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八十八話 令嬢会

「そういうわけだ。今宵、貴様の家に泊まらせてもらおうか」

「どういうわけだ」


 昼休み。

 学園の中庭にて。


 私は漆黒の闇(笑)の言葉にツッコミを入れた。


「ふ、ならば説明してやろう。貴様の家に女子だけで集まり、宴を開こうと言っているのだ!」


 だから何でそうなったし。


「それは別に構わないけど、何で私の家なの? そして何で唐突に集まろうと思ったの? あとその喋り方は何?」

「よくぞ聞いた。答えてやろう。貴様の家は地理的に皆が一番集まりやすい。何故集まるか? それは秋迎えの祝いで行われる文化祭について、相談したい事があったからだ。そして我のこの口調だが、最近漆黒会(漆黒の闇(略)のファンクラブ)で流行り出した漆黒の闇に囚われし黒の貴公子様、豪傑説の口調だ!」


 そう言われれば、私の家は地図上で見るとみんなの家に囲われる感じの場所に建っている。

 中心だ。


 秋迎えの祝いとは、夏迎えの祝いの秋バージョンである。

 この国には、四季にそれぞれ祝いの日がある。

 秋は文化的な活動などを推奨する祭りが開かれ、絵のコンテストや小説の選考会などが開かれる。

 学園では、生徒達が学園で学んだ経験などを生かし、クラスごとに分かれて出し物をしたり、自由参加の演劇や演奏会などを催したりする文化祭が行われる。

 その相談をしたいという話か。


 あと、彼女の言う設定がちょっと合ってる。

 ゲームとカナリオに対しての私はこんなんだ。

 でも残念ながら私の一人称は「我」ではない。


 まぁ詰まる所、彼女の提案は女子会だ。

 宴とか言ってたし、わいわいとお菓子とか飲み物とか持ち寄ってついでに相談する感じなんだろう。

 そういえば、前世でもたまに残念な女友達と集まってそういう事をしたなぁ……。


 お菓子と飲み物を持ち寄って、レンタルしてきた映画見たり、麻雀したり、友達が持ってきたBL同人誌を読んだり、乙女ゲームをオートプレイでBGM代わりに流してみたり、一晩中格闘ゲームしたり……。

