ネコと小イヌ(後編)
~ネコと小イヌ(前編)のあらすじ~
肉まんは、ご主人様に連れられ、お友達のつとむ君のおうちにやってきました。
そこのおうちでは、えりかという小イヌがいました。
このえりかは、とてもやんちゃで、肉まんのおもちゃを勝手に持って行ってしまったり、
ごはんの時間でもないのに、肉まんのご主人様にごはんをねだったり、みんなを困らせていました。
こんな調子だったので、「最近えりかの元気がない」
と聞いても、とてもそうゆう風には見えませんでした。
けど、その理由がこのあと、知ることになるのです。
十二時半を過ぎたころ、みんなでお昼ごごはんを食べることになった。
ご主人様たちは、つとむ君のお母さんが作ってくれたサンドウィッチ。
えりかはドッグフード。
ぼくはご主人様が持ってきてくれたキャットフードを食べていた。
ごはんをねだっていただけあって、えりかはお腹がすいていたのか、ガツガツガツガツと勢いよく食べている。
しばらくぼくがごはんを食べていると、
「んにゃ?」
後ろから気配を感じた。振り向くとえりかがいた。
「どうしたの?」
「ねえ。私にもちょうだい!」
ぼくはその言葉にビックリした。もしかして、もうなくなっちゃったの?
確か、ぼくよりも多くの量をもらっていたはずだけど。
えりかのお皿を見たら、ドックフードはきれいになくなっていた。どうやら大食いらしい。
「えっ。これはネコのごはんだよ? 食べられなくもないかもしれないけれど、
食べないほうがいいんじゃないのかなぁ」
まさか、ぼくのごはんを狙っているとは……。
えりかは、食いしん坊みたい。たくさん鳴いたり、ピョンピョン
して体力を使っているから太らないでいられるのかも。
えりかはぼくのお皿に近づき食べようとした。
それに気づいたつとむ君は、
「えりか! こうたろうにしていたようなことしているんじゃないの! こっちへ来なさい!!」
「こうたろう?」
誰だろう。
「こうたろう……。ワーンワーン」
えりかは思い出したかのように鳴き出した。
「ごめんごめん。えりか」
つとむ君はえりかをなだめた
「こうたろうって誰ですか?」
ご主人様は聞いた。
「こうたろうは、えりかの弟で、身体はえりかよりも大きかったのだけ、気の強いえりかとは違い、気の弱くて優しいイヌ。 えりかにおもちゃを取られても許してしまうし、
ごはんを食べているときも、こうたろうのごはんを食べてしまうことよくあってね。
それさえも許してしまうイヌだったんだ。
ぼくには姉がいるのだけど、結婚することが決まって、ここを出て引っ越すことになってから、二匹の生活が変わってしまった。姉は、えりかとこうたろうの両方を連れて行きたかったんだけど、姉の旦那さんから、『一匹だけでも大変なのに、二匹なんてとても面倒が見られないっ』と言われてね。おとなしい、こうたろうだけを連れて行っちゃって……」
「そうだったんだね」
ご主人様は言った。
「それ以来、えりかは元気がなくなっちゃったし、ぼくたちの姿が見えなくなると
心配になるみたいで、突然鳴き始めるようになった。
たまに姉がこうたろうを連れてくるけど、帰るときになると毎回激しく鳴いて大変なんだ。連れて行かないでって」
元気がなくなっちゃった理由ってそうゆう理由だったのね。
しばらくすると、えりかは落着き、ぼくとえりかは遊んだ。
夕方になり、
「きみー。そろそろ……」
ご主人様は立ち上がると、
「ちょっと待って」
つとむ君はご主人様を止めた。
「もしかして、帰る気でしょ! ワンワン!!」
えりかは強く鳴き始めた。
「あー。気づかれちゃった。実は、えりかは、人間の言葉が
少し分かるから、少しでも帰るそぶりをするとさみしくなって鳴いてしまうんだ」
「帰っちゃダメー。ワンワン!!」
えりかはこっち鋭い目つきで鳴いている。
「困っちゃったね」
ぼくとご主人様はまたもや目を合わせた。
すると、つとむ君がこう言った。
「えりかにおやつをあげるからその隙にこっそり出てもらえるかな?
あの戸棚に、おやつが入っているのだけど、えりかはそこにおやつがあることを
知っているから、開けると音で、おやつがもらえるんだって気づく。その隙に
出て行ってもらえれば……」
「分かった」
「じゃあまたね。つとむ君」
「またおいで。肉まん」
こそっと挨拶をした。
「ワンワン!」
えりかは依然として鳴き続けている。
「えりか。おやつあげるよ。こっちへおいで」
つとむ君は、戸棚を開けた。それを合図にぼくらはこっそり動き始めた。
「おやつ?」
えりかは鳴き止み、つとむ君の元へ行った。
ぼくたちはその隙に部屋を抜け出した。
「おやつ♪ おやつ♪」
えりかはすっかりご機嫌でシッポを振って座って待っていた。
玄関のドアを開けぼくは心の中で、
「おじゃましました」
と言った。
こうして、えりかのおうちを出た。
えりかのおうちから少し離れると、
「ワンワン!」
えりかの鳴き声が聞こえた。
きっと、ぼくたちがいなくなったことに気づいたに違いない。
「大丈夫だよ。また、えりかに会えるから」
ご主人様はそう言った。
ぼくはうなずいた。
「また会おうね。えりか」
ぼくはそう思いながらご主人様の車に乗り込んだ。
えりかの鳴き声を聞きながら。
《終わり》