四話 状況の説明 表
ミスを修正致しました。
興味のある方はどうぞ、お楽しみください。
「明日の十二時頃。中央広場で会いましょう。そこで説明します」
黒い襲撃者から助けられ、その後大きなアルエットちゃんはそう言ってすぐに去って行った。
私は馬車に戻り、そのまま自宅へ帰った。
馬車の中でみんなから「あの白い人物は誰だ?」と質問されたが、通りすがりの実際奥ゆかしい闘技者だったよ、と説明しておいた。
襲撃を警戒して、一応リオン王子とカナリオには我が家で滞在してもらう事になった。
国衛院にも使いの者をやり、カナリオが狙われているかもしれないという旨を伝えておく。
私も白色で治したとはいえ手傷を負ってしまった。
だからその日は大人しく休む事にした。
すると翌日、ルクスとイノス先輩が我が家に来た。
「昨夜、私達の乗った馬車が襲撃されました」
その時に先輩が説明してくれたのは、別れた後にあった事だった。
昨夜、先輩達の乗った馬車が襲撃されたらしく、先輩はその際に遅れを取ってしまったのだという。
「こちらの狙いは恐らく、ヴァール殿下。……だと思うのですが」
先輩は、歯切れの悪い言い方をする。
「何かあるのですか?」
「襲撃者は男女の二人組でしたが、ヴァール殿下を狙ったのは男の方。しかし、女の方がそれを阻止しました」
なるほど。
それはおかしな状況だ。
「それに、女の方の襲撃者は「目的は果たした」と言っていました」
「それはまた、奇怪な事ですね」
どういう事だろう?
今回の事は謎が深まるばかりだ。
ただ、起こっている現象についてはだいたいわかっているのだが……。
詳しい事は全て、彼女に聞けばわかるだろう。
私は、約束の時間に中央広場へ向かった。
アードラーが心配してついて来てくれようとしたが、丁寧に断る。
彼女には王子とカナリオを守って欲しいとお願いした。
アルエットちゃん(大)は、私だけに説明すると言った。
口ぶりからするに、正体がバレなければ何も言わないつもりだったようである。
だから、ここはどうあっても一人で行くべきなのだ。
中央広場のベンチで座っていると、視界に影が差す。
見上げると、陽射しを背負ったアルエットちゃんが立っていた。
「お待たせしました」
「今来た所だよ」
カップル問答をしておく。
そもさん、せっぱ、的なものである。
アルエットちゃんは私の隣に座る。
しかし、こうして並ぶとよくわかるのだが……。
大きくなるんだね。
アルエットちゃん。
私より身長が高いじゃないか。
「で? どういう事なのかな?」
「正直、私は驚いていますよ。クロエ姉さんがそんなに落ち着いて話を聞いている事に……。おかしいと思わないんですか? 大人の私が現れて……。そもそも、大人になった私の正体を見抜いてしまうのもおかしいです」
え、早速批判された?
まぁいい。
「こんな事もあるかな、と思っただけだよ」
素直に答える。
本来なら、そりゃあ大人になったアルエットちゃんが現れれば「ありえん(笑)」と思う所なんだろう。
でも、私にとってはこの人生そのものがありえない事だ。
その上、魔法なんていう都合がよく応用力の高すぎるなんでもありの力があったり、女神様がいたり、とこの世界はあまりにも前世とかけはなれている。
正直、今更こんな事があっても驚かない。
「たとえ、未来からアルエットちゃんが会いに来たとしても、私は驚かないよ」
言うと、見るからにアルエットちゃんは驚いていた。
「あなたは……やっぱり計り知れない人ですね。クロエ姉さんが破格の人と言われるのは、こういう所があるからなんでしょうね」
そんな評され方しているのか、私。
ちょっと照れちゃうね。
「そんな事はいいや。それより、説明してくれるんでしょう?」
「……はい。約束ですから」
それでも、アルエットちゃんはどこか言い難そうな表情だった。
口元の結びが固い。
「クロエ姉さんの言う通り、私達は未来から来ました。それは、未来のアールネスが……世界が滅びの危機に瀕しているからです」
なんだってーっ!
と内心驚きつつ、私は続きを促す。
「私はその危機を阻止するために、カナリオさんを未来へ連れていかなければならないんです」
「えらく漠然としているね」
「勘が鋭いクロエ姉さんなら、わかるんじゃないですか? 私が、どうして事を隠そうとしたのか」
「……過去を変えないため?」
アルエットちゃんは頷いた。
「私達の些細な行動一つで、過去が変わってしまう可能性があります。だから、本当はクロエ姉さんにも秘密にしておきたかった……」
理屈はわかる。
私だってタイムスリップ物の話をいくつか知っている。
時間渡航者は、心臓病の特効薬を持ってきたり、ペニシリンを作ったり、雨を作る人を殺しに来たりと歴史改変をする人間もいるが、アルエットちゃんは極力歴史を変えないよう注意しているようだ。
「なるほどねぇ。じゃあ、私もあまりここで根掘り葉掘り聞かない方がいいわけだ」
「はい。虫のいい話かもしれませんが、それで納得してください。そして、できるならカナリオさんを引き渡してください」
「ふぅむ。でも、どうしてカナリオを? カナリオなら未来にもいるでしょう?」
「それは……」
アルエットちゃんは言いよどむ。
けれど、意を決したように口を開いた。
「私達の未来では、カナリオさんがいないのです」
驚いた。
「どうして?」
「詳しくはわかりません。ですが、カナリオさんはリオン殿下共々、行方を絶ってます」
なんて事だ……。
「そして……」
何か言いかけて、アルエットちゃんは口を閉じた。
首を左右に振る。
「いえ、忘れてください」
「……わかったよ。アルエットちゃんを困らせられないからね」
気になるけどね。
「私達がこの時代にいられるのは三日だけ。
それが過ぎると、本来の時代へ戻されてしまいます。
そして、時間の行き来ができるのはこの王都のみ。
ですが、カナリオさんの住む領地へは往復で四日はかかります。
だから、私達は確実にカナリオさんがいるこの時代、冬迎えの祝いの日に時を渡って来たのです」
つまり、その翌年にはカナリオはいなくなっているという事か……。
そして、世界の滅ぶ危機……世界の終わりか……。
セカイ ノ オワリは怖いな。
何が怖いって?
