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二話 あ、これはついてない

三話が二つになっていました。修正しました。

 何とか仲良くなりたい。

 というか、せめて「軟弱者」発言を帳消しにできる程度には関係を修復したい所である。


 こいつ、何が好きだったっけなぁ?

 何をすれば喜ぶんだろう?


 私のゲーム知識に彼の詳細なデータなんてない。

 憶えている事なんて、格闘ゲーム内での性能ぐらいだ。


 格闘ゲームのアルディリアは積極的に自分では手を出さず、どこからともなくリス、小鳥、モグラの小動物三種を召喚して攻撃する。


 三つのしもべに命令だ。って感じのキャラクターである。

 別に砂の嵐に守られた塔に住んでいるという事はないが。


 召喚攻撃はわずかなモーションしかなくて、召喚してすぐに本体を動かせる。

 地面に設置した中段判定のあるモグラを任意のタイミングで出現させ、ガードさせながら本体の下段攻撃で崩す事ができる。

 つまり相手にガードさせると有利になる「固め」に優れている。


 ゲームの性格設定に見合わず攻撃的な運用が必要なキャラクターだ。

 私見だが、相手にする分には一番嫌いなキャラクターだったりする。


 ただしクロエ自身には当身技カウンターがあるので、比較的対処は楽。

 私の愛用キャラクターが彼女では無いので嫌いなだけだ。

 私の愛用キャラクターはだいたいのキャラクターに有利か互角なのだが、アルディリアとだけは相性が悪い。


 超必殺技は津波のようにおしかける小動物達をけしかける飛び道具系とモグラに足止めさせた後に小動物をけしかける投げ技系だ。


 びっくりするぐらい自分の手を汚さない奴である。


 固有フィールドは通常攻撃の全てに小動物の追加攻撃を付与する物。

 攻撃を当ててモーションをキャンセルさせても小動物の判定が消えないのでかなりやっかいだ。


 いやらしい奴め。


 ちなみに飛び道具の超必殺はまともに当たっても威力がそんなに高くないのだが、ヒット数が多いのでガードしてもガリガリと体力を削られる。


 ある程度体力を減らしたらぶっぱするだけで体力を一メモリまで削れる(削りで死ぬ事は無い)。

 ガードしても関係のない必殺を思いついた。って感じである。


 やっぱりいやらしい奴め。


 まぁとにかく、今は全然役に立たない情報だ。


「あっ」


 ふいに、彼は声をあげた。

 そちらを見ると、彼は足元を見て硬直していた。

 その視線の先には、一匹のリスがいた。


 彼を慕うように、前足を彼の足にかけて顔を見上げていた。

 鼻をヒコヒコ動かしているさまが可愛らしい。


「リスだね」


 私が言うと、彼は焦った表情で私を見た。

 だから、そんなこの世の終わりみたいな顔をしないでよ。

 何もしないってばよ。


 そういえば、クロエが「軟弱者」って口走った時もアルディリアはリスを可愛がっていたんだったっけ。


 また同じ事を言われると思ったのかな。

 私は言わんよ。言ったのはもう一人の私(クロエ)だから。

 私じゃないよ?


「あ、あっちいけ!」


 アルディリアは軽く足を動かして、リスを追い払った。

 リスはアルディリアから離れ、名残惜しそうに彼へ振り返ってから近くの木へよじ登った。


「あ、あの……」


 アルディリアが上目遣いで私を見上げる。大変可愛らしい。

 けどな……。

 確かに、君は軟弱者かもしれないな。


「アルディリア。私は前に、あなたの事を「軟弱者」と罵った。それは謝ります」

「クロエ様?」

「クロエでよろしい。一応、婚約者ですからね。それより、私が気になっているのはあなたの自主性の無さです」

「自主性、ですか?」

「私が言うのも横暴に思えるかもしれませんけどね。人の言葉で自分の行動を変える人間は「軟弱者」と謗られても仕方がないものなのですよ。嫌な事は嫌なのだと口にしなさい」

「で、でも……」


 何かを口にしようとして、彼は口ごもる。


「言いたい事があれば言ってもいいのですよ。周りを見てみなさい。自分の言いたい事を言う人間ばかりでしょう。だったらあなただって、言いたい事を好き勝手に言ってもいいと思いませんか?」

「それは、クロエみたいにって事、ですか?」


 早速言うようになりやがったな。


「そうですね。アルディリアは、周りの言葉に振り回されすぎです。私に「軟弱者」と謗られたってリスを可愛がってもいいし、私に会いたくないならお父様にも抗ってみなさい。そんなあなたなら、きっと誰も「軟弱者」などと謗る事はないでしょう」


 気付けば、アルディリアはじっと私の顔を見上げていた。

 何だよ? その不思議そうな顔は?


 脳筋だと思った?

 残念、前世の記憶が蘇ったクロエちゃんでした!


「何だか、クロエは変わりましたね。言葉遣いも話の内容も変わって、頭が良さそうに見えます」


 あれ? 本気で脳筋だと思われてた感がある?


「でもクロエは、前に「お前は私の言う事だけ聞いていればいい。口答えするな」って言ってませんでした?」


 言いましたね……。


 くそ、クロエめ。足を引っ張りやがって。

 あいつはクロエの中でも一番残念な子。

 クロエの面汚しよ。


「それも謝ります」

「ふふふ」


 アルディリアが笑う。女の子みたいに可愛い笑顔だ。

 これはクロエじゃなくても「ついてんのか?」とか言っちゃうわ。


 しかし、彼の体を蝕んでいた緊張が取れた気がする。

 前の彼は、私にこんな笑顔を向ける事なんてなかったから。

 ちょっと、変わったかな? 私達の関係も。

 これで仲良くなれたのなら、嬉しいけれど。

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