ネコと金箔(前編)
「スピピ~。スピピ~」
ぼくがいつものように眠っていると、
「ねえ。きみー。ちょっと見て」
聞きなれた声がぼくに話しかけてきた。
「なにかにゃ?」
ぼくは、目を覚ますとそこには、金色の顔があって、
しかもニヤリと笑っていた。
「にゃー!」
驚きのあまり、すっかり目が覚めてしまった。
金色の顔は口を開くとこう言った。
「やっぱりきみは驚いたね」
えっ。この声はやっぱりご主人様?
どうしたのその顔??
ぼくが目を覚ますと、ご主人様の顔は金色になっていた。
まるで、エジプトのツタンカーメンみたいに。
ぼく、目が悪くなったのかなぁ。
さっき声は、間違えなくご主人様の声だし、
ぼくを起こしたのもご主人様の声だった。
ずっといっしょに住んでいるぼくが、ご主人様の声を聞き間違えるわけないにゃん。
だから、目の前にいるのはご主人様に間違いないはず。
けれど、どうしてあんな顔になったのだろう。
もしかして、それともこれはご主人様じゃない人?
声だけ似ているそっくりさんとか。顔は似ていないから、金色でごまかしたのかにゃ?
でも、ぼくをだます必要なんてある??
もしかして、ぼくを誘拐しようとして……。ぽっちゃりネコが好きな人がぼくを狙って!
と思っていると、
「そこにある袋を見てごらん」
そこには、金色のシートのようなマスクの写真が印刷されていて、
目と口の部分が開いていた。なんだか顔っぽい。
あっ。目の前にいる人が顔に乗せてあるのといっしょだ。
「肌によいっていうから、顔に乗せているんだよ。
フェイスマスクって言って、肌にいいんだよ。
あと、コレを見せたら、きみを驚かせようと思って」
ご主人様はニヤニヤしながら言った。
なーんだ。フェイスマスクを顔に乗せていたんだね。
やっぱり、ぼくの目の前にいる人はご主人様だ。
金箔が肌によいなんて知らなかった。
輪島塗の模様になっていたり、お料理の上にちょこっと乗っているものなら見たことがある。
風が吹いたらすぐに飛んで行っちゃいそうなくらい軽そうだけど、
金色のせいか金箔があると豪華に見える。
金箔ってそんな感じのイメージしかなかった。
それ以外だと金箔って職人さんが、小さな金を叩いて薄くして叩いて薄くして……。
の繰り返しをして作るんだって。この前、テレビでやっていた。
日本の金箔って、石川県でほぼ作っているからぼくでも知っている。
「ほらほら、うわさをすると……」
「んにゃ?」
ご主人様はテレビを見ながら言った。
そこには、女性が何かを食べている姿が映っていた。
「あっ。金箔のソフトクリームだにゃん!」
ソフトクリームに金箔が貼りつけられていて、
黄金色に光ったソフトクリームだった。
食べていた女性は、口の周りが金箔だらけになっていた。
金箔に味があるとは思えないけれど、豪華だから食べてみたいにゃん。
「ジュルジュル」
ご主人様をチラリと見た。
「コレを見ていたらソフトクリームを食べたくなってきたね。じゃあ出掛けようか」
「にゃー!」
ぼくは、ご主人様と車で出かけた。
お店に着くと、金箔のソフトクリームを食べている人が
たくさんいて、口の周りが金色になっている人。
ほっぺたに金箔をつけている人がいた。
ご主人様は金箔ソフトクリームを買い、ぼくに見せてくれた。
「コレだよー」
近くで見ると、キラキラとしていて豪華。
ご主人様は、携帯電話を取り出し、金箔ソフトを
「パシャ」
と一枚。
ご主人様は、
「パクリ」
と食べ、口の周りは金色になっていた。
そして、携帯電話を自分に向けて、自分の姿の写真を撮ろうとしていた。
「今がチャンスだにゃん。写真に気を取られている間に、
金箔ソフトをいただきだにゃん。『ソフトクリームを食べたくなってきたね』とは言ったけれど、
ぼくにくれるとは一言も言っていなかった。だからくれないかもしれないにゃん」
ぼくは、金箔は見ているだけで十分だから、ソフトクリームだけ食べたいにゃん。
ご主人様は携帯を構えたそのとき、
「ジャーンプ」
ぼくは金箔ソフトクリーム目掛けて飛んだ。
すると、金箔ソフトクリームは目の前で消えていた。
《続く》