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ネコとおとなりさん

「そろそろ帰るにゃん。ごはんの時間だし~」

お散歩をしていたぼくは足早に走った。

ぼくのおうちの前に着くと、

隣のおうちにはお引越し用のトラックが止まっていた。

「んにゃ? ぼくの誰かお引越ししてきたのかにゃん?」

近づいていくと、トラックから荷物が次々と運び出されているのが見えた。

「へ~え~。誰かがお引越しをしてきたっぽいにゃん」

気になって見ていると、背が低くて優しそうな人がお引越し屋さんといっしょに荷物を運んでいる。

きっとあの人がこのおうちのご主人様っぽい。感じのいい人に見える。

ふとおうちに目をやると窓越しにネコがいた。

ぼくと目が合うと、そのネコはそっぽを向いていなくなったしまった。

「あのネコ、何だか感じが悪いにゃん。目が合ったのに~」

そんなことを思っていたら、

「あ、おうちに帰らなきゃ! キャットフードがぼくを待っているにゃ~」

ぼくはおうちに帰った。


次の日。

ごはんを食べ終え、お腹がいっぱいになり、いつものように、

「スピピ~。スピピ~」

と寝ていると……。


「ピンポーン」

玄関チャイムの音でぼくは目を覚ました。

「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃん」

リビングから首を出し、廊下をのぞくと、

玄関からは、ぼくが今まで聞いたことのない声が聞こえてくる。

「誰が来たのかにゃ~」

昨日見た、背の低い優しそうな人がいた。どうやら「お引越ししてきました!」の挨拶に来たらしい。

「んにゃ? 昨日、窓越しにいたネコもいる!」

ぼくは廊下を出て玄関に行き、ご主人様の隣に行った。

すると、ぼくに気づいてこう言った。

「初めまして。田中です。よろしくね」

背が低くて優しそうな人は田中さんと言うらしい。

ぼくにも挨拶をしてくれたからやっぱりいい人っぽい。

話によると、田中さんは、ぼくがおうちに帰っていく姿を見たらしく、

自分のネコも連れて挨拶に来たみたい。


それにしても田中さんのネコ、すごく太っている。ぼく以上に重そう。

マジマジと見ていると、

「我輩の名前は順造だ。君の名前は?」

太ったネコがぼくに話しかけてきた。

「ぼくの名前は肉まんだよ」

「そうかい。まぁよろしく頼むよ」

「よろしくにゃん」

なんだか、上から目線……。

ご主人様の田中さんは優しそうなのに、順造は微妙。


「さあ。どうぞ。中に入ってください」

 ご主人様はそう言った。

ぼくのご主人様と田中さんはしばらく立ち話をしていたけど、

話が盛り上がってきたから、ぼくのおうちに話をすることになったみたい。

当然、順造もぼくのおうちに上がってきた。


話を聞いていると、田中さんは、イギリスからお引越しをしてきたらしい。

ご主人様と田中さんは仲良よく話しているのだから、

ぼくも順造とも仲よくしておかないといけないよね。

あまり気が進まなかったけど、順造に話しかけることにした。

「順造のご主人様は優しそうな人だね」

 そう言うと、

「ご主人君はいい人だ。我輩の言うことは何でも聞いてくれるからな」

「ご、ご主人君? ご主人様じゃなくて??」

ぼくは自分の耳を疑った。そこはご主人様でしょ。

飼われているのだから。

イギリスに住んでいたから日本語が分らないのかな?

それか、夏目漱石かぶり? 自分のことを「我輩は……」と言うし。


「ご主人君でいいんだ。召使のようなものだからな。我輩の身の回りのことはなんでもやってくれる。ちょっと鳴いたらすぐに駆けつけてくれるし、お腹がすいたら、好きなだけキャットフードもおやつもくれる」


「……」

ぼくはビックリして声が出なかった。

この言い方ってまるで、自分が一番エライみたいな感じ。

「ご主人様を召使にしちゃだめにゃ!」

 ぼくは言った。

「本人がやりたがっていることだからいいんだ。

ご主人君は我輩のことをかまいたくて仕方ないだよ」

「えっ……」

世の中には、こんなネコもいるんだ……。ぼくは初めて知った。

ご主人様に甘やかされすぎるとこうなるのかもしれない。ぼくは順三にこう言いたかった。

「だから太っているんだよ!」

とね。

けど、ぼくも太っているんだよね……。

あらためてぷっくりしたお腹を見た。

これでは順三のことを言えない。

「じゃぁ。ぼくも甘やかされているってこと!? ぼ、ぼくは違うにゃ! ただの運動不足なだけにゃん!! 多分……」


「ブルブルブルブル」

この件は、もう考えないことにした。

「気にしない。気にしない。太っていることなんて。だって、順三はぼくよりも太っているのに気にしているようにはみえないにゃ!」

 と心の中で言い聞かせて順三をチラリと見た。

「ぼくはあんなに太っていないから大丈夫!」

 そう思いこむことにして、田中さんが持ってきてくれたイギリス産のキャットフードを食べた。


《終わり》

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