ネコとタイ焼き(前編)
お腹がすいてきたから、ご主人様におやつをねだろうとしていたら、
「フワー」
甘くていいにおいがした。リビングに行くと、テーブルの上には白いお皿があって、
その上に茶色っぽいものがある。
近づいていると、においはここからきているらしい。
よく見ると、お魚の形をしていて、ウロコも目もシッポもある。
なんだか、タイっぽい感じがする。
あっ。もしかして、コレってタイ焼き?
きっとそうだにゃん!
タイ焼きは、泳ぐお魚のタイに顔と形がよく似た食べ物。
焼き型に生地を流し入れて焼く食べ物で、あんこを乗せて焼き型を合わせると、
タイ焼きができるらしい。
ちょっと前に、テレビでおいしいタイ焼き屋さんが紹介されていて、
この近くだったから、ご主人様は、
「行こうかなっ」と言っていた。
へ~え~。ぼくが寝ている間にお出かけして、タイ焼きを買ってきたのかもしれない。
「キョロキョロ」
ぼくは辺りを見わたした。どうやらご主人様はいないみたい。
「グ~」
お腹が鳴った。お腹もすいたし、
そもそも、ぼくが見えそうなところに食べ物を置いておくなんて、
「どうぞ、食べて下さい」
と言っているようなものにゃん。きっとそうだにゃん。じゃあ食べちゃおう。
ちょっとだけならバレないにゃん。
リビングのテーブルは低いから、身体が重いぼくでも簡単に乗れる。
「ピョーン」
と、ぼくはテーブルの上に乗り、白いお皿に近づいた。
一応、遠慮気味にシッポをかじる。
すると、
「にゃにゃにゃにゃ!? 」
ぼくは違和感がした。かじると、ぷにぷにとしていて、噛めなかったし変な味がした。肉球で押してみると、すぐにへこんだところが元に戻った。
にゃ? 食べ物でこんなことある??
「やっぱりひっかかったね」
後ろを振り返ると、ご主人様がいた。
「コレはタイ焼きのキーホルダーだよ」
タイ焼きを持ち上げると、金具がついていた。
さっきはタイ焼きが寝ている状態だったから気づかなかったけど、
今ならキーホルダーになっていることが分かる。
「本物ソックリで見間違えちゃうよね。お店に売っていたからタイ焼きといっしょに
買ってきたんだ」
ご主人様は、得意げに言った。
それにしても、どうして、においがしたんだろう。
あのタイ焼きはキーホルダーなんでしょ。だったら、においなんてしないはず……。
においつきのキーホルダーだったかにゃ。
キーホルダーに近づいたけど、今はほとんどしない。
ぼくは不思議そうにご主人様を見つめた。
《続く》