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閑話 四天王集結!

 正月。

 正確にはアールネスに正月はないが、正月に当たる祝日が代わりに存在する。


 ショウ・ゲイツの日。

 ショウ・ゲイツはこよみを初めて発明したと言われる偉人で、アールネスではその暦の初めの日を一月一日としている。

 その関係で一年の始まりである一月一日は彼の名に因み、ショウ・ゲイツの日と呼ばれているのだ。


 ……などという事実は一切無いのだけれど。


 この国の一月一日は確かに祝日なのだが、それは時の女神トキの誕生日だからである。

 時の概念が生まれ、彼女が生まれた日こそが時間の始まり。

 だから一月一日は彼女の誕生日なのだ。


 つまり、この国の正月はトキ聖誕祭なのである。


 似たような時期に生まれたという話なので、ちょっとだけシュエットがお姉さんである。


 そのトキ聖誕祭では何をするのかと言えば、前世の正月とあまり変わらない。

 一年の疲れを癒すため、家でだらだら過ごす日だ。


 ご飯食べて、お酒呑んで、家族の絆を深める日である。


 今は戦時でもないので、軍人であるアルディリアも休んでいた。


 そんな正月を過ごし、二日目もゆるゆると過ぎていき、三日目の事。


 一月三日。

 ビッテンフェルト四天王が我が家に集結していた。


 ビッテンフェルト四天王とは。

 我が家のヤタを筆頭に、ルクスとイノス先輩の娘であるエミユ・アルマール、コンチュエリの息子であるオルカ・ヴェルデイド、倭の国からの留学生であるチヅル・カカシの四人からなるシュエット魔法学園闘技の成績上位者の通称である。

 学園において、最強の闘技者で構成される武闘派集団なのである。


 そんな四天王達が、我が家に集結したのである。


 ちなみに、チヅルちゃんは正月からの三日間ずっと我が家に滞在していた。


 新年早々に――


「イェェェ〜イ! ジャスティス!」


 とか言いながら我が家に訪れた。


「新年からテンション高いね」


 と言うと。


「あ、はい。そうですね」


 なんかちょっと寂しそうだった。


 何でだろう?


 彼女は寮住まいで、寮の全員が正月で帰省する中、侍従の人と二人きりになるそうだ。

 それが寂しいので侍従の人と共に泊めてくれと言ってきたのだ。


 ちなみに侍従の人はニンジャである。

 初めてあった時に。


「ドーモ、クロエ=サン」


 とたどたどしい片言で挨拶してくれた。


 勿論、私も挨拶は返した。

 でなければ、スゴイシツレイにあたる。


 服部の人で、倭の国の里に行った時に私を見かけた事があるそうだ。

 若い子なので、あの時里で訓練していた子供の誰かかな。


 ちなみにその子とは、それ以来言葉を交わしていない。

 彼女は邪魔にならない程度の距離から、ずっとチヅルちゃんを見守っている。

 職務に忠実な真面目っ子なのだろう。

 言葉を交わさないのも、気を散らさないためだと思われる。


「エミユ、オルカ……。何しに来たんだ?」


 ヤタが家へ訪れた二人に訊ねる。


「あたしは新年の挨拶だよ」

「僕も同じ理由ですよ」


 二人は答えた。


「明けましておめでとうございます。ヤタ先輩。チヅル先輩。ビッテンフェルト夫人」


 オルカくんが丁寧に頭を下げてくれる。


 夫人?


 ……ああ、私か。


 オルカくんが丁寧に頭を下げてくれる。


「はい。明けましておめでとう」

「今年もよろしくな」

「よろしく」


 ふと、エミユちゃんが私を見る。


「あんたが、ヤタ先輩の母ちゃんか」


 エミユちゃんは、私を品定めするように眺める。


 そういえば、オルカくんはたまにアルディリアから稽古つけてもらいに来るから会った事がある。

 けれど、エミユちゃんとは初対面か。


 厳密には、未来……。

 いや、もう過去か。

 でも、過去の私にとっては明日の出来事だ。


 と、昔トキと戦うために未来へ行った時、気絶した彼女と会っているけれどあれは初対面と言えないな。


「親父も、先輩も、えらく強いって褒めるけどなぁ……本当にあんた強ぇのか?」

「まぁ、それなりに」

「信じられねぇな。あたしは、自分で見た事しか信じねぇんだ。実際にやり合ってみねぇとよぉ」


 やだ、この子脳筋よ!

 脳筋だわ!


