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二十四話 消えたルクス

二十二話 消えたルクス


 王城のタイプビッテンフェルトを倒し、関節と水晶を外した。

 その時、一人のタイプビッテンフェルト着用者が意識を取り戻した。


「な……これは……」


 彼は周囲を見渡し、自分を取り巻く状況に呆然とする。

 どんな状況かと言えば、仲間が全員倒れており、自分も関節を外されて身動き取れなくなっている状態である。


 周囲に目を向けた後、タイプビッテンフェルト着用者は私へ目を向けた。


「貴様もタイプビッテンフェルトを着ているな……。同じものを着ているはずなのに、どうして俺達は負けたんだ!? 俺達と貴様、何が違う?」

「ホッケーパッドなど着けてない」

「は?」


 いや、彼がホッケーパッドを着けているわけじゃないけど。

 言いたかっただけ。


 そんな時だ。


「あんた」


 倒されていた兵士の一人が起き上がって声をかけてきた。

 見ると、ジャックさんだった。

 父上と一緒に残って戦っていたのだろう。


「連中は……?」

「全員倒した」


 答えると、ジャックさんは安心したように体の力を抜いた。


「無事なようだな、ジャック」


 父上が彼を見て言う。


「あっしも死んだと思いましたよ。どういうわけか生きてやすが」


 カラスのおかげだろうか。

 彼女は、この王都で一切の死者がでないようにすると言っていた。

 どういう理屈かわからないが、彼女の権能で致命傷を受けないのだろう。


「動けるなら、気絶した連中の捕縛を頼む。他の奴にも伝えてくれ」

「へい。おまかせを」

「まぁ、無理はしなくていい」

「わかりやした」


 父上がジャックさんに伝えると、玉座の間へ向けて進む。


「おまえもついて来い」

「わかりました」


 促され、私もそれに続く。


 扉を開けると、玉座の間には王様を始めとした国の中枢に位置する偉い人達、フェルディウス公や王妃様の姿がある。

 王妃様はどことなくアードラーに似ていた。

 親戚らしいので当然だろう。

 縦ロールがアードラーよりゴージャスである。


 そして母上とイェラの姿があった。

 イェラは私に向けて嬉しそうに手を振っている。


 小さく手を振り返してから、私は父上と共に王様の前で跪く。


「陛下。狼藉者は排除いたしました」


 父上が王様に言う。


「うむ。よくやった。攻め入られた時は胆を冷やしたが……。流石はビッテンフェルトだ」


 王様は父上と私を見回して言った。

 父上だけでなく、私達二人に対しての言葉だろう。


「だから、お止め申し上げましたのに……」


 フェルディウス公が王様に言う。


「王として、御身を危険にさらす行為は控えていただきたい」

「うむ、すまなかったな。その忠言は心に刻んでおく」


 王様は素直に謝った。

 確かに、今回の王様の行動は王としてはうかつな行動だろう。

 でも、その行動のおかげで町の治安活動はうまく言っているはずである。


 一人の人間としては素晴らしい行動だ。


 だが、まだ問題は残っている。


「陛下。恐れながら」


 私は口を開く。


「どうした? 申してみよ」

「攻め入ってきたタイプビッテンフェルト着用者は十名。あと一着が未だ残っております」


 そう、一着足りない。

 攻め入ってきたタイプビッテンフェルト着用者達は、影の頭が率いていた。

 そして、その中には復讐者がいなかった。


 つまり、残っているのはあの復讐者だ。


「まだ、脅威は去っていないか」

「一着程度ならば、数で押せば兵士だけでも対処できるかと思われます。しかし、まだ何が起こるかわかりません。油断なさらない方がよろしいかと」

「わかった」

「では、私はこれで……。探し人がまだおりますゆえ」


 イノス先輩とエミユちゃんだ。


「うむ。よろしく頼む」


 王様に言われ、私は立ち上がった。

 一礼して背を向けた。


