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閑話 せっかくなので転生モノらしい事をしてみる ザ・ラスト

 次の話からクロエの行方不明だった頃の話、その序章を書こうと思います。

 もはや連載要素が完全消滅してしまうため、別連載に致します。


 行方不明時以外の話はこちらに投稿致しますが、しばらくこちらに投稿される事がないので一旦完結扱いにしておきます。

「クロエさん。格闘ゲーム、作りませんか?」


 その日、学園の授業が終わってヤタと一緒に家へ来たチヅルちゃんが、そんな提案をした。


「格闘ゲーム? どうやって?」


 異世界に来たからには、物作りでもしてみようという魂胆だろうか?

 ネット小説みたいに。


 そして一大ムーブメントを巻き起こし、お金をがっぽがっぽと稼ぐのか?


 それもいい。

 せっかく異世界に来たのだから、そういう事をするのもいいだろう。


 私だって、今までに893……無糸服という発明をしたわけだし。


 が、流石に今回のチヅルちゃんの提案は無理だ。

 ゲームの作り方なんて知らない。


 物作りが異世界物の醍醐味とはいえ、作れる物の粋を超えている。

 プログラムなんて組めないし、そもそもプログラムを組むためのパソコンすらない。

 ゲームを作るための道具を作るだけでも時間がかかりそうだ。


 まぁ、正直言って心惹かれる事この上ないものではあるのだが……。


「もちろん、前世であったような機械技術での作成は不可能です。でも私達には魔法があります」


 限度があろう。

 本当にできるの?


「そして、ムルシエラさんだっています」


 あ、できるかもしれない。

 そう思うだけの説得力がその名前にはあった。


 そうして、私はチヅルちゃんの提案に乗った。


 ちなみに一緒の部屋にいたヤタは、盛り上がる私達についていけず終始無言だった。

 私とチヅルちゃんはそれに気付かず構想を夢中で語り合い、そしてふと気付いた時。

 ヤタは拗ねていた。


 機嫌を治してもらうため。

 その後めちゃくちゃ鍛錬した。




 後日、私達はムルシエラ先輩に依頼するため、ヴェルデイド家へ訪れた。

 先輩の部屋へ通される。


 そしてちょっと驚いた。


 何という事でしょう。

 足の踏み場もなかった汚部屋おへやが今はすっきりと片付き、丁寧に磨かれて輝いている。

 乱雑に散らかされていた実験器具も、備え付けの棚へ綺麗に整頓して収納されていた。


 珍しい光景だと思いながら先輩を探すと、先輩は先客と話をしているようだった。


 その先客は、赤い髪の可愛らしい女の子だった。

 見覚えのある子だ。


 カナリオの子供。

 双子の片割れであるキャナリィちゃんだ。


 ボブカットの小柄な子で、性格も控えめである。


 彼女ももちろん、ゲームにおけるプレイアブルキャラクターの一人だ。


 チヅルちゃん曰く、遠距離寄りの万能ファイターらしい。

 そして、パンツ要員だとの話だ。

 VF2以降の女性キャラはヤタやアルエットちゃんとスカートを履いていないキャラクターで、他の女性キャラが見せない分、よくパンツを見せてくるらしい。


 本格的な格闘ゲームになり、男性プレイヤーが増えた事に対する配慮だ。


 と、ゲームでの彼女の事はよく知らないが。

 私はチヅルちゃん以上に現実での彼女の事をよく知っている。


「あ、クロエさん。こんにちは」

「こんにちは。キャナリィちゃん」


 私は旅の途中でカナリオ達と合流したので、この子とも面識があった。

 むしろ私にとっては、チヅルちゃんと以上に付き合いが長い。


「どうしてここに?」

「先輩にお願いしたい事があってね。キャナリィちゃんは?」

「私は、ムルシエラおじ様に魔法を習っているのです。それで……」


 もじもじと答える。


 それだけじゃなさそうだね。

 彼女には、先輩へ対する好意が読み取れた。


 先輩を見ると、ちょっと困った顔をしている。

 表情に出ない先輩がこんな顔をするという事は、とても困っているのだろう。


 それにしても先輩は全然変わらないな。

 学園にいた時とほとんど容姿が変わっていない。

 むしろ、美貌に磨きをかけていないだろうか?


