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ネコと小イヌ【前編】

「きみー。起きて。あとでたっぷり眠れるから今だけお願い」


 ぼくはご主人様に起こされた。


「お出かけするよ」


 時計を見ると九時半だった。

いつものお出かけにしては出発が少し早い。遠いところへ行くのかな?


 ぼくは、眠い目をこすりつつもご主人様について行って車に乗った。


そして、


「スピピ~」


 といつものように眠った。


 大抵ぼくは、車に乗ると眠ってしまうので車に乗ることになるときは

こんな感じで起こされることが多い。



 一時間半後、車は止まった。


「んにゃ? 着いたのかな?」


 ぼくは目を覚まし、ご主人様を見た。


「着いたよ。さぁ行こうか」


 車の窓ガラス越し周りを見渡すと、右側には田んぼ。左側は山々が広がっていた。

明らかに、ぼくが住んでいるところよりもだいぶ田舎だった。

車を降りるとおうちがあった。このおうちにおじゃまするっぽい。周りは木に囲まれていて、まるで、森の中にあるおうちみたいだった。


おうちに近づくと、


「ワンワン!」


 鳴き声が聞こえた。

どうやらイヌがいるみたい。ぼくらを警戒しているかにゃ?

きっと、車の音で気がついたっぽい。


「ワンワン!」


 おうちのドアまで近づいたけど、鳴き声はおさまる気配がなかった。


「静かにして。お客さんが来たのだから!!」


 おうちにいる人に怒られていた。

 けど……。


「ワンワン!」


 相変わらず鳴きっぱなし。


「もう。静かにして! これじゃあおうちに入ってもらえないでしょ!!」


 おうちの人が怒っている声とイヌの鳴き声はさらに大きくなっていった。

 

「大丈夫かなぁ」


 ご主人様は不安そうな顔でぼくを見た。

いくらなんでも鳴きすぎじゃない?


 もしかして、大きくて凶暴なイヌなのかなぁ。それとも、人見知りがひどいイヌ?

縄張り意識が強くて「おうちに入ってこないでっ」みたいに思っているのかも。


おうちに入ったらいきなり飛びかかってきたらどうしよう……。


 そんなことを考えていたら、


「ピンポーン」


 ご主人様は、戸惑いながら呼び鈴を鳴らした。


「押しちゃったよ~」


 と心の中でつぶやいた。


「ワンワン!」


 よりいっそう、おうちの中からイヌの鳴き声が聞こえた。


「はーい」

                 

 ぼくたちは不安感を募らせつつドアが開いた。

 すると、


「ワンワン!」

 

 鳴き声とともに、男の人に抱きかかえられたイヌがいた。


「いらっしゃい。ほら、えりか。静かにして! これじゃあ挨拶もできないじゃない!!」


 ぼくたちはイヌを見てビックリした。

だって、ぼくよりもはるかに小さいイヌだったから。とりあえず、この子の姿を見て安心した。


「あー。ネコだ!」


 小イヌはぼくを見て言った。


「ささ。あがって」


 そう男の人が言うと、


「おじゃまします」


 ぼくたちはおうちの中に入った。

 すると、小イヌが口を開いた。


「私はえりかよ。あなたは?」


「ぼくは肉まんだよ」


「人が来るってお兄ちゃんとお母さんが言っていたけど、

まさかネコも来るとは思わなかったわ。でも、誰かが来たって大歓迎よ。わーい」


 えりかはぼくに近づいて、


「ドンッ」


ぶつかってきた。


「痛いよ~」

 

 ぼくよりも軽いはずなのに、ぼくは痛かった。

一方、えりかニコニコして平気そうな顔をしている。


「ドンッ」

「痛いっ」


またえりかはぶつかってきた。「どうしてこんなことをするの?」

と言いたいくらいぼくには分からなかった。

こんなことをして、えりかは痛くないのかなぁ。ぼくよりも小さいのに。


「ごめんね。えりかは肉まんと仲良くなりたいみたいなんだ。だから身体をぶつけてきたんだよ。気を悪くしないでね」

「つとむ君大丈夫だよ。この子はそうゆうの気にしないこだから。ね。きみっ」

 

