表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/143

ネコとおもち

リビングにいると、何かを焼いているにおいがした。


「何を焼いているのかにゃ」


 と思い、キッチンに行くと、

台みたいなものに、魚を焼いたりお肉を焼くような網が乗っていて、


その網の上に何かを焼いている。近づいていると、おもちが乗っていた。

そしてプクーっとふくらみ出した。


 この網が乗っている台はぼくと同じくらいの高さ。

見た目は調理器具っぽいけれど、電気コードがないから電気は使わないみたい。

炭っぽいにおいがするから、炭を使っているんだね。

そのせいか周りは暖かかった。


でもコレ、どこかで見たことがあるんだよね。テレビで。

ぼくはなかなか思い出せずにいた。


「七輪っていうんだよ」


 ご主人様が言った。

奥能登にはね、珪藻土けいそうどが豊富に取れるから、

昔から七輪が作られているんだ。

奥能登の七輪はね、誰でも作れるわけじゃなくて、職人さんが作っているんだよ。

で、コレがその奥能登の七輪。ご主人様は、七輪を見た。


 あっ。思い出した。テレビで見たことがある。

地下にある採掘場で珪藻土を掘っているところを。

そして、職人さんが一つ一つ七輪を作っていた。


珪藻土けいそうどとは、植物プランクトンが、長い年月をかけてできた土。

珪藻の殻の化石などからなる堆積物。古くから、石川県珠洲市で採掘されている。



 普通におもちを焼くよりも、珪藻土の七輪で焼いたほうがおいしく焼けるんだよ。

七輪をチラリと見た。おもちはさらにふくらみ、ほどよいこげめがついている。

おいしそう。

「きみも食べたいよね?」

「にゃー」


 もちろんにゃん。この前、たい焼きを食べ損ねたせいもあって、

絶対食べたい!