 こんな子、脳筋キラーの父上に会ったらイチコロだ。


「ま、ビッテンフェルト公は確かにすげぇと認めるけどさ」


 すでに父上の餌食だったか……。


「あんたは別だ。強いかどうか、あたし自身が確かめたわけじゃないからな」

「つまり、戦ってみたいって事?」

「そういう事だなぁ」


 エミユちゃんが私に不敵な笑みを向ける。


「おい、エミユ! 時と場を弁えろ。無礼だぞ」


 ヤタが強い口調で言う。


「まぁ、先輩が言うなら従うけどな……」


 再び不敵な笑みを私に向けつつ、エミユちゃんは素直に従った。


「すみません」


 ヤタが私に謝る。


「いいよ。ありがとう」


 本当は別にここでやり合っても構わないんだけどね。


「まぁ、折角来てくれたんだし、あがってもらいなよ」

「はい」


 そして、二人に家へ上がってもらった。


 しっかし……。

 改めて見ると、この四天王の男女比おかしくねぇ?


 オルカくんのハーレムじゃん。




 リビングに二人を通す。

 けれど、そこには誰もいなかった。


 アルディリアとアードラーは実家へ挨拶に行っている。

 イェラはアードラーについていった。


 昨日は一家揃って私の実家へ行ったので、私は今日ヤタとチヅルちゃんと共に留守番していたのだ。


「チヅル先輩、新年からここにいるんですか?」


 リビングでオルカくんがチヅルちゃんに聞き返した。


「寮に居ても暇ですから」

「でも、新年って家に入り浸りだから、どっちにしろ退屈になんねぇ? 外に出たくなるだろう」


 エミユちゃんが口を挟む。


 多分、この子がうちに来た理由は挨拶というより、退屈だったからなんだろうな。

 遊びに来た意味合いの方が強いんだろう。


「いえ、そんな事はないですよ」

「チヅルはずっとそのゲームをしていたからな」


 ヤタが答え、リビングに置かれたゲーム筐体を指した。


「何それ!」


 エミユが興味津々な様子で声を上げる。


「ちょっとやってみます? ふふふ」


 チヅルちゃんがちょっと悪い顔で訊ねた。


 わかるぞ。


 初心者狩りする気だな?


「やるやる!」


 エミユが食いついた。

 じゃあ、と二人は早速向かい合わせに筐体へ座る。


「あ、あたしが使える!」

「四天王はみんな使えますよ」


 無邪気にはしゃぐエミユちゃんに、チヅルちゃんは能面のような表情で答えた。


 三十分後。


「勝てねぇ!」


 連敗していたエミユが怒鳴って台パンした。


 やめて!

 木製だから結構壊れやすいの!


「無計画に攻撃を振りすぎなんだ。チヅルの誘いにまんまとハマってカウンターを取られ過ぎている」


 答えたのはヤタだった。

 最近では、ヤタも一緒にゲームするようになったのだ。


 そして、その意見は正確である。


 案外に防御は固いが、ディレイ攻撃によるフェイントによくやられている。


「実力が違いすぎますね。……ちょっと僕もやってみていいですか? 僕とならいい勝負ができるかもしれませんよ」


 オルカくんがおずおずと言った。


「どうぞ」

「どうも」


 チヅルちゃんに代わって、オルカくんが対戦台に着く。


「チヅル先輩には負けたけど、お前には負けねぇぜ」

「僕だってやるからには負けるつもりはありませんよ」


 二人の対戦が始まる。


 結果。

 オルカくんが勝った。


「何でだよ!」


 エミユちゃんが台パンする。


 だから叩くな!


「エミユは少し、素直すぎるんです」


 オルカくんは小さく笑った。


 どうやらオルカくんは、このゲームの本質を一戦だけで理解したようだ。


 三本先取の内、最初の二本こそ操作に慣れていなくて取られたが。

 そこからオルカくんは三タテして勝った。


 三本目などパーフェクトだ。

 それもコンボなどを使わず、完全にエミユの動きを読んでの弱パンチ連打や強攻撃・必殺技の単発当てで完封した。


 オルカくんはどうやら頭脳派らしいな。

 データゲームって感じだ。


 武芸者だけあって目もいい。


「次は私がやろうか」


 ヤタが名乗り出る。


 それから、みんなでゲーム大会になった。


 こうして大人数でゲームするのは久し振りだ。

 勿論、私もゲームに加わった。


 いろんな相手とゲームをするのは楽しかった。

 みんな動きが個性的で、新鮮で、とても楽しかった。


 久し振りの感覚だった。


 それでも腕前が違いすぎるので、私はあんまり参加しないようにした。


 本当ならチヅルちゃんもこっち側なのだけど、彼女は容赦なく挑戦者を叩きのめしていた。


 四天王で友達だから、それもいいかもしれないけれどね。


 そんな子供達が楽し気に遊ぶ所を眺めるだけで、私は楽しくなった。




「ふふん。私が四天王最強ですね」


 エミユちゃんとオルカちゃんの帰り際、チヅルちゃんが胸を張って高らかに言った。


 上級者だもん。

 そりゃ勝つわ。


「くそー! ゲームで勝ったからって調子に乗るなよ!」


 エミユちゃんが怒鳴る。


「何か言いましたか? 四天王の面汚しポジションに位置するエミユちゃぁぁん!」


 チヅルちゃんは煽った。


「ぐぅぅぅ!」


 エミユちゃんは悔しそうに唸った。

 そして、私を睨みつけた。


 何で私?


