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序章 運命と時

 本編の時から怪しかったのですが、もはや恋愛ジャンルとはなんだったのかわからなくなるような話が始まります。

 草原の真ん中。


 そこは数時間前までは、草の絨毯を敷いたように見渡す限りの緑だけがある場所だった。

 しかし今は違う。

 地面は裂け、所々が抉れ、爽やかな緑は土の茶色に汚されていた。


 戦いの傷痕である。

 緑の大地に傷痕を残したのは、二人の女性だった。


 白い女と灰色の女である。


 灰色の女は仰向けに倒れ、白い女はそんな彼女を冷ややかな目で見下ろしていた。


「ワシの勝ちじゃな」


 白い女は勝ち誇るでもなく、淡々と告げる。

 灰色の女は、白い女の顔を見上げる。

 その表情に、敗北の悔しさは一切見られなかった。


 いや、感情そのものが見られなかった。


「何故世界を終わらせようとした? ……いや、人を滅ぼそうとしたか。何故じゃ? 「運命」も「時」も、人が生まれた事で生じた概念。その概念より生じる我らにとって、人間はある意味、生みの親のようなものであろう」


 白い女が問うても、灰色の女は何も答えなかった。


「まぁ、ワシは貴様が元より嫌いじゃったから、今回の事は良い機会じゃったかもしれぬな」


 白い女は不敵に笑う。

 そんな彼女に、灰色の女は口を開いた。


「人の運命が見える君なら、きっといつか僕の気持ちもわかると思う。理由もその時にわかるさ。女神の「時」は見えないけれど、それだけは確信できるよ。シュエット」


 白い女の顔が一転して、不機嫌そうなものに変わる。


「そんな日は来ぬ。ワシは、人が好きじゃからな。なかなか、可愛い生き物では無いか。何より、言葉を交わせるというのは面白いからの」

「ふふふ」

「初めて笑ったの……」

「多分僕は、そんな君の心を守りたかったんだよ。この世の生、その全てを慈しむ君は綺麗だから。君が裏切られて、憎しみに心を染める姿は見たくない」

「ほざくな」


 白い女は、灰色の女の胸に触れる。

 触れた部分から、透明感のある青い結晶が広がっていく。


「貴様は眠っておれ。ずっと……」

「きっとわかるさ。君も……。でも、その時が来なければいいと思ったんだ……。だから僕は心配だよ、君の事が……」


 そのやりとりを最後に、灰色の女は全身を結晶に覆われた。


「貴様は土の中ででも眠っておれ。……せめて、そばにいるくらいはしてやる。トキ」




 アールネスの神話によれば。

 運命の女神シュエットは、世界を滅ぼそうとした時の女神と戦い、打ち倒した。

 そして時の女神を自らの聖域の地中深くに封じたのだという。


 時の女神が復活を果たさぬように……。

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