 懐かしいなぁ。


 コイバナ? した事無いな……。

 だから残念なんだよ。


 でも、久し振りにそういう集まりを開くのはいいなぁ。

 魅力的だ。


「まぁ、いいか。じゃあ、今夜集まる事になったけどそれでいいの?」


 私は昼食会のメンバー達に訊ねる。


「もちろん行くわ」

「私もっ!」

「よろしいのでしたら、お邪魔します」

「非番なので、お言葉に甘えさせていただきます」


 アードラー、アルエットちゃん、マリノー、イノス先輩が返事をする。


「じゃあ、決まりだね。あ、でもアルエットちゃんはお泊り大丈夫かな? 先生に許可取った方が良さそうだ」

「それは私が聞いておきます」


 私が言うと、マリノーが答えた。

 確かに、ティグリス先生への連絡はマリノーが適任だね。

 あとは……。


「僕は、反対だよ」


 アルディリアが発言する。


「まだ成人もしていないのに、夜遊びなんてよくないよ」


 言って、アルディリアはアードラーへ視線を向けた。

 二人の視線が交わり、見詰め合う。


 おお、何か通じ合ってる感がある。


「ただ、友達の家へ遊びに行くだけじゃない。そういう集まりなら、もっと幼い子女もすると聞くわ。おかしな事ではないはずよ」


 アードラーが答える。


「それは……そうだけど。でも……」

「まぁ、いいじゃねぇか」


 言い淀むアルディリアの肩へ腕を回しながら、ルクスが言う。


「たまには女同士で楽しみたいって事もあるだろうさ」


 ルクスは言って、イノス先輩を見た。


 ルクスとしては、先輩に息抜きさせたいという気持ちがあるのかもしれない。


「何だ? 寂しいのか? 何なら、俺達も今夜は集まるか?」

「うーん、そういう事じゃないんだけど……」


 あっちはあっちで男子会が行われるのかもしれない。


「男だらけの夜会だと? ぬぅ、そっちに参加したい……。きっと薔薇の香りがする」


 漆黒の闇(笑)が悔しげに呻いた。


「ああ。それから、コンチュエリ。その格好で来たら家に入れないから」

「ぬ? 致し方なし」


 そんな時、王子が私に訊ねてくる。


「私はどうすればいいだろうか? できる限り、そなたと行動せよという話だが」


 変な生真面目さを発揮する王子。


「参加するのなら、王子様から姫様にクラスチェンジしていただきますよ?」


 王子は参加を断念した。




 というわけで、私の家で女子会が開かれる事となった。


 夕方頃、参加者の令嬢達が我が家へ訪れる。


 最初に来たのはアードラーだった。


「この度はお招きに預かり、光栄です」

「こちらこそ、当家へ迎えられた事、望外の喜びでございます。歓迎いたします」


 二人で、ちょっと堅苦しい挨拶をする。

 貴族的な作法だ。

 そして、アードラーを自分の部屋へ案内した。


 私の部屋には、全員が座れるように二脚のソファとテーブルを用意していた。

 向かい合って座り、その間にテーブルが置かれる形だ。


 応接室にあった物を拝借したのだ。


「あら、わざわざ用意してくれたのね」

「ベッドの上でってのも考えたけど、流石に窮屈だからね」


 パジャマパーティ的な感じで。


「ベッドの上……何をするの?」

「お話だけど?」


 それから次に来たのはコンチュエリだった。

 コンチュエリはちゃんとドレス姿だった。

 よかった。


「お招きいただき、ありがとうございますわ」

「こちらこそ歓迎します」


 という感じで、イノス先輩、マリノーとアルエットちゃん、と次々に参加者は集まった。


 そして全員が揃い、女子会は開催された。


 それぞれ、持ち寄った食べ物や酒のビンがテーブルに並べられる。


「とりあえず、カンパーイ」


 みんな、飲み物の入った杯を片手に乾杯する。

 私とアルエットちゃんはオレンジジュースだが、みんなはアルコールである。


「何であなたもジュースなんですの?」


 コンチュエリが不思議そうに訊ねてくる。


「母上に禁じられているからだよ」




「で、相談って具体的にどんな事なのさ?」

「ん?」


 私が訊ねると、サンドイッチを片手にお酒を飲んでいたコンチュエリに不思議そうな顔をされた。


 目的があるのに、普通に宴会を楽しんでいるんじゃないよ。


「文化祭の事で話があるって言っていたじゃないのさ」

「ああ、そうでしたわね。実は、クラス別の出し物をどうすればいいのか迷っていまして」

「クラスのみんなと相談すればいいじゃない。なんで私に聞こうと思ったのさ」

「うちのクラスにはわたくし以外に公爵家の者がおりませんの。皆様、そんな私を立ててくださいますのよ。コンチュエリ様の思う通りになさいませ、とね。実際は、ていのいい押し付けですわ!」


 なるほどね。

 上位貴族の務めみたいなものか。

 それで下位の貴族へ無理を強いれば、人物評価も落ちるだろうから下手に断れないんだな。


「うちのクラスもそうよ。私以外に公爵家がいないから、私も押し付けられたわ」


 アードラーが発言する。


「少し前まで、こういう決め事は殿下がなさっていたのですけれどね。クラスが変わってしまいましたし」

「あれ? でも、王子はうちの催し物にノータッチだったよ。というより、私に丸投げだったんだけど」

「それは、陛下が殿下に命じられたのではないかしら。クロエに任せるように、と」

「なんで?」

「陛下が殿下にクロエと一緒にいるよう命じられたのは、クロエという人間を観察させるためだと思うから。だから、できるだけあなたに行動させたいのだと思うわ」


 迷惑な……。


「私なんか観察していても、見るべき所なんて筋肉ぐらいしかないというのに」

「そう? 私は陛下の考えを支持するわ。あなたには、見るべき所が多くあると思うもの」

「たとえば? アードラーにとって、私の見るべき所ってどこ?」

「それは……」


 アードラーの視線が、一瞬だけ私の胸元とへそを撫でてから背けられる。

 目立つ部位なのはわかるけど、そういう事じゃないでしょ。


「そうね。例えば、あなたがさっき言った通り、筋肉にしてみても、腕であったり、腹筋であったり、背筋であったり、いろいろと見るべき部位は多いと思うわ」


 そういう話でもないんじゃない?


