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閑話 クロエのパーフェクトさんすう教室

 ミスとエミユの一人称を修正致しました。

 すんごい恥ずかしいミスをしてしまいました。

 ご指摘、ありがとうございます。

 その日、ルクスがエミユを連れて当家へ訪れた。

 私に、計算を教えてもらうためである。


「こんにちは」

「おう、クロエ。今日は頼むな」

「うん。任された。それにしても、付き添って来たんだね」


 いつも一人で来てるから、わざわざ親が来る必要もないと思うんだけど。


「言いたい事はわかるぜ。勉強目的だと絶対にばっくれるだろうからな。かと言ってイノスの言う事を聞かないし、イノスじゃ本気で逃げたエミユを捕まえられないからな。だから、俺が連れて来た」


 イノス先輩は足が悪いからね。


 確かに今日のエミユちゃんは憮然としている。

 勉強嫌いなんだね。


「じゃあな。借りは今度返すぜ」

「別に構わなくていいよ」

「そう言うなよ」


 そう言って笑い、ルクスは帰って行った。


「さて、勉強を始めようか」

「はぁ? あたしはあんたの事を認めてないんだぜ。そんな奴から勉強なんて教わるつもりはないぜ。父ちゃんが一緒だったから大人しく従ってきたが、もういないから従うつもりはないぜ!」


 この期に及んで?


「まぁ……いいから行こう」

「行かねぇよ! あたしに勉強させたかったら、無理やりにでも捕まえてみな!」


 エミユちゃんがにげる。

 しかしまわりこまれてしまった。


「ええ!」


 追いつかれたうえに回り込まれるとは思わなかったのか、驚いたエミユちゃんは空中へ逃れようとする。


 空中のエミユちゃんの進行方向を見切り、首と足に手を回してアルゼンチンバックブリーカーの体勢で拘束した。

 締め付けないように拘束だけだ。


「離せー!」


 そのままリビングまで連れて行った。


「どういう状況なんです?」


 私の肩の上でじたばたしているエミユちゃん。

 その様子を見て、リビングにいたヤタが呆れた声で問う。


 ヤタはリビングのテーブルの前におり、テーブルの上には勉強の準備が整っていた。


「勉強が嫌で逃げ出そうとしたから強引に連れてきた」

「そうですか」


 エミユちゃんを床に下す。


「あたしは絶対に自分の信念は曲げねぇ!」


 そのカッコイイ台詞はこんな状況で言うものじゃないよ。


「絶対に勉強なんかするもんか!」

「エミユ。いいからやるぞ?」

「ヤタ先輩!?」


 そこで初めて気付いたらしく、エミユは驚いた。


 そして、素直に頷いた。


「……はい」


 自分の認めた相手には素直なんだね。




「さて、それじゃあ問題を一緒に解きながら教えていこうか」


 私は、予め用意していた自作の問題集を出した。


「……」


 エミユちゃんは私から目をそらして無視する。


「エミユ」

「……はい」


 ヤタが名を呼ぶと、エミユは渋々ながら問題集に向かい合う。


 最初の問題は「1+1=」だ。

 流石に簡単すぎるだろうが、軽いジャブとして。


「???」


 エミユは大層悩みだした。

 どうしてそこで悩む?


「どうした? その問題は前にも教えただろう」


 この問題についてわざわざ教えてあげたのか、ヤタ。


「憶えてるぜ。答えは「2」だって言うんだろう?」


 算数の答えは憶えるものじゃないよ。

 導き出すものだよ。


「でも、やっぱりおかしい気がするんだ。「1+1」は本当に「2」なのか?」


 なんか哲学的な事考えてる?


 しかし……。

 かつて、エジソンは1+1は2ではないのではないか、という疑問を持った事があるという。

 それと同じ考え方……。

 こいつ、天才か……。


 ついでに言うと、あるプロレスラーも同じような事を言っていたという。


 十倍だぞ、十倍!


 まぁ、今はそんな考え方をされても困る。

 しかし、そもそもこの子は「算数とはなんぞや」という根本的な部分から教えなければならない気がする。

 何か、彼女に算数の本質がわかる教え方はないだろうか?


 しばし考える。


 好きなジャンルと組み合わせればあるいは……。


「エミユちゃん」

「何だよ?」

「ヤタとエミユちゃんの前に、五人の闘技者が立ち塞がりました。五人はそれぞれ二人と同じくらいの強さで、戦えば相打ちになって倒れてしまいます。ヤタとエミユちゃんがその闘技者達と戦った場合、戦いが終わる頃には何人立っているでしょう?」


 私の問いに、エミユちゃんが神妙な顔で考え込む。

 おもむろに答えた。


「……二人」


 惜しい!


