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後日談 発現

 神々の戦い編はこれで終わりです。


 内容とあとがきを修正致しました。

 ご指摘、ありがとうございます。

 ビッテンフェルト家。

 ゲーム部屋。


「すげぇ! 小足を低空必殺技で避けやがった!」

「「ふっふっふ。今の私は1フレームを六十分割で認識する事ができる!」」


 私は筐体で「ヴィーナスファンタジアSE」をプレイしていた。

 対戦プレイである。


 相手はとても強く、さっきから連敗している。

 勝てる事もあるが、本当に数えるほどだ。


 そんな時、ドアが開いてチヅルちゃんが入って来た。


 筐体を見て、チヅルちゃんは首を傾げる。


「あれ? 一人なんですか?」

「まぁ、見た通りだよ」


 私の反対側の席には、誰も座っていなかった。


「誰かと対戦していたんじゃないですか?」


 言いながら、チヅルちゃんは筐体の画面を見る。


「クロエさん。めっちゃ連敗してるじゃないですか」

「相手が強くてね」

「いないじゃないですか」

「まぁ、そうだね。ここには、私しかいなかった」

「?」


 チヅルちゃんは不可解そうな顔をする。


「それで、私に用ってなんですか?」


 チヅルちゃんが訊ねる。

 彼女は、私が呼び出したのである。


「チヅルちゃんに、ちょっと話しておきたい事があってさ」

「何ですか」

「話をしよう。あれは今から四日……いや、五日ほど前の事だったか……。まぁいい、私にとってはつい数日前の出来事だが、君にとっては多分明日の出来事だ。こんな説明で大丈夫か?」

「大丈夫です。問題ありません」


 チヅルちゃんがそう答えたので、私はここ数日の出来事。

 正確には、何度かループした時間での出来事を話した。


「私の知らない所で、そんな事が。じゃあ私、何度か死んでるって事ですね」

「神は言っている。ここで死ぬ定めではないと……」

「ありがとうございます。武神クロエ様。あなたのおかげで死なずにすみました。正確には、何度か死んでいるのでしょうけど」


 チヅルちゃんは深々と頭を下げた。

 うむ、苦しゅうないぞ。 


「それにしても死の女神カラス、ですか。もしかして、次回作のプレイアブルキャラクターだったりするのでしょうか?」

「それはわからないけれどね。で、本題に入るんだけど……」

「これが本題じゃなかったんですか?」

「ちょっと面白い事になっちゃってね」


 私は椅子から立ち上がり、奇妙なポーズを取った。

 その直後、私の体からそのポーズに呼応するかのようにこれまた奇妙なポーズを取った半透明のが飛び出した。


 バ―――z―――ン!

 という感じである。


「「ドヤァ!」」


 私から飛び出た私が叫ぶ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と心の中で擬音を演出する。


「これはいったい!」


 チヅルちゃんも奇妙なポーズで驚く。

 よく咄嗟にリアクションが取れたな。

 実はあんまり驚いてないんじゃない?


「これを見てくれ。こいつをどう思う?」

「すごく……奇妙です……。で、どうしたんです? これ」

「何か、昨日からできるようになったんだよ。カラスが去ってから、しばらくして勝手に出てきた」

「へぇ」

「これ、どういう事だと思う? 本人に聞いてみたけどわからないって」


 ねぇ?


 もう一人の私が頷く。


「シュエット様とトキに聞いてもわからないって」


 ちなみにトキは今、当屋敷に滞在している。


「姿からして、女神の私だと思うんだけど……」


 もう一人の私は、黒い鎧姿だ。

 何かアクションゲームであるような、スタイリッシュ重視の謎鎧って感じのデザインだ。


 妙な露出が所々にある。


 これって、やっぱり私の意識がカッコイイと認識するデザインから作られたんだろうか?