「それより、文化祭の話でしょう? 丁度いいわ。私も出し物に困っていたから、相談に乗ってちょうだい」


 何か誤魔化された気がする。


「ちなみに、クロエのクラスは何をするのよ? もう決まったのでしょう?」

「うちのクラスはマリノーとティグリス先生がいるからね。お菓子を売り出す予定」


 マドレーヌとか、シナン……フィナンシェみたいなお菓子を売り出す予定だ。


「それだけじゃなくて、教室内に飲食できるスペースを用意してお茶なんかもお出しする予定なのですよ」


 マリノーが補足説明してくれる。


「こういうアイディアは、全部クロエさんが出してくれました。すごいでしょう?」

「へぇ。やはり、クロエちゃんに相談したのは間違いじゃなかったようですわね。その調子でうちのクラスの出し物も考えてくださいませ!」


 コンチュエリまで私に丸投げか。


「いえいえ、私のような侯爵家令嬢が公爵家のコンチュエリ様に意見を申し上げるなど恐れ多くて、とてもとても……」

「嘘おっしゃい。普段から公爵家への敬いどころか、先輩に対する敬いすら見せないくせに!」


 だって、何か先輩って呼びたくないんだもん。


 私は一つ溜息を吐いた。


「わかったよ。何か考えてみる。で、参考までにイノス先輩のクラスは何をするんですか?」


 チビチビと蒸留酒を飲んでいた先輩が私に向く。


「私はコンチュエリ様と同じクラスですので」


 押し付けた側の一人だったか。


「そうですか。じゃあ、コンチュエリは何かやりたい事とかないの?」

「せめてさん付けで呼んでくださってもよろしくてよ?」

「今後一切、漆黒の闇に囚われし黒の貴公子の格好をしないと誓ってくれるなら、その要求を飲んでもいいよ」

「いいでしょう。あなたの無礼は全て許して差し上げるわ」


 そんなにあの格好が好きか。


「で、私のやりたい事だったかしらね。これといってないから相談しているのだけれどね。それでも強いてあげるなら、私の得意とする絵に関する物かしら」

「そう言えば、絵画が得意だったね」

「でも、ありきたりな物ではダメね。他にも絵画を飾って発表するクラスは多いと思うわ。私はそういう物とは一線を画した、今までにないもっと先進的で前衛的な事をしたいのですわ」


 絵の腕を生かせて、ありきたりじゃなく、今までにない先進的で前衛的な物、か。


「漫画同人誌とか……」


 ふと思いつき、ボソリと呟く。


「漫画同人誌? 何かしら、それは!」


 小さく呟いたはずのそれをコンチュエリは正確に聞き取っていた。


「意味はわからないけれど、何故か心が躍る響きだわ」


 詰め寄られる。

 顔が近いよ。


「近いわよ!」


 アードラーが言いながら、コンチュエリのドレスを引いてソファへ座らせる。

 ありがとう、アードラー。


「で、その漫画同人誌とは何かしら?」


 折れそうにないので、私はコンチュエリに漫画という物を教える事にした。

 紙にコマ割りと棒人間やへのへのもへじなどを書き込んで、説明する。


「確かに斬新ですわね。でも、こんなに多くの絵を描かなくてはいけないなら時間がかかりすぎますわ」

「別に、いつも描いているような細やかな描写をする必要はないよ。わかりやすい特徴を押さえて、描きやすくデフォルメすればいいんだよ」


 たまにいるけどね、全編芸術作品みたいな絵を描く漫画家さんも。


「……なるほど。それなら何とかなりますわね。でも、それだと話も考えなくてはいけないですわね。私の専門外ですわ」

「いや、それこそ得意分野でしょう」

「どういう事かしら?」

「考えるのは別に文学的な物でなくてもいいんだよ。いや、ある意味哲学的な文学でもあるのか……。えーと、コンチュエリって、ムルシエラ先輩と誰かがイチャイチャする場面とか妄想しない? その状況とか、台詞とか考えて、ニヤニヤしたりしない?」


 あとはもう、わかるな?


 実際、コンチュエリはそれで察したようだ。


「わかりましたわ! 私のこの熱情を白紙へ叩きつけ、刻み、形と成せ。そう言うのでしょう? 一度試しに、描いた作品を茶会で披露してみますわ。評判がよければ、印刷して文化祭で売り出す事としましょう」


 解決したようでよかったよ。

 でも、これでよかったんだろうか?

