン親子と共に予定の場所へ向かっていた。


 ティグリス先生はアルエットちゃんと手を繋ぎ、前を歩いている。

 アルエットちゃんは遊びに出かける事が楽しいのか、無邪気にはしゃいでいる。

 先生に話しかけ、時折私とマリノーにも弾んだ声で話しかけてくれた。


「クロエさん」


 そんな時、マリノーが小声で話しかけてきた。


「はい」

「意外と人が多いのですが?」


 夏も近付いている上に、今日は休日だ。

 川の近くへ遊びに来る人間は多いのだろう。

 ちらほらと人の姿が見えた。

 マリノーは人目のない所で告白したかったらしいので、思った以上に人が多くて動揺しているようだ。


「うん。予想外だったよ」

「どうしましょう?」


 縋るような声色で訊ねてくる。


「無理に今日実行する事もないと思うけど」

「それも……そうですね」


 マリノーは安心した様子だったが、少し残念そうだった。

 なんだかんだで期待はあったのかもしれないな。

 もしくは、ここに来るまでの覚悟が無に帰してしまった徒労感かな。


「今日は純粋に、ティグリス先生とのデートだと思えばいいんじゃない? 私はアルエットちゃんと遊ぶつもりだから、二人っきりにはなれるよ」

「そ、そうですね。それはいいですね!」


 あ、先生が心配してついてくる可能性もあるかな。


 マリノーの沈んだ気分が戻ると、程なくして予定していた場所に辿り着いた。

 座るための敷物をして、とりあえず全員座った。

 私も座っていたのだが、後ろから柔らかいものに奇襲された。

 もちろん、アルエットちゃんだ。


 ハスハス待った無し!


「クロエお姉ちゃん。川に行こー」

「いいよー」


 それとなく誘うつもりだったが、アルエットちゃんの方から声をかけてくれた。

 先生に目を向ける。

 ついて来るかもしれない、と思ったけれど先生は敷物から立ち上がろうとしなかった。

 代わりに、私へ強い眼差しを寄越す。


「頼む」


 おお、ただの一言なのに強い信頼を感じる。

 任されましたよ、先生!

 アルエットちゃんは私が幸せにしてみせます!


「早く行こう」


 私はアルエットちゃんに手を引かれて川へ遊びに行った。


 マリノーが先生とデートなら、私はアルエットちゃんとデートだ。

 ピクニックダブルデートだよ。

 ティグリスが残ったのは、貴族令嬢であるマリノーを一人にさせてはいけないという配慮からです。

 でも、クロエを信頼しているというのもあります。信頼していなければ、行くなと言っていました。

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