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ネコとゴールデンウィーク

「そろそろ行かなきゃ」


 ぼくはおうちを出て、空き地に向かった。

今日はネコの集会があるからだった。

ネコたちはときどき集まって、深夜に集会をする習慣がある。

それが今日。


空き地に着くと、みんな空き地にゾロゾロと集まっている最中だった。

空き地の奥にある大きなドカンを見ると、ハリーがすでに座っていて、

みんなを待っている。


リーダーネコのハリーは集会の時に司会進行役をやってくれる。

そうゆうネコがいないと、

ネコたちは、自分の好き勝手にやっているワガママな子が多いから、

勝手に遊びだしたり、ケンカをしたりして、集会どころじゃなくなる。


「ハリー」


 ぼくはハリーに近づいて声をかけた。


「肉まん。今日は、ゴールデンウィークの過ごし方について話をしようと思っているんだ。

ほら、来週から始まるから」


ゴールデンウィークって、お休みが何日間も続くお休みのことだよね。

4月末から5月初めにかけて、多くの祝日が集中しているから、大型連休のことをそう呼ぶらしい。


「私は山代温泉へ行くの。ネコもいっしょに泊まれるホテルを探してくれたから」


 あれ?ミーコだ。いつもは遅刻するか来ないはずなのに、

今日に限って時間通りに来ていてビックリ。

もしかして、このことを言いたかったからなのかもしれない。


それを聞いていた別のネコが、

「いいな~。私もホテルに泊まるけど、ペットホテルだよ。

ご主人様が旅行に行くから、ペットホテルに預けられちゃうんだよね。

連れて行って欲しいけどダメみたい」 


 と言うネコもいれば、


「きっと、家でずーっとゴロゴロしているよ。

ゴールデンウィークだからと言って、どこか連れて行ってくれる

わけじゃないんだ。人が混んでいるからどこも行きたくないって」

「うちもそうだよー。普通のお休みと変わらない。ただ、家でゴロゴロしている

日が増えただけ」


そんなぐうたらご主人様たちもいれば、

「お休みが土日休みじゃないから関係ないんだよね。

だからゴールデンウィークだからと言って普段と変わらない。家にはいないよ」

「お休みの日こそお仕事が忙しいから、家にはいない」


 へ~え~。やっぱり、家の事情がそれぞれ違うから、

みんなそれぞれの過ごし方があるんだね。

どこかお出かけに連れて行ってもらえるのが当たり前だと思っていたけれど、

連れて行ってもらえないネコもいるんだね。知らなかったにゃん。

そう考えると、ぼくは幸せだにゃん。


「肉まんのところはどうなの?」


 ミーコが言った。


「ぼくのおうちは、毎年子どもたちが遊びに来るよ」

「そうだったね。肉まんの家には、子どもたちが遊びに来るんだよね」


 ハリーは言った。


 そして、イタズラされてばかりだにゃん。

今年も子どもの日の5月5日に来るって、ご主人様が言っていた。

相変わらずぼくは子たちにやられっぱなしだから、何とかしたい!

けど、子どもたちが来るのって、その日だけだから

残りの日は、ご主人様とどう過ごすのかなぁ。


どこか連れて行ってくれるのかなぁ。それともお家でゴロゴロ?

もしかして、ご主人様だけお出かけしちゃったりして……?


「ブルブルブルブル」


 ぼくは頭を振った。ご主人様はそんなことしないにゃん!!

ネコの集会ではそのことばかり気になり、

他にも色々と話したのに、その日は何も頭に入ってこなかった。


 それから数日経って、

「きみー。お出かけするよ」


 カレンダーを見ると、今日は4月29日。ゴールデンウィークだにゃん!!

やっぱりぼくを連れて行ってくれるらしい。

ぼくはいつになく足取り早く車に乗った。


「スピピ~」

 ぼくははっと目を覚ました。


「アレ? まだ着いていないのかにゃ??」


 車に乗ったらいつも眠っちゃうから、

目的地に着くとご主人様に起こされる。

けど、今日は、目的地に着く前に起きてしまったみたい。

今回の場所はずいぶんと遠いみたいだにゃん。


どこへ向かっているのだろう。

車の窓ガラス越しに外を見ると海が見えるから、海沿いを走っていることが分かるけど、

それだけではどこへ向かっていのかは分からないにゃん。


山かなぁ。それとも海? もしかして旅館?

しばらく外を眺めていると、

砂に水を撒いている人がいる。何をしているのだろう。

その人は、大きな桶の中に入っていて、長い手桶で水を撒いている。

ただ撒いているんじゃなくて、砂にまんべんなく降りかかっている。

しかも、水しぶきがとてもキレイだった。

きっと、水撒きをたくさんやり続けている人っぽい。


けど、撒いてどうするのだろう?

砂に撒くことに何の意味があるってことだよね。

水を撒く仕事をしている人なのかなぁ。

何かを育てているの? それとも、これから新しく作るの?

ぼくには分からなかった。


 外を眺めていると、その人を通り過ぎてしまったが、

車は減速しているから、どうやらこの近くに止めるらしい。


看板には、『道の駅 すず塩田村』と書いてある。


「さあ。着いたよ。塩田に」

「塩田って何?」


 ぼくはご主人様を見た。

「塩田はね、塩を作っている所だよ。

さっき、水を撒いている人がいたでしょ。あれは海水で、砂に撒いて塩を作るんだよ」


へ~え~。海水から塩ができるんだね。確かに、海水はしょっぱい。


「海水を運んできて砂に撒いて、乾燥させて、砂についている塩の結晶を

集めて釜で炊いて作るんだよ。

子どもたちが来るから、おいしいものを食べさせて

あげよう思って塩を買いに来たんだ。で、せっかくの休みだし、

少し遠出できるからきみに塩を作るところを見せてあげようってね。

どう? すごいよね~」


 塩を作るのって手間がかかるんだね。聞いているだけでもよく伝わるにゃん。

わざわざ連れてきてくれてありがとう。

やっぱりご主人様は、ぼくのことを考えてくれていたんだにゃん。


「きみは、ここで待っていてね。塩を買ってくるから」


 ご主人様は、車から出て塩を買いに行った。

その間ぼくは車から、海水を撒いているのをずっと見ていた。


 何回水を撒いても、水しぶきは弧を描いているようにキレイだった。

とてもぼくにはできないにゃん。ネコだし。けど……。

ご主人様にだって水を撒いて作る塩作りは無理だけどね。

また太ったって言っていたし。


「にゃにゃ」


 ぼくは少し笑った。


 そんなとき、

「ガチャ」


 ご主人様は戻ってきた。

ぼくの顔を見ると、

「きみー。ご主人様には、水を撒いて作る塩作りは無理って顔をしているね」


 ギクリっ。バレてるにゃん。

毎回思うけど、ぼくって思っていることを顔に出やすいのかにゃ?


「そんなことないにゃん」


 と鳴きながら目で訴えたものの、

「きみに少しこの塩を舐めさせてあげようかと思ったけど、

やめます」

「え~。ご主人様、そんなこと言わないで~」


 ぼくは鳴いた。

そんなぼくに気にすることなくご主人様は、さっき買ってきた塩を開けて

ほんのひとつまみ食べた。



《終わり》




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