 美魔女のような妖しい雰囲気がある。


 やっぱり、魔力の扱いが上手い人間は歳をとりにくいのかもしれない。


 私を見て、先輩の表情が笑顔に変わる。


「クロエさん。何か御用という事ですが?」

「はい。作って欲しい物がありまして」

「そうですか。わかりました。引き受けましょう」


 まだ何を作るか言っていないのに?

 即決である。


「キャナリィ。私はこれからクロエさんの話を聞きますから、今日は帰りなさい」

「あ、はい……」


 しょんぼりしつつ、キャナリィちゃんは返事をする。


 先輩。

 私をだしに使いましたね?


「じゃあ、私はこれで帰ります。また、よろしくお願いします」


 深く頭を下げて、キャナリィちゃんは部屋から出て行った。


「それで、何を作るのですか?」


 キャナリィちゃんの事を聞かれたくないのか、機先を制するように先輩は訊ねた。


「はい。格闘ゲームというものを作りたいと思っています」

「格闘ゲーム?」


 私はチヅルちゃんに目配せする。

 彼女が前に出て、説明する。


 その説明には、専門的な魔法の用語などが含まれていて、私にはわからない部分が多々あった。


 チヅルちゃんはこの世界に転生して、魔法に傾倒しているそうだ。

 倭の国でも、記憶を取り戻してから魔力を駆使して数々の便利グッズを作り出したのだという。


「なるほど。高度な魔法を用いた遊戯ですか。面白いですね。さっそくやってみましょう」


 そして私が話についていけない内にチヅルちゃんの説明が終わり、先輩は楽しそうに言った。

 今から、試作してみる事になった。




「原理そのものは簡単なんですよ」


 と、チヅルちゃんから成された説明が私には理解できなかった。


 私が馬鹿なのではない。

 チヅルちゃんの言っている事が高度過ぎてわからないだけなのだ。


 その後、わかりやすく説明しなおしてもらった内容によれば。

 格闘ゲームのプログラムを作るのではなく、私とチヅルちゃんの前世の記憶からゲームの情報を抽出して媒体に転写してしまおうとの事だった。


 つまり、ゲーム部分そのものは記憶内からの違法コピーである。


「人間の記憶なんてあやふやなものなので完璧に再現できるわけではありませんが、私とクロエさん二人の記憶を照らし合わせれば、かなり本物へ近くなると思います」

「うん。大丈夫。二人ならやれるよ」


 などとと言いつつ、多分私が協力できる部分はそこだけなんだろうな、という予感を私はその時から懐いていた。

 そして、その推測は正鵠を射ていた。


 ヴェルデイド家へついてから、私は作業する二人を見ている事しかできなかった。

 手持ち無沙汰である。


 邪魔かな、と思いつつたまに作業の質問をする。


「今、何してるんですか?」


 水晶玉に触れている先輩に声をかける。

 その水晶玉自体は、何の変哲もない透明な玉にしか見えない。


「これを媒体にして、イメージを転写する術式を組むつもりです」


 先輩には、記憶ではなくイメージ通りの物を映し出す物を作る、と言ってある。

 別に前世の記憶について説明してもいいのだが、なんとなく控えておいた。


「と、できましたよ。こういうふうに」


 先輩が手を触れると、水晶玉に映像が映った。

 花の映像だ。


 ただ触れていただけなのに、何でこんな事ができるのだろう?


 魔力の運用はわかるけれど、この術式というのが私には未だ理解不能である。

 説明を聞いてもよくわからない。


 どうなってるの?

 それ。


 次に、チヅルちゃんの所へ行く。

 彼女は、大き目の四角い紙を目の前に広げていた。


「これは何?」

「これはですね」


 チヅルちゃんは紙に手をやった。


 すると、紙にぼんやりと絵が浮かび出した。

 兎と蛙が相撲をとっている絵が、墨で描いたような筆致で描かれている。

 鳥獣戯画という奴だろう。


 しかもそれだけに留まらず、絵が動き出した。

 兎がひっくり返される。

 その後、ひっくり返された兎がアップになり、喉のジッパーを開いて中から美少女の顔が出てきた。

 どうやらきぐるみだったらしい。

 その萌えキャラが手を振って、絵が消えた。


「と、こんな感じです」


 もっとどうなってるの?