 イェラに向けて小さく手を上げ、玉座の間を出た。

 廊下を歩く。


「「少し良いかね」」


 廊下を歩いている時、アルマール公からの通信が入る。


「はい。何でしょう?」

「「第三部隊隊長が姿を消した」」


 ルクス……。


「どういう事ですか?」

「「先ほど入った情報だ。現場で指揮を受けていた者が、隊長の不在で本部に指示を仰いできた。何故、どこへ行ったのか、まったくわからん」」

「あれでいてルクスは真面目です。現場放棄するとは思えませんが」

「「私も同意見だ。母親に似たのだろうな」」


 アルマール公。

 自分が不真面目である事を暗に認めましたね。


「一応こちらも報告しておきます。タイプビッテンフェルトの大半を無力化しました。残りは一着です」

「「ほう、よくやってくれた。流石は特別顧問だ」」

「それで、恐らくその一着を着ているのは例の男……。イノス先輩の怪我の原因を作った男です」

「「奴か……」」


 アルマール公が固い声で呟く。


「あの男は、イノス先輩の身柄を確保しています。ルクスがいなくなったのは、彼が関係しているからかもしれません」

「「イノスが奴の手に落ちているのか……。可能性は高いな。……クロエ・ビッテンフェルト」」


 改めて名を呼ばれる。


「はい」

「「どうか、二人を助けてやってくれ」」

「私の持てる全てを以って、事に当たります」

「「頼む」」

「はい。……それから、暴動はどうなっていますか?」

「「陛下が兵士を送ってくれたおかげで、もうすぐ鎮圧できそうだ」」

「そうですか」


 よかった。


「「では」」


 通信が切れる。


「「ルクスさんが消えましたか……」」


 先輩の声が聞こえる。


「多分、あの復讐者に呼び出されたんだと思います」

「「奴ですか」」


 前にも同じ事があったから。

 昔、あの男はイノス先輩を人質に取ってルクスを呼び出した。


 それと同じ事が起こっているんじゃないだろうか?


「だから、今いる場所もなんとなくわかります」

「「そうなんですか?」」


 今回、あの男がルクスを監禁していた場所はスラム街の時計塔だった。

 何故あの場所を選んだのか……。

 私には、昔あった事をなぞらえての行動なんじゃないかと思えた。


 だとすれば、あの男がルクスを呼び出す場所は決まっている。


「今から、そこへ向かいます」

「「はい」」


 急がなくちゃならない。


 外へ出た私は、脚部装甲と化した黒嵐をバイク形態へ変形させた。

 跨り、ハンドルを回した。




「「クロエさん。こうしていろいろな科学的物品が作れるようになったわけですが、何か作ってほしいものとかあります?」」


 バイクでの走行中、チヅルちゃんが訊ねてくる。


「炊飯器がほしい」

「「何でまた……」」

「炊飯器は便利なんだよ。まずお米が炊けるでしょ? ふかし芋が作れるでしょ? あとホットケーキが作れる。超万能」

「「まぁ、便利ですけどね。もっと兵器的な物を要求されると思ってました」」

「私を何だと思っているのさ。一応主婦なんだぞ」


 アルディリアの作る飯の方が美味いけどな!


「それにしても、ちょくちょく私達だけにしかわからない話が出てるのに、先輩は全然反応しないね」

「「そうですね。実は薄々感づいていて、黙ってくれているのかもしれません」」

「実際、どうなんですか? 先輩」


 私は無言だった先輩に訊ねた。


「「まぁ、あなた方の存在についていくつか仮説はありますが……。でも、あなた達が今まで秘密にしてきた事です。暴きたてようとは思いません。知的探究心を満たすよりも、私にとってはあなた達との関係を維持する方が大事だと判断しました」」

「そうですか」


 それだけ好感度を持ってくれているって事かな?

 ……いや、ただ黙って飼い慣らしていた方が技術の恩恵を受けられると判断している可能性もあるな。


「「ふふふ」」


 どっちだろう?

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