ネコの贅沢
ぼくは、テレビを見ていた。
テレビには三毛猫が座っている姿が映っていて
「たまにはネコも贅沢したいにゃ~」
三毛猫はぼやいていた。
「はーい。今日は特別にスペシャルディナーよ~」
ご主人様らしき人が三毛猫の前に
おいしそうなキャットフードを置いた。
すると、三毛猫は、さもおいしそうにムシャムシャとキャットフードを食べ始めた。
「ご主人様だけじゃなく、たまにはネコちゃんにも贅沢させてあげましょう。ネコちゃんの贅沢品『ネコセレブ』をお宅のネコちゃんにもいかがですか?」
そこでCMは終わった。
「いいにゃ~。『ネコセレブ』おいしそうにゃ~。ぼくも、たまには贅沢したいにゃ~。いつもの安売りしているキャットフードじゃなくて、たまには『ネコセレブ』を食べたい。
このCMを見るたびにあの三毛猫がうらやましくて仕方ないにゃん。
「大体、ご主人様は月に一度贅沢しているのに、ぼくは贅沢できないなんておかしいにゃ!」
ぼくは知っている。毎月十日にご主人様が贅沢をしているのを。
この日にお給料が出るらしく、カレンダーに赤まるがついている。
そして焼肉食べに出かける。一人で!
帰ってきたときはいつも、
ご主人様から焼肉のおいしそうなにおいがプンプンする。
こんなにおいをかぐと、ぼくのお腹はグーと鳴ってしまうのは当然のこと。
最近は、出かけるのがめんどくさくなったらしく、家でお肉をホットプレートの上で焼いて、食べている。
その日は焼肉のにおいが部屋中を立ちこめる。
「どちらにしても、ぼくに嫌がらせをしているとしか思えないにゃ~!
ご主人様が食べるときはぼくも食べたいにゃ!」
今日は待ちに待った十日。
「今日こそは、ぼくもお肉をいただくにゃ~!」
と心に決めていた。
いつも、つまみ食いをしようとして失敗しているけど、今日こそは絶対に上手くやらなきゃ!
「ガチャ」
玄関のドアが開いた音がした。
「ご主人様が帰ってきた~」
ぼくは、ご主人さまをお迎えに行った。ご主人様は靴を脱いでいる。
すると、ご主人様は買い物袋を持っている。
きっと、あの中にお肉があるに違いない。
リビングに向かうご主人様の後をぼくは着いて行った。
すると、ご主人様はぼくの方を見てニコニコした。
なになに。
「きみにあげたいものがあるから、先にリビングに行っていて」
だって。
ぼくにお土産があるみたい。
「本当?」
ぼくは軽やかな足取りでリビングに向かった。
ご主人様がリビングに入ると、
スーパーの袋の中に手を入れてゴソゴソと探し始めた。
「んにゃ? 何かにゃ??」
ぼくのおもちゃを買ってくれたかなぁ。
けど、あの袋はいつも行っている食品スーパーのレジ袋だから、
ぼく用のおもちゃが売っているとは思えない。
じゃぁ、ぼくの新しいお皿かなぁ。
ご主人様が行くスーパーは大きいお店だから、お皿も売っているはず。お皿らしきものがレジ袋の中に入っているようには見えなかった。
もしかして、
ぼくは缶を見てビックリした!
「ネ、ネコセレブ……!!」
感動したゃん……。
きっとぼくがあのCMをずっと見ていたからご主人様が買ってきてくれたんだ。
「ご主人様~。大好きにゃん♪」
ぼくは、ご主人様の足元に行き、スリスリ、スリスリ、スリスリした。
「今日のごはんはネコセレブ♪ いっただきま~す!」
ぼくは『ネコセレブ』にかぶりついた。
「おいしいにゃ~。大感動にゃん!! ありがとうご主人様~♪」
ご主人様は、ホットプレートの上でお肉を焼いて、おいしそうに食べている。
ぼくは、目の前にあるネコセレブとご主人様の焼肉を見比べた。
「ジ~……」
ぼくは思うより先に、ご主人様の焼肉に手を出した!!
「にゃ~!」
すると、いつものようにご主人様に首根っこを捕まれ、こっぴどく怒られた。
しかも、食べかけの『ネコセレブ』まで取り上げられてしまった。
「二兎追う者は一兎も得ずだにゃん……」
ぼくはそうつぶやいた。
なになに。
「今度、ネコセレブを食べさせてあげるときは来月の十日か、きみが何かいいことをしたときだけにするからね」
だって。
来月まで待てないのなら、いいことをするしかないらしい。
「そんなぁ~。ぼくは今、食べたい! さっきの続きが食べたいにゃ!!」
ぼくはどうしても『ネコセレブ』が食べたかった。
いいことって言われてもね……。あっ。思いついた!
「ご主人様~」
ぼくはご主人様の足をスリスリした。
「スリスリしたからご主人様の足はあたたかくなったでしょ。これっていいことだだから『ネコセレブ』ちょうだい!」
ぼくは目をキラキラと輝かせながらご主人様を見ていた。
ご主人様は、「この子、ちゃんと理解しているのかなぁ」って顔をしていた。
《終わり》