ネコとベンチ
とあるお昼過ぎ。
ぼくはいつものようにネズミのおもちゃで遊んでいると、
「きみー。お出かけするから。こっちへおいで」
ご主人様はぼくを呼んだ。
「お出かけ?」
時計を見ると、お昼の3時過ぎだった。
この時間からお出かけなんて珍しい。
「この時間なら遠いところではないのかなぁ」
と思いつつ、ぼくは車に乗った。
そして、
「スピピ~」
といつものように眠った。
どのぐらい車が走ったのかは分からないけど、
車が止まったタイミングでぼくが覚めた。するとそこには海が広がっていた。
「ここ、どこ?」
ご主人様を見ると、
「西能登にある、増穂浦海岸だよ」
と言った。
へ~え~。西能登なら、ぼくらが住んでいる金沢だと距離がちょっとあるよね。
ぼくは車から降ろされると、ご主人様といっしょに、浜辺を歩いた。
すると、ご主人様はしゃがんで砂浜をジロジロと見ている。
もしかして、以前、ここに来たことがあって、そのときに落し物をしちゃって
拾いに来たのかなぁ。それとも、珍しいものが埋まっていて、それを探しているの?
それとも、砂浜に絵を描こうとして、どの辺で描いたらよいか探しているのかなぁ。
ん~。分からないにゃん。ぼくは確かめることにした。
そこで、ご主人様に近寄ると、急に立ち上がり、ぼくを見た。
「これ見て!」
ご主人様はぼくに手のひらを見せた。
「なになに?」
ぼくは手のひらをのぞくと、
「あ~。かわいい~」
ご主人様の手のひらには、ピンク色をした小さな貝が乗っていた
「これはさくら貝だよ」
「さくら貝?」
「きのうは寒かったし、風が強かったからもしかしたらさくら貝があるかもしれない
と思って来たけど、あってよかった」
ご主人様の話によると、
さくら貝は、11月~3月にかけて浜辺に打ち寄せられる貝で、
「幸せを呼ぶ貝」と呼ばれているらしい。
ご主人様は小さなビンに貝を詰めた。
「これはきみにあげるよ。くれぐれも見るだけにしてね」
と言ってふたを閉めた。
日も落ちてきて、海に沈む夕焼けを見るとてもキレイ。
だけど……。
「ビュ~」
海が風はすごく冷たい。
「次の場所に行こうか」
ご主人様はそう言った。
まだ行くところがあるらしい。
ぼくたちは車に乗り、しばらく運転すると、
「さあ。着いたよ」
ぼくたちは再び車から降りてしばらく歩くと、
「うわ~。何コレ~」
砂浜の遊歩道沿いに長いベンチが広がっていた。
ご主人様の話によると、ギネスブックという有名なものに認定された
こともあった長いベンチらしい。
「わ~。長い~」
「ピョーン」
ぼくはベンチの上に乗った。
「これってどこまで続いているのかにゃ?」
ぼくは気になってしかたなかった。だから、ベンチから降りてぼくは走った。
「あんまり、遠くまで行かないでね。こっちまで戻ってくるのが大変だから」
とご主人様は言った。
夢中で走った。
けど、
「え~。まだあるの? ここって半分くらいかなぁ」
まだまだベンチの終わりは見えなかった。
「もうちょっと先まで行きたいけど……」
チラリと振り返ると、ご主人様はお豆みたいに小さく見えた。
これ以上進むと、戻るのも大変にゃん。
今だってとても疲れた。
「ゼーゼー」
すっかり疲れてしまったぼくは、トボトボ歩いて戻った。
ご主人様のいる所まで戻ると、
「ほら、言った通りでしょ!」
ご主人様は、「きみならこうゆうことをすると思ったよ」という顔をした。
すっかり、辺りは暗くなり、
「ピュー」
風が吹いた。さっきはでは全力疾走で走っていて暑かったけど、
だいぶ落ち着いた今は、ただ寒いだけになった。
「ご主人様~。帰ろうよ~。ぼく寒い」
「ピュー」
また風が吹いた。思わず、身体が震えた。
「もうちょっと待って。きみに見せたいものがあるんだ」
「さっき、見せてもらったじゃない。さくら貝。あれで十分だよ」
「ピュー」
また風が吹いた。そのたびに、ブルブルと身体が震えた。
そんなときだった。
「ピカッ」
電飾が灯った。
「わ~。キレイ~」
「ここは夜になると、ライトアップするんだよ。せっかく来たのだから
これを見てから帰らないと!」
だから、ご主人様はお昼過ぎにおうちを出てここへ来たのだね。
「ところできみは、ベンチがどこまで続いているのか見たくて走って行ったよね。結局、途中で戻ってきちゃったけど、きみがさっき行った所は、半分も行っていなかったんだよ」
「にゃ! そんな~」
「途中でバテていたから、もうちょっと運動した方がいいんじゃない?
たとえば、ここから金沢のおうちまで走って帰ったら、よい運動になると思うけどどうかな?」
ご主人様はニヤニヤ笑いながら言った。
「ひどいにゃ~。ご主人様だって、運動不足なのだから、人のこと言えないはずにゃん!」
とぼくは心の中で思った。
「その顔は何か言いたそうだね。せっかく連れてきてあげたのに。
それならきみは走って帰りなさい。じゃあね」
そうイヤミっぽく言うと、ご主人様は走って車に向かった。
「待って~」
車に乗せてもらわないと、絶対に帰れないにゃ!
このときばかりは、全速力でぼくはご主人様を追いかけた。
《終わり》