 それ。


「簡単に説明すれば、特殊な魔力溶液に浸してあるんですよ」


 説明によると、その溶液は紙に染み込む事で固着するが、魔力を流すと再び液化する事ができるらしい。

 そして自由に絵が動かせるのだと。

 色も変えられるそうだ。


 聞いてみると、意外と理屈がわかりやすかった。


「この技術を応用して、抽出したゲームを自在に動かせるようにするつもりです」




 それから数日後。

 格闘ゲームは完成した。


 ヴェルデイド家の一室。

 その真ん中に、木製の筐体が置かれていた。


 記憶を抜き出す術式は、あれからすぐに完成した。

 けれど、その後に私とチヅルちゃんの記憶の擦り合わせや、プログラムの修正、操作方法の確立など、いろいろと細やかな部分に時間がかかった。

 そして苦労の末、ようやく完成したのである。


 肝心のゲーム部分は二人に任せきりだったので、木製の筐体は私が一人で作った。

 手の触れる部分なので、レバーやボタンは特に丹念な仕上がりとなっている。


 無論、筐体は二台。

 背中合わせになるよう置かれている。

 対戦台である。


 そこそこに大掛かりな見た目をしているが、実は本体が画面部分だけなのでほとんど張りぼてだ。

 やろうと思えば、もっとコンパクトな見た目になるが、私としてはこの形がよかったのである。

 チヅルちゃんも同意見だった。


 画面部分は、チヅルちゃんに説明してもらった魔力溶液が染み込んだ紙に薄い水晶を重ねたものである。

 ゲームのプログラムにあたる部分は水晶が担い、映像を動かす部分は紙が担っている。


 水晶がモニターと基盤を兼ねているわけだ。

 そこから魔力溶液に浸した糸を伸ばし、操作関係や魔力を貯蓄するための石へと繋いでいる。


 そして今、その画面には「ヴィーナスファンタジア セカンドエクストリーム 〜時の女神〜」というロゴが描かれている。

 他にも魅力的な格闘ゲームはあるが、やっぱりこの世界初の格闘ゲームを作るとすればこれだろう。


「やっとできたね」

「ええ、そうですね」


 私は、達成感ともう二度とできないであろうと思っていた格闘ゲームを目の前にし、言葉にできない感動を覚えていた。

 チヅルちゃんも同じだろう。


 正直、ちょっと泣きそうだ。


「先輩、やってみていいですか?」

「ええ、どうぞ。私は動作の確認だけ見せてもらえれば満足です」


 私が言うと、ムルシエラ先輩は笑顔で頷いた。


「じゃあ、私もやっていいですか?」

「ええ」


 チヅルちゃんも先輩に了承を取る。


「チヅルちゃん」

「ええ、対戦しましょう」


 それぞれ筐体前の椅子に座り、スタートボタンを押す。

 一応、お金を入れる部分を作ったが、それは雰囲気のためである。


 画面がキャラクターのセレクト画面へ移る。


「へぇ、トキってレバーを二回動かしていける所にあるんだね」


 なんとなくトキへカーソルを動かす。

 ジョインジョインと音が鳴る。

 選択ボタンを押すと「トキィ」と濃いおじさんの声で名前が読み上げられる。


「ねぇ、チヅルちゃん。これって本当にVF2のキャラクター選択音なの?」


 とてつもなくどこかで聞いた事があるんだけど。


 旧キャラの性能などはある程度私の記憶を元にしている。

 が、続編全般ついてはチヅルちゃんの記憶頼りなので、本当にそれが正しいのかわからない。


「本当ですよ。クロエさんが今覚えている気持ちは、これがアーケードで並んだ時にプレイヤーが懐いた物と同じです。トキがタイムリリースされた時はさらにその気持ちは強くなったでしょうが」


 スタッフめ。


「せっかくだから私は、この赤いトキを選ぶぜ」


 使用キャラクターのカラー設定を赤にする。


「上から来るんですね?」


 チヅルちゃんがキャラクターで「チヅル」を選んで、二人のキャラクターの横顔が向かい合うように表示された。

 開始準備である。


「ふふん、私に勝てるかなぁ?」

「相手があの「差し込みの魔女」となれば、緊張しちゃいますね」


 生前の私の異名である。

 何故魔女かと言えば。

 普段から紫のラインが入った黒いパーカーを愛用し、いつもフードをかぶっていたからである。

 小魔女リトルウィッチとか呼ばれる時もあった。


「でも、VFSEならいざ知らず、VF2じゃあ負けませんよ!」


 チヅルちゃんの威勢の良い声と共に、対戦が開始された。




「どすこーい!」


 私は言いながら、ヤタの超必殺技でチヅルちゃんの使うヤンにトドメをさした。


 一撃目でロックし、相手を画面端に寄せてからタコ殴りにする技である。

 相手を押す動作に、私は土俵際へ押し出す力士を連想してそう言ったのだ。


「お前に負けるなら悔いはないさ」


 チヅルちゃんが言う。

 いつもの口調と違うという事は、何かのネタだったんだろうか?