 ぶつかってきたのは、えりかなりの「仲良くしようね」なのね。

それにしても手荒い歓迎だにゃん。

えりかをチラリと見た。ニコニコしている。どうやら、つとむ君の言っていることは合っているみたい。


 ご主人様とえりかのご主人様のつとむ君は昔からのお友達で、

ぼくのおもちゃを買いにペットショップに行ったら、偶然にも再会したらしい。

そのときに、つとむ君が数年前にえりかを飼い始めた話を聞いたんだって。

話によると、最近、えりかの元気がないと聞いたから、

ぼくをつとむ君のおうちに連れてきたらしい。

つとむ君は最初、えりかがあまりにも鳴くイヌだし、ぼくはネコだから

心配していたらけど、ご主人様は、「この子は、誰とでも仲良くなれるから心配ない」

と言ったんだって。

 きっと、さっきの様子を見て、ぼくとえりかのことは安心したかも。


それにしても、えりかのどこが元気がないのか分からなかった。



「ビックリしたでしょ。この子がうるさくて」


 つとむ君のお母さんが入ってきた。

つとむ君はお母さんとえりかといっしょに暮らしている。


「いえ……。元気がよくていいですね」


 ご主人様はそう言ったけど、


「本当はビックリしましたよ。もう帰ろうかと思いましたよっ」と言いたかったに違いない。


「となりの部屋でえりかと遊んできたら?」


 つとむ君は言った。


「そうだね。きみ、おもちゃを持ってきたからいっしょに

遊ばしてもらおうよ」


 ご主人様はバッグの中からネズミのおもちゃを出した。すると、


「なにそれ?」


 えりかは、ご主人様に飛びつき、ネズミのおもちゃを口にくわえた。

ご主人様はあまりの速さにビックリしてただただポカンと口をあけて見ているしかなかった。


「えりかっ。それは肉まんのおもちゃ。返して!」


 つとむ君がそう言うと、


「私、これで遊びたいの。ワン!」

 

 と鳴いて、部屋を出て二階へ上がって行ってしまった。


 この姿を見たぼくとご主人様は思わず目を見合わせ、

ビックリするしかなかった。


「ごめんね。肉まん。多分、すぐ飽きると思うから少しの間だけ待っていてくれるかな?」


 つとむ君は謝ってくれた。 


 ぼくはうなずいた。まぁ仕方ない。返してくれればいいにゃん。ぼくはそんなことで腹を立てるようなネコじゃないにゃん。


 それから、ぼくたちは、となりの部屋に移動してネコアニメを見ていた。


 十五分後。


「ワンワン」


 えりかの鳴き声がした。


「みんな、どこ?」

 

 えりかは鳴き続けている。

 つとむ君がドアを開けると、えりかはいた。


「私を一人にしないで! 」

「となりの部屋に行っただけでしょ。それに、えりかが勝手に

肉まんのおもちゃを持って二階に上がって行っちゃったんでしょ! おもちゃはどうしたの?」


 確かに、ぼくのおもちゃを持っていなかった。


「取って来なさい!」


 つとむ君が言うと、しぶしぶえりかは二階に行ってぼくのネズミのおもちゃを持ってきた。


「返して」


 えりかは、ブルブルと横に首を振った。


 口にくわえたネズミのおもちゃをつとむ君が引っ張ったら、えりかは負けじと離してくれなかった。


「えりかっ! 離しなさい」


 えりかは離そうとしない。


「いや」

「離しなさい」


 えりかはグーと歯でネズミのおもちゃを噛んでいた。小さい身体からからは想像できないくらいの強さだった。


「じゃあもういいです」

「パッ」


 つとむ君は手を離すと、えりかは張り合いがなくなったのか、えりかも離した。


「ポトン」


 ネズミのおもちゃが落ちた。

すかさず、つとむ君はネズミのおもちゃを拾い上げ、


「はい」


 ぼくの目の前に置いた。ネズミのおもちゃはえりかの歯形がくっきりとついていた。

小イヌなのに。

これを見たご主人様もビックリして声が出なかった。



 しばらくえりかは落ち着いていたのだけど、


「ごはんちょうだい!」


 えりかはつとむ君に目を輝かせながら言った。


「えりか、ごはんまではあともうちょっと時間があるでしょ。待っていなさい」


 つとむ君は言った。すると、

 えりかは、ぼくのご主人様をじーっと見てこう言った。


「あなたからもお願いして」


 えりかはピョーンと飛び跳ねて、ぼくのご主人様に飛びついた。


「今日は、たくさん動いたからお腹すいちゃったの。ねぇお願い。ごはんをくれるように言ってちょうーだい!」


 ぼくのご主人様は突然飛びつかれてオロオロしている。


「えりか、ピョンピョンしない! そんなことをしてもごはんは時間になるまであげません!」


 えりかは、さっき、つとむ君を見ていたような目でご主人様を見ながら、ピョンピョンしている。


「ぼくでもこんなことしないのに……」


 ぼくはそう思った。



《後編に続く》

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