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百二十三話 決戦へ向けての下準備

 医務室から出た私は、そのまま自宅へ帰った。


 翌日に備えて早めに眠ると、早朝に起きてすぐに出かけた。


 最初に向かったのは、ヴェルデイド家だ。

 ムルシエラ先輩に頼んでおきたい事があったのだ。


 朝も早く来訪するにも非常識な時間なので、もっと時間がかかると思っていたけれど。

 使用人に先輩への取次ぎを頼むと、思ったよりも早く取り次ぎに応じてもらえた。


 そうして先輩の部屋へ案内されると、そこは何に使うのかよく解からない物品で溢れかえったなかなかの汚部屋おへやであった。


「おはようございます。クロエさん」


 少し疲労と倦怠感の漂う表情で挨拶してくれる先輩。

 目にはクマもある。

 徹夜した後のように見えた。


「徹夜ですか?」

「はい。王子に頼み事をされまして……。詳しく話してくれませんし、多少不満ではありましたが……必死な様子でしたのでね」

「それってもしかして」

「あなたが頼んでいたものらしいですね」


 王子はどうやら、私が頼みに行くより先に話を通してくれていたらしい。


「白色を増幅して照射する道具。これがその試作品です」


 そう言って見せてくれたのは、先に青い宝玉がついた杖だった。


「え、もうできてるんですか?」

「外側だけですけどね」


 完成したわけではないのか……。


 今のシュエットは、封印される際に体の大半を失っている。

 今は失った体を黒色で補っている状態なのである。


 根っこの部分はまだ神の性質があると思うのだが、黒色でできた部分は白色で対処できる。


 完全消滅させる事はカナリオにしかできないが、強い白色を扱えればあの邪神を倒す事も不可能では無いはずだ。

 で、私が失敗した後でも何とか対抗できる手段として、この白色照射装置を作ってもらおうと思っていたわけである。


「でも、魔力の増幅そのものは技術として既にありますから、完成までにそれほど時間はかからないでしょう。白色の増幅に特化する事で更なる出力を生み出せるようにする予定です。きっとこれは、医療分野においても大きな発明になるでしょうね」


 説明する先輩がちょっと楽しそうである。


「では、それが完成したら量産しておいてくれますか?」

「わかりました。でも、事情は話してくれないのですか?」

「すみません」


 王子が話さないと判断したのなら、私も説明は避けておこう。


「それから、これも再現できないか試してみてくれませんか?」


 私は、カナリオのペンダントを見せた。


「これは?」

「人の想いを白色へ変換する装置です」


 本来は、シュエットが人々の感謝を白色に変換し、力へと変えるために使っていた物だ。

 シュエットは直接の奉納とは別に、信仰心も自分の力に変えていたという事だ。


 巫女は女神の持ち物だったそれをずっと持ち続け、代を巡ってカナリオの手に渡ったわけである。


 そしてこれが、シュエットを倒すためのキーアイテムである。


「見せてください」


 先輩に渡す。

 先輩はペンダントを調べていたが、すぐに私へ返した。


「原理がさっぱりわかりません」


 元は女神が作ったものだろうからね。

 とてつもない理屈で動いていそうだ。


「そうですか」


 これも作れればシュエットへの対抗策がさらに増えると思ったが……。

 残念である。


「……王子には、あなたを強く信じろと言われました。それはこれを使うから、という事なのですね?」

「はい。私はこれで強敵と戦うつもりです。だから、私が勝てるようにその勝利を信じてください」


 信じてくれれば、私の力になるのだから。




 ゲームの展開をおさらいしておこう。


 このシュエットの復活という事態は、ヴォルフラムルートでのみ起こるイベントである。


 カナリオと共に黒色を狩り続けるヴォルフラムくんは、隠し部屋の杯で黒色を除去した際にある声を聞く。

 それは、祭壇へカナリオの血を捧げれば、ヴォルフラムくんの体にある黒色を全て取り去れるという物だった。


 半信半疑ながらも、ヴォルフラムくんの命がかかっていたため、藁にも縋る思いでその祭壇を探す二人。

 そして探し回った結果、城の最奥にそれがあると判明する。

 どうやって知れたのかは割合かつあい


 女神の鐘の警報装置に引っかかりながらも城の最奥へ侵入した二人は、そこにあった祭壇に血を捧げる。

 そして、シュエットが復活するのである。


 カナリオは気を失い、ヴォルフラムくんも魔狼騎士の力を失う。

 そんな状態でもなんとかカナリオを抱えて逃げ出したヴォルフラムくん。


 カナリオはそれから二、三日ほど眠り続ける。


 何故そんなあやふやなのかと言えば……。


 ゲームのテキストが「正確にはわからないが、二、三日ほど眠っていた気がする」という表記であり、近くで看病していたヴォルフラムくんも「お前が眠っている間に、こんな事になってしまった」と正確な経過時間を教えてくれないからである。


