プロローグ 気づいたら、豪傑系悪役令嬢になっていた
これは短編作品「気づいたら、豪傑系悪役令嬢になっていた」の連載版です。
続編ではなく、パラレルワールドのような扱いなので、こちらから読まれても問題はありません。
推敲が雑になるかもしれません。何かおかしいと思った所があればご指摘いただけるとうれしいです。
加筆・修正致しました。
たまに見直して、修正していく予定です。
誤字報告、ありがとうございます。
適用させていただきました。
プロローグ 気づいたら、豪傑系悪役令嬢になっていた
クロエ・ビッテンフェルトという悪役令嬢について説明しよう。
彼女は、そこそこにコアな人気のある乙女ゲーム「ヴィーナスファンタジア 〜愛しき我が女神〜」に出てくる主人公のライバル。
俗に言う悪役令嬢というポジションのキャラクターである。
このゲームは剣と魔法のファンタジックな世界を舞台に、平民出身の主人公が学園生活を通じてキラキラと美しい上流階級の男性達のハートを射止め、恋に落ちる事を目的としたものだ。
そして五人いる男性達のシナリオにはそれぞれ主人公のライバルとなる令嬢がいて、あらゆる分野で競い合って男性の愛を奪い合うのである。
クロエはそのライバル令嬢の一人なのだが、彼女は少しばかり他のライバル達と毛色が違っていた。
他の令嬢が、絵画、料理、舞踏、チェスなどの令嬢らしき華やかな特技で主人公と渡り合うのに対し、クロエだけは得意な分野が闘技なのである。
見た目だって美少女というよりもイケメンと形容すべき容姿だ。
それだけでこのゲームにおいて彼女が異彩を放っている事にお気づきいただけるだろう。
が、彼女の特異性はそれだけに留まらない。
攻略対象を巡る対決はミニゲーム仕様になっているのだが、このゲームの製作スタッフはミニゲームに力を入れすぎており、彼女との戦いは本格的な2D格闘ゲームとなっている。
他の令嬢の対決ミニゲームも音ゲーやらパズルやらとかなり本格的な作りになっているのだが、この格闘ゲームは特に作りこみが異常だった。
本編をクリアすると2P対戦ができ、作中の攻略対象とライバル令嬢が全員使えるという仕様である。
誰得であろうか。
だがその格闘ゲームのバランスはとてもよく、格ゲーを買ったら乙女ゲーがついてきたと言われる程だった。
ちなみに私がこのゲームを買ったのは、格ゲーの方が目当てだったりする。
基本、私はアクションか対戦格闘ジャンルのゲームしかやらない。
そのついでに本来の乙女ゲーにもハマってしまったクチだ。
しかもこのゲーム、それだけに留まらない。
なんと、SEという続編完全版があるのだ。
肝心の乙女ゲーム部分には二人の新たな攻略対象を加え、外伝的なシナリオも追加されている。
前作では収録されていなかった主人公のボイスも追加された。
という堅実にファンの心を掴む追加要素を加えて来た。
が、生まれからして異彩を放つこのゲーム開発スタッフが、それだけで終わらせるはずがない。
思いがけない……いや、ある種なるべくしてなったとも言える進化を繰り広げたのである。
ずばりそれは、ミニゲームである格闘ゲームの強化である。
他にもミニゲームはあり、それぞれのシステムも強化されていたが、格闘ゲームの追加要素だけが常軌を逸していた。
格闘ゲームの仕様変更とバランスの調整が成され、前作三つだけだったステージに各キャラクター分のホームステージ、各キャラクター分の特殊カラー、超必殺技が一人一つから二つに、五人の新しいプレイアブルキャラクター、超必殺技時のカットイン、ネットワーク対戦、などが追加された。
このゲーム会社は乙女ゲームをどういう風に見ているのだろう?
何を目指しているのだろうか?
