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七話 状況の説明 裏 おまけ

 あまり本編に関係のない雑談です。

「私の娘って、ゲームではどんな子なの?」


 私は、私の死後に発売された「ヴィーナスファンタジア」について知りたかった。

 その話の取っ掛かりとして、チヅルちゃんにそう訊ねる。


「そうですねぇ。一言で説明すれば、三作目のラスボスでした」


 おお、うちの子ラスボスなのか。

 私がいちライバルでしかなかった事に比べれば大出世だ。

 我がビッテンフェルト家は代を追うごとに豪壮になっていくのだ。


「三作目は「ヴィーナスファンタジア セカンド 〜学園の黒き帝王〜」というタイトルなのですが。あらすじを大まかに説明しますと、カナ……謎の赤毛主人公二人が入学した学園ではビッテンフェルト四天王という闘技集団に支配されていました」

「なんと。……支配?」

「どっちかっていうと番長みたいなもんです」


 そっか。


「で、赤毛主人公達はその闘技集団とぶつかる事になって、その中で多くのライバルと時に戦い、時に友情を育みながら学園生活を送ります。で、最終的に四天王を倒していき、ラスボスであるヤタと戦い、勝利します」


 ラスボスだから仕方ないけれど、負けちゃうんだね……。

 ちょっと残念だ。


「性能は?」

「基本的に、シリーズの特徴であるバランスの良さは相変わらずなのですが。

 ラスボスだけあって強キャラ寄りではありますね。

 基本的な技はゲームのあなたと似た感じなんですが、全体的にあらゆる部分が上位互換です。

 ただ飛び道具が火球ではなく、どこからともなくカラスを召喚して襲わせる物になっています」


 それはアルディリアの血だな。

 この世界のアルディリアはがっつり肉体派であるが、ゲームの彼は小動物をけしかける技の使い手だった。


 娘は小動物の代わりに、カラスを召喚するのだろう。


「で、彼女には特有の特殊動作がありまして。ジャンプ中にもう一度ジャンプすると、どこからともなく現れたカラスの群れに紐を引っ掛け、その紐に座って滞空できます」


 私の妖怪としての血も引いているらしい……。

 魔力の高い人間がそばにくると髪の毛が一本立ったりするのかな?


 もしかして、未来のアルディリアは目玉だけで生きていたりするんだろうか?

 とてつもなく甲高い声になっていたりするんだろうか?


