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閑話 黒と千鶴の金儲け

 最近、別のものを書いていたのでリハビリがてら書いていきます。

 ビッテンフェルト家。

 ゲーム部屋。


「クロエさん。女児向けの劇とか作りませんか?」

「パードゥン?」


 チヅルちゃんがそんな事を言い出した。


「何でまた、唐突に」

「あれですよ、ほら。異世界転生ものでよくある、現代の知識を活用して一大ムーブメントを起こすっていう」


 何回かやってるけどな、そういう事。

 893……無糸服とか……。


 と、思い浮かぶのがそれだけだ。


 私が作ったの、もしかしてそれだけか。

 変身セットもそれの応用だし。


 思い返せば、せっかく異世界転生したのに敵を倒すぐらいの事しかしていないな。

 私、悪役令嬢なのに……。

 悪役令嬢といえば、婚約破棄されたり、ざまぁしたり、他の攻略対象と恋をしたり、前世の知識で発明したり、ヒロインと仲良くなったり、ヒロインの悪行を暴いたりするものだというのに。

 そんな事もなく、ただ腕力に頼るのみなんて……。

 何をしているんだろうか、私は。


「せっかく元手もあるんですから、大人気ない大人の手による本気の子供だましを作りましょうよ」


 なんてみもふたもない言い方だ。


 ちなみに、元手というのは先日作った格闘ゲーム筐体で得た資金である。


 遊びに来たヴォルフラムくんとアドルフくんに筐体を見せた所。


「この筐体を見てくれ。こいつをどう思う?」

「すごく……儲かりそうです……」


 というような評価をいただいたので、二人を巻き込んで王都の各地で稼動させる事にしたのだ。


 私達はその格闘ゲーム筐体を量産した。

 そしてヴォルフラムくんを通じて王都中の商店と取引して、ゲーム筐体を二台セットで店先もしくは店内に置いてもらうよう交渉したのだ。


 こちらからのレンタルという形の契約だが、レンタル料はタダ。

 売り上げの二割を店側が得るという形になっている。


 ただし、遊ぶための代金は一律銅貨一枚にするという条件だ。

 銅貨一枚の価値は、前世の価値にして約一円である。


 銅貨一枚はこの国の最低賃金だ。

 銅貨を一円として、鉄貨、銀貨、金貨と百枚ごとに価値が等しくなる。


 つまり銅貨百枚で鉄貨一枚、鉄貨百枚で銀貨一枚という具合である。


 さて、ここで銅貨一枚だけで儲けが出るのか? という話になってくる。

 実際、そこで難色を示した商店は多かった。


 私だって、その辺りは少し気にしていたのだが。

 私がゲームを商店に置いてもらおうと思ったのは、元々ゲームを広めたかったからだ。


 銅貨一枚という安価で提供される娯楽。

 それは平民であっても気軽に楽しめるものでもあるという事だ。


 私は格闘ゲームを広めて、強いプレイヤーに育って欲しいという気持ちを持っていた。

 だから、銅貨一枚という値段設定にして広めたのである。


 言わば布教のための利益度外視だ。


 製作に携わったチヅルちゃんとムルシエラ先輩。

 その二人を私のわがままに付き合わせるのは悪いので、生産の費用は全て私持ちである。


 そして結果……。

 王都には平民を中心に、空前絶後の大ブームが巻き起こった。


 筐体には連日長蛇の列が出来て、筐体の設置された商店ではゲーム目当ての客が商品を見る事で売り上げも伸びた。

 結果、店の売り上げにも貢献。

 店も、さらに多く客を呼び込むために複数の筐体をレンタルしたいと申し出るようになった。


 二つセットでのレンタルというのは、対戦台として稼働させるためだ。

 やはり、格ゲーは対戦してなんぼだ。


 そういう意図があっての事だったが、その判断が結果としてゲームの回転率を上げた。

 対戦ならば、一戦で一方のプレイヤーが台を離れ、別のプレイヤーがプレイできるからである。

