閑話 仮面騎士BLACK W 第一話「白と黒の仮面騎士」 Bパート
白狼騎士に変身した俺は、怪物の前へ立ち塞がった。
後ろには、傷ついたヤタがいる。
できれば、彼女を手当てしてやりたい。
今の俺ならば白色を使えるかもしれない。
だが、その暇はなさそうだった。
蹴り飛ばされた怪物が、立ち上がる。
怪物は今にも襲い掛かって来そうだ。
先に倒してしまう必要があった。
なら、さっさと片付けてやる。
「かかってこい!」
「グラアァァァァ!」
叫びを上げて、怪物が飛びかかってくる。
俺はそれに立ち向かった。
拳と蹴りで応戦する。
腕を噛み付かれた。
しかし、白色の鎧のおかげかたいしたダメージがない。
それに、体に力が漲っている。
自分の体だと思えない程によく動く。
噛みつかれた腕を難なく振りほどいた。
さっき俺を殴り飛ばした触手の攻撃も、今は見える。
簡単にあしらわれた事が嘘のように、今は互角に戦えている。
だが、決定力が足りない。
確かに、この白色の鎧は奴に有効なのだろう。
それでも、黒色に対してほど効いていないように見えた。
早く、ヤタの手当てをしてやらなくちゃならないのに……。
このままでは、ヤタが手遅れになってしまう。
そんな焦りが、ミスを生む。
振るった拳の先で、怪物の頭が割れた。
拳が空振りし、割れた怪物の頭が伸びてくる。
胸に鋭利な角と化した怪物の頭が突き刺さった。
「ぐあっ!」
痛みに呻き、その隙をついて頭を触手で殴打される。
俺は派手に吹き飛ばされて倒れこむ。
追撃に飛び掛ってくる怪物。
その体を蹴りつけて、なんとか危機を脱する。
だが、足りない。
こいつを倒すにはまだ、力が足りない。
もっと力が欲しい。
でなければ、ヤタを助けられない。
誰でもいい。
俺に、力をくれ!
彼女を助けられるだけの力を!
俺は切に願った。
「「いいじゃろう。ならば、解き放ってやる。貴様の体に受け継がれし、黒の力を……」」
その時。
俺の願いへ応えるように、そんな声が頭に響いた。
その瞬間、体に異変があった。
体の奥底にある何か。
黒く、熱く、ドロドロとした何か……。
白色とは違う。
正反対の不快感を伴う力……。
心の奥底にある、負の感情が体を蝕む。
これは、黒色……?
心の奥底から湧き出る、黒い力。
それが、俺の体から黒い霧を噴出させた。
霧が、体に纏われていく。
白い鎧を蝕み、互いに対消滅を繰り返す。
互いに侵食し、やがて一つに解け合った。
気付けば鎧の色が、白と黒のコントラストになっていた。
形状も少し変わっている。
そして、俺の体に白狼騎士以上の力が宿っているのがわかった。
「これなら、いける!」
新たな力を得て、俺は怪物へ向かっていく。
蹴りつけると、怪物の体が蹴りの威力で裂けた。
「グギャアアァ!」
怪物が悲鳴を上げる。
そのまま畳み掛ける。
今まで苦戦していたのが嘘のように、俺の攻撃は怪物に効いた。
「トドメだ!」
右手に白色を、左手に黒色の力を集め、怪物へ向けて放つ。
手から放たれた白色と黒色は螺旋を描いて飛び、怪物へと命中した。
怪物は力の奔流に巻き込まれ、跡形もなく消滅する。
「勝った……」
終わった。
そう思うと、力が抜けそうになる。
けれど、へたり込みそうになる膝へ渇を入れる。
まだ、終わりじゃない。
早く、ヤタの手当てをしないと……。
そう思った時だ。
路地の影から気配がした。
まさか……。
すると、影の中からゆっくりと怪物が出てくる。
さっきまで戦っていたものと、同じ怪物だ。
「まだ、いるのか……」
構えを取る。
しかし、怪物はその一匹だけではなかった。
どこからともなく、他に四匹の怪物が集ってくる。
「五匹、だと……?」
今の疲弊した俺に、こいつらを倒す事ができるのか?
だが、やるしかない。
やらなければ、ヤタが……。
その時だった。
上空から何から落下し、怪物の一匹を踏み潰した。
あれは、人?
灰色の鎧を纏った人間だ。
その人物は、踏み潰した怪物へ拳を突き刺す。
すると、怪物が内部から破壊されたかのように爆発四散する。
怪物の体は飛び散ると、黒い塵となって消滅した。
他の四匹の怪物達が、その人物へと殺到する。
やられる!
