九十話 追いつかれてはいけないシュエット学園
少し修正しました。
学園の廊下を歩いている時。
私は前方にある集団を発見した。
向こうもこちらに気付いた。
そして、すぐに踵を返して走り出した。
私は追いかける。
その集団と言うのは、前にアードラーを嵌めようとした令嬢集団の事である。
私はそいつらを見かけると、追いかけ回すようにしていた。
「ヒャッハーッ!」
「キャアアアアアァッ!」
「食っちまうぞーっ!」
「ギャアアアアアアァッ!」
令嬢達も慣れたもので、私が走り出すのとほぼ同時に逃走を始める。
もう条件反射のようなものだ。
私は令嬢達に追いつかないよう、なおかつ危機感を覚えさせる距離を維持して追いかける。
そしてへとへとになるまで追いかけて、頃合を見て見逃すのだ。
それが私なりの報復である。
我が友の味わった苦しみを思い知るがいい!
が、今日はいつもと違った。
最後尾を走っていた令嬢が、前を走っていた令嬢から押されて転んだ。
あ、囮作戦だ。
私は転がされた令嬢の前で立ち止まった。
令嬢は起き上がり、私を見て言葉を失った。
表情に怯えを張り付かせ、ぺたりと座り込んだ。
腰が抜けたようだ。
さて、普段から「食っちまう」なんて事を言っているわけだが、実際に追いついてしまったらどうすればいいのだろうか?
とりあえず張る?
私は平手を上げる。
令嬢の表情が怯えから絶望に変わる。
ここまで恐がられると逆にかわいそうになってきた。
「何をしているのだ? クロエ嬢」
そんな時に、声をかけられた。
振り返ると、リオン王子が立っていた。
王子の視線が、私からへたり込む令嬢へ向けられる。
王子の表情が険しくなった。
「その者は、アードラーを貶めようとした者の一人だな?」
王子は令嬢に迫り、見下ろした。
「そなたらは、何故あのような事をした? カナリオを害し、その罪をアードラーに擦り付ける。何故、あのような卑劣な事をしたのだ!」
王子が怒鳴りつけると、令嬢は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げた。
「お許しください! 仕方なかったのです!」
「仕方ない事な物があるか!」
王子の怒りを爆発させ、令嬢に掴みかかろうとする。
「ダメです。王子。怒りを納めてください」
王子は私を睨みつける。
「そなたは、この者を許せと言うのか?」
「許される事ではありませんよ。少なくとも、私は許せない。でも、陛下は言っていたでしょう? この方達の罪は、全て王子が背負うように、と」
その事は、嘘を見抜けなかったリオン王子が悪いから、と陛下はそう言い渡したのだ。
王子は押し黙る。
「陛下が決めたのなら、本来この子に罪は無いんです」
「それは、そうだ……。だが……」
納得できない。
その言葉を王子は飲み込んだのだろう。
きっと、理解はしているのだろう。
でも、心が許さないのだ。
私は、令嬢の手をとって立たせた。
自分を庇い、助け起こした私に令嬢は驚いているようだった。
「私だって納得できない。だから、個人的に報復しようと思っています。でも、与えられる罰なんてせいぜいこんなものですよ」
私は令嬢の尻を「パシーンッ!」と派手に音が鳴る程度の強さでぶっ叩いた。
「〜〜〜〜ッッッ!(声にならない悲鳴)」
令嬢A アウトー。
令嬢は驚き怯え、そのまま走り去って行った。
次から追いついた時はこれでいこう。
お尻なら、後遺症とかも残らない。
痛いだけだ。
でも、次に悪さしたらタイキックだかんな。
覚えとけよ。
「そなたは……」
なんですか? その目は。
何が言いたいんですかね?
「言っておきますけど、少し前までは王子の事も許せないと思っていたんですからね」
「今は、許してくれたのか?」
「陛下の与えた罰に感謝してください。あれと、あなたの謝罪があったから、私は王子を許せたんですから」
「そうか……ありがとう」
笑顔を向けられてドキッとした。
流石はメイン攻略対象。
笑顔に魔力がある。
あの子達がカナリオとアードラーを害そうと思ったのも、王子を巡る嫉妬だったんじゃないだろうか。