 そのため、一日で一台の筐体が銅貨三千枚以上を飲み込んだ所もある。


 筐体の値段が前世の筐体と比べて安上がりである事も儲かった要因だ。


 前世における格闘ゲームの筐体は大体二百万円くらいするものだ。

 こちらで作られた筐体は一台作るのに金貨一枚(約百万円)である。

 前世の筐体の原価は知らないが、それでもかなり安上がりなのではないだろうか。


 これは、前世における筐体と比べて構造がシンプルであるからだ。

 こちらの筐体は、ゲームの内容が詰まった基盤に当たる部分を全てモニター部分の水晶と紙で担っている。

 倭の国の技術である絵を動かす技術に必要な魔力溶液。

 それからゲームデータを収めた水晶の部分だ。


 しかし、紙と溶液はそれほどかからない。

 主に、値段が張るのは水晶だけである。

 筐体本体の材質も木だ。

 材料費と木工職人への支払いを合わせても、たかが知れている。


 そして、生産を進めていく内にコストはさらに下がった。


 今まで、ムルシエラ先輩はモニターの水晶に純度の高い物をしようしていた。

 一つ、銀貨八十枚前後の値段の高いものだ。

 けれど、ゲームデータを収める事はそれほど難しい技術ではなく、純度の高い物を使う必要がない事に気付いたのだ。


 水晶というのは、一つの原石を必要な形に削り出して使うのだが、その際に削りだされた余り物の部分がでてくる。

 それらを魔法で固め直して再利用する事もできるが、純度は極端に下がってしまう。

 値段も純度に比例して、極端に下がる。


 だが、その純度の下がった水晶でもゲームは支障なく動くのである。


 その水晶を使う事により、筐体一台の値段が銀貨三十枚(約三十万円)を下回る事になった。


 筐体は電気ではなく、魔力で動く。

 その魔力を補給する人員として、魔力持ちの人間を雇った。

 募集には貴族の次男坊や、領地の経営が芳しくない貴族達が集まり、その人達を雇う事になった。

 その人達には、ゲームのメンテナンス方法などを教え、魔力の補充と点検を担ってもらう事にした。


 そういった諸々の経費はゲームの面白さが広まると、元をすぐに取り戻せた。


 ゲーム筐体を置く店が増え、生産台数も増えた。


 貴族の子弟達の目にも留まり、筐体をワンセット買いたいという話も時折来るようになった。


 このアールネスという国では、平民も貴族もみんな新しく刺激的なゲームという娯楽に食いついた。


 結果として、面白いように儲かった。


 その過程に喜んだ私とチヅルちゃんは調子に乗った。

 新たなゲームを幾つも開発したのである。


 とはいえ、その殆どは前世にあったゲームの違法コピーであったが……。


 儲かったお金で土地を買い、ついにはゲームセンターを作り上げた。

 ゲーム筐体だけが中に並んでいるという店に、ゲーム好きの人間達は魅了された。


 そしてさらに儲かった。


 と、現在絶好調の私達である。

 まるでバブル期のようだ。


 バブル時代なんて知らないけど。

 チンピラを殴るたびにお金が飛び散る時代だったという事だけは知っている。


 そして今は、家庭用ゲーム機の開発を行っている最中だ。


 で、その筐体で稼いだお金が、チヅルちゃんの言う元手である。


「共同出資って形で、ね? どうです?」


 チヅルちゃんが迫ってくる。


 チヅルちゃんとムルシエラ先輩は四割、私は二割という割合で収益は配分されている。

 本当は三割ずつという話だったが、ほとんど二人が作ったものなのだしこの割合が真っ当だろうと私が提案したのだ。


 それでも、十分に莫大な収益になったわけだが……。


「それは構わないけれど、何で女児向けの劇なの?」

「さらに儲けようかと思いまして」

「女児向けの劇は儲かると?」

「クロエさんは、かつて学園の文化祭でヒーローショーをしたらしいですね」


 そんな事もあったね。

 懐かしいなぁ。