そう思った刹那。
「クロックアップ」
その人物が口にする。
人とは思えない、歪んだ声だ。
男性かも、女性かもわからない。
そんな声だった。
そしてその人物へ飛び掛った怪物達は、最初の一匹同様に一瞬にして爆発四散した。
それも、四匹同時だ。
何が、あった……?
あの強い怪物をあんなにあっさりと……。
いったい……何者なんだ……?
だが、あの怪物を倒したのならこちらの味方だろう。
何はともあれ、助かった。
その人物は、こちらへ向かってくる。
「あの……」
声をかける。
しかし、無視された。
その人物は俺の横を通り過ぎ、ヤタの方へ向かう。
そして、白色をかけた。
ヤタの怪我が、癒されていく。
ヤタの表情が、和らいでいく。
苦しそうな呼吸が安らかなものに変わった。
よかった。
彼女は助かった。
「ありがとう。たすかっ――」
礼を言おうとした時、謎の人物は振り向き様に俺の首を掴んだ。
爪先だけが地面につく高さへ持ち上げられた。
「ぐっ……何故……?」
「その程度の力では、またお前は傷付ける事になる。誰も守れない」
言葉が心に刺さる。
その人物の言う事は確かな事だった。
俺では、守れなかった……。
謎の人物は放り投げるように俺を解放する。
俺は尻もちをつき、その人物を見上げる。
そして見上げた先、その人物は何も言わずに路地の壁を蹴って上空へ飛び上がった。
残されたのは、俺とヤタの二人だけ。
緊張が解けたからか、俺の体を覆っていた鎧が霧散した。
「んん……」
ヤタが呻き、意識を取り戻す。
「起きたか?」
「アドルフ……? ……な、何だこれは!?」
ヤタは俺に背負われている状態だった。
俺はヤタを背負ったまま、ビッテンフェルト家へ向けて歩いていた。
「起こしたくなかったからな」
「おろせ!」
「そう言うな。お前は、大変な目にあったばかりなんだから」
その言葉で思い出したのか、ヤタはハッと息を呑む。
「あの怪物……! どうなったんだ? 逃げてきたのか?」
多分、あれがまだ町にいるかもしれない事が心配なのだろう。
「いや、あれは倒されたよ」
「そうなのか? お前が?」
「いや、違う。誰かが、助けてくれた」
「なら、よかった」
安堵の溜息が聞こえた。
俺は、全てを話さなかった。
何故なら、これから俺はあの怪物と戦おうと思っていたからだ。
「誰も守れない」
俺の中では、あの人物の言葉が渦巻いていた。
それはこの王都の人々であり、そしてヤタの事でもある。
きっとあの怪物は、まだこの王都のどこかに蔓延っているに違いない。
そしてまたどこかで誰かが被害に合うのだ。
それを防ぎたいと思った。
もう二度と人を傷つけさせない。
……ヤタを傷つけさせない。
そう心に誓ったのだ。
そして俺の決意を知れば、彼女はきっと手伝おうとしてくれるだろう。
だが、そんな危ない目には、合わせたくない。
もう絶対に、彼女を傷付けさせたくないのだ。
そう思ったから、全てを話さなかった。
「……それはいいとして、さっさとおろせ!」
急に思い出したように、俺の背中で暴れだす。
「もう治ってるが、大怪我したんだ。今日は大人しく背負われてろよ」
「だが……」
「いいから」
「……わかった」
思ったよりも素直に応じると、ヤタは首に手を回してきた。
締められるかな? とちょっと怖かった。
「締めないぞ?」
その緊張を気取られたのか、ヤタが囁く。
「わかってる」
「本当か?」
「本当だよ」
そのまま、ヤタは大人しくなる。
そうしてヤタの温もりを感じながら、夜の道を歩いた。
もう二度と、この温もりを損なわせはしない。
俺はそう思い、決意を一層固くした。
白色と黒色は対消滅するのに、合わせたら鎧が消滅するんじゃないの?
という心の葛藤を覚えながら、展開重視で書きました。
でも、水と油も乳化すると混ざり合いますからね。水と油は互いに対消滅しないけれど……。
そんな感じで納得していただければ幸いです。
前のあとがきで書き忘れていたのですが。
ヤタのフックはアルディリアの性質があるので、当たった後にも威力を増してメキメキとダメージを与えながら撃ち抜かれるフックです。鋭い痛みがゆっくりきます。
それから、明日と明後日は更新できないので今日はもう少し投稿致します。