 そしてヴォルフラムくんの言う「こんな事」というのは、王都が黒色に汚染された状態の事である。


 カナリオが眠っていた二、三日の間に王都はシュエットが振り撒いた黒色で満たされる事になっていた。

 国民達が黒色の影響でヒャッハーしており、秩序が著しく損なわれ、ハチャメチャが押し寄せてきたかのような状況に陥っていたわけだ。

 と、少しマイルドな表現にしたが、実際はなかなかに悲惨な状況になってしまっていた。


 これは私達の責任、とカナリオはシュエットの祭壇へ向かおうとする。

 だが、魔狼騎士の力を失ったヴォルフラムくんは「ダメだ。勝てるわけがない。殺されるぞ……!」ととても弱気な様子でカナリオを止める。


 でも結局カナリオは一人でも行こうとし、ヴォルフラムくんも一緒に行く事に。

 その時に、彼を勇気付けるためカナリオはお守りとしてペンダントをヴォルフラムくんに渡すのだ。


 だが、そんな二人の前にゲーム中全ての悪役令嬢達が立ち塞がるのである。


 よくわからん事態かもしれないが、何故こうなったのか説明しておこう。


 ヴォルフラムくんのルートにおいて、カナリオは他の攻略対象全員の好感度を満遍なく上げるようになっている。

 このルートは選択肢のない一本道シナリオなので、カナリオは強制で攻略対象達の好感度を地味に上げなければならないわけだ。


 そしてライトなハーレム状態となり、全ての悪役令嬢と知り合う事になるのだ。


 多分、全ての登場キャラクターが関わってくるルートはこれだけであろう。

 だから、ヴォルフラムくんのルートはこのゲームの集大成と言われているのである。


 結果、カナリオは悪役令嬢達から漏れなく敵愾心てきがいしんを持たれている状態であり、その敵愾心を黒色に漬け込まれた彼女達から総当りで襲われるのだ。


 ちなみにイベントは全て格闘ゲームで勝敗が決まる。

 つまり、連続で格闘ゲームのミニゲームが起こるわけであるが……。

 さながらそれは乙女ゲームのテキストにミニゲームが挟まっているというより、格闘ゲームのストーリーモードのように格闘の合間にテキストが挟まっているような展開がここからラストまで続く。


 そうして悪役令嬢と戦いつつ、攻略対象達と再会して事情を説明するカナリオ。

 そんな彼女に信頼と共にエールを贈る攻略対象達。


 しかしそんな中、最後の相手であるクロエにカナリオは苦戦する。

 負けてもいいイベントだが、倒してもカナリオが負けた事になってイベントが進む。

 そんなピンチの時に、カナリオを守るためにヴォルフラムくんが立ち向かうのだが……。


 その時、不思議な事が起こるのだ。


 カナリオのペンダントに寄せられた攻略対象達の信頼が白色へと変換され、ヴォルフラムくんは二段階目の変身を遂げる。

 白色による変身だ。

 それが彼の固有フィールドで発揮される強キャラモード、銀狼騎士フォームである。


 つまりヴォルフラムくんは、攻略対象全員の信頼が結集した力で二段階目の変身に到るのだ。


 ヴォルフラムくんはその力でクロエを倒す。

 新たな力を手に入れたヴォルフラムくんは今度こそシュエットを倒そうと意気込み、シュエットの祭壇へと向かうのだ。


 そして、祭壇の奥に隠された隠し通路を通り、その先の聖域にてシュエットと戦う。

 銀狼騎士の力でシュエットに勝つヴォルフラムくんだが、神性を持っていない彼ではシュエットを倒しきれない。

 なので、カナリオがトドメを刺すためにバトルするわけだが……。


 シュエットを倒した後「やめてくれ! ワシにはもう、黒色を生み出す力も残っていないのじゃ!」とシュエットはそんな命乞いをする。

 戸惑うカナリオだったが、その隙に付け込んで飛び掛ってくるシュエット。

 その攻撃をかわし、トドメの一撃をお見舞いする。

 そうして、シュエットは「おのれーっ!」と叫んで消滅するのだ。


 その後、カナリオとヴォルフラムくんは学園から姿を消す。

 そして王都の闇の中、シュエットが振り撒いた黒色を取り去るために戦い続けるのだった。


 そこで話は終わりだ。



 と、彼のルートを簡単にまとめればこんな感じである。

 ここで注目すべき点は、二つ。


 まず、ヴォルフラムくんが語る「お前が眠っている間に」だ。

 確かな事は言えないが、このセリフは黒色が王都へ振り撒かれるまでに時間的な猶予があったという事を示唆しているのではないだろうか?