「聞いた話によれば、その後劇団からオファーがあったらしいですね。上演権でかなり儲かったと聞きましたよ」


 あの劇の後、確かにオファーはあった。

 その時、劇団がその演目を上演する都度にビッテンフェルト家へ料金を支払われるという契約を結んだのだ。


 あの契約は母上の名義という事にしてもらったので、権利は実家のものである。

 けれど、あの時はしばらくして似たような劇が別の作家によって新たに作られ、上演料が入ってくる事は最近ない。


 でも、ヒーローショーという概念だけは、このアールネスに根付いている。

 年々、新たなヒーローが誕生して子供達を魅了しているのである。


「確かに、一時は儲かったね」

「でしょう? でも、今のヒーローショーは男の子向けの物ばかりだと思うんです」

「だから、女の子向けの物を作ろうと?」

「はい。ほら、前世でもあったじゃないですか。女の子向けのヒーローが」


 確かにあるね。

 月に代わっておしおきするやつやら、プリティでキュアキュアしたやつが。

 女の子だって暴れたいってやつだね。


 あれに倣えば、確かに儲かるかも……。


「でも、話とか考えなくちゃね」

「ふふふ、考えてあります」


 ドヤァ、とチヅルちゃんは笑った。


「へぇ、どんな?」

「主人公は三人の女の子。博士の発明品で変身して魔法の戦士、キュアドラゴン、キュアライガー、キュアポセイドンにそれぞれ変身するんです」

「最終話で「そうか、そうだったのか」とか言い出しそうだね」


 ライガーの必殺技が「目だ! 耳だ! 鼻だ!」なんでしょう?


「他にも、格闘技を嗜んだ少女達が変身した、キュアカラテ、キュアレスラー、キュアカポエラとかどうです?」

「キュアは外せないの?」

「先人に倣った方がうまくいくと思いませんか?」

「訴えられるよ?」

「どこが訴えると言うんです? もう、いっその事テーマパークでも造って、マスコットキャラクターをネズミにでもしますか? ハハッ!」


 妙に甲高い声でチヅルちゃんは笑った。

 ノリノリである。


 もしこの世界がネット小説とかだったら、見えざる強大な力によってこの私達のやりとりが丸ごとなかった事にされるかもしれないよ。


「もしくは、魔法少女とかどうです?」

「魔法少女かぁ。私としてはカードを集める奴が一番印象に残ってるなぁ」


 子供よりも大きなお友達に大人気だったと言われる伝説の魔法少女だ。

 絶対、大丈夫だよ。


「ああ、あれですか。私は世代じゃないんですけど、一応知ってますね。……クロエさんもその世代じゃないですよね?」

「友達が漫画持ってて、それを見せてもらったんだよ」

「私の場合は前世のお父さんが漫画もビデオも全巻持ってました」


 へぇ……。

 人の趣味はそれぞれだよね。


 私の前世のお父さんはアメコミ集めてたよ。

 怪人がカメラを構えて「SMILE!」とか言ってる表紙の奴が、わざわざ見えるように飾ってあったっけ。

 ちっちゃい頃はあの表紙が恐かった。

 今となってはラストのジョークが狂おしいほど好きだ。

 そりゃ主人公かて笑うわ。


「あの魔法少女は劇場版の二作目が好きだね」

「主人公の恋人がガオンッ! されて亜空間でバラバラにされてしまうんですよね」

「そうそう、剣と札を握ったままの両腕だけが残されてね」

「まぁ、それはいいとして……」


 私が話を切る前にチヅルちゃんに中断された……。

 いつもは私の方が切るのに……。

 ちょっとショックだ。


「上演権を売るんじゃなくて、今度は劇団ごと買い取って独占上演しましょうよ」

「うーん、正直今なら安い出費と言えてしまうんだけど。そんなに上手くいくかな?」

「上手く行かなくてもいいじゃないですか。儲けがどうのと言いましたけど、正直に言えば私はクロエさんとふざけ合いながら馬鹿な事して騒ぎたいだけですし。クロエさんと何かするのは、楽しいですから」