もう既に格闘ゲーム単品で出してもいいくらいの出来である。
その内、アーケードで出したりするのではないだろうか。
実にワクテカである。
と、それを聞けばこのゲームがコアな人気を誇る理由がお解かりいただけるだろう。
とにかく異色の乙女ゲームなのだ。
そしてクロエ・ビッテンフェルト。
彼女の出るルートシナリオだが、とてつもなく暑苦しい。
まず主人公との出会いからして他と一線を画している。
初登場からして「お前は強いな。だが、まだ私には遠く及ばない」という強キャラ臭のする言い回しと共に現れるのだ。
そして再びまみえた時の戦いで、特訓した主人公にあっさりと敗れる。
なんやかんやで、攻略対象と仲良くしていると妨害してくる(ミニゲーム)。
その後、何故か隣国との戦争へ発展する(戦争が起きるのは彼女がライバルになるルートだけ)。
本来魔力は貴族しか持っていないが、平民でありながら貴族以上の魔力を持つと言われる主人公は戦争への参加を促され、クロエは主人公を追う形で志願して参戦する。
敵国との戦いの最中、主人公のピンチに颯爽と現れて「お前を倒していいのは私だけだ」とか言い出す。
最終的に、軍事作戦の最中に攻略対象の男性を見届け人として主人公へ決闘を申し込み、破れた後に敵の部隊から襲撃される。
「ここは私に任せておけ。お前達は逃げろ」と言って主人公達を逃す。
援軍を連れて戻ってきた主人公が目にしたのは、百を超える敵の死体の中心で立ったまま息絶えているクロエだった。
と、乙女ゲーにあるまじき壮絶な死に様を見せる。
なおかつ、攻略対象の男性とは婚約関係があるだけで別に恋愛感情を持っているわけではない。
妨害してくるのは、単に主人公への対抗心からだけだ。
もはや攻略対象のルートではなく、彼女のルートと言っても過言ではない目立ちようだ。
というわけわからん仕様だ。
正直、恋のライバルではなくただのライバルである。
そもそも乙女ゲームのシナリオではない。
シナリオライターに少年漫画家を起用したのではないか? という疑惑が沸く程の熱々ぶりだ。
このゲームの異彩さ、その全てを担っているかのような彼女。
クロエ・ビッテンフェルト。
一部のファンからは、豪傑系悪役令嬢という肩書きをいただいている。
実は、私の事である。
それらの知識を私が思い出したのは、自宅の庭で父親との稽古中に投げ飛ばされて頭を打った時だった。
ガチンと後頭部を石にぶつけてしまい、同時に生前の記憶がシナプスを駆け巡った。
「大丈夫か?」
「お、思い出した」
「大丈夫そうだな」
短髪の筋肉質な男が私に駆け寄り、声をかける。
簡単に例えるなら、ヒールで踏まれて笑い出すレプリカントに似た風貌の男だ。
彼は私の父親である。
「なら早く立て。稽古を続けるぞ」
一人娘が強かに頭を打ったのだから、もう少し労わってくれてもいいと思うのだけど。
まぁ、そんな理屈が通じない人間だという事は、この十二年でよくわかっているが。
「はい、父上」
反論しても無駄な事はわかっているので、私は素直に従った。
父との稽古を再開する。
その間に、私は思い出した事、今の状況の整理を始めた。
まず、今現在の私。
十二歳。貴族令嬢。
名前はクロエ。
次にかつての私。
十七歳。ゲーマー。
名前は同じく黒恵。
若干キラキラしているね。
どうして今の私が、クロエになっているかについて考える。
前の私はどうなったのだろうか?
記憶を辿る。
学校の屋上でフェンスに寄りかかり、そのままフェンスごと体が傾き、視界が反転した所まで憶えている。
そこから先はどうなったのか憶えていない。
状況から考えて、屋上のフェンスが外れて落ちてしまったのだろう。
私はあの時に命を落として、どういうわけかゲームの世界のキャラクターに生まれ変わったという事だろうか?
よりによって、かの悪名高いクロエ・ビッテンフェルトに。
実は病院のベッドで見ている夢だったりして。
まぁ、この世界が現実でも夢でもこの際どちらでもいいけどね。
こうして生きている事を実感できるなら、生きられる限り生きていきたい。
さて、前世を思い出した私だが、クロエが体験してきた十二年間も全て憶えている。
ほとんど父から地獄の特訓を受けていた記憶ぐらいしかないが。
両親共に遊んでもらった記憶がないというちょっと悲しい記憶だ。
前世でのゲームからして、彼女の父親がろくでもないという事はわかっていたのだが、実際にどう育てられたのか体験すると本当にろくでもない事がわかった。
ビッテンフェルト家は武門の家系であり、父親は国一番の武芸者であると言われていた。
そのせいもあって、私は幼少時代から父に鍛えられているわけだ。
こんな育てられ方をしたから、主人公への接し方がおかしくなってしまい、最終的にあんな死に方をしてしまうのだ。
そう、あんな……。
「ボーっとするな!」
窘める怒鳴り声と共に、私は再び父に投げ飛ばされていた。
庭の木に激突する。
打った背中がジンジンと痛む。
だが、今の私はそれどころじゃなかった。
このままゲーム通りに進み、主人公が私の婚約者と恋にでも落ちた場合、私は若くしてあんな壮絶な死に方をするはめになるかもしれないのだった。
「これは大変だ……。絶対に回避しなくちゃ……」
私は数年後の未来に起こるであろう自分の死を回避するため、尽力する覚悟を決めた。