 実際、カッコイイとは思うし……。


 ……冷静に見ると、三十台でこの格好はきついなぁ……。

 特にヘソの辺りを直視できない。


「いい歳こいてすごい格好ですね」

「ははは、こやつめ」


 私も思ったけど。

 他人に言われるとちょっと嫌ね。


「なんか、角が生えてた形跡がありますね」


 武神クロエのおでこには、二つの小さなでっぱりがあった。


「あ、本当だ。角が生えてたけど、斬り落とされた感じの跡がある」

「これ、何なんでしょう?」


 本当にこれ何なんだろう?

 わけがわからないよ。


「もしかして、このスタン……武神クロエが発現した時間って、カラスと戦って死んだ時間と同じ時間だったとかありません?」

「どうだろう……。正確にはわからないけど、そんなもんだった気がする」

「じゃあ、そのせいじゃないですかね?」

「どういう事なの?」


 チヅルちゃんが説明してくれる。


「多分、クロエさんが神になった時点で、その事象が確定してしまったんですよ。もしかしたら、クロエさんがその現象を観測した事がきっかけかもしれません」

「だから前の時間で私が女神になった時と同じ時間に、女神である私が生まれる事になるって事? でも、観測しただけでは未来が確定しないかもしれないよ」


 現に、私はヤタに嫌われる運命を変えた。


「ええ、憶えています。でもどちらにしたって、起こってしまっている事ですし。まぁ、あくまで仮定として聞いてください」

「わかった」

「クロエさんが女神になったきっかけはカラスによってもたらされた死です。でも神の行動は運命や時の概念に縛られないため、クロエさんの死という結果は確定しません」

「そうだね」


 トキも言っていた。

 死んだ人間の時間を戻して蘇らえさせても、巻き戻した時間が尽きれば人はまた死ぬ、と。

 でも、その死因が神によるものだとすれば時間が尽きても死なない可能性がある。

 それは、神が運命や時の概念に縛られないためだ。


 だから、それと同じ理屈で私の死が確定しないという話だろう。


「でも、新しい女神の誕生は人間であるクロエさんの行動による成果であり、生まれるまでの過程が人間の起こした行動による物なので確定された未来として反映されるわけですよ」

「難しいけど、なんとなく理屈はわかる。……かな」


 えーと、つまり……。

 武神クロエが生まれた原因は、私がこれまで旅先であらゆる人から敬われる存在になったからだ。

 その結果、信仰心を得た事で成神となった。

 これは、人間としての私が行った行動の結果で神になったという事だ。


 人間は、運命や時の概念に縛られるため、神になる事は運命的に確定された事である。

 そういう事かな?


「なんか、あんまりわかってない感じですね」

「そ、そんな事ないよ?」

「本当ですか?」


 懐疑的な目で見られる。


「ほんとほんと」

「じゃあ続けますけど。クロエさんは、トキに時間を戻されて死んだはずの自分の身体に意識が戻る現象を体験したんですよね?」

「うん。そうだよ」


 トキが死体の時間を戻した瞬間、私の意識は一瞬にして人間としての身体の方へ戻った。

 その現象の事を言っているのだろう。


「それは時間を戻されて魂が戻ったという事だと思うんです。つまり、武神クロエはクロエさんの魂が転じたものだと思われます。それは、クロエさんが死んだ後に武神になった事からもうかがえます」


 死ぬ事で、私の魂は武神になるのか。


「それで?」

「クロエさんにスタン……武神クロエが発現した仕組みの話に戻しますけど。

 クロエさんの死は確定していませんが、女神の誕生が確定している。

 その際、本来ならばクロエさんの魂が女神に転ずるはずが、クロエさんが生きているので転じる事ができないという矛盾が発生するんです。その結果」

「結果?」

「その矛盾を解消するため、クロエさんとは別の存在として記憶を継承した新たな魂が生み出されるに到ったという事ではないでしょうか?」

「新たな魂……」


 そうなの?

 と、武神クロエを見る。


 わからない。

 というふうに首を横に振った。


「分け御霊というやつでしょうかね?」

「それって、神様が人間に化身する時とかに自分の魂をわけて使うってやつだよね」

「今風に言えば、アバターですかね」


 それ本当に合ってる?