「ちなみに、アルディリアさんは目玉だけになってません」


 私の考えを察したのか、チヅルちゃんがそれを否定してくれる。


 それはよかった。

 最終的に「ようこそ。ベルベットルームへ」しか言わなくなるんじゃないかと危惧してしまった。


「四作目でちょっとだけ弱体化しましたが、それでも十分に強いですよ。あと、四作目でのあなたはSEの時よりも上方修正されてヤタと互角の性能になっています」

「へぇ、そうなんだ。それは嬉しいね」

「で、別のキャラクターの話になるのですけれど、ヤンというキャラクターがいまして」

「ヤン?」

「イメージモデルは羊。黄龍国という、前世でいう所の中国っぽい国の留学生です。女の子みたいな見た目のショタっ子ですね」


 アルディリアみたいなショタ兼男の娘要員だな。


「八極拳に似た技で戦うのですが。母子おやこ揃って、彼との相性がとてつもなく悪いです。最悪です。七対三くらいの割合で不利です」


 そうだろうなぁ。

 私も名前を聞いただけで勝てない気がしてならなかったよ。


 魔術と奇跡で翻弄してくるに違いない。


「あのバランス調整の鬼みたいなスタッフがそこまでバランス悪く設定するとは思えないので、恐らく意図的に悪くしていると思われます」


 スタッフの中にあのスペースオペラのファンがいるって事なんだろうな。


「あ、それと……。気になっていたんだけれど、アードラーの子供もいるの? リオン王子のルートだったら、アードラーは国外追放されているよね?」


 そんな彼女に子供がいる事も驚きだし、アールネスの学園にいる事も驚きなんだけれど。


「学園に入学した経緯は不明でしたけれど、彼女もコンチュエリさんと同じで父親は不明の子供がいるんです」

「そうなんだ」


 リオン王子ルートの彼女、か。


 この世界では助ける事ができたけれど、ゲームの彼女があの後どんな人生を送ったのだろう。

 きっと、今よりもずっと大変な人生を送っているに違いない。


 それを思うと少しモヤモヤする。


「どんな子なの?」

「女の子なんですけれど、男装して帽子を被っています。もちろん、ゲームでもプレイアブルキャラクターです。後ろ移動が月面歩法になっていて、事あるごとに「ポウ!」とか「バッド」とか「チュクチュク」とか言います」

「もうそれだけでどんなキャラクターかわかった」


 アードラーは舞踏ダンスやってるからな。

 その子供もダンスで戦うのはわかる。


「モーションが帽子を押さえながら斜め上に手を上げるものになっていますが、アードラーさんと同じ当たり判定のある6Pを受け継いでいます。

 もちろん、対空超必殺技もその後ヒットします。

 あと、もう一つの超必殺技は投げ技で、相手を掴んでから相手と一緒に踊りだし、踊りが終わると相手がダメージを受けて倒れる謎の技です。

 それから、魔法で土を体中にまとって巨大ロボットみたいな姿で戦えるようになったりする固有フィールドがあります

 目からビームを出します」


 目に浮かぶようだよ。

 あと、帽子を投げて飛び道具にするんだろう?


「賛否両論は激しいですが、人気キャラクターですよ。でも、あまりにも似過ぎていたために、関係各所から訴えられました。次回作からデザインが変わるらしいです」


 そんな気がしてた。

 でもそれより気になる事を言ったな。


「次回作もあるの?」


 訊ねると、チヅルちゃんは目を輝かせた。


「「ヴィーナスファンタジアクロス(仮)」というタッグ戦をメインにしたゲームになるそうです。組み合わせは自由で、二人選んで戦う形式になるんですって。キャラクター同士の掛け合いやら、特定組み合わせの合体技やらがあってとっても面白そうですよ」


 確かに面白そうだ。

 私もやってみたい!


「まぁ、前世に戻らないとプレイできませんが」


 急に声のトーンを落としてチヅルちゃんは呟いた。

 口元を扇子で隠し、目を伏せる。


 そうだよね。

 私もがっかりする。


「ああ、それからさっきのアードラーさんの娘さんの話ですが、顔がヤタに似ているんですよね」

「そうなの?」

「絵師が同じだから、という事もあると思うのですが……」


 ちなみに「ヴィーナスファンタジア」のキャラクターは、複数の絵師が担当して描いている。

 ルクスと私のデザインは同じ人だ。

 私がイケメン寄りだった理由は設定以外にそれもある。


「それでも似すぎなんですよ。髪の毛を取ったらどっちがどっちかわからないくらいです」

「ふぅん」

「だから、もしかしたらアードラーさんの相手はアルディリアさんなのではないか? という説があるんですよね」


 なるほどね。

 ありえない話じゃない。


 多分、国外追放されたとして、アードラーが向かうとすれば西の同盟国だ。

 そこで暮らしていたとしてもおかしくない。


 そしてアールネスの軍は、たまに西部の同盟国と軍事演習する事がある。

 ゲーム世界でクロエと結婚したアルディリアなら、軍人として演習に向かう可能性はある。


 で、ゲームのアルディリアはクロエの事があまり好きじゃないから、西部でアードラーと出会って仲良くなるという事もあったかもしれない。


 ……別の世界の話しだし、アルディリアとアードラーは今や夫婦なのだけど……。

 何だかさっきと別の意味で気分がモヤモヤしてきたぞ。


 心に黒い物が刺さりそうだ。


「呼んだかの?」


 うおっ、幻聴じみた声が聞こえた。

 呼んでないよ!