 さながらプロメテウスの如く、取り返しのつかない知恵をこの世界の人類へ与えてしまったんじゃないだろうか?


「それで、アードラーは何かしたい事とかあるの?」


 次に、アードラーへ話を振る。


「特にないわ。クロエみたいに飲食店でもしようかしらね。ちょっと変わったかんじの」


 ちょっと変わった飲食店ねぇ……。


「キャバクラとか……」

「キャバクラ? それは何かしら?」


 おっと、口に出てしまった。

 最近何故かそういう物を意識する状況が重なったせいで、咄嗟に思いついてしまったのだ。


「えーとねぇ、お客さんに付きっ切りで接待しながらお酒を愉しんでもらう形式のお店だよ」


 私も詳しくは無いが、知りうる限りの知識を教える。

 指名料、セット価格、延長、などなどだ。

 あと、ホストクラブの事も教えておく。


「ふーん。でもそれは文化祭に相応しくないわね。どちらかというと、水商売の分野じゃないかしら?」

「まぁ、実はそうなんだけど」

「それって何が楽しいのかしらね?」

「さぁ」


 ふと、思いつく。

 私はおもむろに立ち上がる。

 正面、向かい側のソファに座っていたアードラーの隣に座らせてもらう。


「な、何?」

「初めまして、お嬢様。指名してくれてありがとう。ナンバーワンのKU☆RO☆Eだよ」

「いったい、何が始まったんですか?」


 呆れた声でイノス先輩が呟く。

 それに構わず、私は続ける。


「緊張してるね。こういう店、初めて?」

「は、はい」

「もっと、肩の力抜いて、ほら」


 私はアードラーの肩を抱く。

 逆にアードラーの体が強張るのを感じた。


「君、なんて名前なの?」

「……アードラー・フェルディウス、です」


 アードラーは顔を俯けて答える。


「可愛い名前だねぇ。君によく似合ってるよ」

「ありがとうございます」


 何でさっきから敬語なの?


 私はアードラーの顎を摘んで、俯いた顔を上げさせる。

 そして、正面から笑顔を向ける。


「そんなに俯いてばかりじゃ、君の可愛い顔が見えないよ」

「……!!!」

「ふふふ、君とならお客さんとしてじゃなくても会いたいな」


 私が言うと、アードラーは息を呑んだ。


「と、こんな感じなんだけど、どう?」


 ホストの演技をやめてアードラーに訊ねる。


「え、延長お願いします。あと、この店で一番高いお酒を……」


 シャンパンタワー入りましたー!


 アードラー、意外とノリノリだ。




 それからしばらく話し合った結果、アードラーは最初に言った通り、私のクラスと同じような飲食店を提案する事にしたらしい。


「じゃあ、これで相談はおしまいだね」


 これからは普通の女子会だ。

 さぁ、お菓子とお酒と乙女同士の赤裸々トークの時間だ。


「いいなぁ……」


 そんな時、アルエットちゃんがぽつりと呟いた。


「私もお姉ちゃん達と文化祭で何かしたかったなぁ……」


 当然ながら、学園の生徒ではないアルエットちゃんは出し物に参加できない。


 だからこの話し合いで、アルエットちゃんだけは蚊帳の外だった。

 みんなの出し物の話し合いを聞いて、自分も参加したくなっちゃったのかもしれない。


 できる事なら参加させてあげたいけれど、こればっかりはなぁ……。

 そんな時だった。

 マリノーが挙手する。


「あの、私達で自由参加の出し物をしませんか?」

「自由参加?」

「はい。講堂で行われる演劇や演奏会などの出し物。あれなら、アルエットちゃんも参加の許可が得られるかもしれません」


 なるほど。

 そういう事か。


「いいかもしれないね」

「私、お姉ちゃん達と一緒に参加できるの?」


 期待に満ちた表情でアルエットちゃんは私を見た。

 私は笑みを向ける。


「うん。大丈夫だと思うよ」

「やったーっ!」


 アルエットちゃんは両手を上げて歓声をあげる。

 そんなに喜んでもらえると嬉しい。


 本当の所、まだ大丈夫かはわからないけれど……。

 ダメだったら、総帥に相談してみよう。

 総帥の権力も万能じゃないが、なんとかしてくれそうな気がする。


 でもそれとは別に、具体的に何をするのかも考えておかないとね。

 文化祭までは時間もあるし、じっくりと考えてみよう。

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