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十一話 その女、強キャラにつき……

 学園の休み時間。教室。


「クロエ様」

「はい。何でしょう、アードラー様」

「私にも、闘技を教えてくださらないかしら? 代わりに、舞踏をご教授させていただくわ」


 え?


 彼女の思いがけない申し出に、私は呆気に取られてしまった。


「ダメかしら?」


 私が立ち直る前に、彼女は言葉を繋ぐ。

 ちょっと不安そうだ。断られるんじゃないか、と思っているのかもしれない。


「別にいいよ。教えるくらい」


 私は気軽に答えた。友達をいつまでも不安にさせたくはないしね。


 ちなみに、彼女が何故舞踏を交換条件にしたのかと言えば、舞踏は彼女の最も得意とする分野だからだ。


 実際にゲームでは主人公と競い合うミニゲームが舞踏だった。

 音ゲーみたいなやつでしたけど。

 たしか、SEになって前作三曲だけだったのが、全キャラクター分のテーマ曲が遊べるようになったんだよね。


 彼女は多分、私の得意とする技術である闘技に対して、自分の最も得意とする舞踏を教える事で報いようと思っているんだろう。


 さっき私は考え無しに軽く答えたけれど、でもよく考えれば案外悪くない考えかもしれない。

 だってアードラーは、舞踊だけじゃなく闘技の才能も持ち合わせているだろうから。

 何せ彼女は格闘ゲームにおける強キャラの一人なのだ。


 格闘ゲームでの彼女は、無敵の特殊ステップと強い対空攻撃を持つキャラクターだった。


 特殊ステップは強弱で前後距離調節のできる無敵移動ができ、使いこなせれば間合いが自由自在に調節できる。

  熟練者になればなるほど攻撃が当たりにくくなる。


 6P(相手方向入れパンチ)が踊りのポーズみたいに手を斜め上に突き上げる技で、その間は上半身無敵である。

 だから相手のジャンプ攻撃に合わせれば、だいたい打ち勝てる。


 しかも、空中で当てるともれなくゲージ消費の超必殺技へと繋がるのだ。

 始動モーションが、前後に開脚したような蹴りを上空へ見舞う様から、パンモロキックと呼ばれていた。

 SEになって修正されるかと思ったが、あまりにも強い判定と超必殺が繋がる仕様は変わらなかった。

 代わりに、三割減ったそのコンボが、二割に威力ダウンしている。

 攻撃力を低くする事でバランスを取ったのだ。


 SEで追加された超必殺は、扇子を投げて当たった相手の前へ瞬時に移動、ラッシュを叩き込むという技だ。

 長いしゃがみ強Kに頼るクロエ使いなんか、超必殺の生当て(コンボに組み込まない超必殺)の餌食だ。

 コンボ補正がつかない上にカウンター判定になるから、とんでもない威力になる。


 固有フィールドは残像が着き、攻撃すると同じ動きで攻撃を繰り出すという物。単純に考えて、コンボの威力が二倍になる技だ。

 正直、この固有フィールドのせいで攻撃力を減らされてもあんまり意味がない気がする。


 極めつけに「これが、舞踏の真髄」という、舞踏ってなんだろう? と首を傾げたくなるような勝ち台詞を残す。

 きっとそれは舞踏ではなく武踏とかいうものだ。


 ちなみに、私の愛用キャラは彼女である。


 別に強キャラだったから使っていたわけじゃないよ?

 好きで使っていたキャラがたまたま強キャラだっただけだよ。

 嘘じゃないよ。本当だよ。


「教えるのはいいですけど、別に舞踏は教えてもらわなくていいですよ。私には似合いませんし」


 私が言うと、アードラーはムッとする。眉根を寄せた。


「それじゃあ、一方的でしょう。あなたに利がありませんわ」

「別にいいと思いますよ。友達ってのは、そういった損得の部分も友情で補う物だと私は思っておりますから」

「私の考え方とは違いますわ。互いに負い目を作らないから、対等に接する事ができるのだと私は思います」


 それがアードラーの持つ友人観というものらしい。


 彼女は私以外に親しい人間がいないという。

 友達と呼べる者も当然いなかった。

 それでもそんな考えを持っているという事は、ずっとこういう友人関係を持ちたいとずっと夢見ていたからなのかもしれない。

 ああ、いじらしい。


「それに、クロエ様はスタイルがいいからきっと舞踏も似合いますわ。女性向けのパートが難しくても、男性向けのパートは馴染むと思いますし……」


 それって、結局似合ってないって話じゃないの?

 言葉が尻すぼみよ?

 でも、折角のお勧めだしね。


「わかりました。では、それでお願いします。貸し借りなし。私達は対等の関係。それでいいのでしょう?」


 私が言うと、満面の笑みを浮かべる。

 喜色満面。その言葉通りの表情だ。

 そんなに喜んでくれたなら、私も嬉しい。


 と、不意に「あ」と彼女は声を漏らす。


「それともう一つ」

「はい。何でしょう?」

「もう少し砕けた口調で話しませんか? ……私達は、対等の友達、なのでしょう?」


 うーん。「対等の友達」の辺りで赤面しつつ目をそらす所に萌えました。合格です。


「わかった。じゃあ、そうしようか。アードラー?」

「え、ええ、もちろん、もちろんよ、クロエ」


 さっきよりもさらに嬉しそうに、彼女は笑った。


 その日から私は彼女に闘技を教え、代わりに舞踏を教えてもらう事になった。

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