 気のせいだと思うが、私は念のために白色を全身へと巡らせた。


 でもその説が正しかったなら、今の私達はなるようになった結果だったのかもしれない。

 もしかしたら私は、そんな二人の間へ強引に割り込んでしまったのかもしれないな。




 ふと、さっきの幻聴でちょっと思ったのだが……。


「そういえば、時の女神……トキってどんな奴なの? ゲームで知ってるんでしょ?」

「トキですか? そうですね。一言で説明すれば、クレイジーサイコレズです」


 とても良い発音でチヅルちゃんは「クレイジーサイコレズ」と言った。


「クレイジーサイコレズ?」


 私も同じようにいい発音で返す。


 アールネスの言語は、英語とドイツ語と日本語を混ぜたようなものだ。

 全体的に使う音が多いので、今の私は日本人だった頃に比べて断然に発音への自信があった。


「四作目では、ヴォルフラムルート以外では復活しないシュエットが復活します。その復活させた人物がトキなんですよ」

「トキはシュエットに封印されたんでしょう? どうしてそんな彼女がシュエットを復活させるの?」

「それでさっきの話に繋がるのですが、そもそもトキはシュエットの事が好きなんです」


 マジで。

 あの女神様は私も結構好きなので、その気持ちはわからんでもないが。


 多分、私の思う好きとは別種なんだろうな。


「だから、シュエットを復活させるのですよ」

「まぁ好きな人間が封印されていたら助けたくなるよね。でも、だからってなんでクレイジーサイコレズと呼ばわりされてるの?」

「トキの個別ストーリーにおいて、ラスボスはシュエットなんです。トキはシュエットが好きですけれど、シュエットはトキが嫌いらしいですから。で、無事に倒したらエンディングで彼女の手足を拘束して監禁するんです。その状態で唇を奪う描写もあります」


 なるほど。

 確かに、クレイジーでサイコでレズだ。


「じゃあ、性能は?」

「技をキャンセルできる特殊ステップ、成功すると相手の背後に回る1フレーム発生の当身技、氷でできたナイフを投擲する飛び道具などを使います。あと、固有フィールドで相手の時間を止めます」


 命は投げ捨てるもの、とか、最高にハイってやつだ、とか言いそうなキャラクターだな。

 ラスボスだろうから仕方ないけれど、強キャラ臭がするな。


「じゃあ、最後にもう一つ聞いておきたいんだけど」

「なんでしょう?」

「アルエットちゃんの結婚相手って誰?」

「…………」


 何故黙る?


「私は先生の幸せを壊したくありません」

「私だってそうだけど」

「じゃあ、この話を聞いてもカナリオさんに相談しないでくださいよ? 歴史を変えようとしないでくださいよ?」


 何故そんなに念を押す?


「そりゃもちろん」

「じゃあ言いますけれど、クロエさんの弟のレオパルド先輩です」

「ちょっとアルエットちゃんとかたり合ってくる」

「待ってぇっ!」


 踵を返そうとする私に、チヅルちゃんが縋り付いて必死に引き止める。


「何で止めるの? 私、お話聞きたいだけなの」

「一度全力全開でぶつかってからでしょう? 少し頭冷やしてから話聞くつもりなんでしょう?」


 私は立ち止まる。


「まぁ、冗談だよ。ちょっと動揺はしたけれど、アルエットちゃんが相手ならいいよ。どこぞのぽっと出の主人公に取られる事を思えば、こちらからお願いしたいくらいにいい相手だ」


 チヅルちゃんはホッと胸を撫で下ろした。


「ならよかった。でも、アルエット先生も主人公ですよ」

「ん? どういう事?」


 私は首を傾げる。


「「ヴィーナスファンタジア セカンドエクストリーム」の限定版には、アルエット先生を主人公にした乙女ゲームがついてくるんですよ。おまけなので一人のルートがそれぞれ三時間程度で、攻略対象は全部で四人なんですけれどね」