「違うよ。正解は三人」

「何でだよ? あたしとヤタ先輩が全員倒すから二人で間違いねぇだろ!」


 いやいやいや。


「みんな同じくらいの力だから、戦ったら相打ちになるって言ったでしょ?」

「あたしとヤタ先輩二人が力を合わせたら、同じ実力の五人ぐらい簡単に倒せるぜ。1+1は2じゃねぇよ! あたしと先輩が力を合わせれば、その力は無限大だぜ!」


 プロレスラーの方だったか。


「それに、戦いってのは何が起こるかわからねぇ。一対多数でも、一の方が多数に勝っちまう事だってあるじゃねぇか。同じ力同士の二人が戦ったって、相打ちじゃなくて一方が勝っちまう事の方が多いだろ」


 正論だし……。

 戦いの世界は死狂いだからなぁ。


 うーん、どうしよう……。

 思った以上に、教えるのが難しいぞ。


 もっとわかりやすい問題はないかな?


 ……よし、今のは問題に使った相手が悪かったんだ。

 この子は自分の認めた相手以外を軽んじる所があるみたいだから、問題には彼女の認めた相手だけを使おう。


「じゃあねぇ。ビッテンフェルト公とエミユちゃんが戦った場合、エミユちゃんは勝てる?」

「絶対勝てねぇよ」

「ヤタと一緒だったら?」

「まぁ、ヤタ先輩と一緒だったら互角ぐらいかもしれねぇけど」

「つまり、ビッテンフェルト公の力はヤタとエミユちゃん二人と同じって事だね。じゃあ、ヤタとエミユちゃんの力って一桁の数字で表すとどれくらい?」

「えーとそうだな。ヤタ先輩が九で、あたしの方がちょっと弱いからあたしは八くらいだな」


 九と八。

 うーん、数字が大きい。

 大丈夫かな?


「じゃあ、二人の力がそれぞれ九と八だとすれば、それと互角に渡り合えるビッテンフェルト公の力はいくつ?」


 ぶっちゃけ、やってる事はただの文章問題と同じだ。

 リンゴとミカンの数を合わせると全部でいくつでしょう、って問題と変わらない。


 好きなもので考えればと思ったけど、多分これはわからないだろうなぁ。

 繰り上げとかあるし。


「十七だ!」


 何ですぐわかったし?


「正解」

「やったぜ! 計算出来た!」


 正解したとわかったエミユちゃんはとても嬉しそうだった。


「うんうん、よかったよかった」


 まぁいいや。

 できてるし。


「計算する時は、そういう風に考えればいいんだな?」


 問いかけへの答えに詰まった。

 なんて答えればいいのかわからなかった。


 どういう風に考えて答えに行き着いたんだろう?

 不思議でならない。


 しかし、それからもエミユちゃんは同じように問題を解いていった。


「チヅル先輩と三回連続で戦った時は、だいたい二戦連続で負けるけど三戦目はチヅル先輩が疲れ始めるから勝てる! 「3−1」は「2」だ!」


「オルカは魔法を連続で四発飛ばしてくる。あたしはその内二発まで避けられるけど、残りの二発は避けられなくてガードするしかない。避けるのとガードするのが一回ずつだから「2÷2」は「1」だ!」


「ヤタ先輩には、十回やって十回とも負けちまう。一回も勝てねぇから「10×0」は「0」だ」


 合ってるし……。

 理屈がよくわからんけど。


 そんな感じで私はエミユちゃんに計算を教え(?)、時間は過ぎていった。

 ほどなくして、エミユちゃんとの勉強が終わる。


「あんたすげぇな! 流石はヤタ先輩の母ちゃんだぜ」

「当然だ」


 ヤタが嬉しそうに胸を張る。


「あたし、自分が計算できるようになるなんて思ってなかったぜ」


 そう言って、キラキラと輝くような笑顔でエミユちゃんは私を見る。


「エミユちゃんが頑張ったからだよ」


 この言葉は謙遜でもなんでもない。

 本当に、今日はあんまり何かを教えた気がしない。


 最初の問題以外は、独自の理論で問題を解いていたし。

 しかも全問正解だ。


「計算って、楽しいもんなんだな」

「そう思ってもらえたならよかったよ」

「……今なら、あんたの事認めてもいいかもな」


 へへ、と鼻の頭を指で撫でながら、照れたように言う。

 こんな事で認められるとは……。


 でも、この子からそう言ってもらえるのは悪くない。

 素直ないい子じゃないか。


 その後、彼女の計算の成績はメキメキと上がり、テストで学年一位を取ったらしい。


 アルマール家から、大量のお礼の品を貰った。

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