「今の私の状態がそれだ、と?」

「あくまでも、仮定ですけどね」


 ふうん。

 そんなもんなのか……。


 アバターか……。

 よし、今日から君はクロエ・ジ・アバターだ。

 そっちの方がそれっぽくてカッコイイ。


「ありがとう。なんとなく、納得はできたよ。でさ、この私のスタン……アバターと一戦やってかない?」

「今のクロエさんに手も足も出ないのに、女神になったクロエさんが相手じゃワンパンでしめやかに爆発四散しますよ」


 アイエエエーッ!


「ゲームの話だよ」

「それなら――」

「私じゃ、ほとんど勝てなくてね」

「やっぱりやめときます」

「チャレンジしようよ。若いんだからさ」

「魂の年齢は三十超えてますよ」

「大丈夫。女は三十過ぎてからだ」


 魂の話なら、私なんて五十過ぎだぞ。


 その後、私とチヅルちゃんでもう一人の私に挑んだが、一本も取れなかった。



「ねぇねぇ、チヅルちゃん。見ててね」


 言って、私は寝そべった。


「何が始まるんです?」


 少なくとも第三次大戦ではない。


 仰向けに寝そべって、目を閉じる。


「ゆ〜たいりだつ〜」


 私の体から、武神クロエが上体を上げた。


「ブハハハハ」


 チヅルちゃんに大層受けた。

 乙女にあるまじき大笑いだ。


「そういえば、ヤタはどうしてるんですか? 一緒にゲームしてると思ってたんですけど」

「リビングでアドルフくんとイチャイチャしてるよ」


 今日は、私がヤタに嫌われた例の日だ。


「ああ。だったら邪魔できませんね」

「下手すれば怒らせちゃうしね」

「ははは」

「子供ってのは、親よりも大事な人間ができてしまうものなんだね」


 あまり、長い時間を過ごせたわけではないけれど……。

 このまま、私との交流も次第に減っていくのかもしれない。

 私を必要としなくなっていく……。

 そして、離れていくんだろう。


 あの甘えん坊だったヤタが、私から離れていく、か。

 喜ぶべきなのかな。

 親としては。


「寂しいですか?」

「ちょっとね。でも、いいよ。今日構ってもらえなかった分、明日は構ってもらうから」


 明日は、家族で町へ遊びに行く日だ。


 劇を見て、美味しい物を食べて、買い物をするのだ。


 本当に何の憂いもなく、楽しめる一日になるだろう。


 待ち遠しい。

 早く、明日が来ないかな……。


 私は明日の楽しい時間に、思いを馳せた。




 王都の広場。


 母親から離れ、一人の少女が広場を走っていた。


「おっと、あぶないよ」


 そんな少女の手を掴む。

 少女は驚いて、私を見上げた。


 その間に、彼女の後ろを一台の馬車が通り過ぎて行った。

 馬車の巻き上げた風が、少女の背を押した。


 その風の強さに、少女は驚いた。


「今みたいな急いだ馬車に轢かれるかもしれないからね」

「うん。ごめんなさい」

「いい子だ。飴をあげよう。ほら、口開けて」


 開かれた少女の口に、飴を入れる。


「あまーい」


 少女は幸せそうに微笑んだ。


「ありがとう」


 笑顔でお礼を言われる。


「じゃあね」


 私はそう言って、彼女から離れた。

 クロエにはずっと生きていてほしい。

 でも、人間としての生を全うして人間として死んでほしい。

 という相反する気持ちが著者にあり、ちょっと無理やりではありますがこんな形になりました。


 武神クロエ 破壊力A スピードA 射程距離C 持続力A 精密機動性B 成長性A


 能力 強い。

 完全自律型近距離パワータイプ。

 クロエに意思に関係なく自由に行動するが、クロエ本体からあまり離れる事はできない。

 神なので止まった時の中を動ける。

 運命は勿論、時の運命を変える事もできる。

 集中すれば、1フレームを六十分割して体感する事ができる。

 未だ信仰の形が確定しておらず、神としての力はまだ弱い。

 ゆえに、成長性は高い。

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