 そうか。

 格ゲーを買ったら、乙女ゲーがついてくるようになっていたわけだ。


「その四人の中で、レオパルド先輩が隠しキャラクターとして入っているのですよ。ただ、ちょっと釈然としないんですよね」

「何が?」

「レオパルド先輩のルートって入る事すらめちゃくちゃ難しいんですよ。出会いイベントで一つでも好感度上げに失敗すると入れません。だから、その綱渡りみたいな難しいルートを選び取ったのか、と思って私はびっくりしました」

「……ちなみに、レオとアルエットちゃんはゲームだと初めから知り合いだった?」

「いえ。確か、アルエット先生が十五歳の時。学園に入学してから、偶然子供の頃の先輩と初めて知り合うんですよ。それから、アルエット先生が先生になって生徒として入学してきた先輩に告白されるんです」


 私の質問に答えてから、チヅルちゃんはハッと何かに気付いた様子を見せる。


「……クロエさんって、アルエット先生と個人的に仲がいいんですよね」

「そうだね。七歳の頃から知っているよ。その関係でレオパルドの面倒とかよく見てもらってる」

「ちなみに、レオパルド先輩はすごく一途ですよ。一度好きになったら、それこそ自分が卒業するまで待って欲しいと懇願するくらいです」


 多分、アルエットちゃんがレオパルドと結婚したのは、私が関わったためなのだろう。

 幼い頃から交流を持たせた事で、ゲームのルートを踏襲せずにフライングでレオパルドの好感度を上げさせてしまったのだ。


 まぁ、つまり二人が結婚したのは私の行動の結果だ。


 認める認めない以前の問題だったわけだ。


「なるほどなぁ」



 話が長くなってしまったな。

 そろそろ帰ろうか。


「うん。だいたいわかった。ありがとう。いろいろと知りたい事が知れたよ」

「いえ、こちらも久し振りに前世の話などができて楽しかったです」

「私もだよ。楽しかった」

「そういえば、クロエさんは「ヴィーナスファンタジア」は格闘ゲームとして楽しんでいましたか?」

「もちろん。そこそこ強かったんだから」

「そうなんですか」

「別のゲームでは、ネット対戦で世界のウメさんから一本目を取れるくらいには強かったよ」

「へぇ。……でも、ウメさんって一本目は遊びますよね」


 それを言っちゃあ、おしまいだよ。


「じゃあ、クロエさんは「ヴィーナスファンタジア」で何を使っていたんですか? 私は、チヅルを使っていましたよ。やっぱり、クロエさんはクロエですか?」

「基本的に何でも使ってたけど、真剣な対戦の時はアードラーだったよ。実は、大会でベストフォー常連の業前ワザマエだったんだから」


 私はドヤァと表情を作る。

 チヅルちゃんは私のそんな自慢を素直な驚きで受け止めてくれた。


「本当ですか!? すごいですね。……あの、クロエさんは生前も名前はクロエだったのですよね?」

「そうだよ」

「もしかして「クロエ(アードラー使い)」さんですか?」


 それは私の生前のニックネームだった。

「ヴィーナスファンタジア」の大会などでは、その名前を使っていた。


「そうだけど。よくわかったね」

「私、クロエさんの試合を生で見た事がありますよ」

「そうなの?」

「小学生ぐらいの時に、直接会場へ見に行きました。そっかぁ。あのクロエ(アードラー使い)さんだったんですねぇ……。ちょっと感動します」

「そうだね。私達、生前でも顔を合わせた事があるのかもしれないね。そういうのはちょっと感動する」


 二人して、しみじみと語り合う。


 彼女を話していると……。

 今はもう戻れないあの世界の残り香を感じる。


「でも、あの時に比べればすごく変わりましたね。たくましくなりました」

「昔の私はキャシャリンだったからね。寒がりで、冬はいつもパーカー姿だったなぁ」


 今では冬でも上着いらないくらいなんだよね。


 その昔の自分との違いを感じて、私は懐かしさと切なさを覚えた。

クロ「そういえば、極の次って何か出た?」

チヅ「6が出ましたね。命の詩。です」

クロ「やりたいなぁ……」


 ステマっぽいですが、タイトルは出していないので許してください。

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