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二十七話 先生の心にダイレクトアタック

「と、いうわけで、先生に告白しようか」

「どういうわけなのです!?」


 校舎裏にマリノーを呼び出し、私はそう切り出した。


 最初、彼女は校舎裏に入った途端顔色を悪くしていた。

 どうやら、死のイメージがこの場所と結びついているせいだろう。

 だが、私が話を切り出すと別の意味で顔色を悪くした。

 彼女にとって、この方法はあまりにも都合が悪かったのだろう。


「だって、想いは口にしないと伝わらないよ」

「だからってちょっと早急すぎるでしょう? ほら、もっと方法があるはずです。私からじゃなくて、相手に私を好きになってもらうような、そういう方法だって……」


 まぁ、奥手そうな彼女だから、自分からというのは荷が重いんだろうけどね。

 きっと、彼女のいうような方法もあっただろうし、本来ならそれで上手くいった事でもある。

 でも、残念ながらアルエットちゃんの関係で、今それは難しい。


 アルエットちゃんの攻略ができるなら、彼女の望む結果は得られたかもしれない。

 けれど、アルエットちゃんを私が攻略してしまったため、そちらからはアプローチできない。

 なら、手段としては直接ティグリス先生の心を掴む他ないはずだ。


 これは、ゲームのシナリオとシステムから逸脱した方法だ。

 本来なら、マリノーはティグリス先生に直接想いを伝えない。

 それはアルエットちゃんの要望もあるだろうが。

 マリノーとカナリオ。二人の対抗から、ティグリス先生が二人の気持ちを察してしまうという展開があるからだ。

 本来のマリノーは、カナリオの存在があって初めて気持ちを行動に移す事ができたのだ。

 言葉を用いずに、気持ちを伝える事ができたのだ。

 けれど、ライバルのいない今の状況では彼女に想いを伝える機会がない。

 だから、彼女は自分の気持ちを自分自身で伝えるしかないのだ。


 

 彼女が先生の心を掴むには、その方法に賭けるしかない。

 これはゲームではなく、現実なのだ。

 シナリオとシステムで全てが決してしまう世界じゃない。

 現に本来はありえない、クロエ《わたし》が先生のルートへ介入するイレギュラーが発生している。

 今の状態でも、彼女が先生の心を掴む事は不可能じゃないのだ。


 そしてその方法は、ゲームから逸脱した方法でなければならない。

でなければ、ゲーム通りの展開になってしまうからだ。

 そのために、本来ならありえない展開が必要だ、と私は考えた。

 それが、彼女自身からの告白である。


 コトヴィアさんの事を一途に思い続ける先生を振り向かせる事は、容易な事じゃない。

 けれど、この世に絶対は無い。

 難しい事ではあるけれど、やってやれない事はないはずだ。


「じゃあ諦めるしかないけど、どうする? 他に方法なんてないもの」

「どうして、そう言い切れるのですか?」

「色々な話を聞いて、考えた結果だよ。多分、これしかない。別に嫌ならマリノーの好きな方法を取ってくれてもいいけど、それだともしかしたら私が先生の奥さんになってるかもしれないよ」


 そんな気はないけど。


「きゃっ……」


 マリノーが蹲る。

 あ、今私を殺そうとか思ったな。

 そうはさせない。罠カード「死の恐怖」発動!

 これは他人へのヤンデレ衝動を強制的に打ち消す効果のカードだ。


 マリノーは蹲った状態のまま、私の顔を見上げた。

 涙の滲んだ目で、それでも私を睨みつける。

 うお、死の恐怖に耐えている。

 マリノーは思っていたよりも心が強いらしい。


「冗談だよ。そんなつもりはないから」

「そう……ですか」

「でも、方法がないと思うのは本当だ」


 彼女は暗い表情のまま立ち上がる。


「……想いを伝えたとして……。想いを伝えてしまったら、もう今まで通りに接する事ができないかもしれないじゃないですか」


 力なく、彼女は言葉を漏らした。


 想いは伝えたら壊れちゃうわけだ。


 そうだね。

 今のかすかな幸せすら壊れてしまう。

 そう考えてしまうと、告白する事は怖いよね。


「うん。だから、私は提案するだけだ。選ぶのはマリノーに任せるよ。私には所詮、色恋の話なんてわからないからね」


 私の知っているイロコイなんて……。

 まぁ、その話はいいや。


 私はマリノーの目をじっと見た。


「でも、結局恋なんて、気持ちを伝え合う以外に成就する方法なんてないんじゃないかな」


 マリノーは私から目をそらした。


「そういう……ものでしょうか?」


 迷いを多分に含んだ言葉が返される。


「だから、私には色恋なんてわからないってば」


 所詮、私なんて累計三十年以上の喪女だし。

 あ、でも今回は婚約者がいる。

 やった、私もう喪女じゃないのかも!


「決めるのはマリノーだ」

「…………」

「でも、もしマリノーがどんな方法を選んでも、私は自分のできる限り協力するつもりだから」


 マリノーは答えない。

 私は彼女に背を向けた。

 伝える事は伝えた。

 あとは彼女の決断を待つだけだ。


「……ありがとう、ございます」


 礼の言葉を背中に受けて、私は振り向かないまま手を振った。


 さて、どうなるかな?

 私は自分の考え得る限りに考えて、今の案を出した。

 あとは、彼女次第だ。

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