「ゲームじゃ手も足も出なかったけど、闘技じゃ負けないからな! あと、またゲームしに来るから!」


 なんか可愛いな、この子。


 何だかんだで、楽しんでもらえたようでよかった。


「帰ります。それじゃあ」


 オルカくんも丁寧に頭を下げた。


「ああ。二人共、また学校でな」

「ご両親によろしく」


 ヤタはそう言って二人を見送った。


 こうして、我が家に集った四天王は解散した。


 今までちゃんと交流を持った事はなかったけれど、実際に会ってみると良い子達のようだ。

 これからもヤタと仲良くしてほしいな。




 後日。


「クロエさん。私、四天王の面汚しポジションになりました……」


 我が家へ遊びに来たチヅルちゃんが、沈んだ声で言った。


 あの後、四天王達が我が家へよく遊びに来るようになった。

 鍛錬や勉強をする時もあるが、もっぱらゲームが目的である。


 今も、ゲームで遊んだ後の事だ。

 チヅルちゃんはリビングのソファーに座っていた私の所に来て、隣に座った。


「あらぁ。そうなんだ」

「みんな、順応力が高すぎるんですよ。オルカはゲームシステムを完全に把握した上で相手の動きを読んでくる。エミユは相変わらず猪突猛進ですけど、超反応過ぎる。この前なんか小足に対空無敵技を合わせて来たんですよ!?」

「世界のウメさんか……。……ねぇ、ヤタは?」


 母親としてはそれが一番気になる。


「ヤタは一番強いですよ。頭もいいし、反応も速いですからね。実力は、クロエさんを一回り小さくした感じです。まるで子クロエですよ」


 実際に子供だからね。


 そうかぁ。

 ヤタは一番強いのか。

 うちの子、一番強いのか。


 ふふふ。

 なんだか嬉しい。


 流石は私の子だ。


「そういえば、クロエさん。あなた宛に、寮へ倭の国から年賀状が届いていました」

「私に?」

「はい」


 言いながら、チヅルちゃんは侍従の子から数枚の手紙を受け取った。


「えーと、まず私の父から。あと、加西さんからもありますね」


 加西?

 確か、角樫家の筆頭家老だったっけ?


 いろいろあって、あんまりいい印象のない名前だな。

 でも、面識がないのに何で年賀状がくるんだろう?

 不思議だ。


「それから由乃よしのさん?」

「誰だろう? 三つ編みで心臓が悪い子かな?」

「レイちゃんの意地悪!」

「私が死んでも、代わりはいるもの……」

「こういう時、どういう顔をすればいいのかわかりませんね」

「とりあえず、年賀状の話しようか」


 この流れ、斬らせてもらうぞ!


「連名で般若って書いてますけど、知ってます?」


 ああ、そうなんだ。


 彼女と連名という事は、由乃という人の正体も自ずと分かる。

 多分、すてちゃんだ。


 改名したのかな。


「あとは夏木秋太郎。それに鬼雀……。ドリルにでも進化するんですかね?」

「多分、鬼雀きじゃくって読むんじゃないかな」

「知ってる人ですか?」

「そうだね。長い付き合いの子だよ」


 私がアールネスに帰り着いた時、別れて一人帰ったけれど……。

 無事に、帰れたみたいだね。

 よかった。


「それだけですね」

「うん。届けてくれてありがとう。ねぇ、チヅルちゃん。夏木すずめっていう子知ってる? ゲームのプレイアブルキャラクターとかじゃない?」

「プレイアブルキャラクターではないですね。でも知ってます。私……というよりゲームの「千鶴」が留学の際に連れてくる侍従の一人です」

「そうなんだ」

「名前も鳥ですし、妙に凝った背景があったので次回作でプレイアブル化するのではないかと言われていました」

「どんな背景だったの?」

「まず、雪風という犬鬼……大きな犬を連れていて、小刀を使って戦う」


 大自然のお仕置きよ!


 とか言いそうだね。


「両親が幼い頃に殺されて、父親の知り合いだった加西の養子になった。そして、私の侍従になるはずだったんですが。でも、私のそばには何故かいなかったんですよね」


 そうなんだ……。


 夏木さんにも、私と同じで死の運命があったんだ……。


 彼女の運命も、ある程度ゲームをなぞっていたんだな。

 知っていれば、その運命も変えられたのかもしれないな……。


「もしかして、この鬼雀って……?」

「そうだよ。……この子も、私の娘みたいなものだからさ。また、会う機会があれば仲良くしてあげてほしいな」

「わかりました」


 千鶴ちゃんは笑顔で答えた。

 とても遅刻した正月ネタです。

 オチが思い浮かばなかったのです。

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