ピエロの人が怖い。
「わかった。できるだけその事を話さないようにして、カナリオを説得すればいいんだね?」
「はい。そうしていただけると助かります」
アルエットちゃんは私に頭を下げた。
知りたい事はだいたいわかった。
なら次は、個人的な話でもしようかな。
「そういえばアルエットちゃん。今何歳?」
「ええっ!? 私ですか? あー、えっと、27です」
年上じゃねぇか!
年上ットちゃんだ!
いや、年上ットさんだ!
「タメ口すみませんでした、アルエットさん」
「本気で止めてください!」
どうやら私に敬われるのは嫌みたいである。
「それと、結婚してるんだね」
私はアルエットちゃんの左手の薬指を見て言う。
そこには指輪が嵌められていた。
「はい。去年の事ですが」
あれ?
思ったより遅い。
前世ではそういう人間もざらだったが、アールネスでこの遅さは珍しい。
「相手は誰?」
ジェイソンくん?
あ、でもジェイソンくんはアルエットちゃんにとって叔父さんになるんだよね。
アールネスの法律上では大丈夫なんだろうか?
「未来の事はあまり話せないのでご了承ください」
淡々とした口調で拒絶された。
個人的に隠したがっているような気がするのは何故?
「それにあの拳も凄かったね。見惚れちゃったよ」
「クロエ姉さんにそう言われると嬉しいですね」
「結構、鍛錬を積んだんじゃない?」
「ええ。昔、お母さんと一緒に悪い人に捕まった事があるじゃないですか」
初めて、私がアルエットちゃんの発作を見た時の事か。
という事は、お母さんというのはマリノーの事だな。
「あの時の事を話したら、お父さんが教えてくれたんですよ。右の直突き。あれだけを毎日振らされました。知らない人に声をかけられたら、それを当てて逃げろって。護身術ですね」
私の知ってる護身術と違う。
ティグリス先生、私の知らない所であんな危険な技を教えているのか。
護身術ってレベルじゃねぇーぞ。
でも、一つの技だけを極めたからこそ、あの技はあんなに美しいのだろう。
私にも、あれを完全に受け切れる自信がない。
それこそ、今のアルエットちゃんと私では年季が違うから仕方ないけど。
「まぁ、その後闘技にも興味を持って本格的に習いだしたのですけどね」
そう言って、アルエットちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「そうだろうね。あれも凄かったけれど、昨夜の戦いで見せた動きはどれも良かった」
私が返すと、アルエットちゃんは顔から表情を消した。
顔を俯ける。
「……そういえばクロエ姉さん」
そして、言いながらこちらを向いた。
アルエットちゃんは真剣な表情をしていた。
それにつられて、私も思わず表情を消す。
「昨夜戦った相手、どう思いましたか?」
あの黒い襲撃者の事か。
「どうって?」
「手加減しているように見えましたが」
そんなつもりはなかったけれど、アルエットちゃんにはそう見えたのか。
「率直に言えば、戦いにくかった。というより、本気で戦いたいと思わなかった。むしろ本気でやっちゃいけない気がした。戦いに赴く時、こんな事を思ったのは初めてだよ」
私が答えると、アルエットちゃんの真剣な表情が崩れた。
嬉しそうな笑顔を作る。
「そうですか」
「嬉しそうだね?」
「いえ……そうですね」
「もしかしてあの子は……ううん、何でもない」
未来から来たビッテンフェルト流闘技の使い手。
それも多分、アルエットちゃんの教え子。
拳の質が誰かさんに似ている。
変身セットに似た装備を着けていて……。
ふふ、その正体には皆目検討もつかないよ。
「私はそろそろ行きます」
アルエットちゃんが立ち上がる。
「うん。カナリオには明日までに話を通しておくよ」
「お願いします」
アルエットちゃんとの話を終えて、私は帰途へ就いた。
その途中、近道として人気のない路地を歩いていた時だ。
一人の少女が私の前に立ちはだかった。
着物姿の小柄な少女である。
そしてその顔には、黒い仮面があった。
私は身構える。
しかしその少女は私に対し、手を合わせて言葉を向ける。
「ドーモ、クロエ・ビッテンフェルト=サン。チヅル・カカシです」
襲撃者のエントリーだ。
次話、驚愕の事実が発覚!!