ネコとお花見2
「きみー。桜を見に行こう」
ご主人様がぼくを誘ってきた。
ぼくのおうちのお庭には桜の木があるから、
部屋の中にいても、窓の外から十分に見ることができる。
けど、あの言い方だと、どこかへ行くらしい。
「これからお出かけするの? もう夕方じゃない」
窓の外は日が落ちかけて少し暗かった。
それに、これから寒くなってくるでしょ。
「寒いから行きたくないにゃん。明日にしようよ」
とぼくは目で訴えた。
「寒いから行きたくありません。って顔をしているね。
この時間に行くのには理由があるの。ほら行くよ」
「ギュー」
ぼくを持ち上げ、連れて行かれた。
「え~。やだ~。にゃ~」
ジタバタしても、ぼくが散々鳴いても気にせず、車に乗せられてしまった。
車で走ること20分。
「さあ着いたよ」
車から降りると、そこは……。
「さあ、着いたよ。主計町」
石川県には、3つの茶屋街がある。ひがし茶屋街、にし茶屋街、そして、
主計町茶屋街。
ここは、昔ながらの料亭や茶屋が立ち並ぶ昔ながらの街並みがある。
ひがし茶屋街は観光客がいっぱいで、にぎわっているイメージが強い。
それに対し、主計町は落ち着いて、大人の街という雰囲気がする所。
「すっかり暗くなってきたね。ほら見てごらん」
ご主人様は言った。
「わー。キレイ」
ガス灯の灯りに照らされた道はぼんやりと薄暗く、桜が幻想的に咲いていた。
キラキラと輝くライトアップもキレイだけど、
薄暗い明かりもこれはこれとしてキレイ。
「ビュー」
風が吹くと、桜の花びらが落ちてきてぼくの鼻の上に乗った。
「花びらってキレイだからおいしいかも」
「パクリ」
うぅ。あんまりおいしくなかった。
「きみは本当に食いしん坊だね。山登りには連れていけないよ。
うっかり、食べてはいけないきのこを食べちゃうかもしれないからね」
ご主人様は、呆れた声で言った。
それからぼくらは浅野川沿いを歩き、夜桜を楽しんだ。
川のせせらぎを聞きながらお花見をするのも悪くない。
浅野川に架かる中の橋がライトアップされていて、
川に桜が浮かび上がっている。
ここは何度も歩いたことがあるけれど、日中とは違う雰囲気がしていいにゃん。
歩いていると、太鼓と三味線の音が聞こえてきた。
きっと、近くのお茶屋さんにいる芸妓さんが、
唄に合わせて踊っているのかもしれない。
夜桜に見とれていたら、
「にゃー」
足が石にぶつかった。
「大丈夫? きみは食べるもの以外にも心が奪われるものがあったんだね」
ご主人様はニヤニヤしながら言った。
ムッ。失礼だにゃん。ぼくはキラキラしているものにだって興味があるにゃん。
ライトアップした景色は好き。キレイだもん。
「きみは、光ものが好きだよね」
「光もの?」
ライトアップしたイルミネーションのことを言っているのかにゃ?
もちろん好きだよ。キラキラしているし。
「光ものの中で、きみが一番好きなのはコレでしょ!」
ご主人様は足を止めた。
「ん? なにかにゃ?」
ぼくも足を止めた。あっ。そうゆうことを言っているのね。ぼくは気がついた。
目の前には、お寿司屋さんがあった。
「きょうは、お魚を食べて帰ろう」
その通りにゃん。ライトアップしてキラキラしている景色も好きだけど、
光もののお魚はもっと好きだにゃん。
ご主人様はぼくを見て「でしょ。」
って顔をした。
そしてぼくのお腹が「グーッ」と鳴った。
《終わり》