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ネコとお魚図鑑


「ピンポーン」


玄関チャイムの音が鳴った。


「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」


リビングで本を何かの写真がいっぱい載っている厚めの本を読んでいたご主人様はすぐに立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。

 すると玄関からさわがしい声が聞こえてきた。


「この声はもしかして……」


リビングから首を出し、廊下をのぞくと、子どもたちがいた。

子どもたちにはいつもイタズラばかりされている。


「今日は、何もしないでにゃん」


 と言っても通じるはずはないので「イタズラはダメダメ」と祈るしかないと思った。


 リビングに子どもたちが入ると、ぼくと目があった。

子どもたちはいかにも、「獲物を見つけた!」って感じでニコニコしながら近づいて来る。


「えっ。今日は、もうぼくにイタズラしようとしているのかにゃ?」


 ぼくはあまりにも急すぎて逃げることもできなかった。


「どうしよう~。不意打ちも困るけど、こんな急なのも困るにゃ~」


 とまどっていると、子どもたちはぼくの目の前にやって来た。


「ヤバイにゃ! 大ピンチにゃ!!」


 ぼくは迫りくる恐怖に怯えていた。


「トン」

 ぼくの目の前に大きな紙袋を置いた。


「肉まん。お土産だよ~」


 子どもたちの一人が大きな紙袋を開けて袋の中に手を入れた。取り出したものはお魚っぽいぬいぐるみだった。


「ぼくにくれるのかにゃ?」


 子どもはぬいぐるみをぼくに近づけてきた。


「けど、油断してはいけないにゃ! くれると見せかけてイタズラしてくるかもしれないにゃ!」


 ぼくはそっとぬいぐるみに触った。触った感じは普通のぬいぐるみっぽい。見た目も。もしかしたら、触っただけでは分からないけど、何か仕掛けがあるのかもしれない。

子どもたちはぼくを見て、


「よかった~。肉まんがぬいぐるみを喜んでいるみたい!」


 子どもたちは嬉しそうだった。


「このぬいぐるみはただのぬいぐるみなのかにゃ?」


子どもたちの様子からすると、ぬいぐるみには何のイタズラもないみたい。


「じゃあ、ぬいぐるみくれるのかにゃ? ありがとう! 今日の子どもたちは気が利いているにゃ~」


ぼくは思った。

ところで……。


「コレって何のぬいぐるみ?」


 ぼくには見たことがないお魚のぬいぐるみだった。


 身体が長くてヒレがついている。目と目が離れていて、口が大きい。先端が長め。


 「こんなお魚ってあったっけ?」


  ぼくには覚えがなかった。


 いくらぬいぐるみとはいえ、本物のお魚の顔もこんな感じのはず。

「ペタ」


っと触ってみても当然のごとく分らない。


「コレ。何?」


 子どもたちを見た。

なになに。


「いくらお魚が好きだからって、イルカのぬいぐるみを食べちゃ

だめだよ」


 だって。


「イルカと言うお魚なの?」


 初めて聞いた名前だった。


すると、ご主人様がやってきてこう言った。


「この子はイルカを見たことがないからどんなものか教えてあげて」


 と子どもたちに言った。


 子どもの一人が、ご主人様がさっきまで読んでいたテーブルに置いてある本を持って来た。


「それは何の本かにゃ?」


 表紙にはお魚がたくさん写っていた。

本には「お魚図鑑」と書いてある。

 子どもは本をペラペラめくり、十ページくらいめくった所で手を止めた。


「コレだよ!」


 子どもはぼくに見せてくれた。


「コレがイルカ?」


 そこには、ぬいぐるみと同じように、

身体が長くてヒレがあって目が離れていて、口が大きいお魚がいた。


「へ~え~」


お魚図鑑の写真はイルカの口が開いていて、まるで笑っている顔の様に見えた。


「なかなかかわいいお魚にゃ~。ぬいぐるみといっしょ~」


 ぼくはそう思った。


 「それにしても、どうしてぼくにお土産をくれたんだろう。どこか行ってきたのかにゃ?」


するとご主人様は、


「水族館に行ってきたんだよね。楽しかった?」


 と子どもたちに聞いた。


「近くでたくさんのお魚が見れて楽しかった!」

「珍しいお魚が見れてビックリした!」

「アシカショーが面白かった~」


 と子どもたちは口々にそう言った。


「水族館って何?」

 ぼくはご主人様に近づいてみた。

 ご主人様はぼくに気づき、教えてくれた。


「水族館は、透明で大きな水槽にお魚がたくさん泳いでいる所だよ。

ショーをやっている水族館もあって、イルカやアシカが面白い芸をしてくれてみんなを楽しませてくれるんだよ」


だって。   


「へ~え~。お魚がたくさん泳いでいるんだ。ショーも気になるけど、

お魚がたくさんいるなんて、そこに行ったらお魚食べ放題にゃ!」


 ぼくは考えただけで、


「ジュルジュル」


 とよだれが出てきた。


 その様子を見たご主人様は、

「この子はまたよからぬ想像をしている」って顔をしている。

ぼくに釘を刺すかのようにご主人様はこう言った。


「ネコは水族館には入れないよ」


だって。


「え~。そんな~」


 ぼくはあきらめた。そうだよね。ネコがみんな寄ってきちゃうよね。

 

「じゃぁ水族館に行った気分にしてあげるよ」


 子どもたちの一人がさっきのお魚図鑑を見せてくれた。

 どれもおいしそうなお魚がたくさん載っている。


「イシダイ、カクレクマノミ、メバル……」


 とお魚の写真が映っていた。


「ジュルジュル」


 ぼくはまたよだれが出てきた。


「おいしそうだにゃ~。こんな所に行けるなんて天国にゃ~」

 

 すると、次のページを少しめくって手を止めた。


「どうしたのかにゃ? 次、見たいにゃん!!」


 ぼくは子どもを見つめた。


「早く、次のページを開いてにゃ~」


 と鳴いた。

 子どもは何かたくらんでいるかのようにニヤニヤしながら、

ページをめくろうとしている。

 ぼくは少し嫌な予感がした。この感じは何かあるっぽい。

内心、ぼくはビクビクしていたけど、次のページが見たくて仕方なかった。


「どんなお魚かにゃ~。かわいくておいしそうなお魚だといいにゃ~」


 子どもはページを一気にめくり、


「サメだよ~!」


 と大きな声で言った。

 写真は右と左の二ページに渡って写っていた。

まるで、大きくなサメがぼくを見ているかのようだった。

しかも、口を大きく開いているからギザギザの歯が見える。

今にもぼくを食べようとしているかのようだった。


「にゃ~。怖いにゃ~」


 ぼくは悲鳴を上げた。ぼくは腰が抜けてしまい、その場から動けなかった。


「ね。怖いでしょ! お魚を狙っている食いしん坊の肉まんも、サメには食べられちゃうかも~」


 子どもたちは笑った。その様子を見ていたご主人様も笑っている。


「写真とはいえ、怖がってしまうなんておマヌケにゃん。きっと、水族館には、こんなお魚ばかりがいるはずないにゃん。かわいいお魚や珍しいお魚がいるはずにゃん。

いつか、水族館に行って、お魚をゲットするにゃ!」

 ぼくはそう心に誓った。



《終わり》


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