 可愛い事言ってくれるじゃない。


 流石は私のスールである。

 今度、ロザリオを作ってあげよう。


「でもあれっぽく、タイトルにちょっと珍しい単語をくっつけるのはインパクトがあるかもしれませんね。ハイランダーとか、ストームライダーとか、ソードマスターとか」


 と、面白半分ででポンポンとアイディアを出し合い、出来上がった女の子向け演劇の構想はできあがった。


 それを友人の伝手で劇団を探してもらい、上演してもらった。


 結果。

 演劇「ポイントゲッター・キュアキュア3」は大当たりした。


 変身して、魔法と闘技を駆使して戦う女の子達の話である。

 アールネスの女の子達はその物語の虜となり、後に売り出されたグッズは飛ぶように売れた。


 その副産物としてか、闘技を習いたがる女の子が増えたという。




 その日も、チヅルちゃんは我が家へ遊びに来た。

 彼女はあまりにもよく遊びに来るので、今は我が家へ顔パスで中へ通される。


 ゲーム部屋にいた私の元へまっすぐ会いに来た。


「うわ、リトル……じゃなくてビッグウィッチだ。しかも二人いる」


 チヅルちゃんは、ゲーム対戦している私とヤタを見て言った。

 最近のヤタはゲームも上手くなって、私もよく負けるようになった。


 今も負けた。

 まさか、ヤタ(ゲームキャラ)の固め二択で投げを狙いと見せかけて弱パンチからコンボに持って行こうとしたら、逆に読まれてクロエ(ゲームキャラ)の当身で取られるとは……。


 流石は私の娘だ。


 と、何故チヅルちゃんが私をビッグウィッチと呼んだかだが。

 今の私が、生前よく着ていた黒と紫のパーカーを着ているからである。

 昔を懐かしんで、なんとなく作ってみたのだ。


 ヤタも同じものを着ている。

 私がプレゼントしたものだ。


 お揃いである。


 ちなみに、パーカーを作る際にジッパーを作ったのだが、この機構を使った服が新しいという事でまた売れに売れた。

 これもまた大ヒット商品である。


「アリアリアリアリッ!」

「うわぁ、ジッパーでバラバラにされるぅ!」


 そんなやりとりをしていると、ヤタが「?」と首を傾げた。


「よく来たなチヅル」

「ええ、ヤタ。こんにちは」


 ヤタとチヅルちゃんが挨拶を交わす。


「対戦するか?」

「勿論」


 丁度決着がついた所なので、私はチヅルちゃんに席を譲った。

 敗者が代わるのは必定である。


 私は少し休んで、二人の対戦を見守った。


 結果は、チヅルちゃんの負け越しである。


 流石は私の娘だ。


 チヅルちゃんが台に突っ伏する。


 すぐに起き上がった。


「そういえば、クロエさん」

「何?」

「孤児院を作るって本当ですか?」

「ああ、その話か。そうだよ」

「いいんですか?」

「あぶく銭だし。儲けた分、社会に貢献もしておかないとね」


 そもそも、アルディリアの稼ぎだけで十分すぎるほどなんだ。

 しかも、我が家の人間はみんな無欲だ。


 ヤタだって、今も興味なさそうにしている。

 イェラも自分の歌とダンスで自立する事が夢だ。

 子供二人は、まったく財産に興味がない。


 親としては多少残してやりたいと思うから、ある程度は残すけれど。

 残すにしても今の全財産は多すぎる。

 少しばかり、社会に還元してもいいはずだ。


「あとは、外国との交易ルートを開拓したいな」


 今まで旅してきた場所で、私はいろいろと魅力的な品物を見てきた。

 各国の特産品だ。


 そういった物をアールネスへ輸入できれば、この国でその品を売買する事ができる。

 特に、ウシュクは私ももっと欲しいから、優先的にルートを作りたい。


「じゃあ、次は開拓ルートですね。お手伝いします」

「ありがとう」


 その数年後、交易ルートの開拓に成功してさらに儲かった。

 アールネスのお金の価値が著者の中で混乱しています。

 というか、銀貨と金貨の価値しか書いていなかったと思います。ちょっと詳しく書いておきます。

 下手したら、矛盾しているかもしれません。


 クロエ・ビッテンフェルトは孤児院の孤児達に教育を施し、高い教養を身につけた孤児達はあらゆる分野で出世し、頭角を現した。中には起業した者もいるという。

 各分野で成功を収めた孤児達は互いに協力し合い、ビッテンフェルト家との結びつきを利用しさらなる発展を見せた。

 それから長い年月をかけて合併を繰り返し、ビッテンフェルト家を中心とした複合企業へ発展していった。

 後のビッテンフェルト財閥である。


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