 シュエットの復活からすぐに黒色が振り撒かれていたのならば「お前が眠ってすぐに」と言うはずだ。


 だから、今日か明日の間までにシュエットを倒せれば、黒色の被害が出ないのではないか、と推測できる。


 もう一つは、神性を持っていないヴォルフラムくんでもシュエットを追い詰める事ができたという事だ。

 彼との戦いで、シュエットはとても弱りきった様子になる。

 それこそ、最後のカナリオとの戦いでは体力ゲージが四分の一程度となっている。

 基本コンボ一回で倒せるサイズである。

 そして、シュエットの命乞いの台詞。


「やめてくれ! ワシにはもう、黒色を生み出す力も残っていないのじゃ!」


 これが本当ならば、一定以上弱らせれば黒色を増殖する事ができないという事だ。

 シュエットは黒色を増やすために黒色を振り撒くが、増殖する元手となる黒色がなくなれば増やす事もできなくなる。


 まぁ、これが嘘でも体を構成している黒色を全部散らせば何とかなりそうである。


 白色を循環させた箱にでもみっちり詰めて、カナリオが起きるのを待ってからトドメを刺してもらえば解決だ。


 つまる所何が言いたいかといえば、さっさと倒してしまえば被害が出ず、強い白色を捻出できるならば私でもシュエットを倒せるかもしれないという事だ。


 そして、その強い白色を捻出する手段が私の手にはあった。

 カナリオのペンダントである。




 私は先輩と話を終えると、コンチュエリにも会いに行った。

 少しの雑談をしてヴェルデイド家の邸宅を出ると、他の知り合いにも会いに行く。


 ティグリス先生とマリノーは、フカールエル家にいた。

 アルエットちゃんも元気そうで、ティグリス先生からはお礼を言われた。


 ルクスとイノスは国衛院の人達に混じって、町で忙しそうに動き回っているようだった。

 王子から、これから混乱に備えるようアルマール公へ指示があったのだろう。


 王子は混乱が起こらないよう、みんなに詳しい事情を伏せているようだった。

 私もその方がいいと判断し、ただ「私を信じてほしい」とだけ伝えた。

 これから大変な事になるかもしれないけれど、私がなんとかする。

 そう説明して。


 みんなはよくわかっていない様子だったけれど、それでも私を信じてくれた。


 そして最後に、私はアルディリアとアードラーに会いに行く。


 と言っても、二人とも私の家に居たのだが……。

 二人の家に行くと、どちらも私の家に行ったとの話だった。


 帰ってみると、二人に出迎えられた。


「何か、大変な事があったみたいね。詳しくはよくわからないけれど」


 アードラーが言う。


「何があったの?」


 アルディリアが訊ねてくる。


「うん、ちょっとね。……そうだね。二人には、説明しておこうか」


 私は、二人にシュエットについての事を話した。

 無論、私が失敗した時の事も話しておく。


 他の人には言わなかったけれど、もしもの時……。

 私が失敗してしまった時の事を二人にお願いしておきたかった。


 それを託せるのは二人しかいないと思った。


「何故あなた一人で行くつもりなのよ? 私も行くわ」

「僕だって行くよ。それに、軍の人達を連れて行って大勢で戦えばいいじゃないか。ビッテンフェルト候だって行きたがるはずだ」


 二人が言う。


 パパか……。

 ちょっと考えてみたけれど、頭を振る。


「シュエットには、強い白色をぶつけるしか勝つ方法は無いよ。それも拳で直接相手の体へ流し込まなくちゃならない。そして、シュエットに通用する強い白色を生み出す方法は今の所これだけだ」


 私はカナリオのペンダントを見せる。


「これは人の想いを白色に変換する物。多くの人間が信頼を寄せれば寄せるほど、使用者は強い白色を使う事ができる。そしてこれは一つしかない。定員は一人だけなんだよ」

「だからってクロエが行く必要はないでしょう?」


 アードラーが訊ね返す。


「うーん。これは私の責任だから、私がケジメをつけなくちゃならないんだ。それに、多分一番あれの事を知っているのは私だからね」


 ゲームでの話だけれど、私はシュエットの手の内をある程度知っている。

 シナリオ内で何をしたのか、格闘ゲームではどんな技を使うのか、全部知っている。

 だから、あれと戦うならば私が一番適任なのだ。


 どういうわけか、私は運命を読まれる事もないみたいだし。


「だから、私一人でいく。二人には、その後の事をお願いしたいんだ」

「やだよ!」


 アルディリアが強い口調で言う。


「役立たずでもいい。僕も行くから!」

「私だって行くわよ!」

「いやぁ、でも……」


 どうしても行くと言い張る二人。

 私は何とか二人をなだめようとしたけれど、二人は結局言う事を聞いてくれなかった。


「わかったよ」


 私は仕方なく、了承した。


「「やった!」」


 二人がハイタッチする。


 もう、仕方ないなぁ……。


 でも、それだけ二人は私の事を想ってくれているって事だよね。

 それは、素直に嬉しい事だよ。


「じゃあ、少しだけ休んでから行くけれど……。折角だから、三人で寝る?」

「「えっ!」」


 二人は驚愕した。


 そして、シュエットへ挑むまでの時間、三人で一緒に眠る事にした。

 こういういろいろな説明等を書いた時は、書き損じ、書き忘れがたくさんあるかもしれないので、おかしいと思った所があれば指摘していただけるとうれしいです。

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