 私にはわからないが。


「いい試合だったね」


 五十戦ほどして、私達はゲームを中断した。

 チヅルちゃんに声をかける。


 先輩はとうにいない。

 出来を確認するとすぐに部屋から出て行った。

 今、部屋にいるのは私とチヅルちゃんの二人きりだ。


「処刑の間違いじゃないですか?」


 チヅルちゃんが沈んだ声で返す。


 最初の数試合はシステムの変化とキャラクターを一通り使ったために勝手が掴めなかったので、何度か落とした。

 けれど新しいキャラクターを一通り試し、ヤタで固定してからは一度も負けなかった。


 うちの子はやっぱり強いなぁ。


 何が強いって?

 2強Kかな。


 上斜めに後ろ回し蹴りを放つモーションであり、出が早く対空性能が高い。

 しかしそれだけじゃなく、かなり密着しなければ当たらないが中段の当たり判定がある。

 中段なので、当てればしゃがみガードを崩せるのである。


 小足や飛び道具のカラス召喚で固めつつ、密着打ちかちょっと待ってからの投げかの二択かを迫るのが楽しい。

 ガードさせても有利だから何も考えずに密着打ちしてもいい。


 ただ、ヤンとティグリス先生はガードポイントがあるのでごり押しするとさらにごり押しの強パンチで返り討ちになる可能性がある。

 特にティグリス先生は一フレーム強パンチが健在なので特に警戒せねばならない。

 チヅルちゃんにも一フレーム当身があるので要注意。


 その辺りは読み合い必須である。


「はっはっは」

「バックステップ読みガンダッシュとかやめてくださいよ!」

「パターンに頼っちゃダメだよ」

「そんなつもりは無いんですけど……。小足も的確に低空ジャンプ技で取るし……。私、もう小足出すのが恐くなりましたよ」

「小足だって万能じゃないんだから、頼り切っちゃダメだよ」

「……手加減してくれてもいいじゃないですか」


 恨みがましい声で言われる。


「ナメプはするのもされるのも嫌いだからね。手加減はしない主義だよ」

「もうクロエさんとゲームしません」

「ええ! それは困る!」


 対戦相手がいないと格闘ゲームは楽しくない。

 CPUをプレイするだけでは、格闘ゲームの真の楽しさは味わえないのだ。


「冗談です。いつか互角になれるようにがんばりますよ」


 ほっとする。


「本当に、強いですよね。「差し込みの魔女」の名は伊達じゃないという事ですね。何十年もブランクがあるはずなのに、全然それを感じさせませんでした」


 ブランクがあるのは君もでしょうに。

 でも……。


「んー、それはどうだろう? 多分、昔の私とはかなり違うと思うよ」

「あれでも弱くなってると?」

「いや、多分強くなってると思う」


 動体視力は言わずもがな、読みも実際に闘技で人と戦う事で強くなった気がする。


 昔の私は動体視力にあまり自信がなかったから、勝つために読みを磨いていた。

 差し込みの魔女と呼ばれるのも、相手が次に出してくる攻撃を読み切って攻撃を差し込んで切り崩す事が得意だったからだ。

 いや、それを得意にしなくては、相手に勝つ事ができなかった。


 チヅルちゃんが溜息を吐く。


「追いつくのは当分先ですね」

「頑張って! チヅちゃん!」


 もう一度溜息を吐かれた。


「わかりました。頑張ります。……でも、私が頑張らなくてもいいかもしれませんね」

「どういう事?」

「こうして作れたのですから、次は量産して王都で稼動させましょう。そうすれば、きっと強い人も育ってきますよ。クロエさんと良い勝負のできる人だっていつか出てくると思います」

「そっか……。そうだね」


 この世界でも、あの楽しさを覚える日が来るのかもしれない。

 夢が広がるなぁ。


 そんな未来に想いを馳せて、私は筐体を撫でた。

 少し早いですが、ここまで頑張ってくれたクロエにクリスマスプレゼント(自分で作っていますけれど)です。

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