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エピローグ 死の運命を超えて

 気付けば私は、王都の広場にいた。

 広場には人々が行き交い、商店や食べ物屋の多く並ぶ広場は賑わいを見せていた。


 普段通り、それぞれの生活を営んでいる。

 そんな様子だ。

 そこには死の影などまったくない。


 平穏だけがそこにある。


 私はその光景をテラスの席から眺めた。


 目の前には、テーブルに置かれた空の皿がある。

 これは、カラスを待っている間に食べていた料理だ。


 私は自分の手の平を見て、体を見る。

 あの時のように、力が無尽蔵に湧き上がる感覚は無い。

 今の私は、神じゃなくなったのだろう。


「どういう事だ?」


 声をかけられる。

 そちらを見ると、カラスがいた。


 その顔に笑みはない。

 余裕はなく、真剣な表情だ。


「君の運命に、死が見えない。今までは、君の死が見えたのに。今、急に君の死が見えなくなった。こんな事は、ありえない……!」

「どういう事だと思う?」


 私は不敵に笑いかけた。




 それはこの時間から見て、数時間後の事になるだろう。


 カラスを倒した私だったが、カラスはアールネスの人間を滅ぼした。

 神になった私は時の概念から外れ、もうトキの力で過去へ戻る事もできなかった。


 もう、二度と家族の生きた時代には戻れない。

 もう、二度と家族と会えない。

 そう気付いた私は、絶望に沈んだ。


 そんな時だった。


「……何とかなるかもしれないよ」

「え?」


 トキの言葉に、私は顔をあげる。


「こんな事、やった事はないけれど……。まぁ、やってやれない事はないだろう」


 言いながら、トキはある方向を向いた。

 私も同じようにそちらへ向く。


 そこには、一人の女性の死体があった。


 それは、クロエ・ビッテンフェルト。

 私が捨てた、人間としての私の亡骸なきがらだった。


 トキは私の亡骸へ近付くと、触れる。


「この体は、人間のものだ。だから、僕の力が作用するはず……」


 トキが言うのと同時に私の意識が一瞬だけ途切れ、気付けば私の目の前にはトキの顔が大きく映し出された。


「え?」

「成功だね。君の身体を生きている時まで戻したんだ」


 つまり、私が死ぬ前。

 神になってしまう前だ。


「そんな事もできるの?」

何分なにぶん初めての事だから、確実にできるかはわからなかったけれどね。ただ、思った通り人間に戻ったら神じゃなくなったね」


 トキは微笑みかけた。


 この力があれば、他の人達も……。


「でも、時を戻した所で、戻した分の時間が過ぎればまた死ぬけどね。一度決まった時の流れを変える事は基本的にできないから」

「そうなの?」


 それじゃあ、みんなを助けられない。

 それに、私だって時間が経てばまた神に戻ってしまうという事だ。


「あ、でも君の場合はどうなんだろう? 神の行動は時に縛られないから、死因が神の場合は時間が経っても死なないのかな? どう思う?」

「わかんねぇっす。でも、そうだったとして、何も解決しないんじゃ……」

「そうでもない。さっきも言った通り、神の行動は確定されない。王都の誰しもがカラスの力で死んだのなら、私の力で生き返らせる事ができるかもしれないからね」

「じゃあ、アールネスのみんなを生き返らせる事もできる?」

「できると思う。でもやらない。面倒だからね」


 せーへんのかい!


「僕の力でこの国の人々を蘇らせれるか。重要なのはそこじゃない。今の君は神じゃない。それが重要なんだ」

「え?」

「今の君なら、時の概念の中にある。神の権能も通用するはずだ」

「つまり?」

「君の意識を過去へ戻す。そうすれば、元通りだ」




 そして私は、過去へ戻った。

 トキを復活させ、カラスへ戦いを挑みに行く最中の事だ。


「どういう事だと思う?」


 私はカラスへ、不敵な笑みを向けた。


「……なるほど。死の見えない存在など、一つしかない。君は、神になったんだな?」


 カラスは、私を睨みつけた。


 ここで、戦う気か?

 緊張が走る。


「つまらないな……」


 しかし、カラスはそう呟いた。

 あっさりときびすを返す。


「神が神の領分を侵すなら、罰する理由がないじゃないか」


 そのまま、私から離れていく。


 口振りからして、諦めてくれたんだろうか?


「いい退屈しのぎだと思ったのになぁ……。一年、無駄にした気分だよ」


 去り際になんか、ボソッと言いやがった。

 聞こえたぞ。

 クロエイヤーは地獄耳だ!


 とはいえ……。

 安堵した……。


 少し心配だったのだ。

 時間を遡った所で、カラスが同じ事をするなら意味がない、と。


 トキは大丈夫だろうと言ったが、それはこういう事だったのだろう。


 なら、これで解決かな……。


 ……帰るか。

 家族が待ってるだろうから。


 その後、夜になって。

 聖域で待っていたシュエット様がトキと共に屋敷へ帰ってきた。

 シュエット様から、聖域へ迎えに来なかった事を叱られた。


 そういえば、あの時はシュエット様とトキを聖域に待たせていたんだった。

 完全に忘れてたよ。


 トキと二人きりで長時間放置された事が余程嫌だったのか、その怒り様は大変凄まじかった。

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