ネコと百万石まつり
テレビを見ていたら、
「今年の百万石まつりの利家役は猫坂なおさんです。まつ役は佐藤ミミさんです」
と言っていた。
「百万石まつりってなに?」
気になって、ご主人様を見るとこういった。
「毎年行われている、金沢の一大イベントで、昔、金沢藩を作った前田利家という人がいて、その人の偉業をたたえ、お祭りをやることになったんだよ。
今の金沢があるのも、大きな町になったのも前田利家のおかげだって」
へ~え~。スゴイにゃ~。
ご主人様の話のよると、
メインイベントの百万石行列は、金沢駅から金沢城まで大人数で歩くんだって。
ただの行列じゃなくて、音楽隊のパレードや加賀鳶の演技。有名な俳優さんも参加するんだって。
「きみも行きたいの?」
「にゃ~」
ぼくはもちろん行きたい! よくわからないけど、有名らしいし。
けど、ご主人様は渋っている。
「人が多いし、きみを連れて行くのはちょっと……」
ぼくをチラリと見た。
周りの人に迷惑をかけるかもって思っているっぽい。
ぼく、いい子にしているし、騒いだりしないにゃん。それに、ネコだって、百万石まつり見たい。
だから連れて行って!!
「ジ~」
と熱いまなざしでご主人様を見ていた。
すると、
「きみも見たいよね。テレビで見るより、近くで。じゃあ行こうか」
「にゃ~」
やった~。ということで、でかけることになった。
【百万石まつりとは】
毎年行われている金沢のイベント。
加賀藩祖前田利家公が金沢に入城し、金沢の礎を築いた偉業を偲んで開催されている。
メインイベントである百万石行列は、金沢駅東広場鼓門から金沢城公園へと練り歩く。
百万石行列の主役である利家役とまつ役に、俳優が起用されていることでも有名。
車に乗って金沢駅近くまで行くと、
「すごい人だね~」
とご主人様は言った。
始まる一時間以上前なのに、道路沿いには人がいっぱいいる。大人も子どもも。
テレビカメラも何台もあって、撮影をしている。
車を駐車場に止め、
「おいで」
ご主人様がぼくに手を伸ばした。いつもなら歩くところを、
人が多いし迷子になったら困るからなのか、
重いぼくをだっこして大名行列が見える所まで連れて行ってくれるらしい。
人込みをかき分けて道路に近い最前列まで行ってくれた。
ここなら、ハッキリ見えるにゃ~。とぼくは満足していた。
でも、また始まるまでに時間がある。どうしようかなぁと思いつつも、
「スピピ~」
いつものように寝ていた。
すると、突然。
「ドンドン~」
と大きな音が鳴り、
「えっ。なに?」
ぼくは目を覚ました。
音が近づくにつれ、子どもたちが太鼓や笛を吹きながら歩いてきた。
「あー。始まったにゃん」
おまつりが始まると次から次へとやってくる。
そのときによって、歩いてきたり、車や馬などの乗り物に乗っている。
バトンをクルクル回して、空高く投げてキャッチしている人たちもいれば、『ミス金沢』と書かれた、たすきをしているキレイな女性たちが車に乗ってきた。
次は誰が来るのかにゃ~と思っていたら、
はっぴを着たとても長いはしごを持った人たちが歩いてきて、止まり、突然を登り始めた。
「なにをするのかにゃ?」
“あんな高いところに登ったら危ないにゃん”
という高さまで登り、周りを見ている。それから一番高いところでバランスを取って技をした。
技は次から次へと決まり、手ではしごを支えてバランスを取ってさかさまになったり、
片足をひっかけて手を伸ばし、まるで空を飛んでいるみたいにポーズを決めた。
「足がプルプルしていたからすごくヒヤヒヤしたけど、やっぱりスゴイ」
ぼくは感激していた。
「これはね、加賀鳶はしご登りといって、あの人たちは、金沢消防団の人たちなんだよ」
へ~え~。すごく練習したんだろうなぁ。ぼくも練習したらできるかにゃ~。
あっ。重大なことに気づいた。その前にお腹が重くてはしごには登れない。
ぼくは、ぷっくりしたお腹を見た。
【加賀鳶はしご登りとは】
加賀鳶はしご登りは、火事の時に高いところから周りの状況を見回し、消火活動をしたのが始まり。
熟練した技を磨くとともに、消防の重要さを訴える役割も担っている。
現在では、金沢市の全消防団員がはしご登りを行い、百万石まつりなどのイベントに出演している。
しばらく行列を見ていると、
「ミミちゃん。こっち向いて~」
「ミミちゃん。ドラマ見ているよ~」
という声が聞こえてきた。遠くから大きな車に乗っている着物を着た女性が手を振っている。
「今年のまつ役の佐藤ミミだよ」
佐藤ミミは、石川県が舞台のサスペンスドラマによく出ている。
どんな事件も大抵二時間で解決している。これってスゴイよね。
背が高い車に乗ってきたから、見えづらかったけど、ミミちゃんはキレイだった。
車に乗っていたからあっという間に去ってしまったけどね。
次は鎧を着たおじいちゃんみたいな人がたくさんやってきた。
言葉ではうまく伝えられないけれど、重いような貫禄というか、とにかく、別の意味の迫力があった。
ご主人様は、
「家老の行列だよ」
と教えてくれた。家老は「加賀八家」と言われ、藩政を支えていたんだって。
へ~え~。ただのおじいちゃんじゃないから独特な雰囲気があったんだね。
突然、
「キャ~。カッコいい」
「こっち見て~」
という女性の声が聞こえた。
「なになに?」
と思っていたら、馬に乗って歩いてきた人が近づいてきた。女性たちがカメラを向け、パシャパシャ撮っている。
「猫坂さ~ん」
という声が聞こえてきた。もしかして、猫坂なおが来たのかも。
猫坂なおは、ネコを連れて各地へ旅に出て、そこで困った人を助けるという人気ドラマに出ている。
ぼくもこのドラマは好きで、ご主人様といっしょに見ていた。
ぼくの目の前に猫坂なおが通り、ニコニコしながら手を振ってくれた。
カッコいいにゃん。それに優しいー。ぼくに手を振ってくれたにゃん
ぼくはもっとと好きになった。
行列が終わり、周りの人たちも帰り始めた。おまつりはまだ続いていて、
この先は、金沢城公園でのイベントになる。
「じゃあ帰ろう」
ぼくを抱っこして、歩いた。
「来年は、そっちも見に行こうね」
ぼくはご主人様を見た。
すると、
「来年も来たいなら、もう少し痩せてね。また太ったでしょ!!」
ご主人様は呆れ顔でぼくに言った。
《終わり》