ネコとウサギ2
「ニャムニャム。スピピ~スピピ~」
定位置であるストーブの前でお昼寝をしていたら、
「ピンポーン」
玄関チャイムの音でぼくは目を覚ました。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃん」
聞き覚えのある声がしたけど、誰だか分らなかった。
すぐに気配がなくなったから、もう帰ったみたい。
「すぐ帰って行ったってことは、何かのセールス販売の人がだったのかにゃ?」
そう思い、ぼくはもうひと眠りしようとしたら、
ご主人様がリビングに戻ってきた。
「んにゃ? ご主人様は“何か”を抱えていた」
最初は寝ぼけていたからよくわからなかったけど、
だんだん目が慣れてきて“何か”の正体が分かった。
「みう!」
みうの姿を見てぼくはすっかり目が覚めてしまった。
みうは、たまに遊びに来るご主人様のいとこのあいちゃんが飼っているウサギ。
あいちゃんはマイペースのせいか中々のくせもので、
ぼくは何度も痛い目にあっていた。
この前は、ぼくをあやそうとして買ってきた
ネコじゃらしの先端が勢いよくぼくの顔に当たった。
ぼくはとっても痛かったのに、当たった姿がおマヌケだったのか、
みんなに笑われ、恥ずかしい思いもした。
ご主人様がみうをゆっくりと降ろすと、みうが近づいてきた。
「久しぶりね。肉まん」
みうはそう言った。
「久しぶりだにゃん。あれ? あいちゃんはいっしょに来ていないの?」
辺りを見渡したけど、みうのご主人様であるあいちゃんはどこにもいなかった。
「あいちゃんはね、沖縄旅行に行っちゃったからいないの。
それでみうは肉まんのご主人様のところに預けられたの」
「沖縄旅行かぁ~。楽しそうだね。お友だちと行ったのかにゃ?」
「違うよ。一人で」
「一人で?」
「旅行番組を見ていたら行きたくなったみたいで、行くことしたみたいよ」
「えっ……」
みうを置いて一人旅に行くなんて、ぼくはビックリして声が出なかった。ペットを飼っているのに、思いつきみたいな感じで旅行へいっちゃうの?
みうを誰かに預ければいいやと思ったからかもしれないけど、
ぼくのご主人様なら絶対にやらないと思う。
「みうは寂しくないの?」
「寂しいけど、あいちゃんがいない間、一匹ぼっちってわけじゃないからいいの」
「そうなんだぁ」
あいちゃんも、ぼくやご主人様がいるから寂しくないと思ったのかも。
どうやら、さっき玄関チャイムを押したのはあいちゃんで、みうを預けに来たんだね。
旅行ということはしばらくうちにいるのだろうけど、いつまでいるのかな?
「あいちゃんはどのくらい沖縄にいるの?」
「六泊七日って言っていたよ」
「え? 六泊七日って言ったら一週間ってことだよね……!?」
「そうね。ちょうど一週間になるわね」
「ずいぶんと長い期間だね……」
「ゆっくりしたいんじゃないのかしら」
「ゆっくりって……。まぁそうかもしれないけど……」
さすがあいちゃんだ……。
「マイペースというかなんというか、いくらペットを預けるからと言って、そんなに長い期間一人で旅行へ行くのかにゃ……」
そんなことを考えていたら、
「ねえ、肉まん。お外に行かない? 私、お外に行ってみたいの」
「お外? ダメだよ。みうがお外に行ったから危ないにゃ!」
突然、何を言い出すのかと思ったら、お外に行きたいだなんて……。
ぼくみたいなネコならいざ知らず、みうみたいなウサギが外で散歩なんて危ないよ。
みうなら外へ出れた嬉しさで、走ってどこかに行って迷子になってしまうかもしれない。
だから、危険な目に合うに決まっている!!
「肉まんはお外に遊びに行くんでしょ? だったら、みうもお外に行ったっていいじゃない!」
「ご主人様かあいちゃんがいっしょならいいけど、そうじゃないなら、みうはお外に出たら危ないにゃん。お外は怖いんだよ。子どもにイタズラされするし!」
「子どもなんて大丈夫よ。みんなみうを見たら、『かわいい。かわいい』ってなでてくれるもん。こんなにかわいいのに、イタズラなんてするわけないじゃない!」
みうは当然のごとく言った。
「みうがかわいいことと、それとこれとは話が別にゃん!」
ぼくだってそれなりの顔なのに、
子どもはぼくのことをイタズラするのだから、みうは考えが甘い。
「だって、みうかわいいでしょ?」
「か、かわいいけど……」
自分でかわいいって言っちゃうのもどうかと思う。
よっぽど自分に自信があるのかもしれないけど、みうを守るために、ここは心を鬼にして言わないといけない!!
「子どもたちを甘く見てはいけないにゃん。きっと、みうもイタズラされちゃうにゃ!」
「かわいければ大丈夫よ。かわいくてスタイルがいいだけが取り柄のあいちゃんは、数えきれないくらいドジや失敗をしているけど、
何とかなっているじゃない? だから、みうも大丈夫!」
さすが、自分のご主人様のことはよーく分っているみたい。
確かにあいちゃんのドジっぷりはひどく、
思い出しただけで背筋がゾッとするくらい……。
本人に悪気がないからさらにタチが悪い。
みんなあの顔にだまされて、
大きなドジをしても許しちゃっているっぽいから、
その事実は怖いことだよね。
顔がかわいければ何をしても許されるなんて、おかしい。
んにゃ? ぼくももっとかわいければ、お正月におせちをつまみ食いしても
許されるのかな!?
「はっ!」
ぼくはあることに気がついた。
「どうしたの肉まん? 急に深刻そうな顔をして!?」
みうが心配そうに、ぼくの顔を覗き込んだ。
「みうから見て、ぼくってかわいいかにゃ?」
「えっ!? そうね……。もっとダイエットをしたほうがいいかも」
みうはぼくをジロジロ見ながら言った。
このまるまるとした体がぼくのチャームポイントだと思っていたのに、まさかのダメ出し……。
けど、くじけないもん。
とりあえず、「かわいさ爆発! つまみ食いしても許されちゃう大作戦」
決行のために
明日からダイエットをスタートさせよう。
「んにゃ? けど、本当にやせたらかわいくなるのかなぁ? ひょっとして、貧相になって今よりブサイクになったりして……。 みうの言うことを素直に聞いていいのかにゃ??」
ぼくがそんなことを考えてもんもんとしている横目で、
みうはご主人様になでなでをしてもらっている。
やっぱり、ダイエットは関係ない気がする。
「なんだか、理不尽な世の中だと思う今日このごろにゃん」
《終わり》