 しかも、今回は目の前に食べ物があるんだもん。ジュルジュル。

見ているだけで、よだれが出てくる。


 ぼくは、ご主人様をじーっと見た。

「分かったからそんな目で見ないでっ!」


 ぼくの熱意が伝わったらしく、ご主人様はおもちをお皿に乗せて、

はさみで半分切った。それからさらに、半分になったおもちをさらに切った。

「熱い。熱いっ!」


 と言いながら、丸めている。

「リビングに行っていて。持って行ってあげるから」


 ぼくは、リビングに行った。


 少し待っていると、おぼんを持ったご主人様が入ってきた。

「のどに詰まらせたら大変だから、ゆっくり食べてね。あと、まだ熱いから気をつけて」


 ぼくの目の前には、丸めたおもちがお皿に乗っている。


「いただきまーす」


 ぼくはおもちを食べた。小さくて食べやすいし、少し熱かったけど、

食べられない熱さではなかった。



「ごちそうさまー」


 あっという間におもちを食べ終え、ご主人様を見ると、お椀を持っておもちを食べている。

ぼくが見ていることに気づいたご主人様はこう言った。

「これはおしるこっていうんだよ。甘くておいしいんだ。でも、コレはきみが食べちゃダメなの。だからさっき、丸めておもちをあげたんだよ」


 どうやら、同じおもちを食べているらしいけれど、違う食べ方みたい。


「ピンポーン」


玄関チャイムが鳴った。


「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」 


 ご主人様は席を立って玄関に向かった。

 テーブルの上には、ご主人様がさっきまで食べていたおもちが入ったお椀がある。

ご主人様はいない……。


「おしるこ、ぼくも食べたいにゃん!」


 ぼくは、テーブルの上に乗り、お椀の中に顔を近づけおもちを食べた。


「パクリ」


 すると、


「にゃっ!」


 ぼくはビックリして声を上げた。



 ご主人様は、「みかん」と書いてある小ぶりの段ボール箱を持ってきた。

そして、ぼくを見て突然笑い出した。


「きみー。本当に食いしん坊さんだね。ちょっと待っていて」


 ご主人様は、何かを取りに行った。

 すぐに戻ってきて、

「ほら。見てごらん」


 ご主人様は、ぼくに鏡を見せた。そこには、ネバネバしたおもちが顔の周りにくっついていた。

ご主人様がぼくの口を開けると、歯にもおもちがたくさんくっついていた。

実は、口の中も顔もネバネバして気持ち悪い。とても不快だにゃん。


 ご主人様は、鏡をぼくに見せなら、こう言った。

「よーく見なさい。おもちだらけでしょ? だから、丸めたおもちをあげたの。こうならないように。あげたおもちしか食べちゃダメなの分かった??」


 分かったにゃん。でも、おいしそうだったんだから仕方ないじゃない。

「とってあげるからちょっと待っていてね」


 ご主人様は、歯にくっついたおもちを取ってくれて、口の周りもきれいにしてくれた。


ご主人様はみかんが入っている小ぶりの段ボール箱をあけてぼくを見た。

すると席を立ち、いつもみかんを入れに使っているカゴを持ってきた。

また、ぼくを見ている。

もしかして、さっきのおもちのこと、怒っているのかにゃ。ぼくは思わず、後ずさりした。

「きみー。こっちへおいで」


 ご主人様は怒っている様子には見えない。それがかえって怪しい。

呼ばれているのに行かないなんて、首根っこをつかまれそうだから、

おそるおそるご主人様に近づいた。

「テーブルの上に乗って」


 えっ? いつもなら「乗らないでっ」と言うのに。

ますます怪しい。もしかして、怒られるだけでは済まないかもしれない。

ぼくはすごく怖くなり、従うことにした。


「ピョーン」


 ゆっくりとテーブルの上に乗った。


「この中に入って」


 ご主人様が指を指した先にあるのは、さっき持ってきたみかんを入れているカゴだった。

え~。このカゴの中に入るの?

だって、ぼくの身体が入るには小さすぎるし、入れたとしてもはみだしちゃいそうだよ。

狭すぎるし、壊れるかもしれない。

「いいからいいからさっ。入って」


 ご主人様は言った。

ぼくは渋々カゴの中に入った。入ってみたものの、やっぱり狭い。

「座って」


 ゆっくり座るとやっぱりギューギューだった。

「もしかしてさっき、ご主人様のおもちを食べたことを怒っていて、しばらくこのカゴから出てはいけませんっ!」


 って言われるのかも。

 そんなことを考えていたら、

「頭を丸めて」


 え、この状態でさらに身体を小さくさせられるの?

ネコは狭いところが好きなぼくだけど、これは狭すぎるにゃん。

ぼくは身体をできる限り丸めた。


すると、

「ポンっ」


 んにゃ? ぼくの背中に何かを乗せられた。

 次の瞬間っ!

「カシャ」


 カメラのフラッシュ音が鳴った。

なになに? ぼくは慌てて身体を起こすと、上に乗っていたものが落ちた。

これは……。

みかん!

「きみは白くて太っているから、鏡もちに似ているなって思っていたんだ。だから、みかんを乗せてみたんだよ。やっぱり似ているね」


 ご主人様はぼくにスマートフォンの画面を見せてくれた。

そこには、丸まったぼくの背中の上にみかんが乗っている姿が写っていた。

パッと見た感じは、鏡もちっぽい姿だった。確かに似ている。

「おばあちゃんがね、最近、携帯電話を買ったんだって。

一人暮らしだから、何かあったときのためにね。それでね、せっかくだから何か写真を送ろうと思って」


それで、今回の写真を撮ろうと思いついたんだ。

「きみが写った写真を送ってあげたかったんだ。このみかんはおばあちゃんが送ってくれたものだし、おばあちゃんはきみのことが好きだからね」


なーんだ。さっきのおもちのことで怒っていたんじゃないんだね。

ぼくは安心した。余計な心配しちゃったじゃない。

けど、もうおもちはコリゴリにゃん。あのネバネバはニガテ。

「きみー。次は何の写真を撮る? ビヨーンっと身体を伸ばしてみてよ。おもちみたいに伸びてみて。きっと、かわいいよ。おもちちゃん!」


 ご主人様は、ぼくにスマートフォンを向けている。

この感じだと、おばあちゃんに見せたいから写真を撮るんじゃない。

ぼくで遊ぶ気だにゃん。


「ピョーン」

 ぼくはカゴから飛び出した。

白くて太っているぼくも悪いけど、ぼくは、おもちじゃないにゃん!

おもちは食べ物にゃん!!

そう思いながら、リビングから逃げ出した。



≪終わり≫




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